機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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43話

 オービット重工の一件から1月が経った。

 オービット重工がアーシアンを違法労働をさせていたという事実は公となり、オービット重工の社長をはじめとした重役の多くは逮捕されることとなり、同時にオービット重工から賄賂を受け取っていたカテドラルのテイラー・ガンドルフも逮捕されてこの一件は大きな問題となった。

 その件によりアーシアンの不満は更に大きくなることとなってアーシアンを雇っている企業はアーシアンの労働環境等の改善を余儀なくされた。

 アースリベレイターに助けられたアーシアンは地球に降りると世界各地に散らばった。

 コウタロウ達は議会連合が極秘裏に所有している施設の一つに匿われてほとぼりが冷めるまで活動を停止せざる負えなかった。

 

「だぁ! また負けた!」

「君は勘は良いがそれに頼り過ぎる」

 

 施設にあるシミュレーターでヒルダがレイナに負けて吠える。

 結局、レイナもグラスレー社に戻る事も無くここに居ついていた。

 初めは以前に殺されかけた事もあってヒルダは敵対心をむき出しにしていたものの数日で実力でレイナがヒルダを黙らせて今では打ち解けて毎日のようにシミュレーターで挑んでは負けている。

 

「またやってるな。毎日飽きないよな」

「コウタロウ! 私の仇を取ってくれ!」

「先輩も一戦どうだ?」

 

 この一か月でコウタロウもレイナがアスティカシアの1つ下の後輩だったことは知っている。

 今では先輩と言う呼び名が定着していた。

 

「いや、ゲオルさんから呼び出しがあるから止めとく」

 

 時間があれば相手をしていたが、タイミングが悪くコウタロウはゲオルに用があると呼び出されていた。

 ここにはその道中でたまたま通りかかったに過ぎない。

 

「何だ今日こそはとも思ったんだがな」

 

 シュミレーションでの戦績はコウタロウが勝ち越している。

 

「また時間があればな」

 

 コウタロウはそういうとゲオルの元に向かう。

 

「コウタロウです。入ります」

 

 ゲオルの執務室に付くとコウタロウは要件を伝えて中に入る。

 隊長だったタチアナ亡き今、ゲオルが隊長を任されている。

 コウタロウはソファーに座る。

 

「ここでの生活は慣れたか?」

「ええ、まぁ。それなりには」

 

 この施設で匿われて近くの街に出るにもいろいろと制限はかかっているが、生活自体は問題はなく、タチアナの死からも立ち直っている。

 

「そうか」

 

 ゲオルもそれが単なる強がりではないと確信すると本題に入る。

 

「コウタロウはフォルドの夜明けを知っているか?」

「確かゲリラ組織ですよね」

 

 コウタロウもその名には聞き覚えがあった。

 アーシアンの地位向上を目的としたゲリラ組織だ。

 

「本部より指令があってな。開発部で開発した新装備とそれを搭載した新型機を3機。フォルドの夜明けに提供することとなった。これがその新型機のデータだ」

「へぇ……これって」

 

 コウタロウは渡された端末に表示されたデータに目を通す。

 見た限りでは新型機は3機ともGUNDフォーマットを搭載したガンダムのようだ。

 その3機には共通の装備があり、その装備のデータを見ているとコウタロウは手を止めた。

 3機には共通した装備とフェーズドアレイキャノンが搭載されているが、コウタロウが気になったのはその機能にあった。

 機能は3つあり、1つ目はその名の通りに火器としての機能だ。

 2つ目はガンヴォルヴァの操作補助だ。

 ガンヴォルヴァをガンビットとして遠隔操作する場合はパイロットの負担が大きく単なるモビルスーツサイズの砲台として使う事が精一杯だったが、これを使えばパイロットにはほとんど負担はなく、一般のパイロットレベルでガンヴォルヴァを遠隔操作することが出来る。

 そして、コウタロウが最も気になった3つ目の機能がアンチドートの無効化。

 詳しい理論はコウタロウには理解できないが、パイロットがパーメットスコアを4まで上げる事でアンチドートを無効化する機能が付いている。

 今まではガンダムに対してはアンチドートを使えば無力化できるという常識を覆す画期的な機能を開発した事になる。

 

「アンチドートの無効化って本当なんですか?」

「理論上は可能らしい。コウタロウにはこの3機のパイロットと共にフォルドの夜明けに同行し、機体のデータ収集を行って欲しい」

 

 コウタロウの任務はフォルドの夜明けに提供される新型ガンダムのデータ収集と言う事だ。

 機体以外にもその新型ガンダムのパイロットのデータも記載されている。

 

「パイロットはヒルダよりも年下の子供じゃないですか」

「まだ試作段階の機体だからな。組織としては使い捨て出来るパイロットを使うんだろうな」

 

 データを見る限りでは3機の内の2機にはまだ年端もいかない子供が乗る事になっている。

 議会連合の上層部としてはガンヴォルヴァのパイロットとしての経験のあるコウタロウやリタ達はまだ新型機に乗せるつもりはなく、データを収集さえできれば死んでも構わないパイロットを使うつもりなのだろう。

 

「なんですか。それ」

「上層部にもいろいろとあるんだ。死なせたくないのであれば、お前が守ってやるしかない」

 

 ゲオルも子供を使い捨ての道具の様に使う事は気が進まないようだが、組織の人間である以上は従わなければいけない。

 

「分かりました」

 

 コウタロウも完全には納得がいかなかったが、命令である以上は拒否したところで自分の代わりの人間が派遣されるだろう。

 そいつが子供を犠牲にすることをなんとも思わない可能性もあるため、自分が大人しく受けた方が良いと考えてコウタロウは了承する。

 それから数日後には少ない荷物をまとめてコウタロウは施設を離れて新たなる戦場へと向かうのだった。

 

 

 

 べネリットグループの所有するとあるフロントの中にルーカスが個人で所有している別荘があった。

 別荘ではあるが、ギルドの代表を解任されたルーカスは投資家として活動し、この別荘を事務所代わりに使っていた。

 

「やぁずいぶんと久しぶりじゃないか。シャディク」

 

 ルーカスは応接室で客であるシャディク・ゼネリを出迎える。

 ルーカスを訪ねて来たシャディクだったが、今日はルーカスの機嫌が良かったため、表情にこそ出さないが内心では安堵していた。

 

「ええ。アスティカシアに入学することになるので一言挨拶をと」

「ふーん。もうそんな歳か」

 

 ルーカスは余り興味を示すことはなかった。

 ルーカスとシャディクとの付き合いはそれなりに長い。

 初めて会った時はまだ幼い子供だった。

 

「で、それをわざわざ言いに来たわけ?」

「それはついでですよ。今日は聞きたい事があって来たんですよ」

「聞きたい事ね。良いよ。今日は機嫌が良い」

「先月起きた。オービット重工の一件。ルーカスさんが一枚かんでいると見てるんですがどうですか?」

 

 単刀直入に質問をぶつけた。

 オービット重工の一件はべネリットグループも他人事ではない。

 アーシアンの労働環境の改善だけでなく、オービット重工に仕事を頼んでいた株式会社アーヴも議会連合からの査察を受け、内部でいくつもの不正が行われていた事が明らかになった。

 そのせいでべネリットグループも対応に追われていた。

 シャディクはそれにルーカスが関わっていると考えて訪ねて来た。

 

「俺は少し便宜を図るように頼んだだけだ。発端は俺じゃない。まぁ友達とのお茶会で零した噂が噂じゃなかったことは驚きだったけどな」

「成程そういう事でしたか。ルーカスさんは交友関係が広いですからね。ぜひ、俺にも紹介して欲しいですよ」

「何だ。シャディクはああいうふくよかで年上が好みなのか?」

「いえ、俺としてはスレンダーで年下の方が……いえ、俺の好みはどうでもいいです」

 

 バカなやり取りに付き合いながらもシャディクは理解した。

 ルーカス自身は今回の件で直接的に動いたことはほとんどないだろう。

 ルーカスのいう友人が言葉通りの友達ではない。

 この数年でグループの内外に様々な伝手を作って来た。

 今回もその伝手の中の誰かに対して情報を提供したのだろう。

 それも直接的に教えたのではなく、あくまでも友達に少し耳にた噂話をしただけだという体でだ。

 

「今回の一件でウチもいろいろと改善する必要性が出てきましたけど、結局のところは表向きだけの一過性の改善に過ぎないでしょう。それ以上に強制労働されていたというアーシアン達はスペーシアンに対して憎悪を持つこととなり、その憎悪が反スペーシアン活動へと繋がり、それに対応するためにグループのモビルスーツの必要性が高まる。ルーカスさんはそれが狙いと言う訳ですか」

 

 シャディクは今回の件の裏をそう推測した。

 違法労働の発覚によりアーシアンの待遇改善を余儀なくされたが、それは改善しているというアピールに過ぎず、やがては元に戻るだろう。

 そして、強制労働させられたアーシアン達はスペーシアンに対する新たな脅威となり、それが火種となったモビルスーツの需要が高まる。

 最終的にはべネリットグループをはじめとした企業への利益となる。

 

「それも否定はしない。情報を流して何かしらの動きがあるという事は動いた連中は流した元と何らかの繋がりがあるって事になる。俺としては軽く強請るネタが欲しかっただけだったんだけどな。想定外の獲物がかかって俺も驚いたよ」

 

 ルーカスとしてはシャディクのいうようにグループの利益の為に行動した訳ではなかった。

 意図的に情報を流すことで非合法に動いている部隊の存在を把握したうえでいずれは脅しの材料として使えないかと流してみたに過ぎなかった。

 だが、ルーカスの想定を超えた事態が起きた。

 それはその組織がガンダムを所有している事だ。

 そのガンダムはかつてオックスアースから販売されたルブリスとは違うタイプのガンダムで新たにガンダムを開発できる組織は限られてくる。

 その組織はかつて銀河の獅子に2機のルブリス改を派遣した組織である可能性が高い。

 確認されたガンダムタイプが銀河の獅子同様に外部から派遣されてきた可能性は情報を流した先の規模からして考えずらい。

 

「ずっと探してたんだよ。見つけて完全に叩き潰すためにね」

「それは穏やかではないですね」

「まぁシャディクには関係ないさ。それよりもだ。お前がアスティカシアに入学する目的は分かってるよな」

 

 シャディクとしてはルーカスが裏でコソコソをやっている事をある程度は把握したうえで、場合によっては何らかの形でかかわる事で、ルーカスの懐に深く入りたかったが、話題を変えられてしまう。

 

「無論です。俺が卒業するまでに貴方のシンパを増やすことでしょう」

 

 シャディクがアスティカシアに入学する目的は単に勉強するためではない。

 学園生たちはやがてはグループの各企業で働く若者のだ。

 ルーカスはグループの次期後継者とされているが、敵は多い。

 そのため、シャディクを送り込み自身のシンパを増やすことで将来的にはグループ内での足場を強固にする目的があった。

 

「今の俺の立場があるのは貴方が義父に推薦してくれたお陰です。その恩は返させてもらいます」

 

 シャディクは元々はグラスレー社が経営していたアカデミーの出身だ。

 ルーカスがギルドを作り、グラスレー社からアカデミーを買い取り、アカデミー生の中でも特に優秀な子供を集めてセシルに特別な教育をさせた。

 その中でも飛びぬけていたのがシャディクで後継者不在だったグラスレー社のCEOであるサリウスに優秀な人材として紹介した。

 その結果、能力が認められてシャディクは孤児からグラスレー社の跡継ぎ候補の本命へと上り詰めた。

 

「どうだか。別に俺が推薦しなくてもいずれは同じになってたんじゃねーの」

「そんなことはないですよ。それに俺はルーカスさんに殺されても仕方がなかったのに温情で生かして貰ってもいます」

 

 シャディクは過去にルーカスの逆鱗に触れた事がある。

 その時、ルーカスは本気でシャディクを殺すつもりだったが、セシルに止められて仕方がなく殺すことは諦めた。

 

「なのでルーカスさんの役に立てる事を証明して見せますよ」

 

 シャディクは自身ありげにそういう。

 シャディクにとっては学園の生徒等、自分の意にままに操る事等造作もない。

 卒業までに学園をまとめ上げるだけの自信はあった。

 

「期待はしてる。だから、補佐にサビーナとエオナをつける。来年にはレネ、イリーシャ、メイジーの3人も入学させてサポートさせる」

「5人もですか?」

「それだけ期待してるって事だよ」

 

 シャディクは一瞬眉を潜ませるが、すぐに取り繕っていつも通りの笑みを浮かべる。

 サビーナを始めとしたその5人とはシャディクも面識はある。

 自分同様にアカデミーでセシルの元で育てられた。

 自分ほどではないが、同年代と比べると高い能力を持っている。

 そんな5人を自分の補佐としてアスティカシアに入学させる。

 ルーカスはシャディクに期待をしているからだというが、シャディクはそれを言葉通りに受け取る事はない。

 考えられる理由としては自身の行動を把握するための監視役と言うところだそう。

 補佐役と言う事は確かだろうが、シャディクの行動は定期報告とは別に常にルーカスに報告されるのだろう。

 シャディクをサリウスに推薦し、表面上は高く評価し期待をしているが、ルーカスもシャディクの事を心の底から信用している訳ではないという事だ。

 

「それと俺も来年には親父から理事長の座を引き継いでアスティカシアに行くからな」

「……理由を聞いても?」

「ほら、学校ってさ支配者層の思想を次世代の若者に叩き込む場じゃん? ならいずれはグループのトップに立つ予定の俺が直々の俺の思想を生徒に教え込もうと思って。まぁ3年ほどな」

「成程、それは名案ですね」

 

 シャディクはわざとらしく称賛するが、それが本当の理由ではない事は分かっている。

 それが本当ならば、わざわざ自分やサビーナ達を送り込む必要はないし、自身が入学しら翌年である必要も無い。

 その気ならすぐにでもデリングから理事長の座を引き継ぐことが出来る。

 わざわざ、今までやらなかったことをそんなことをする理由は一つしか考えられなかった。

 それに気づきながらも気づかない振りをしてただルーカスを持ち上げる事に徹する。

 今はまだルーカスの下についておく必要があるからだ。

 自身の有用性を証明しながら、気に入られ続ければそれなりの見返りもある。

 

「まぁそんな訳だからしっかりと役目を果たせよ」

「ええ。わかってますよ。それでは準備もあるのでこれで失礼します」

 

 最低限の情報を得た物の変に踏み込み過ぎては機嫌を損ねてしまう恐れがあるため、シャディクはこれ以上は踏み込むことはしない。

 要件を済ませたシャディクは応接室から出て行く。

 

「相変わらず分かりやすい奴だ。まぁとことん使い倒してボロ雑巾になっても絞ってやるけどな」

 

 ルーカスもシャディクがここに来た目的もその心中も分かっている。

 

 「ん? 追加の情報か」

 

 ルーカスは端末を取り出すとメールを確認する。

 メールはルーカスの友人の1人で、以前に流した情報の見返りの情報が入っていた。

 

「へぇ新型のガンダムね」

 

 情報は新たに開発されたガンダムに関することだったが、元の情報は機密情報と言う事もあって部分的に秘匿されている。

 同時にそのパイロットの情報も記されていた。

 

「ソフィ・プロネ、ノレア・デュノク……おいおい。こいつは」

 

 パイロットの情報も名前と顔写真くらいで歳や性別、経歴までは記されてはいなかった。

 だが、3機の新型ガンダムのパイロットの名前で手が止まる。

 

「セリカ・スピカ。まさか……生きて」

 

 新型ガンダムのパイロットの一人に見覚えがあった。

 それはアスティカシアの奇跡の時に死んだと思っていたセシルの妹でありセリカだった。

 

「そんなことが……いや、そういう事か。やってくれたな」

 

 あの時、事態の収拾にあたっていた議会連合からの報告では生存者は発見できなかったとされていた。

 だが、それは嘘で実際はセリカは生きて回収されていた。

 ルーカスやセシルは銀河の獅子に2人を派遣した組織は議会連合と繋がりを持っていると考えていたが、それは間違いだった。

 繋がりを持っていたのではなく、議会連合が極秘裏に派遣させていた。

 今回の情報は議会連合に流していた物で、騒動の実行犯は議会連合が背後にいる事は間違いない。

 議会連合ならばヴァナディーズ事変の時に極秘裏にルブリスを回収することも可能で、そこから新たなガンダムを作り出すこともだ。

 議会連合の動きが早かった事は気になっていたが、万が一にもセリカが捕虜にでもなって議会連合に繋がる可能性を恐れて率先して事後処理に当たって公になると困る可能性を潰したのだろう。

 

「議会連合は潰すとして、この情報はどうするか」

 

 死んだと思っていた妹が生きているという事は朗報だが、問題は新型ガンダムのパイロットと言う事しか分からない。

 この情報を更に深掘りするように情報元の友人に頼めばこちらの弱みになりかねない。

 現状としてはセシルに伝えるかどうかは迷うところだ。

 

「今はまだ黙っておいた方が良いか。だが、今度こそはあの日、取り損ねたものを取り戻す」

 

 ルーカスは今は自分の中に留めておくことにした。

 今は不用意に知らせたところで何が出来る訳でもない。

 いずれは議会連合とも本格的に敵対することもあるだろう。

 新型のガンダムとはいずれは戦場で対峙することになる事もだ。

 その時に自分で取り戻せばいい。

 ルーカスはそう決意し、やがて来る戦いに備えて動き始める。

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