機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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35話

A.S.119年、アスティカシア高等専門学園が反アーシアン組織銀河の獅子の襲撃を撃退したアスティカシアの奇跡から数年が経った。

すでにこの事件は過去の物となり世界は未だに宇宙が地球を搾取する構図は変わってはいなかった。

宇宙のとある宙域にあるオービット重工所有のフロントではその日も普段と変わらない業務が行われていた。

 

「お疲れ様です。ハザマさん」

「おつかれ」

 

 ハンガーのモビルクラフトをセットするとコウタロウは機体から降りる。

 アスティカシアを卒業後に自分を推薦した企業に就職し、現在はそこからオービット重工に出向している。

 オービット重工はべネリットグループの傘下企業と言う訳ではないが、グループ傘下の企業にモビルスーツ用の部品を納入している。

 会社の規模としては大きくはないが、短期間での部品生産数にい長けていると評判だ。

 コウタロウは主にモビルクラフトで老朽化したフロントの補修作業を任されている。

 同様にモビルクラフトの操縦経験のあったリタ・アルファスと組まされている。

 リタはコウタロウよりも少し前にオービット重工に入社し、前職でモビルクラフトの操縦が最低限出来る為、設備保守課に配属となっている。

 歳はコウタロウと同じくらいだが、生真面目でモビルクラフトの操縦のような肉体労働をしていたようには見えない。

 

「アルファスさん。今日の作業予定はないよな?」

「そうですね」

「なら仕事終わりの一杯って訳にもいかないよな」

「予定はないですけど、何があるか分からないですから」

 

 今日の補修予定の作業は終わっている。

 普段ならそのあと、仕事終わりの一杯で使われを癒すのだが、作業予定はないが、このフロントは老朽化で至るところがボロボロでいつ予定にない作業が入るのか分からない。

 そのため、シフトで他の作業要員が待機している時以外はモビルクラフトの操縦に支障が出る飲酒をはじめとした行為は禁止されている。

 

「分かってる。ならせめて腹一杯に何か食べるか。アルファスさんもどう?」

「いえ。遠慮しておきます」

 

 リタは取りつく島もない。

 コウタロウが出向してきてそれなりになるが、リタとは仕事以外ではほとんど関わり合いはない。

 仕事で組んでいる以上はもう少し仲良くしたいと思っているが、向こうはその気がないらしい。

 コウタロウは仕方がなく一人で食堂に向かう。

 

「ごちそうさま」

 

 食堂でコウタロウは一人寂しく食事を済ませた。

 今までは自覚はなかったが、べネリットグループ傘下の企業の社員と言うだけで世間ではそれなりの地位だという事をここに来て実感することになった。

 他の社員たちもコウタロウとは距離を取っている。

 下手に関わり合いになって食事や酒の席で余計な事を言って、それがべネリットグループの耳に入り機嫌を損ねれば規模の小さいオービット重工はすぐに仕事がなくなって潰れる。

 コウタロウがここに出向してきたのも表向きはフロント補修のためのモビルクラフトが出来る人材不足を補うためだが、傘下外の企業の監視も含めていると思われている。

 ここの社員たちも余計な事を言って仕事がなくなるくらいなら仕事上で最低限の付き合いでやり過ごそうとしている。

 もっともコウタロウはそんな指示は受けてはおらず、単純に補修作業の人手不足から作業に支障が出てオービット重工の生産力を落とさないように派遣されてきたにすぎない。

 

「何だ。一人で飯くってんのか?」

「そうなんですよ。グレアムさん。今日もアルファスさんに振られました」

 

 そう言ってコウタロウの正面に座ったのはこの会社で数少ないコウタロウが親しく話すことの出来るグレアム・ベッターだった。

 グレアムはフロントの設備保守の主任で今のコウタロウの直接の上司にも当たる。

 

「アイツは腕は良いんだが、愛想がないからな。見た目は美人なんだけど、性格があんなんじゃ彼氏も出来ないだろ」

「グレアムさん。今はそういうのもセクハラになりますよ」

 

 豪快に笑うグレアムにコウタロウが苦笑いをしながら突っ込む。

 この場にリタがいれば間違いなく面倒になっていただろう。

 グレアムは人当たりは良いが、たまにデリカシーの無い時があった。

 コウタロウは気にしないが、相手によっては仕事に支障が出かねないが、コウタロウにとっては変に気を使われなくて好印象すら持っている。

 

「そういえば、今日の作業で気になったんですけど、C地区の方ってそろそろ本格的に補修しないと不味いですよ」

「ああ……あの辺りか」

 

 グレアムは食事の手を止めると難しい顔をする。

 

「そもそもあの辺りって何があるんですか?」

「まぁ……悪いな」

「いえ。俺の方こそ余計な事言いました」

 

 コウタロウもグレアムの表情からある程度の事情は察した。

 恐らくは部外者には教えられない機密事項が関わっているのだろう。

 コウタロウはあくまでも出向してきた部外者でおいそれと話すことは出来ない。

 実際、コウタロウが気になっていたC地区は一定以上の立場の職員以外の立ち入りは禁止されてこの老朽化の激しいフロントとは不釣り合いな厳重な警備がされている。

 

「んな事よりもコウタロウの方はどうなんだよ。彼女とかいるのか? もういい年だし結婚とか考えている相手とかいないのか?」

「いないですよ。作る暇もないですし」

「なら

 

 重くなりかけた空気をグレアムが話題を変えた事でコウタロウも頭を切り替える。

 

「確かあのアスティカシアの卒業生なんだろ? ならモテるだろ?」

「モテませんって」

「じゃ好きな奴とかは?」

「学生の時には好きってか気になる相手はいたんですけどね。脈は全くないし、今は結婚してます」

 

 その後は取り留めのない話が続き、コウタロウのその日の仕事が終わる。

 翌日もモビルクラフトでフロントの補修作業を行っている。

 

「ハザマさん?」

「ん? ああ、どうした?」

「いえ、装甲版を抑えているので溶接の方をお願いしたかったんですけど、余所見とは珍しいですね。何かあったんですか?」

「いや……なんか変な感じがしてな。アルファスさんの方も珍しいな。俺にそんなこと聞いてくるなんて」

「……まぁそんな日もあります」

 

 コウタロウはどこか嫌な感じがして注意が散漫になっていた。

 普段のリタなら注意が散漫になっていたことを注意してもその理由までは聞いてはこなかった。

 そのことを指摘されてリタは少し動揺したように見えた。

 コウタロウは珍しいものが見れたとだけ思いながら作業を進める。

 

「ハザマさんはべネリットの人間ですよね?」

「そうだけど?」

「ハザマさんはどう思いますか? 今のこの世界のありようは?」

「どうって言われてもな……」

 

 唐突な質問に作業の手を止める事なく少し考える。

 だが、答えがまとまる前にフロントで爆発が起こった。

 

「……始まった」

「爆発? あの辺りで爆発が起こる物なんて……コイツは事故じゃないな」

 

 コウタロウは爆発のあった場所には事故で爆発が起こる物がなかったことから、この爆発は事故ではなく何者かが起こした物だと判断した。

 

「アルファスさん。多分、コレ事故じゃない。誰かが起こしたものだ。今は下手に動かずに様子を見よう」

「……そうですね」

 

 状況が分からない以上は下手に動いても危険になるだけだとコウタロウは判断した。

 フロントから離れた宙域に2隻の宇宙船が進路をフロントに向けていた。

 1隻は議会連合で使われているタイプの戦艦をカスタムした物ともう一隻は大型の輸送船だ。

 

「隊長。合図を確認しました!」

 

 戦艦のブリッジでフロントから爆発が起った事を確認した。

 それが事を起こす合図でもあった。

 艦長席には30代くらいの座っていて報告を受けると立ち上がる。

 

「モビルスーツ隊を発進させろ。発進後に主砲をフロントに向けて発射。絶対に当てるなよ」

「タチアナ隊長。ガンヴォルヴァは出しますか?」

 

 艦長席のタチアナの横に待機していた大柄の男が判断を仰いだ。

 

「いや、情報によれば警備のモビルスーツが配備されているがアイツらを出すまでも無い。だが、待機だけはさせておけよ。ゲオル」

「了解です」

 

 大男、ゲオルは通信端末からパイロットの待機室で待機していたパイロットたちに指示を伝える。

 通信の向こうでは抗議の声が聞こえるが、ゲオルは半ば無視して通信を切った。

 

「若いだけあって元気じゃないか」

「若いと言っても所詮は魔女です。きちんとこちらのいう事を聞くようにしてもらわないと困ります」

「手厳しいな」

 

 すぐにモビルスーツ隊の発進準備に入る。

 この戦艦に搭載されているモビルスーツは全部で8機だ。

 その内に半数は以前にレオ・コーポレーションから販売されていたレグルスだ。

 4機のレグルスが出撃を始める。

 

「モビルスーツを出してきた。あれはレオ・コーポレーションの」

 

 出撃したレグルスはコウタロウのモビルクラフトからも見えるだけ近くまで接近してきた。

 フロントからも警備用として購入していたブリオン社製のデミギャリソンが出撃して戦闘が開始された。

 

「くそ! 警備の奴らまるで素人じゃないかよ!」

 

 デミギャリソンの動きは遠目で見るだけでもいいとは言えない。

 恐らくはパイロットも操縦訓練や簡単な戦闘訓練はしているが、実戦は初めてなのだろう。

 

「……どうする。あれじゃ長くは持たないぞ」

「ハザマさん」

「フロントに使える機体はあるか? あれだけなら俺でも対応は出来るかも知れない」

「ハザマさん!」

 

 どうするべきか考えていると、リタがモビルクラフトのアームででコウタロウのモビルクラフトを殴って揺らした。

 

「アルファスさん? 今、どうするか考えているから」

「投降しましょう。向こうも悪いようにはしないですから」

「いや、向こうの素性も目的も分からないんだ。目的によっては俺たちを生かす理由だって」

 

 相手がどこの誰で何が目的か分からなければ投降したとしても命の保証はない。

 だが、リタは飛び出すとモビルクラフトにはつけていなかったはずの閃光弾を撃つ。

 

「アルファスさん!」

 

 閃光弾に気が付いたレグルスの1機がこちらに向かってくる。

 戦闘になればモビルクラフトでは武装をしていても勝ち目はない。

 

「こんなところにいたのか」

 

 接近してきたレグルスはリタのモビルクラフトに攻撃する素振りは見せなかった。

 

「コイツは?」

「彼は大丈夫。オービット重工の人間ではないわ」

「……そういう事か」

 

 コウタロウもこのやり取りを聞いてリタは向こうの仲間だと確信した。

 始めの爆発も外からの攻撃ではなくフロントの内部から爆発が起きている。

 つまりはフロントの内部に爆発物が仕掛けられていたという事だ。

 

「ハザマさん。貴方は私たちが撃つべき敵ではないわ。抵抗しないで」

「……分かった」

 

 相手の目的は分からないが、この状況では戦って勝ち目はない。

 コウタロウは無駄な抵抗をすることなく投降の意思を示した。

 その間に交戦していたデミギャリソンは全滅し、フロントは襲撃してきた武装手段により制圧された。

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