機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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36話

 襲撃者たちに投降したコウタロウは拘束されることはなかったが、襲撃者の仲間だったリタを先頭に武装した男たちに囲まれてフロントの食堂に連れて来られた。

 コウタロウも仕事でモビルスーツのパイロットをするために体はある程度は鍛えて腕っぷしにもそれなりに自信はあったが、流石に武装した相手に素手で暴れるという事もしなかった。

 襲撃してからさほど時間も経っていないのにも関わらずフロントはすでに完全に制圧している辺り、向こうも武器を持っただけの素人集団ではなくしっかりと訓練を受けたプロなのかも知れない。

 

「隊長。連れてきました」

「ご苦労」

 

 食堂にはフロントの職員が集められていた。

 コウタロウは食堂の中を見渡す。

 

(なんかおかしい)

 

 食堂に集められた職員たちには見覚えはなかったが、ここで働いている職員の全ての顔を知っている訳ではない。

 精々分かる事はフロント内ですれ違った事があるような気がする程度で、同じ設備保守課の社員が辛うじて分かる程度だ。

 

「君も災難だったね」

 

 隊長と呼ばれた女、タチアナはコウタロウの肩をポンと叩く。

 その災難を起こした相手がアンタ達だと言いたかったが、言ったところで状況が良くなる訳ではない。

 

「だが、同時に幸運だ。君は彼らとは違いべネリットの人間だ。我らは君に危害を加えるつもりはない。今のところわね」

 

 タチアナがそういうと比較的近くで座らされていた社員がコウタロウに厳しい視線を向ける。

 少なくとも向こうはコウタロウに何かをするつもりはないという事は本人にとってはいい知らせではあるが、他の社員からすれば自分だけ安全を約束された裏切り者に見えるのだろう。

 

「……アンタ達の目的は?」

「知りたいかい? 知らない方が良いかも知れないよ? まぁ知ってもらった方が我々にとっては好都合かも知れないかもね」

 

 タチアナはそういうと食堂の社員の方を向く。

 

「さて、我々は私設武装組織アースリベレイターを名乗らせて貰っている。今回、このフロントを制圧した理由はここのC地区とやらにあるものが目的だ」

 

 タチアナがそういうと食堂がざわつく。

 

「C地区は一定以上の立場の人間でなければ入れない。少なくともここにいる社員たちでは……」

 

 コウタロウはそこまで言うと先ほど感じたおかしさの正体に気が付いた。

 ここに集められている社員たちの事はコウタロウはほとんどは見覚えがある程度でしかない。

 コウタロウも流石に重役の顔と名前くらいは知っている。

 この場にはそれらの重役たちが一人もいない。

 軽く見渡しただけでも設備保守課の課長であるグレアムの姿も無い。

 少なくともグレアムは今朝もあっており、フロント外に出る予定も無かったはずだ。

 

「分かってるさ。C地区とやらに出入りできる権限を持っている重役連中は我々が仕掛けてすぐにとんずらしたのさ。余りにも判断の速さに我々も止める事も出来なかったんだよ」

 

 重役たちがすでに社員を見捨てて逃げていた事を知りコウタロウは顔をしかめる。

 その中に自分によくしてくれたグレアムもいたという事もだ。

 

「ダメ元でこの中にC地区に出入りできる社員がいるかも知れないと思ってね。その権限もしくは方法を知っているのであれば挙手をして名乗り出て欲しい。その者は無事に解放することを約束しよう」

 

 タチアナがそういうとざわつきは大きくなり、手を上げようか迷っている社員もちらほらいる。

 

「ただし、適当な事を言って我らの時間を無駄にさせたのであれば、それ相応の報いは受けさせる。こちらも本気なのでね。その証拠にここで適当な社員を殺しても構わない」

 

 タチアナが先ほどまでとは違いドスの利いた声で食堂が静まり変える。

 手を上げようと迷っていた社員は皆、C地区への入る方法を知らなかったが、それっぽい事を言って助けて貰おうと考えていたのだろう。

 

「……冗談だよ。我々も無駄な殺しをするつもりはないのだけどね。これでは聞き出すことも出来そうにない」

 

 この状況では誰も手を上げる事はないと判断したタチアナは肩をすくめる。

 

「リタ」

「情報は集めてましたけど、時間はかかります」

「なるはやで頼むよ」

「了解」

 

 リタがオービット重工に入りこんでいたのは内部の制圧を速やかに行うためだけではなく、厳重な警備が予測され、それを突破するためでもあった。

 

「君も付いてくるかい?」

 

 コウタロウは無言で頷いた。

 少なくとも何が原因でこの事態が起きたのかは知っておきたかったからだ。

 タチアナはリタにC地区の出入口まで案内され、コウタロウも武装した男たちに囲まれながらついて行った。

 

「IDカードにパスワード、生体認証とずいぶんと厳重なセキュリティをしているな。余程、見られては困るものがあると見える。これぶっ壊して強行突入した方が早くない?」

「そんなことをすればどうなるかわかりませんよ」

 

 フロントの中でも極秘とされているC地区に入るにはその3つをクリアする必要があった。

 この規模の会社のセキュリティとしては明らかに以上だ。

 それほどまでにこの先には外部に漏れては困る事があるのだろう。

 タチアナのいうように重火器や爆発物でゲートを破壊して強硬策に出れば手っ取り早いかも知れないが、その時は機密保持の為に自爆でもされたらたまらない。

 リタがC地区のゲート横のコンソールに端末を繋げてセキュリティの解除を始める。

 事前にある程度は解除の準備をしていたが、それでも簡単にはいかないようで時間だけが過ぎていく。

 

「隊長。副隊長から通信です」

「ゲオルから?」

 

 タチアナは通信機を持っていた仲間から通信機を受け取る。

 

「何かあったか?」

「先ほど付近の宙域に艦艇の接近を補足し、すでにモビルスーツの出撃も確認しました。恐らくはこちらに向かってきているかと」

「どこの連中だ?」

「速度から推測しますと、ペイル・テクノロジーズのザウォートと思われます」

「となるとカテドラルか……ずいぶんと動きが早いな」

 

 民間企業の所有するフロントを武力制圧をした時点でカテドラルが動くという事は十分にあり得る。

 だが、オービット重工にここまで速くカテドラルを動かすだけの力はない。

 タチアナはふとコウタロウを見る。

 

「君はどっかの企業の御曹司だったりするのかな?」

「なわけ無いでしょ。それならこんなところに飛ばされたりはしないって」

 

 コウタロウは少し投げやりに返す。

 カテドラルが早く動く理由としてカテドラルに対して影響力の強いべネリットグループが圧をかけた可能性がある。

 その場合、動く理由としてコウタロウがグループ傘下の企業の御曹司とかなら納得もできる。

 だが、コウタロウにそんな素性は持ち合わせてはいなかった。

 

「まぁ良い。相手がカテドラルであるならレグルスだけでは荷が重いな。ゲオル、ヒルダとドロテアを出せ」

「了解しました」

 

 タチアナは通信を切るとリタが一度手を止める。

 

「私も出ましょうか?」

「その必要もないだろう。相手の数が分からんが取り合えずは2機出せば追い払うくらいは出来る」

「そうですか。分かりました」

 

 リタはそういうと作業に戻る。

 

「カテドラルが動いているのか?」

「みたいだね。君にとっては朗報かも知れないが、残念な事にこっちにもそれ相応の用意があるのだよ」

 

 相手がカテドラルとなれば、そう簡単に勝てはしないのだが、タチアナは自身ありげな笑みを浮かべていた。

 アースリベレイターの母艦のパイロットの待機室でヒルダとドロテアは出撃命令を受けていた。

 

「ようやく私らの出番が来たってさ!」

 

 待機室では2人のパイロットが待機していた。

 1人は赤毛の三つ編みで出撃命令が出た事を喜んでいるヒルダと、もう一人は青髪でヒルダと同い年ながらも大人びて見えるドロテアだ。

 ドロテアは備えつけの端末で情報を確認している。

 

「相手はカテドラルのようね。油断は出来ないわ」

「相手が何だろうと私らとガンヴォルヴァなら余裕っしょ」

 

 ヒルダは自身ありげな様子で、ドロテアは相手が相手だけに油断はしていないように見える。

 すでにパイロットスーツに着替えているため、ヘルメットを持って格納庫に向かう。

 格納庫ではレグルスが整備されているほかに4機のモビルスーツが置かれていた。

 4機が4機とも独自のカスタムをされているアースリベレイターの切り札ともいえるモビルスーツ、ガンヴォルヴァだ。

 ヒルダは肩に02と書かれたガンヴォルヴァに乗り込む。

 ヒルダのガンヴォルヴァ02は近接戦闘に特化したカスタムがされている。

 左からにメインの武器である大型の実体剣であるバスターソードを装備し、両腕にはけん制用のビームバルカン、バックパックにビームサーベルが2基装備されている。

 手持ちの火器は標準装備であるビームカービンのみだ。

 ドロテアは肩に04と書かれたガンヴォルヴァ04に乗り込む。

 ガンヴォルヴァ04はガンヴォルヴァ02とは対極的に砲戦仕様のカスタムがされている。

 バックパックは独自の物でビームキャノンが2門搭載されている。

 それ以外は標準装備のシールドとビームカービンのみとなっている。

 

「ヒルダ・ロンド。ガンヴォルヴァ02。出るよ!」

「ドロテア・ホルン。ガンヴォルヴァ04。出ます」

 

 母艦から2機のガンヴォルヴァが出撃する。

 

「数は4……全機、推測通りペイル社のザウォートのようね」

 

 出撃して少しすると接近しるモビルスーツを補足した。

 事前の予想通り相手はペイル社製のザウォードの実戦仕様であるザウォート・ヘヴィのようだ。

 

「先手必勝だよね!」

「駄目よ。向こうの狙いが分からない以上はこちらから動くことは得策ではないわ」

 

 ザウォート・ヘヴィの方でも2機のガンヴォルヴァを補足したのかビームキャノンを撃ってくる。

 

「はい。敵確定!」

「まったく」

 

 ガンヴォルヴァ02はバスターソードを抜くと加速する。

 ガンヴォルヴァ04がビームキャノンを撃つとザウォード・ヘヴィは散開する。

 

「何だ。あのモビルスーツは……どこの機体だ」

 

 ザウォート・ヘヴィはロングビームガンを撃つが、ヴァンヴォルヴァ02はバスターソードで防ぐ。

 

「無駄なんだよね! そんな攻撃!」

 

 ガンヴォルヴァ02のバスターソードの峰の部分にはスラスターが内臓されており、スラスターで機体を回転させながら勢いをつけてバスターソードでザウォート・ヘヴィを一撃で粉砕する。

 

「くっ! 何て奴だ! 距離を取れ! うぁ!」

 

 ガンヴォルヴァ02から距離を取ろうとするが、後方からのガンヴォルヴァ04のビームキャノンで撃墜される。

 

「この動き……まさか、ガン……」

 

 ロングビームガンとビームキャノンでガンヴォルヴァ02をけん制していたザウォート・ヘヴィにガンヴォルヴァ02はバスターソードを投げつけた。

 バスターソードはザウォート・ヘヴィに胴体部に突き刺さる。

 

「くそ! こんな奴らが出て来るなんて聞いてないぞ。ここは撤退して……」

「逃げられると思ってんの?」

「ヒルダ。回り込んで」

「りょーかい!」

 

 ガンヴォルヴァ04のビームキャノンでザウォート・ヘヴィは脚部を吹き飛ばされて体勢を崩したところに、腕部のビームバルカンを撃ちこみながらガンヴォルヴァ02がビームサーベルをコックピットに付き刺す。

 

「これで全部のようね」

「つまんなーい」

「文句を言わない。帰投するわよ」

「はいはい」

 

 ザウォート・ヘヴィを全機仕留めたところでガンヴォルヴァ02はバスターソードを回収して2機は帰投していく。

 

「そう。ご苦労様。けど、これで終わりって事はないだろうから警戒は続けておいて」

 

 タチアナの元にヒルダとドロテアがカテドラルのモビルスーツを撃退したという報告が来ていた。

 

「聞いての通り、接近してきたモビルスーツはどうにかできたけど、後続は確実に来るわ」

 

 流石にカテドラルのモビルスーツが4機で終わりとは思えない。

 今のは威力偵察と言ったところだろう。

 それを撃退としたとなれば向こうも本気で来ることは間違いない。

 

「隊長。セキュリティの解除できました」

「流石。リタ。仕事が早い」

 

 時間は余りなかったが、幸いにもリタがセキュリティの解除に成功したようだ。

 

「さて、ここから先は地獄を見るかも知れない。見てしまったら元の生活には戻れないかも知れないが、それでも見るつもりはあるかい?」

「ここまで来たんだ。俺も引き下がれないだろ。こんな事に巻き込まれた原因くらい。俺にも知る権利はあるだろ」

「そうかい。警告はしたよ」

 

 これ以上、タチアナもコウタロウに覚悟を問う事はしない。

 そして、C地区のゲートが開閉しコウタロウはその先へと進むのだった。

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