機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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45話

 

「どうしてこうなった」

 

 決闘委員会のサロンに来たルーカスはメインモニターに映された光景を見て思わずそういう。

 サロンには決闘委員会のメンバーが筆頭のグエルを除き揃っている。

 モニターに映されているのは今日学園に搬入されたシン・セー開発公社のエアリアル。

 対峙しているマゼンタ色のディランザはグエル専用機だ。

 

「面白いでしょう。編入早々に決闘をするなんて10年振りの事で相手がホルダーなんて前代未聞ですよ」

「あ?」

 

 ルーカスが来た事に気が付いたシャディクがそういう。

 かつてルーカスも学園に編入した初日に決闘をした事はある。

 普通は初日にいきなり決闘をすることはなく、学園が始まって2度目の出来事だ。

 それも相手は学園トップのパイロットであるホルダーだ。

 だが、ルーカスにとってはそんなことはどうでも良かった。

 エアリアルは表向きは最新のドローン技術が使われている事になっているが、実際のところはGUNDフォーマットが使われているガンダムだ。

 その事実を隠していたとしても見る人が見れば分かる可能性もある。

 それがバレてしまえば開発に出資しているルーカスも面倒な事になる。

 

「これより双方の合意の元、決闘を執り行う」

 

 そんなルーカスの心情を知らないシャディクは決闘を進めようとする。

 

「勝敗は通常通り相手モビルスーツのブレードアンテナを折った者とする。両者、向願」

 

 互いのモビルスーツのコックピット内の様子が映し出される。

 

「……どうしてこうなった」

 

 再び同じ言葉が出る。

 エアリアルのパイロットはスレッタだと思っていたが、どういう理由かノーマルスーツを来たミオリネだった。

 

「無効だ。この決闘は認めない。はい、解散」

 

 サロンの視線がルーカスに集まる。

 エアリアルに乗っているのがミオリネだと分かった途端にルーカスは決闘の無効を決めた。

 

「何で勝手に決めるのよ。これは私の決闘よ!」

 

 サロンでは誰もルーカスの判断に異を唱える事はなかったが、ミオリネが怒鳴る。

 

「ミオリネ。グエルが嫌いなのは分かる。俺も同じだ。でもな、モビルスーツは危険なんだ。どうしてもグエルを締めたいというなら俺が代わってやる。なっ? だから大人しくそいつから降りよう?」

 

 決闘自体、安全に配慮しているがそれでもケガの危険性がない訳ではない。

 それ以前にエアリアルがガンダムだというのであればミオリネ自身が危ない。

 ガンダムの運用が全面的に禁止になってからは以前の様にスコア制限のルールがなくなっている。

 スコアを上げたところで決闘委員会の判断で決闘を止める事が出来なくなっている。

 

「ふざけないでよ。コイツは私がやるの。部外者は黙ってて。グエル。さっさと交代を了承しなさいよ」

「はっ? いや……」

 

 ミオリネはルーカスの言葉を一切聞くつもりはないようだ。

 決闘自体はグエルとスレッタによるものと言う事になっているため、ミオリネが戦うには相手の了承する必要があった。

 グエルは誰が相手だろうと負けるつもりはないが、相手が悪い。

 もしも、了承して勝ったとしてもミオリネに危険な事をさせたとなればルーカスの怒りに触れる事は確かだ。

 この決闘自体、グエルは売り言葉に買い言葉で始まったに過ぎない。

 ただでさえホルダーとなりミオリネの婚約者となった時からルーカスには目の敵にされている。

 

「俺は変更を認めな……」

 

 変更を認めなければ決闘はスレッタが出てこない限りは成立しない。

 逃げたと思われるのは癪だが、ミオリネよりもルーカスの方が面倒だと判断した。

 グエルはパイロットの変更を拒否しようとするが、機体にメッセージが入る。

 

(温室での事を学園に報告するだと……)

 

 メッセージを送って来たのは内容的にはミオリネだろう。

 決闘は温室での事が原因だ。

 学園に報告された場合、グエルは何らかの処分を受ける事になる。

 それ自体はジェターク社の力でどうにでもなる。

 だが、問題はその話をルーカスの耳にも入る事だ。

 いくらジェターク社の力を持ってしてもルーカスはどうすることも出来ない。

 どの道、進んでも引いても詰んでいるようだ。

 

 

 「分かった。変更を了承する」

 「グエル」

 (ご愁傷様だな。グエル)

 

  どちらを選んでも詰んでいるであれば進むしかない。

  ルーカスから睨みつけられて、グエルはサロンの方の映像は見ないようにしている。

  そんな様子をシャディクは同情する。

 

「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」

「操縦者の技のみで決まらず」

 

 グエルがパイロットの変更を了承した事で決闘が正式に受理されて進められる。

 ルーカスは機嫌が悪そうにソファーに座る。

 

「「ただ結果のみが真実」」

「フィックス・リリース」

 

 シャディクの宣言と共に決闘が開始される。

 開始と同時にエアリアルはビームライフルを構えて撃つ。

 だが、ディランザは易々を回避する。

 

「へぇやるじゃないですか。お姫様なのに」

 

 開始早々の攻撃を見てセセリアが関心してルーカスの方に視線を向ける。

 エアリアルの攻撃はディランザが避けなければ当たっていた。

 エアリアルの照準システムだけでなく、それなりにモビルスーツの扱いが分かっていなけば素人がいきなり当てる事は難しい。

 ミオリネやセセリアの所属している経営戦略科ではモビルクラフトの基本的な操縦方法は座学としては学んでいるものの実際に動かす機会はほとんどない。

 

「当然だ。アイツには10歳くらいの時にモビルスーツの動かし方は教えた。棒立ちでライフルを撃つくらいは訳ないさ」

 

 先ほどまでの不機嫌が直り、誇らしげに語る。

 昔、まだミオリネがルーカスに懐いていた頃にモビルスーツの最低限の動かし方は教えていた。

 今でも忘れていなかったようで、棒立ちの状態ならライフルを撃って止まっている相手に当てる程度は出来るらしい。

 もっとも動いている相手に対しての命中精度は高くはなくグエルも簡単に回避している。

 

「このご時世、いつなんどき、住んでいるフロントが敵に襲われるか分からないからな。そんな時に偶然モビルスーツに乗る事となった時に動かし方が分からないと困るからな」

「愛されてますねぇ」

 

 セセリアはそんな事態があるわけがないと思いながらも否定はしない。

 すれば面倒になる事はセセリアのみならず決闘委員会では誰もが分かっている事だ。

 

「グエル。分かってるよな」

 

 機嫌が直ってもグエルに圧をかける事は忘れない。

 

「好きにさせなさいよ! 人の人生を勝手に決めて!」

「ちっ……どうすりゃいんだよ」

 

 乱射されるビームを避けながらグエルは一人愚痴る。

 ルーカスのいう分かっているというのは、最悪勝つことだろう。

 流石に大人しく負ける訳にもいかないため、その可能性は考えないようにする。

 となれば後はいかにミオリネにケガをさせずに勝つかだ。

 

「一撃で終わりにしてやるよ!」

 

 ディランザはビームライフルを構えてエアリアルの頭部を狙う。

 一撃で頭部を破壊する事が最も安全に決闘に勝つ手段だと判断した。

 いくらビームを撃ってきているとは言え、棒立ちのエアリアルの頭部を撃ちぬくことは容易い。

 攻撃を回避しながらビームライフルを構える。

 慎重に狙いをつけてグエルは引き金を引いた。

 ビームは正確にエアリアルの頭部を撃ちぬくかと思われたが、ビームライフルを撃った反動で足が滑って仰向けに倒れてビームはエアリアルの頭部に当たる事はなかった。

 

「やべっ」

「今の動き……」

 

 エアリアルが倒れた事でグエルの方が焦る。

 だが、ルーカスは今の動きに違和感があった。

 あれだけビームを撃っておきながら今更反動で足を滑らせるとは思えない。

 当然、ミオリネに今の攻撃を見切って回避するだけの操縦は出来ない。

 偶然と言う事も考えられたが、そんな偶然がこのタイミングで起こるというのも考えにくい。

 その答えが出る前に戦術試験区域に何者かが侵入したとのアラートがなった。

 

「どうした?」

「何かバイクが一台入り込んだみたいですね。どうします? 排除させますか?」

 

 端末にデータが表示される。

 戦術試験区域に入り込んだ時に生徒手帳を使ったため、誰の手帳が使われたというのはすぐに分かる。

 使われた手帳はメカニック科2年のニカ・ナナウラの物のようだ。

 

「地球寮の生徒か……そうだな。別に始末したところで問題がありそうでもないし、実は工作員だったとかでっち上げて始末させるか。そうなればこの決闘を今すぐ止められる」

「そんな話を堂々をしないでくださいよ。みんな本気にしますよ」

「冗談に決まってるだろ」

 

 止めるシャディクにルーカスはそういうが、それがその気になればやる事をシャディクは知っている。

 そうこうしている間にバイクはエアリアルのところまで行くと外からハッチを空ける。

 

「返して下さい!」

 

 何かがぶつかり合う鈍い音か聞こえる。

 

「何すんのよ!」

「エアリアル! 私のです!」

 

 エアリアルのコックピットから口論が聞こえて来る。

 

「あの声、スレッタか」

 

 侵入者は生徒手帳の持ち主ではなくスレッタのようだった。

 コックピット内でスレッタとミオリネのどうしようもない口論が筒抜けになっている。

 

「私とエアリアルはあんなのには負けません!」

「あんなのだと!」

 

 事態を静観していたグエルだったが、あんなの呼ばわりをされたことはカチンときた。

 

「シャディク! 決闘相手の変更だ!」

「了承しよう」

 

 チラリとルーカスを見るが再度の変更に異論はないようだ。

 グエルの申請が通り、決闘のパイロットはミオリネからスレッタに変わった。

 

「田舎者の無知を修正してやる!」

 

 決闘が再開され、ディランザはビームライフルを連射する。

 決闘相手が代わったとはいえ、エアリアルのはミオリネが乗っているため、この攻撃は相手の動きを制限するためのけん制だ。

 エアリアルはビームが当たらない事が分かっているかの様に不要に動くことなく立ち上がる。

 

「お母さんが言っていました。逃げれば1つ。進めば2つ手に入るって。逃げたら負けないが手に入ります。でも進めば手に入ります。経験値もプライドも信頼だって!」

 

 エアリアルのシェルユニットが赤く発光し、全身に装備されていたビットステイヴが展開する。

 ビットステイヴがディランザのビームを弾く。

 

「防いだだと!」

 

 ビームを防いだビットステイヴはディランザの方へと向かう。

 

「何だこの武器は……まさか」

 

 グエルは不意に昔見た記録を思い出す。

 エアリアルの武器はそれに酷似していた。

 しかし、それを思い出した時には遅かった。

 ビットステイヴのビームがディランザの四肢を破壊した。

 四肢を失ったディランザにエアリアルが止めにビームサーベルで頭部のブレードアンテナを切断して勝負は付いた。

 

「ロウジ」

「パーメット個体コードはどれもとも一致しないですけど、1つだけ似た機体があります」

「オックスアースか?」

 

 ロウジが端末で戦闘時のエアリアルのデータから過去に表に出ているモビルスーツの中から類似するモビルスーツを検索する。

 シャディクもある程度は予測していたようだ。

 

「あれが魔女のモビルスーツだとすればこのままにはしておけないですよね。理事長」

「そんなことはどうでもいい」

 

 あれがガンダムであるなればこのまま放置は出来ない。

 そこから先の判断は一生徒に過ぎないシャディクではなく学園の理事長であるルーカスがすべきと話題をするが、帰って来た返事は予想外の言葉だった。

 

「それよりもだ。そうだよ。そうすれば良かったんだ。なぁシャディク」

「……何がですか」

 

 シャディクはルーカスが何を言っているのか本気で分からなかった。

 

「結婚という物は男女で行うものだと思っていた。だが、男同士はキモイが女同士は問題ない。むしろそうすべきだったんだよ」

(ああ。また面倒な事になったな)

 

 シャディクも何が言いたいか分かって来た。

 エアリアルがガンダムかどうかよりもグエルがスレッタに負けた事で現時点からスレッタがホルダーとなり、ミオリネの婚約者となった。

 ルーカスの感覚では結婚は男女でする物で同性でする物ではなかった。

 しかし、スレッタがホルダーとなった事で新たな可能性を見出してしまったようだ。

 

「そうですね。俺もそう思います」

 

 いつもの笑顔でそう返す。

 今のルーカスに何を言っても無駄で下手に否定すれば面倒な事にしかならない。

 

(さて……どうすっかな。あれがガンダムだってバレなきゃいいんだけどな)

 

 いまさらスレッタがグエルに勝ったという事実は変わらない。

 新たなホルダーの誕生に注目はされるだろうが、まだエアリアルがガンダムだという事が露見した訳ではない。

 今ならまだ誤魔化しも利くかも知れない。

 今はただバレない事を願うだけだった。

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