機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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42話

 

 カテドラルのモビルスーツ隊も後退し、コウタロウは母艦へと帰還する。

 母艦は先のオービットブラスタの攻撃で打撃を受けているが、航行自体に問題はないようだ。

 ハインドラを抱えた状態で母艦に戻る。

 

「すみません。コイツも頼みます」

 

 空いているハンガーにハインドラを置くとコウタロウは近くのメカニックに声をかける。

 メカニックはブリッジに連絡を入れてタチアナの許可を取ると人を集めた。

 今のところは格納庫内で動く気配はないが、武装したクルーが待機して、ハインドラのコックピットを外から強制的に開ける。

 コックピットからパイロットが飛び出してくる気配も無いため、コウタロウは意を決して銃を中に向けながら様子を伺う。

 

「……パイロットは気絶してます」

 

 パイロットのレイナは衝撃で気を失っているようだ。

 それが演技である可能性も考慮しながらコウタロウはレイナを抱えてコックピットから出て来る。

 先の戦闘でクルーにも死傷者が出ているため、艦の医務室に連れて行く訳にもいかず、すぐに使える空き部屋も無かった事から連れてきたコウタロウの部屋にひとまずはつれて行って寝かしておくようにタチアナからの指示があり、それに従った。

 艦内は警戒態勢が解かれてはいない事や、艦の損傷の対応等で慌ただしく動いているため、レイナの監視はそのままコウタロウに負かされることとなった。

 

「……ここは?」

 

 それから数時間後にレイナは目を覚ました。

 上半身を起こして周囲を確認する。

 

「友軍に回収されたという訳ではなさそうだな」

 

 あの状態でわざわざ友軍に助けられたとは思えない。

 仮に助けられたとして無事で済む訳がない。

 テイラーが適当な理由をつけて拘束されるか最悪殺されるだろう。

 そうなれば敵が回収したという事になるが、それでも捕虜として最低限の拘束すらしていない事は気になる。

 

「あれは……」

 

 更に周囲を確認しようとすると、部屋の備え付けの椅子に座っているコウタロウを見つけた。

 コウタロウは手に銃を持っているものの、寝ているのか顔を下に向けて動かない。

 

「……どういう事だ?」

 

 チラリと顔が見えたが、それがオービット重工のフロントで行方不明となっているコウタロウであることはすぐにわかった。

 コウタロウも拉致されているとも考えられたが、それでは銃を持っている理由が分からない。

 そうなるとコウタロウも奴らの仲間と言う可能性が出て来る。

 どうするべきかと考えているとコウタロウはこくりとして椅子からずり落ちそうになって慌てて目を覚ます。

 

「うぁっと……目覚めたんだ」

 

 コウタロウは変なところを見られて恥ずかしそうにするも、それを誤魔化す。

 

「俺はコウタロウ・ハザマ。君は?」

「レイナ。レイナ・マルカ。そんなことよりも行方不明となっている貴方が何故ここに? 人質として拉致されたようには見えないが?」

「俺、そういう扱いになっていたのか」

 

 コウタロウも自分がどういう扱いになっていたのかは分からなかったが、どうやら行方不明になっていると初めて知った。

 

「元からテロリストの仲間だったと?」

「それは違う」

 

 コウタロウはきっぱりと否定した。

 状況的にはそうみられても仕方がない。

 

「オービット重工の奴らあのフロントでアーシアンを違法労働させてたんだよ。ここの人たちはアーシアンを助ける為に行動を起こしたんだよ」

「強制労働……なるほど。そういう事か」

 

 レイナもコウタロウのいう事が全て真実か確かめる術は今はない。

 それでも言っている事が事実であるなら今回の一件で感じた疑問にも説明がつく。

 オービット重工のフロントで執拗に破壊された区画はオービット重工にとっては外部に漏れては不味いものがあった。

 単なる会社の機密情報ならそこまでやる必要も無い。

 だが、違法性があるのなら話は別だ。

 襲撃自体は正当化されることはなくても、オービット重工はテロリストの襲撃を受けた被害者であると同時にアーシアンを違法労働させていた加害者にもなる。

 それを隠蔽するためにレイナたちは調査に入る前にテイラーの指示で証拠の隠滅、フロントの一部の破壊と秘密を知った可能性のある職員の口を塞いだのだろう。

 そして、その罪を全てテロリストに擦り付けて自分たちは可哀そうな被害者になるつもりだったというのが今回の一件の流れと言う事だ。

 

「信じてくれるのか?」

「全部を信じた訳ではないな」

「それでもいいさ。で、俺たちはもう少しで地球に降りる。悪いけど、それまで大人しくしていて欲しい」

「そうか。それよりもあのでか物と追撃してきた部隊はどうなっている?」

「あのでかいやつは機体のトラブルか何かで引いたよ。追撃してきた部隊はまだ追ってきてる。すぐに仕掛けて来る様子はない」

 

 隠すほどの情報でもないため、素直に話した。

 カテドラルの部隊は現在も追尾してきている。

 

「そうか」

「コウタロウ。入るよ」

 

 話しているとタチアナが入ってくる。

 すでにレイナが起きているが、タチアナは余り気にした様子は見せない。

 

「タチアナさん。どうしたんですか?」

 

 コウタロウはレイナが起きたという報告はまだしていないため、要件はレイナとは関係ない事かも知れない。

 

「どうも艦を直すだけの時間がないようでね。向こうのデカい奴の出撃を確認した」

「アイツが……」

「だから、この艦はここに捨てていく。輸送艇だけなら何とか逃げ切れる」

 

 艦の損害自体は時間さえあれば直すことは出来る。

 しかし、オービットブラスタが出撃している。

 このままでは追いつかれて沈められる可能性が高い。

 そうなる前に足手まといであるこの艦を廃棄してクルーは輸送艦と共に離脱することをタチアナは決断した。

 

「君の機体は一応はまだ動くみたいだから機体と共に解放するが、機体の自爆プログラムはこちらで握らせて貰う。下手な事をしなければ何もするつもりはないから安心して欲しい」

「どの道、戻るところはないし、私も部下を殺されて大人しく引き下がるつもりもない」

 

 先の戦闘でオービットブラスタは自分たちもろとも攻撃している。

 すでに向こうでは自分たちが敵ごと撃たれても仕方がないだけの理由がでっち上げられている事だろう。

 どの道、戻ったところで真実を知った可能性のある自分は何らかの罪によって口を塞がれることは確実だ。

 そして何より部下であるウォーレンとフリードを殺された仇も取ってはいない。

 

「あのデカブツを始末してくれるというのであればこちらとしては有難い事だね。今は少しでも時間を稼いで欲しいからね」

「タチアナさん。俺も出ます。俺のガンヴォルヴァの修理は終わってますよね」

「それはそうだが……時間を稼ぐために殿を務めると下手をすれば逃げれない可能性がある。連中の後方から増援も来ている」

 

 カテドラルは追っている部隊とは別の部隊が接近している。

 時間を稼いで戦闘が長引けばその部隊とも戦う事になる。

 そうなれば勝ち目はなく、戻るまで待つことも出来ないため、見捨てて宇宙に置き去りにしなければならない。

 

「だからって彼女一人にやらせる訳にもいかないし、俺は保護したアーシアンを助ける為にタチアナさんたちに協力してるんです。ここで自分の命惜しさに逃げるなら初めからここにはいませんよ」

「それは……そうかも知れないけど」

 

 自分の命が惜しいというのであれば初めからモビルスーツに乗って戦おうとは思わない。

 カテドラルと敵対してまでガンヴォルヴァに乗ったのは強制労働をさせられていたアーシアンを守るためだ。

 

「それに最悪、俺なら無理やり戦わされていた事にでもすれば何とかなりますから」

 

 置いて行かれたとしてもリタ達とは違いコウタロウは始めからアースリベレイターの構成員だった訳ではない。

 ガンヴォルヴァに乗って戦ったのも、脅迫されて無理やりやらされたという事にすれば投降しても罪は軽く済むかも知れない。

 タチアナもそれが建前でコウタロウは簡単には投降しないという事は分かっている。

 しかし、レイナ一人を放り出して任せるというのにも不安があるのは事実だ。

 

「分かった。君に任せるよ。ただし、こんな事で死ぬ必要はない。本当にやばくなったら投降でもこちらを撃っても構わない。自分が生き残る事を最優先に考えるんだ」

「わかってます」

 

 そういうがコウタロウがいざ自分の身が危なくなったところで自分の身よりも助けたアーシアンを守る事を優先することは分かっていた。

 それでも言わずにはいられなかった。

 

「そっちのお嬢さんも頼むよ」

「ああ。テロリストを助けるつもりはないがな」

「それでいいさ」

 

 要件を済ませたタチアナは部屋を出て行く。

 状況が状況だけにゆっくりとはして居られない事もありコウタロウとレイナはすぐに格納庫へと向かう。

 

「そっちはどうだ?」

「本調子とは言えないが問題はない」

 

 格納庫では艦を破棄して輸送艦に移るための準備が進められている。

 コウタロウとレイナは自分のモビルスーツに乗り込んで状態を確認している。

 コウタロウのガンヴォルヴァ01は失った左腕とシールドを予備の物に交換し、十分に戦闘が可能なレベルまで修理されている。

 一方のレイナのハインドラは最低限の応急修理のみで元の損傷が軽微だったことから戦闘自体は可能だ。

 

「俺たちはみんなが輸送艦に移動して仲間と合流し、地球に降下するまでの時間を稼ぐ」

「ああ。私は部下の仇を取る」

「それで構わない」

 

 ガンヴォルヴァ01とハインドラがハンガーからカタパルトに移動する。

 

「ガンヴォルヴァ。コウタロウ・ハザマ。出る!」

「ハインドラ。レイナ・マルカ。出撃する」

 

 母艦から射出された2機は迫るオービットブラスタを迎え撃つ。

 

「さて……俺たちだけであのデカブツをどうするか……」

「戦闘データは見させて貰った。オービット重工にあれほどの機体を開発できる技術力はないと思っていたが、案の定だ。奴はあれだけの火力を持つが正面のビーム砲は何発も使えない。恐らくはエネルギー面や砲身の耐久性に問題があるんだろうな。だから先の戦闘でトラブルを起こしている」

 

 レイナは出撃までに先の戦闘のデータを見て確信した。

 オービットブラスタは高い火力と防御力、推力を持つが、一方でそれを維持し続ける事が困難だという事をだ。

 

「あれは火力や推力を確保するために意図的に大型化したのではなく、技術不足が故に大型化しなければならなかっただけの欠陥機だ。そんな機体の火器管制システムもまともなわけがない。恐らくは複数のパイロットで対応しているのだろうが、所詮はあの規模の民間企業で雇っているパイロットだ。技術も連携もたかが知れている。やりようはいくらでもある」

「おっおう。凄いな」

 

 1度の戦闘を見ただけでそこまで性能を分析していた事にコウタロウは素直に驚いている。

 

「ネタが分かれば造作もない事だ。それぞれ分かれて仕掛ける。それで向こうのパイロットは対応しきれないはずだ」

「分かった」

 

 コウタロウも異論はない。

 オービットブラスタを射程に入れると2機は散開する。

 ガンヴォルヴァ01はビームライフルを撃ちながらオービットブラスタに接近する。

 ビームは装甲に弾かれてオービットブラスタの全身の火器が展開すると全方位への攻撃が始まる。

 

「分かっていても何て火力だ」

「だが、狙いは甘いな」

 

 2機は接近しようとするが、ビームに阻まれる。

 だが、狙いは甘く接近することは難しいが、ビームを避けるだけなら十分に可能だった。

 ビームの弾幕で寄せ付けないオービットブラスタだが、モビルスーツは弾幕でけん制しながら母艦の方に向かっていく。

 

「くそ! 向こうを狙ってるのか! 振り切られる!」

「問題ない。あれだけの巨体だ。初速はこちらの方が上だ。回り込める」

「確かにな!」

 

 コウタロウはパーメットスコアを3に上げると加速してオービットブラスタが加速しきる前に回り込むとビームライフルを撃ちこむ。

 ビームは装甲に阻まれるが、オービットブラスタの狙いを引き付ける事が出来た。

 その間にハインドラはジャベリンユニットのビームガンをオービットブラスタのブースターに撃ち込む。

 ブースターの中まではシールドコーティングはされていないらしくブースターの一つが火を噴く。

 

「良し! これで!」

「まだだ。油断するな。火力は活きている」

 

 ブースターの一つを潰されたオービットブラスタは前方のビーム砲を母艦の方に向ける。

 そして、高出力ビーム砲を母艦に向けて放った。

 

「しまった!」

「いや、問題はない」

 

 高出力のビームは母艦に直撃すると至る所から爆発が起きてやげて撃沈してしまう。

 

「足を止めるな。時間的にはもう無人だ」

 

 自分たちが出撃した時の状況と稼いだ時間を考えるとすでに母艦には誰も乗っていないはずだ。

 それが分かっていたからこそ、レイナも砲撃自体を止める事はなかった。

 そう何度も撃てないのであれば無駄に撃たせた方が良いという判断だ。

 

「次は撃たせるな。その前に仕留める」

「ああ。そうだな」

 

 コウタロウも冷静さを取り戻した。

 オービットブラスタの大型クローユニットに捕まれないように逃げる。

 その間にハインドラはオービットブラスタの下に回り込む。

 大型クローユニットで捕まえられない事に業を煮やしたオービットブラスタはガンヴォルヴァ01にミサイルを撃つ。

 ミサイルを頭部のビームバルカンで迎撃しながらビームライフルで反撃する。

 下に回り込んだハインドラに機体下部の大型クローユニットが展開される。

 

「2度も同じ目には合わないさ」

 

 ハインドラはブレイザーユニットからビームサーベルを展開すると大型クローユニットの攻撃をかわしながら両断する。

 大型クローユニットの1つを破壊したハインドラはオービットブラスタの前に出る。

 

「メインカメラの位置はあそこか」

 

 レイナはオービットブラスタのメインカメラの位置を把握するとそこに向かって突撃していく。

 2本の大型クローユニットで迎え撃つが、1本をガンヴォルヴァ01がビームサーベルで切り裂き、もう片方の一撃をかわすと、ハインドラはジャベリンユニットをオービットブラスタのメインカメラに突き刺す。

 

「ウォーレン。フリード。これはお前たちへの手向けだ」

 

 ジャベリンユニットを抜くとその穴にブレイザーユニットを突っ込む。

 内部でブレイザーユニットを展開すると最大出力でビームを撃った。

 内部からビームがオービットブラスタを焼き尽くしてやがて爆発を起こす。

 

「レイナ!」

 

 爆発から右腕が吹き飛んだハインドラが出て来る。

 

「大丈夫だ。こんなところで死ぬつもりはない」

「良かった」

 

 ハインドラは右腕を失っているがレイナはケガも無く無事のようだ。

 

「さて……これからどうするか」

 

 センサーにはモビルスーツの反応が出ている。

 オービットブラスタが落とされてモビルスーツ隊が出撃してきたのだろう。

 始めからモビルスーツ隊が出ていれば勝ち目はなかったが、テイラーは余程、オービットブラスタの性能に自信があり、べネリットグループのモビルスーツに戦果をあげさせたくはなかったというのが単機で仕掛けてきた理由なのだろう。

 流石にオービットブラスタがやられてもモビルスーツを出さないという事はなかったらしい。

 

「俺はここに残って少しでも足止めをする。レイナは退避するんだ。部下の仇は取ったんだろ? これ以上、俺たちに付き合う理由はないだろ」

「確かにな。だが、私はあの男のやり方にも頭に来ている」

 

 オービットブラスタは部下の仇ではあるが、同時にそれを指示したテイラーのやり方にもレイナは頭に来ていた。

 元々、反りが合わなかったが、コウタロウの話を聞き、テイラーは指揮官としてだけではなく、カテドラルの一員としても超えてはならない一線を越えている。

 

「このまま君たちを地球に逃げられることが奴の失墜につながるならそれも一興だ」

「分かった。そっちの機体はボロボロなんだ。無理はするなよ」

「出来ない相談だな」

 

 ガンヴォルヴァ01とハインドラは迫るモビルスーツ隊を迎え撃つ。

 

 

 

 コウタロウとレイナが時間を稼いだお陰で輸送艦は無事に仲間との合流を果たすことが出来た。

 その仲間は地球へ降下するための降下ポッドを複数用意している。

 それで地球に降下する予定だった。

 すでに助け出したアーシアンは大気圏降下用のポッドに移動して地球への降下を始めている。

 母艦を破棄して脱出したクルーも最後の降下ポッドに乗り込み後は降下するだけだ。

 降下ポッドを全て降下させた後は輸送艦を自爆させてる手筈となっている。

 

 「なぁコウタロウの奴まだ戻ってないぞ」

 「これ以上、遅れれば私たちも敵に捕捉されるわ」

 

 最後の降下ポッドにはリタ達モビルスーツ隊とここまで護衛してきたモビルスーツも入っている。

 後はコウタロウが来るのを待つだけだが未だに戻ってくる気配はない。

 リタ達は最悪の事態に備えていつでもガンヴォルヴァで出られるように降下ポットの格納庫横の待機室で待機している。

 

「この時間に戻らないとなると……」

「見捨てんのかよ! アイツは私らを逃がすために時間を稼いでんだろ!」

「ヒルダ。止めて」

 

 状況的に戻れないと見ていたリタにヒルダが食って掛かる。

 それをドロテアが止める。

 ヒルダも本気でリタがコウタロウを見捨てる事を良しとしている訳ではないと分かっているが、自分たちの為に戻らない事にもどかしさを感じている。

 

「私がちょっと行ってくる」

「駄目よ。今出て行けば戻れなくなる」

「分かってるけどよ」

 

 ヒルダが飛び出していきそうなのをドロテアが制止する。

 

「見捨てられないだろ」

 

 その言葉にリタもドロテアも反論は出来ない。

 理屈としては犠牲は最小限に止めるべきなのは確かだ。

 それでもコウタロウは初めはアースリベレイターの仲間ではなかったのにも関わらず自分たちに協力してくれている。

 コウタロウがいてくれたおかげでここまでこれたと言っても過言ではない。

 

「同感だね」

 

 そう言って待機室にタチアナが入ってくる。

 タチアナはパイロットスーツに着替えてヘルメットを脇に抱えている。

 

「隊長。そんな恰好でどうして」

「そんなの決まってるじゃないか。彼一人を犠牲にする気はない。私が迎えに行く」

「しかし……」

「そういう時は年長者が先に逝かないとね」

 

 元々ガンヴォルヴァ01はタチアナ用の機体でタチアナもモビルスーツの操縦技術は持っている。

 実力もリタ達3人を相手に互角に戦える。

 

「リタ、君の03を借りるよ」

「……なら返して下さいよ」

「分かってる」

 

 タチアナはヘルメットをかぶると格納庫に入るとリタのガンヴォルヴァ03に乗り込む。

 

「返すか……出来もしない事をよくもまぁ。我ながら悪い大人になったものだ」

 

 タチアナは機体のシステムを立ち上げる。

 

「それでも見捨てる事は出来ないさ」

 

 機体が起動するとガンヴォルヴァ03のシェルユニットが赤く発光し、タチアナに赤い痣が現れる。

 それに反応するかの様にガンヴォルヴァ02と04のシェルユニットが赤く発光して機体が無人のまま起動する。

 

「さて……彼を助けに逝こうか」

 

 降下ポッドのハッチが開くと3機のガンヴォルヴァが出撃する。

 

「っ……少し動かしただけでこれか……流石にきついな」

 

 02と04の2機のガンヴォルヴァを遠距離操作しているが、通常のガンビットの制御に比べてモビルスーツであるガンヴォルヴァを遠隔で操作することは難しい。

 将来的には無人化してモビルスーツ型のガンビットとして運用する予定だが、制御面での問題から実用段階ではない。

 操作に苦戦しながらもタチアナはコウタロウの元へと向かう。

 

「流石にこの数は厳しいか」

「手加減をしてくれる気もないようだ」

 

 コウタロウとレイナはカテドラルのモビルスーツに苦戦していた。

 少し前までは友軍だったレイナのハインドラに対しても容赦なく攻撃してくる。

 恐らくはすでにテイラーから適当な理由をつけて自分が裏切り者だという事にでもされているのだろう。

 そうでなくとも彼らはオービット重工の秘密を守るために従業員を殺す等に加担している可能性もある。

 もっとも自分たちと共に来たハインドリーのパイロットたちの動きには迷いが見える。

 それでも数の差はどうしようもない。

 

「ここいらが覚悟の決め時か……」

 

 ガンヴォルヴァ01はビームライフルを連射して敵を近づけさせないようにする。

 すでに逃げる事は難しい以上はここでやられるまで敵を足止めするつもりだ。

 だが、ガンヴォルヴァ01の動きが止まると急に反転して後退を始める。

 

「何だ……機体が勝手に動く!」

「確かにこの辺りが引き際か」

 

 後退するガンヴォルヴァ01にハインドラも続く。

 後退はコウタロウの意思ではなく機体が勝手に動いている。

 

「あれはリタ達か?」

 

 前方から3機のガンヴォルヴァが接近してくるのが見える。

 するとコックピットが開閉するとコウタロウは機体の外に射出された。

 

「何が?」

 

 レイナは何が起きたか分からなかったが、放り出されたコウタロウをキャッチするためにジャベリンユニットをパージする。

 何とかコウタロウをキャッチするとコックピットに入れる。

 

「無事だな」

「タチアナさん? タチアナさんがガンヴォルヴァに?」

「そうだ」

 

 ハインドラに通信が入る。

 その相手はタチアナでコウタロウもガンヴォルヴァに乗っているのがタチアナだと知った。

 

「何でタチアナさんが……」

「後は私が足止めをする悪いが、彼を降下ポッドまで頼む」

「タチアナさん!」

「これが最善の手なんだよ。私よりも君が生き残るべきだ」

 

 ここで足止めをするという事は地球へ降下することが出来ないという事だ。

 投降すれば運が良ければ刑務所に入るだけで済むかも知れないが、テロリストである以上は極刑の可能性は高い。

 どの道、残れば死ぬことは目に見えている。

 タチアナもそれだけの覚悟でここに戻って来たのだろう。

 

「何で……俺は」

「君には素質がある。生まれつきデータストームに対する高い耐性を持つ君はガンダムに選ばれたと言っても良い。だからこそ君は生きるべきだ」

「そんなこと!」

「よく聞け。私たちの背後には議会連合が付いている」

 

 タチアナの言葉にコウタロウだけでなくレイナも驚く。

 議会連合はフロント間の政治的な問題に干渉して調停することを目的に設立されている独自の武力を持っているが、今回の様にアーシアンとスペーシアンの問題に関しては動くことはない。

 

「議会連合にもアーシアンの現状を良しとしない者はいるんだよ。そんな人たちが極秘裏にアーシアンを救うために我々のような部隊を作って動かしている」

 

 背後に議会連合がいるとなればアースリベレイターの戦力がこれほどまでだというのも納得は出来る。

 

「君なら世界をアーシアンの現状を変え、未来を作る事が出来るかも知れない。私はその可能性に賭けてみたいんだよ。だからこそ私はその可能性を守る」

「俺にはそんな可能性は……」

「あるさ。私はそう信じている。だから後は任せた。アーシアンの未来を頼んだよ」

 

 それだけ言って通信は切れた。

 

 「タチアナさん! レイナ!」

 「……駄目だ。このまま進む」

 

 すでにタチアナのガンヴォルヴァ03は後方にいる。

 今なら戻る事も出来たが、レイナは機体を加速させる。

 

「あの人がどういう人なのか私には分からない。でも、彼女が命を賭して守ろうとした貴方を死地に戻すことも私には出来ない」

 

 レイナはコウタロウともタチアナとも数時間前に顔を合わせただけでどういう関係で何があったかは分からない。

 それでもタチアナがコウタロウの事を自分の命と引き換えにでも守りたいという思いは伝わった。

 だからこそ、ここで止まる事は出来ない。

 

「まったく……これではまるで悪い魔女だな。私は」

 

 通信を切りタチアナは自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「最後に彼に呪いをかけてしまったよ」

 

 コウタロウの性格を考えれば自身の命と引き換えに助けられたとなれば今後は自分の望むようにアースリベレイターで戦う事は分かっている。

 分かっていてタチアナはそうした。

 コウタロウに対する言葉に嘘はない。

 だが、コウタロウの未来を自身の望む方へ進むしかなくさせたのは呪いと言っても良い。

 それだけの事をしてもコウタロウの事は必要だと考えている。

 

「ならば、その責任を果たすとしますか」

 

 コウタロウの乗っていたガンヴォルヴァ01のコントロールも得てタチアナはカテドラルのモビルスーツ隊を迎え撃つ。

 

「どうなっている! 虎の子のオービットブラストまでやられて!」

 

 カテドラルの戦艦でテイラーはただ喚いていていた。

 切り札として送り込んで貰ったオービットブラストは撃墜された。

 すでに敵の輸送艦には逃げられた。

 せめて敵モビルスーツを仕留めようにも上手くはいかない。

 出来る事はただ部下に当たるだけだ。

 

「……司令。後方より友軍艦より通信が入っています」

 

 後方から友軍が近づいている事は知っていた。

 増援の予定はなかったが、どこの部隊か分からない状況で助けを求める事もしなかったが、向こうからコンタクトを取って来たようだ。

 

「無視しろ! それどころではない!」

「しかしですね……この通信コードはドミニコス隊の物で……」

「何だと!」

 

 テイラーは思わず立ち上がる。

 流石に接近している部隊がドミニコス隊だったとは予想外だった。 

 

「通信繋ぎます」

「おい! 何を勝手に!」

 

 オペレーターがテイラーの許可を得る前に通信を繋いだ。

 

「こちらはドミニコス隊指令のケナンジ・アベリーである」

 

 通信が繋がれてメインモニターにドミニコス隊の司令官であるケナンジが映される。

 

「こちらは現在戦闘中だ! 後にしろ!」

「そういわれてもこちらも火急の要件だ。現在、ガンドルフ司令に対して本部より出頭命令が出ている。要件は言わなくても分かっているよな」

「ぐっ」

 

 テイラーは心当たりが多すぎる。

 

「流石に企業から個人的に金を受け取っていろいろと便宜を図るのはやり過ぎだ」

 

 完全に裏でやって来た事はバレているようでテイラーも言葉がない。

 

「いや……そのことは……」

「言い訳は本部でして……」

「とっとと諦めて投降しやがれ! 糞野郎!」

 

 ケナンジの言葉を遮り女の怒鳴り声がブリッジに響き渡る。

 

「フラン。今回は一応は友軍相手なんだから」

「関係ないっすよ。この手の奴らはガツンと一発やんなきゃ分からないんですよ」

「だからってな」

 

 先ほどまでの張り詰めた空気が一変する。

 モニターには艦長席に座るケナンジの後ろからパイロットスーツの赤毛の女が出て来る。

 

 「ドミニコスの魔女……」

 

 テイラーも面識はないが噂は聞いている。

 グループ総帥のデリングの息子の嫁の一人にしてドミニコス隊のエースパイロットであるフラン・ベルカ。

 過去にガンダムに乗っていた事や高い操縦技術からドミニにスの魔女の異名を持っている。

 

「とにかく、そこで首を洗って待ってろよ!」

 

 フランがそういうと通信が切れる。

 ドミニコス隊が動いたという事はすでに詰んでいる事を悟ったテイラーは力なく艦長席に座り込む。

 

「つう訳でアタシ等が出ますよ。司令」

「はぁ……全く、あの若もとんだじゃじゃ馬を寄こして」

 

 段取りを狂わされたケナンジは頭を抱える。

 フランは実力は申し分はないが喧嘩速すぎる。

 モビルスーツを出すことなく投降させればそれがベストだったが、そうもいかないらしい。

 

「分かってるとは思うが、相手は仮にも友軍だ。殺すなよ」

「わかってますって」

 

 フランはそういうとブリッジから出て行く。

 フランは喧嘩速いが無駄に敵を殺すという事はしないという事に関しては信頼している。

 

「まずはフラン隊を出す。準備を急がせろよ」

 

 ケナンジはすぐに切り替えてモビルスーツ戦の準備を始めさせる。

 

「姉御! 出撃ですか」

「おう。アタシの隊が出る。準備は出来てんな。バッツ」

「もちろんですよ」

 

 格納庫では学生時代からの右腕であったバッツが隊の出撃準備に入っていた。

 フラン隊のディランザ・ソルは全機がフランのパーソナルカラーの赤で統一されている。

 唯一フランの機体だけはディランザ・ソルではなくディランザに専用のカスタムをしている。

 赤い装甲に両肩には格闘戦用のスパイクシールドに換装され、頭部には大型のブレードアンテナが追加されている。

 装備は十字状のビーム刃を形成するビームパルチザンとスパークシールドの裏側のビームトーチだ。

 フランは自分のディランザに乗り込む。

 

「フラン隊。出るぞ」

 

 フランのディランザに続き赤いディランザ・ソルが次々と出撃する。

 

「アタシはモビルスーツを抑える。バッツは母艦の制圧を任せる」

「了解です」

「野郎とも! ガンドルフとかいう奴は糞野郎だ。殺してやりたいが殺すなよ!」

 

 フランのディランザは加速してテイラーの母艦を追い越す。

 

「何だ……赤いディランザ。ドミニコスの魔女か!」

「俺たちで勝てる訳がない!」

 

 フランの赤いディランザを見てテイラーの部下たちは戦意を失って武器を捨てて抵抗する意思がない事を締める。

 

「んだよ。気合が足りねぇんだよ」

 

 フランも戦う意思のない相手に攻撃することはない。

 だが、複数のビームがディランザを襲う。

 

「おっやる気の奴もいるじゃん。てか、アレ」

 

 ビームを撃ってきているのは4機のガンヴォルヴァだった。

 

「ドミニコスの魔女が出て来るなんて最悪。でもここで足止めをさせてもらう!」

「ガンダムか。懐かしいな。けどこいつらの動き……」

 

 ビームを回避しながらフランは相手がガンダムだという事に気が付いた。

 同時に1機を除き動きがおかしいという事にも気が付いた。

 

「まぁ良いか。こいつ等はカテドラルじゃないって事は落としても良いって事だよな!」

 

 ディランザはビームを回避しながらガンヴォルヴァ04に向かっていく。

 ガンヴォルヴァ04はビームキャノンとビームカービンでディランザを狙うが、当たる事はなく接近するとビームパルチザンで胴体を一突きして撃破する。

 

 「くっ! 一番残しときたかった奴から」

 

 ガンヴォルヴァの遠隔操作は難しく動きは単調になりがちだ。

 砲撃仕様の04は後ろから撃っていれば良かったが、フランは真っ先に後方支援の04を潰しに来た。

 

「次はお前だ」

 

 今後はガンヴォルヴァ01に接近する。

 ビームライフルで応戦するが、シールドで防がれて接近されるとスパイクシールドで体当たりを受けて体勢を崩したところと頭部が掴まれて至近距離から胸部のビームバルカンを撃ちこまれて装甲を削られたところにビームトーチを胴体に付き刺して仕留める。

 

「やってくれるわね」

 

 フランが優先したのは取り合えずビームを撃っておくだけでいい04と01だ。

 残る02は火力が低く格闘戦をさせる事は遠隔操作では難しい。

 2機がやられて操作に余裕が出た事で02はバスターソードを抜いて切りかかるが、あっさりとかわされて背後からビームパルチザンで一突きにされた。

 

「アンタが操作してんだろ」

「ガンダムに乗っていなくてもこれほどとはね。だが、こちらも引く訳にはいかない理由があるの!」

 

 タチアナはスコアを4に上げた。

 データストームに耐えながらも機体を加速させる。

 

「ちっ……コイツ死ぬ気か」

 

 ガンヴォルヴァ03はバックパックのミサイルを全弾発射する。

 それを後退しながらビームバルカンで迎撃する。

 その間に回り込んだガンヴォルヴァ03はシールドを掲げて突っ込んでくる。

 ディランザのビームバルカンをシールドで受け続けていたが、デジランザはビームトーチを抜くと投擲する。

 ビームトーチはガンヴォルヴァ03のシールドに突き刺さるが、すぐにシールドをパージする。

 すでにシールドからビームサーベルを抜いていたガンヴォルヴァ03はディランザの胴体を狙い突き出す。

 

「甘ぇよ」

 

 ディランザは機体を後ろに大きく反らして突きをかわすとガンヴォルヴァ03の横っ腹を蹴り飛ばす。

 

「つっ!」

「生きる気のない奴に遅れを取るほど軟な鍛え方はしてないんだよ」

 

 体勢を崩したガンヴォルヴァ03にディランザは止めの一撃を入れる。

 

(コウタロウ……アーシアンの未来は……)

 

 ビームパルチザンが引き抜かれてガンヴォルヴァ03は爆散した。

 

「これで全部か?」

「姉御! こっちは終わりました!」

「おう。ご苦労さん」

 

 フランが戦っている間にバッツ達もテイラーの戦艦を制圧していたようだ。

 その後、ドミニコスの母艦が追いついてテイラーは拘束されて戦闘は終結した。

 

 

 戦闘が終わった頃、コウタロウとレイナを乗せたハインドラは降下ポットに乗り込むことが出来た。

 タチアナが戻らずにコウタロウが戻って来た事でリタ達もタチアナが初めからそのつもりだったことを悟った。

 コウタロウが戻りゲオルは降下ポッドを地球に降ろすように指示を出して最後の降下ポットは大気圏に突入する。

 

(タチアナさん。俺は貴女の意思を継ぎます。俺にどこまでやれるかは分からないけど。世界を変えてアーシアンが搾取されない世界を作ります)

 

 降下ポッドが地球に降下する中、コウタロウは心の奥底でそう誓った。

 タチアナが自分のどこに可能性を見出したのかは分からない。

 それでも命と引き換えに生かしてくれた自分の命をタチアナの為に使いたかった。

 その決意を胸にコウタロウは地球へと降りるのだった。

 後にこの一件は大きな問題となるが、それはコウタロウ達とは無縁のところで騒がれることになるが、今のコウタロウ達には関係はなく今はただ自分たちを逃がすために命を賭したタチアナの為に涙を流すだけだ。

 

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