学園の医務室でルーカスは目を覚ました。
ボーっとする頭で周囲を見渡す。
誰もいない事を確認するとルーカスは起きあがる。
「俺……何でここに」
始めは記憶は曖昧だったが、やがて思い出してきた。
戦闘時に機体から投げ出されたセリカを見た瞬間に何かが切れた。
それ以降の記憶はなく戦闘がどうなったのか、何故ここにいるのか全く分からない。
「ルーカス? 起きてるの」
状況を整理しようにも記憶がなくどうしようも無かったが、セシルが様子を見に来たようだ。
「セシル・・・・・・セリカは?」
ルーカスは縋るように尋ねる。
セシルは少し考えるも顔を伏せて首を横に振る。
それだけで十分だった。
「……俺があの時」
「それは違うわ」
最後に覚えている事はセリカが機体から外に投げ出された瞬間だ。
パイロットスーツを着ていたため、その時に助けに行けば助ける事が出来た。
だが、ルーカスはそんなことを考える余裕すらなかった。
「ルーカスは出来る事を精一杯やったわ。仕方がなかったのよ」
「そんなの!」
セシルはルーカスを抱きしめて落ち着かせようとする。
ルーカスは落ち着かせようとするセシルが少し震えている事に気が付いた。
ルーカスは自分が約束を果たせなかったという事で頭がいっぱいだったが、セシルは妹を失ったのだ。
本当ならば自分よりも辛い筈なのにこうして、それを表に出すことも無くルーカスを落ち着かせようとしていた。
「……ごめん」
そんなセシルにルーカスはそれしか言えなかった。
ルーカスも震えるセシルを抱きしめる。
「落ち着いた?」
「ああ。それで戦闘はどうなった?」
少し時間が経ち、ルーカスも落ち着き離れる。
そして、ルーカスは戦闘の事を尋ねる。
「何も覚えていないのね。あの後、議会連合の艦隊が到着して事態を収拾させたわ」
ルーカス自身は何が起きたのか覚えてはいない。
戦闘は議会連合の介入により終わりを迎えた。
その後に議会連合が銀河の獅子のモビルスーツを押収した結果、その内の1機にレオ・コーポレーションの社長であるレオンの遺体が発見されたことで、レオ・コーポレーションがこの一件に関わっていたという事が明らかになった。
その際に機体から投げ出された生存者を捜索したが、見つかった銀河の獅子のパイロットは全員死亡し、セリカは遺体すら発見できなかったらしい。
「ルーカスは1週間も意識が戻らなかったのよ。世間じゃレオ・コーポレーションがテロに関わっていたことや貴方が学生を率いて戦って勝利した事といろいろとあったのよ」
この1週間で世間は大きく揺れた。
アスティカシカが襲撃を受けた事や、それをルーカスが学生と共に撃退した事、その主犯がレオ・コーポレーションの社長だったという事。
それもあり現在のレオ・コーポレーションは対応に追われているが、社員の大半が銀河の獅子と少なからず関係があったとして逮捕者も出ている。
「そんなことよりもさ。起きたっていうのなら私からも良いかな」
タイミングを見計らったかのようにマキアが割って入ってくる。
「ねぇルカ君。君は一体何なのかな?」
「どういう言う事だよ?」
「言葉通りの意味。セシルさんも気になってたでしょ。あの時何があったのか?」
マキアは端末に戦闘時に取っていた記録映像を出す。
画像はかなり荒いがルブリスV2のシェルユニットが白く発光する様子が映されている。
「この光の後にモビルスーツや学園のパーメットが全て掌握された。状況的にルブリスと君がやったとしか思えないんだよね。この時の推定スコアは今までの上限だった6を超えてる。こんな事が出来るなんて初耳なんだよね。どうやったの?」
「知らん」
マキアは矢継ぎ早にルーカスに詰め寄るがルーカスは何が起きたのか自覚はなく、今初めて何があったのかを理解したほどだ。
「ふーん。まぁ予想通りではあるね。それとは別に他のガンダム達にも共鳴するかのようにスコアが上がったんだよね。にも関わらずみんなの体は綺麗なもんで一切データストーム汚染がなかったことも分かんない訳?」
「そうなのか?」
「ええ。確かに私たちのガンダムのスコアも上がっていたわ」
セシル達の体を戦闘後に調べた限りではスコアを上げた時に見られるデータストーム汚染が一切見られなかった。
それどころか、初めてガンダムに乗ったエマはともかく、セシル達もガンダムに乗って何度もデータストームを受けていたとすら思えない状態だった。
「で、ちょっと実験をしてみたら面白い事が分かったんだよね。前々からルカ君がデータストームの影響を受けないってのは知っていたけど、セシルさんたちもおんなじことになってたんだよね。これって世界がひっくり返るよね。なんせガンダムの呪いを克服したって事なんだから」
セシル達の状態を見てマキアはある実験を行った。
それはセシル達がガンダムに乗りスコアを上げていくという物で、スコア3を過ぎるとデータストームは確かに発生はしていた。
だが、それでも一般的に即死するとされるスコア5を突破してスコア6まで全員がデータストームの影響を受ける事なく上げる事に成功した。
さすがに先の戦闘で起きたところまでのスコアを上げる事は出来なかったが、それを差し引いてもこれは長年問題となっていたガンダムの呪いを克服したという事だ。
「まぁ何でそうなったのかは分かんないんだけどね」
きっかけはルブリスV2から発せられた白い光が原因だという事は予想が付けられる。
しかし、何故そうなったのかは現状では分からない。
ルーカスがあの時の事を何か覚えているのであればヒントにはなったかも知れないが、何も覚えていないためどうしようもない。
「それでマキアはそれを公表するのか?」
「え? 何で? しないよ」
マキアはあっけらかんとして答える。
ガンダムを研究している人間としてはガンダムの呪いを克服したという事実はすぐにでも公表したい事のはずだ。
例えそれが再現性のない事であったとしても事実としてガンダムの呪いを克服したとなれば、それを再現するために研究資金を出そうとする組織はいくらでもいる。
「私は別にかのヴァナディース機関のようにGUNDや人類の未来とかには興味はないもん。私はただ知りたいだけだから」
この事実を公にすればGUNDに関する研究が合法化される希望が出て来るが、マキアにとってはどうでもいい事だった。
マキアにとってはGUNDが人を救う事に興味はなくただ自分がその先に何があるのかを知りたいだけだ。
「それに今の状況で公表すればルカ君やセシルさんたちの価値が上がっていろいろと面倒な事になりそうだしね。それはルカ君の望むところではないでしょ? そうなる前に私は不幸な事故にあいそうだしね」
現状ではどうしてそんなことになったのかは分からない。
それでもルーカスをはじめとしたセシル達はデータストームの影響を受けない人間として研究対象としての価値が高まる事は確実だ。
そうなれば今までの様に好き勝手することも出来なくなり、裏で身柄を確保しようとする輩も出て来るだろう。
それを避けるためにもマキアが公にしようとすればルーカスは全力で止めに来るだろう。
単に口止めだけで済めばいいが、ルーカスにとってのマキアはセシル達とは違い使えるが、邪魔になればすぐにでも始末出来る相手でしかない。
マキア自身もそれは自覚している。
自分がいなくなったところでルーカスにとっては痛手ではあるが、いずれは代わりが用意される。
「私としてももっと研究は続けたいからね。精々、ルカ君の逆鱗に触れないギリギリのところで大人しくしてる事にするよ」
「そうしてくれ。俺としてもマキアを始末するのは勿体ないからな」
「りょーかい。それじゃ他の娘たちにも顔を見せてきたら? 寝てる間の世話はセシルさんに任せてたけど結構心配してたみたいだしね」
「そうだな」
1週間も寝ていたせいで体は重いが動けないほどではない。
ルーカスはセシルに肩を借りながら理事長室へと向かう。
「何だよ。意外と元気そうじゃん」
「事後処理を丸投げしていい身分ね」
「寝すぎ」
理事長室のリビングでフランやシズカ、レイニーがルーカスを出迎えるが、特段何かがあるわけでもなく、フランはまた増えた筋トレ用の器具で筋トレをし、シズカはソファーに座って本を読み、レイニーはシズカに膝枕をさせてソファーで寝転がっている。
余りにも普段通りでルーカスは釈然としない。
「あのさ、もうちょっとなんかないの?」
「あ? ねぇよ。そう簡単にくたばるほど、ルカは潔くねぇだろ」
「同感」
「それに貴方が寝ている間に面倒な事後処理は私たちやグループの上役の人たちがやったのよ」
「むしろ私たちが労われるべき」
ルーカスはソファーの空いている縁に座る。
ここに来る道中で学園の状況もセシルに聞いていたが、すでに事後処理も終わり生徒の何割かは一時的に学園を離れているが、すでに授業も再開しているとのことだ。
あれだけの戦闘があり、勝利の立役者であるルーカスが意識が戻らない状況であっても数日で日常に戻れる辺り、学生や教員も激戦を潜り抜けて意外と肝が据わっている。
「エマは?」
「ああ……アイツはアイツで結構面倒な事になってるみたいだな」
この場にはいないエマの事が気になって尋ねてきたが、何かあったようだ。
「彼女の実家のスレイド・ウェポンズが数日前に総裁が直々に会社を畳むように命令が出たのよ」
セシルが端末を操作してルーカスに渡す。
そこには小さいニュース記事ではあったが、エマの実家であるスレイド・ウェポンズが経営の悪化を立て直しが不可能とデリングに判断されて倒産するという旨の記事が書かれていた。
「そっか。持たなかったか」
ルーカスは特に驚くことも無かった。
「いくらホルダーって言っても支援する会社が潰れちまったら学園にはいられねぇかもな」
「ホルダーなら引き抜いてくれる会社はいくらでもありそうだけど?」
「全部断ってるって」
エマはスレイド・ウェポンズからの推薦で学園に入学している。
学費はスレイド・ウェポンズから出ているが会社が倒産すれば学費を自分でどうにかしなければならない。
自分でどうにかするにも実家と推薦企業が同じであるため、実家を頼る事も出来ない。
後は別の会社に援助を求めるしかない。
一般の生徒なら難しいがエマはホルダーと言う肩書を持っている。
ホルダーであるエマを支援したいという会社は多いが、エマは全て断っているらしい。
それを受け入れてしまえば今後はその会社の為に動かなければならない。
エマにとってはそれは実家への裏切りになると思っているのだろう。
「そういう面倒なところは昔から変わらんないんだよな。アイツ……そんなんじゃうかうか落ち込んでもいられない」
セリカを救えなかったことでどことなく覇気がなかったが、エマの現状を知り落ち込んでもいられなとルーカスは立ち上がる。
「ちょっと出て来る」
「おう」
フランたちももはや何をしに行くかは聞かない。
ルーカスが一人で出かけるのを見送る。
「でもどうするつもりなのかしら?」
「どうするって……まぁいつもの奴じゃね?」
「ルカのガンダムは駄目になってる」
「あ」
フランも忘れていたが、ルーカスのルブリスV2は先の戦闘の影響で今は使えない。
直すにも学園の設備ではどうしようも無い状況だ。
3人の視線がセシルに集まる。
「……私が準備するわ」
その視線の意味を理解してため息をつく。
3人とも代わるつもりはないらしい。
ルーカスの尻拭いはセシルの役目だという事はすでにここでの共通認識となっているからだ。
そんなやり取りがあった事を知らないルーカスはグラスレー寮に付くとエマの部屋に向かう。
「よう。俺が寝ている間に親父さんの会社が潰れるらしいじゃん」
部屋にノックをすることなくルーカスは入る。
中ではエマがウォルガと共に荷造りをしていた。
「貴様!」
「ウォルガ。止めなさい」
ウォルガがルーカスに掴みかかろうとするのをエマが止める。
エマの様子は先ほどまでのルーカス以上に憔悴しているように見える。
「そんなことをいうために来たの? 起きて早々暇なのね」
「まぁな。起きたら全部終わっててやることがなくてさ」
「何しに来たの? 父の会社が倒産するとなれば私との婚約話も終わりね。良かったわね。自由の身になれて。これであの子と好き放題出来るわよ」
元々は父の会社に出資してもらうためにホルダーで卒業することで自身の実力を見せて正式に婚約するという話だった。
それも会社が倒産するとなればもはや意味はない。
「たく……前々から思っていたけど本当にめんどくさいな。エマは……それも今までは面白かったけど、今回ばかりは面白くもなんともない」
「……そう」
今まではルーカスの側にいる為にいろいろとしてきたことはルーカスにとっては面白かったからこそ人に対しても好き嫌いの激しいルーカスが友達としていて、婚約話も拒否はしてこなかった。
「なんかもう面倒だから手っ取り早く、この学園のルールに乗っ取って決闘すんぞ」
「決闘? 馬鹿馬鹿しい。私に何を賭けれるっていうのよ」
今のエマに賭けられるものはホルダーの座くらいだ。
その座もエマが学園から去れば別の誰かの物となり、それはルーカスやセシル辺りになるだろう。
ルーカスは投げやりな態度を取るエマに近づくと胸倉を掴んで引き寄せる。
ウォルガが思わずルーカスを引きはがそうとするが、ルーカスの一睨みで手が止まる。
「エマもこの学園の生徒の頂点だっていうのなら、欲しいものは自分の力で勝ち取れよ。逃げんなよ。賭ける物は互いに欲しいもの全部だ」
「全部?」
「そう全部だ。お前が勝って望めば俺が欲しいものを全部くれてやる。金だろうとグループだろうと俺自身だろうとな。何だって構わない」
そういうルーカスの目は本気でエマは直視することが出来なかった。
少なくとも今の自分には全てを賭けて戦うだけの気概はない。
「お嬢様。戦ってください」
躊躇うエマにウォルガがそういう。
「戦って勝って下さい。そうすればそいつの鼻を明かすことも会社と御父上を助ける事も出来ます。それが出来るのはお嬢様だけです。お嬢様なら必ず勝てます」
「ウォルガ……そうね」
自棄になりかけていたエマの目に力が戻る。
胸倉を掴んでいたルーカスを振り払う。
「良いわ。その決闘受けるわ」
「それでいい。俺が全力で叩き潰してやるよ」
ルーカスとエマは正面から対峙する。
互いに全てを賭けての決闘が始まる。