機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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33話

 ルーカスとエマの決闘は決まったその日の内に行う事になった。

 本来ならば手続きや決闘委員会のメンバーの前で互いに駆ける物の宣言等といろいろとあるのだが、今回は学園とは関係ない個人的な物として学園は戦術試験区域を貸すだけという特別方式になった。

 一般的には生徒同士の決闘で学園が入らずに個人的に行う事は許可されることはないが、学園でルーカスが決めた事に異を唱える事の出来る教師もいない。

 理事長室に戻り決闘をすることをフランたちに告げるとルーカスのルブリスV2が使えない事を知り、こうなる事を予想してすでにセシルが代理で戦うために準備をしている事を知った。

 

「何か悪いな」

「それは何に対して?」

 

 コックピットで最終調整をしているセシルにルーカスは謝罪する。

 視線はモニターに向いているが、返事をするセシルの声はどこか怒っているようにも感じる。

 

「どうせこうなる事は分かっていたけど、まさかこれからやる事になるとは思っていなかったわ。もっともそこまで読めなかった私にも非があるのかも知れないわね」

「まぁそれもあるんだけどさ」

 

 セシルやフランたちも決闘をする可能性は考えていたがまさかその日の内にやるとまでは思ってはいなかった。

 早くて明日くらいに思っていたところにこれから決闘をするとなれば調整の時間もほとんどない。

 

「セリカの事があったばかりなのにすぐにセシルに頼る事になった事は流石に悪いとは思ってる」

 

 流石のルーカスも妹を失ったばかりのセシルに決闘の代理を任せるという事には少なからず罪悪感は持っていた。

 それを聞いてセシルは顔を上げてルーカスの方を見る。

 

「心配はないわ。決闘に影響は出ないから」

「そうじゃなくてだな」

「それにまだあの子の遺体は見つかっていないわ。今はそれだけで十分よ。見つかっていないのであれば生きてる可能性だってゼロじゃない」

「……そう、だよな」

 

 1週間が経ち、未だにセリカの遺体は見つかっていない。

 遺体が見つかっていれば死亡は確定されるが、見つかっていないのであれば生きている可能性は残っている。

 ルーカスも指摘はしないが、その可能性は限りなくゼロに近い。

 最も生きている可能性があるとすれば戦闘後に議会連合が戦闘宙域を漂っているセリカを発見することだが、議会連合の報告では生存者は見つけられず回収した遺体の中にセリカと思われる遺体も無かった。

 その報告が意図的に改ざんされている可能性もあるが、仮にセリカが生きて議会連合に救助されたとしてそれを隠す理由が分からない。

 他の可能性としてはパイロットスーツの空気が尽きる前に通りがかりの船に救助されるか、どこかのフロントに流れ着くかだが、現状ではどちらも可能性はない。

 今の状況では生存している状況は限りなくゼロに近いが確定した事でもないため、セシルはその僅かな可能性を信じる事にしたのだろう。

 その可能性を信じる事はただ現実を受け止めきれないだけなのかも知れないが、それを否定することはルーカスには出来なかった。

 ルーカス自身もまたその僅かな可能性を信じて10年も待ち続けているのだから。

 

「あの子とはもう二度と会えないかも知れないけど、どこかで生きていると思う事にしたわ」

「分かった。なら、俺から言える事は一つだけだ。セシル。勝ってくれ」

「ええ。分かってるわ」

 

 ルーカスはそれだけ言うとセシルに後の事は任せて理事用室へと帰って行く。

 理事長室のリビングではすでに機材の準備が進められていた。

 今回の決闘は個人的な物であるため、決闘員会の立ち合いも無い。

 リビングで観戦のためのモニターや通信機器をフランとレイニーがセッティングしている。

 

「準備は?」

「もう終わる」

 

 すでに準備の大半が終わっているらしいため、ルーカスは手伝う事も無くソファーに座る。

 それからすぐに準備が終わり、1時間ほどで決闘開始時刻となった。

 モニターには戦術試験区域の荒野が映されて、そこにモビルスーツ用コンテナが移動してくる。

 

「LP002。セシル・グローリー。ガンダムルブリス。出ます」

「KP295。エマ・スレイド。ガンダムヴァルキュリア。出るわ」

 

 コンテナのハッチが開き2機のガンダムが戦術試験区域に出る。

 

「そんじゃルールは通常の決闘と同じで面倒なやり取りは省略で始め!」

 

 ルーカスが通信で二人にそう告げる。

 決闘が開始されると同時にエマが動く。

 ビームライフルのロングバレルを展開するとビームを撃ちながら突撃する。

 セシルのルブリスはビットステイヴを展開してビームを防ぐとガンビットライフルで反撃する。

 ヴァルキュリアは飛び上がってビームを回避すると上空でスレイドソードビットを展開し、ヒートソードを展開してルブリス目掛けて降下する。

 

「ハァぁぁ!」

 

 ルブリスのビームをスレイドソードビットを盾のように使って防ぎながらルブリスにヒートソードを振るう。

 ルブリスは後方に飛び退て回避しながら、レシーバーガンを連射する。

 ビームを回避しながらヴァルキュリアはヒートソードで連続して切りかかる。

 

「何か今日のアイツやけに感情的に攻めるな」

「同感」

 

 決闘を見ていたフランが呟きレイニーが同調する。

 エマのこれまでの決闘と比べると今回はいつも以上に攻めている印象がある。

 

「貴方が何かけしかけたの?」

「さぁ? アイツも後がないんだろ」

 

 ルブリスはレシーバーガンからビームブレイドを展開するとヒートソードを受け止めるが、易々と弾き飛ばされる。

 

「ルカはこの決闘をどう見る?」

「そうだな。機体性能じゃエマのヴァルキュリアの方が圧倒的だ」

 

 セシルのルブリスは近代化改修がされているとは言え10年前の機体だ。

 それに対してエマのヴァルキュリアはスレイド・ウェポンズ社の総力をつぎ込んで開発された新型機。

 性能面では圧倒的にエマの方が有利だ。

 

「パイロットの実力で言えばセシルの方が上だろうな。俺もアイツの本気の実力がどの程度なのかは分かんないけどな。けど、エマもホルダーの座をここまで守り抜いて来た実力は本物だ」

「んじゃ総合的にはエマの方が有利って事か。セシルに勝算はあんのか?」

「さてね。決闘ってのはモビルスーツの性能のみでも操縦者の技のみでも決まらないんだろ?」

 

 ルーカスもこれまでに1度もセシルが本気で戦っていない事には気が付いている。

 その本気がどの程度なのかは分からないが、パイロットの実力で言えばセシルの方が上だろう。

 だが、エマもここまでホルダーの座を守り続けるだけの実力がある。

 パイロットの実力ではそこまで大きな差はないと見ていい。

 

「それは事前の根回しも含めて決闘だという事で、今回は向こうもこっちも何もしていないわ」

 

 決闘時の口上は決闘する双方のモビルスーツの性能やパイロットの実力意外にも事前の準備や根回しも認められている事そ示している。

 今回の決闘では事前にそんなことをする余裕はないため、純粋にモビルスーツの性能とパイロットの実力で勝負が決まる。

 

「俺はさっきセシルに勝てと命じてセシルはそれを了承した。ならセシルは勝つよ。絶対にね」

 

 互いの状況を見ればセシルに勝てる要素はほとんどない。

 それでもルーカスはセシルに決闘に勝つように命令を出して、セシルはそれを受けた。

 ならばセシルは必ず勝つ。

 ルーカスにとってはそれだけで勝利を確信するのには十分だった。

 

「流石に性能差は厄介ね」

 

 ルブリスがビームバルカンとレシーバーガン、ビットステイヴの全ての火器を使ってヴァルキュリアに集中砲火を浴びせる。

 

「そんな攻撃なんて!」

 

 ヴァルキュリアはビームをスレイドソードビットで防ぎながら突っ込んでくる。

 距離を詰めるとヒートソードを振う。

 ルブリスは回避するも左手でスレイドソードを抜いてルブリスの頭部を目掛けて振るう。

 ギリギリのところで回避するが、ヴァルキュリアはルブリスを蹴り上げる。

 何とか腕でガードするが、蹴り飛ばされながら体勢を崩されて、ビームライフルで追撃される。

 そのビームをビットステイヴで防ぎながら体勢を整えるが、ヴァルキュリアの左腕のワイヤーハーケンが射出されてルブリスの左腕に突き刺さる。

 

「これでは距離が取れない」

「これで逃げられないわ」

 

 ルブリスの左腕に突き刺さったワイヤーハーケンのせいで距離を取っての戦闘が制限されてしまった。

 ヴァルキュリアはワイヤーを回収してルブリスを自身の方へ引き寄せる。

 その勢いを利用しルブリスは加速をつけて、ヴァルキュリアに飛び蹴りを食らわせる。

 その一撃でヴァルキュリアのビームライフルを弾き飛ばすことが出来た。

 

 「くっ! でも!」

 

 ルブリスにスレイドソードビットが襲い掛かる。

 スレイドソードビットを致命傷にはならないように避ける。

 その最中にヴァルキュリアは左腕を大きく後ろに引いてワイヤーで繋がっているルブリスの体勢を崩すと右手にもスレイドソードを抜いて切りかかる。

 何とかビームブレイドで受け止めるがルブリスの体勢は悪く余り力が入らずにヴァルキュリアに押されていく。

 

「……今日の決闘で一つ分かった事があるわ。私は……貴方の事が気に入らない!」

 

 ヴァルキュリアは強引に力でルブリスを押し込み蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされて距離が取られる前にワイヤーを引く。

 体勢を立て直すことも出来ずにルブリスはワイヤーで引き寄せられてうつ伏せに倒れる。

 

「多分、彼が変われたのは貴方のお陰で彼は誰よりもとなりにいる事を望んでいるのも貴方。どうも私はそれが自分でも思っている以上に気に入らないみたい」

 

 エマが初めて会った時と比べて、セシルを護衛として雇った時からルーカスは変わった。

 2人の間に何があったのかは知らないが、何年も一緒にいた自分ではなくセシルの方がルーカスに与える影響が大きかったという事にエマは嫉妬していたことにこうして決闘で対峙してみて気が付いた。

 

「これは八つ当たりだろうけど謝らないわ。そして、私は貴方に勝って全てを手に入れて見せる!」

 

 ヴァルキュリアは肩の大型ビームバルカンをルブリスに撃ち込もうとする。

 だが、ルブリスはビットステイヴで身を守る。

 

「そう……私も同意見よ」

 

 ルブリスは起き上がる。

 

「私も意外と嫉妬深いみたい……ずっとルーカスと一緒にいられた貴方の事が気に入らない」

 

 セシルもルーカスの主義趣向は誰よりも理解していると自負している。

 だが、それだけだ。

 どんなにルーカスの事を理解できても、それだけに過ぎない。

 エマのように長い時間を共に過ごした過去を手に入れる事は出来ない。

 それは仕方がない事だという事は自分の中で納得し、これかの時間を大切にすればいいと考えていた。

 しかし、こうしてエマから嫉妬心を向けられて見て初めて、自分もエマに対して嫉妬していたことに気が付いた。

 

「だから私は勝つ。勝って私が一番だという事を証明して見せる!」

 

 レシーバーガンからビームブレイドを展開するとワイヤーハーケンが刺さっている左腕を切り落とした。

 そして、ビームバルカンを撃ちながら突撃する。

 ヴァルキュリアもスレイドソードで迎え撃つ。

 

「愛されてるな。ルカ」

「モテモテ」

 

 2人の会話は通信でルーカス達のところにも筒抜けだ。

 

「アイツらは俺の右腕と左腕になるんだからもう少し仲良くは出来ないもんかな」

「無理ね。あの2人は独占欲が強そうだし」

「だな。ルカ的にはどっちが一番大事なのかはっきりさせといた方が良いぞ。そこんとこを曖昧にさせてたらその内面倒な事にしかならねぇからな」

 

 ルーカスとしてはセシルとエマは将来的に自分の両腕としてその実力を発揮してもらう事にしている。

 そんな2人が互いに嫉妬し合っているとなればその目論見も危うくなってくる。

 

「誰が一番ってんなの決まってんだろ。ミオリネ一択だ。それは宇宙の真理だからな」

「ぶれない」

「馬鹿でしょ」

「一遍刺された方が良いだろ。このシスコン」

 

 ルーカスの迷いのない言葉にフランたちは呆れる。

 そんなやり取り等関係なく、決闘は続けられる。

 ヴァルキュリアのスレイドソードをビームブレイドで弾いているが、刃がレシーバーガンを切り裂く。

 すぐにレシーバーガンを捨てるとビームサーベルを抜く。

 

「はぁ!」

 

 ルブリスの一撃をスレイドソードで弾くともう片方のスレイドソードを突き出す。

 それを回避したルブリスの横っ腹にヴァルキュリアは蹴りを入れるが、ルブリスは右腕で足を抱えるように拘束する。

 

「捕まえた」

「こっちもね」

 

 腕で足を拘束した状態でルブリスはヴァルキュリアの頭部を狙ってビームバルカンを撃ちこむが、ヴァルキュリアは上半身を後ろに反らしてビームバルカンの射線から逃げる。

 それと同時にもう片方の足でルブリスの胴体に組み付きながら、スラスターを使ってルブリスを両足で拘束した状態で地面に馬乗りになるように落ちる。

 

「これで!」

「させない!」

 

 動きを封じてスレイドソードを逆手に持つとルブリスの頭部を目掛けて振り下ろそうとする。

 だが、セシルも黙ってやられることも無く、ビットステイヴでヴァルキュリアを攻撃する。

 そのビームはスレイドソードビットで防がれるが、攻撃を防がせるために意識を反らすことがセシルの狙いだった。

 ルブリスは頭部のビームバルカンを撃ちながらスラスターを最大出力で使う。

 スラスターにより周囲の砂が巻き上げられて砂煙が起こる。

 

「目くらまし? 甘いわよ」

 

 砂煙で視界が悪いが、ビームバルカンでルブリスの頭部の位置は把握できる。

 そこを目掛けてスレイドソードを振り下ろす。

 それもセシルの想定内の事でスレイドソードが刺さるギリギリのところで頭部を逸らしてスレイドソードは地面に突き刺さる。

 ルブリスの頭部に意識を集中した事で、今度はビットステイヴへの注意が逸れて、スレイドソードビットの合間をヴァルキュリアの頭部を狙ってビームが撃たれた。

 

「っ!」

 

 直前にエマも気が付いてビームは頭部の横に外れたが、とっさの回避行動でルブリスへの拘束が緩み何とか右腕だけを出すことに成功し、ビームサーベルをヴァルキュリアの頭部目掛けて突き出す。

 ヴァルキュリアはルブリスへの拘束を解いて後方へと飛び退いて回避する。

 自由となったルブリスのバックパックにビットステイヴが装着されてビットオンフォームとなりビームサーベルを構える。

 

「ふぅ……」

「……来る!」

 

 エマもセシルがこれで決めに来るという気迫を感じ取り迎え撃つ構えを取る。

 2人の間に緊張が走り、先に動いたのはセシルだった。

 ルブリスは大地を蹴り加速する。

 ルブリスを止める為にスレイドソードビットが襲い掛かって来るが、最低限の動きで致命傷を避けるように動き足を止める事は出来ない。

 迫るルブリスにヴァルキュリアも前に出てスレイドソードを突き出す。

 

「これで!」

 

 頭部を狙った一突きにルブリスは急制動をかけながら右肩の装甲でその一撃を受ける。

 装甲は弾け飛び、ルブリスの体勢も崩れるが、セシルは体勢を立て直すことはしないで、左足を軸にして体勢を崩した勢いを利用して機体を回転させるとその勢いをそのままにビームサーベルを振るった。

 ビームサーベルは正確にヴァルキュリアの頭部を切り飛ばした。

 切り飛ばされた頭部が地面に落ちると、ルブリスは膝を付く。

 

「私の勝ちね」

「……そう、ね」

 

 エマも出せる力は全て出し切った。

 それでもセシルに負けた。

 決闘には負けたが、どこか呪縛から解放されたかのような清々しさも感じていた。

 

「勝者はセシルだな」

 

 通信から決闘を観戦していたルーカスがセシルの勝利を告げた事でこの決闘はセシルの勝利した。

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