機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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46話

 グエルが敗北した事でスレッタが新たなホルダーとなった。

 デビューから無敗を誇っていたグエルの敗北は学園全体に衝撃を与える事となった。

 しかし、その余韻が残る中、戦術試験区域に警報が鳴り響き数機のモビルスーツがエアリアルを取り囲むように降りて来る。

 その大半はフロント管理会社の方で正式採用されているデミギャリソンだったが、エアリアルの前後を挟むように2機のジークフリードⅡがビームマシンガンを構えている。

 学園では以前に襲撃を受けた事から対テロ対策の一環としてフロント警備会社のモビルスーツだけでなくギルドとも契約を交わしてジークフリードⅡを2機配備している。

 2機とも学園警備仕様のカスタムがされており、両肩にシールドと手持ちのビームマシンガン、腰にはヒートソードが2つ装備されている。

 

「アイビー、エリオ。どういう事だ」

 

 ルーカスは2機のジークフリードⅡに通信を入れて説明させようとする。

 2機のジークフリードⅡのパイロットのアイビーとエリオはアスティカシアの卒業生でどちらもホルダー経験のある実力者だ。

 卒業後にギルドに入り、現在はアスティカシアで実技教官も兼任している。

 

「理事長。ジェタークCEOよりこの決闘で使われたモビルスーツがガンダムではないかと指摘がありまして」

「ちっはぇーな。あのオッサン」

 

 グエルが負けたのは今さっきの事で後でグエルがホルダーであることが望ましいジェターク社から何かしらの動きがあるとは思っていたが、余程息子の決闘に興味があったのかジェターク社の動きが早すぎる。

 その上で決闘の結果に介入する口実として使って来たのはエアリアルがガンダムではないかと言う指摘だ。

 ジェターク社もエアリアルがガンダムだという明確な根拠は持っていないだろうが、とりあえず難癖をつけて決闘の結果を保留として、後で事実はどうあれエアリアルがガンダムだという事にして禁止されているガンダムを使ったとして決闘の結果を無効にするつもりなのだろう。

 その気になればどこまでも争う事は出来るが、エアリアルがガンダムであることは事実でとことん調べられると言い逃れは出来なくなる。

 

「俺は聞いてないぞ」

「すでに総裁の方からも捕縛するように指示が出ています」

「また面倒な事を」

 

 どうやらジェターク社は学園ではなくグループの方にエアリアルがガンダムではないかと言う疑惑を告発したようだ。

 学園では絶対的な権力者であるルーカスではあったが、グループの総裁であるデリングの判断まではどうにもできない。

 学園に告発すればルーカスの都合で握りつぶすことも出来たが、グループの方に告発することでルーカスを通り越してデリングに判断させた。

 少なくともルーカスは自身の私情で動くが、デリングは私情で動くことなく、ルーカスを抑え込むことが出来ると判断されたのだろう。

 

「分かった。指示に従ってくれ」

「ご理解感謝します」

 

 ルーカスもごねたところでどうにもできないとして諦めた。

 アイビーにしてもエリオにしても今は直接的な上司と言う訳ではないため、優先される指示はギルドの本部かグループの総裁からの物になる。

 

「シャディク。後始末は任せる」

「分かりました。理事長は?」

 

 シャディクの質問に答える事も無くルーカスはサロンを出ると第二理事長室に戻る。

 理事長室に戻るとデスクの端末を起動させる。

 

「俺だ。シン・セーに繋いでくれ」

 

 少しすると秘匿回線でシン・セー開発公社との通信が繋がれてCEOのプロスペラ・マーキュリーが出る。

 

 

「ご無沙汰してます。理事長。ウチのエアリアルとスレッタはどうでしょうか?」

「前置きは良い。面倒な事になった」

 

 ルーカスはエアリアルがガンダムだという疑惑をジェターク社にかけられた事等を簡潔に説明した。

 

「そうですか。それは大変な事になりましたわね」

 

 事情を聞いたプロスペラは特に気にした様子も焦る様子も見せない。

 ルーカスとは違いシン・セー開発公社にはジェターク社を相手に戦えるだけの力はない。

 このままではエアリアルはガンダムだとされるのは時間の問題だ。

 そうなればシン・セー開発公社は禁止されているガンダムを製造したとして追及されることになる。

 CEOであるプロスペラも責任問題は追及され良くて解任、最悪逮捕されることもあり得る。

 

「ずいぶんと他人事なんだな」

「そう見えます? これでも焦ってはいますわ。あれを作るのに時間も費用もかけていますから」

 

 顔の半分を仮面で隠していて表情は読み取れないが、どこか白々しさを感じる。

 

「まぁ良い。エアリアルがガンダムかどうかはどうでも良いんだ。事実なんてお偉いさんの都合のいいように作られるだけだ」

「ですわね」

「で、どうすんの? ヴィムのおっさんだけならともかく、親父は俺じゃどうにも出来ないぞ」

 

 相手がヴィムだけならいくらでも言い逃れる術はある。

 だが、相手がデリングとなれば話は別だ。

 ジェターク社の訴えに正当性がない事を客観的な事実として主張しなければならない。

 

「それに関してはこちらで打てる手はあります。理事長の手は煩わせませんわ」

 

 どうやらプロスペラには状況を打開する策があるようだ。

 

「ちょっと! どういう事よ!」

 

 プロスペラとの通信の途中に理事長室にミオリネが怒鳴り込んでくる。

 ノーマルスーツを来た状態であることから、直接ここに乗り込んでのだろう。

 そのままルーカスの前まで来ると机を思いきり叩いてルーカスに問い詰める。

 

「決闘が無効ってどういう事!」

「ああ。あのエアリアルがガンダムじゃないかって言われてな」

 

 突然の事にもルーカスは動じる事はなかった。

 一方のミオリネはその答えでは納得がいかないようで怒りも収まる気配はない。

 

「ガンダム? ガンダムってあれでしょ。乗ると死ぬって奴。私もあの子も無事じゃない」

「まぁ乗って即死するわけでもないからな。それにこれは俺じゃなくて親父からの指示なんだよ。文句があるなら親父に言ってくれ。俺はいつだってミオリネの味方だ」

 

 決闘の無効はルーカスの判断ではない。

 

「あんの糞親父……」

「そんなことよりさ。久しぶりにディナーでも」

「お断りよ!」

 

 ルーカスに文句を言ってもどうにもならないため、ミオリネもこれ以上は何も言うつもりはないようだ。

 ルーカスの誘いを拒否してそのまま理事長室から出て行く。

 

「ずいぶんと元気な妹さんですね」

 

 そのやり取りを聞いていたプロスペラがそういう。

 通信は机に備え付けられているモニターで行っているため、ミオリネからは画面が死角になっていて通信中だという事は気づかれなかった。

 一方のプロスペラの方もミオリネはカメラの死角になっていたが、あれだけ怒鳴っていればマイクが声を拾って聞こえていたようだ。

 

「まぁな。可愛いだろう」

 

 プロスペラも最大限にオブラートに包んでいたが、先のやり取りの中でその感想が出て来る事は疑問だが、あえて追及することはしない。

 

「それよりもだ。エアリアルの件は任せた」

「ええ。分かっています。それではこちらも準備がありますので」

 

 直にグループから呼び出されることは分かっている。

 向こうもそれを乗り切るためには事前の準備が必要になってくる。

 

「さて……俺もやる事をやらないとな」

 

 通信を終えたルーカスは理事長室からグラスレー寮へと向かう。

 グラスレー寮に到着するとグラスレー寮のナンバー2であるサビーナを呼び出して応接室で待つ。

 

「理事長。定期報告は上げていますが何か問題でも?」

 

 呼び出されたサビーナは警戒しながら座る。

 

「ああそうじゃないんだ。サビーナさ。ウチのミオリネと結婚しない?」

「は?」

 

 サビーナも思わず素が出てしまう。

 昔からしょうもない面倒ごとを押し付けられることはあったが、今回もその類の物だったようだ。

 

「サビーナじゃないと駄目なんだよ」

「……何故私に?」

 

 面倒な事にしかならない事が分かっていながらも一応は理由を尋ねた。

 

「だってサビーナって一見するとガードが堅そうに見えるけど、結構チョロいじゃん。悪い男に君じゃないと駄目なんだと強く押されると何だかんだで受け入れちゃうじゃん」

 

 その悪い男が目の前にいるという事は指摘しない。

 

「まぁサビーナの事はガキの頃から知ってるし他の連中よりかはミオリネを任せられるからな。シャディクの面倒とどっちがいい?」

「それは……」

 

 ルーカスもサビーナがアカデミーで幼少期に頭角を現して特別クラスに入った時から知っている。

 今、アスティカシアでシャディクのサポートに付かせているメンバーの中ではミオリネを任せるのには適していると判断した。

 

「何バカな事言っているの?」

 

 ルーカスの押し切られそうになっていたところをセシルが止めに入った。

 ミオリネを送った後にはこっちに顔を出していたようだ。

 セシルにとってはサビーナ達は娘同然で彼女たちもセシルの事は母親の様に慕っているため、今まで中々解放せずにいた。

 そこにルーカスがサビーナを呼び出した事を知り様子を伺っていた。

 

「母さん」

「今、いいところなんだから邪魔しないでくれ」

「話は聞いていたわ」

「なら分かってんだろ。これはミオリネの将来に関わることだ」

 

 ルーカスは悪びれる様子もなく、セシルはただ呆れる。

 

「とにかく、サビーナもこの人のいう事は聞かなくていいわ」

「はぁ」

「ルーカスもちょっと来なさい」

 

 セシルはルーカスの腕を掴むと応接室から連れ出す。

 応接室にはサビーナが一人残された。

 

「何だよ」

「さっきマキアさんから報告があったわ」

 

 グラスレー寮の人気のない裏に連れ出すとルーカスに端末を渡す。

 

「それで?」

「あのエアリアルはガンダムである可能性は高いわ」

 

 スレッタから渡されたデータディスクに入っていたエアリアルのデータはすでにマキアの元に送り意見を求めていた。

 その結果がセシルの元に送られて来たようだ。

 

「だよな」

「それとフロント管理の方でパイロットの身体検査のデータも手に入れて来たわ」

 

 セシルはただグラスレー寮にいた訳でじゃない。

 彼女たちの相手をしながらも情報を集めていた。

 すでにエアリアルはフロント管理会社の方で押収されて解析されている。

 同時にパイロットのスレッタも身柄を抑えられている。

 その際に身体検査も行われそのデータも手に入れている。

 

「それで彼女、データストーム汚染が全くなかったらしいのよ」

「グエルを仕留めた時の動きだけでも相当乗りなれているぞ。それなのにか」

 

 データを見る限りではスレッタの体にはデータストームを長時間受けた時に見られるデータストーム汚染が一切見られなかった。

 ガンダムであってもスコアを上げなければ命に係わる事はないが、それでも一切データストームの影響を受けない事はあり得ない。

 

「あのエアリアルがデータストームの問題を克服しているのか、それともスレッタが特別なのか……どちらにしても野放しにすると面倒な事になるか」

 

 スレッタがデータストーム汚染を受けていない理由としては考えられる理由は2つ。

 エアリアルが従来のガンダムとは違いデータストームを発生しなくなっているか、もしくはスレッタがルーカス同様にデータストームの影響を受けない体質かのどちらかだ。

どちらにしても先の事を考えると野放しにするのは得策ではない。

 

「どっちも手元においた方が良いか」

 

 シン・セー開発開発公社がどうこの状況を乗り切るかは分からないが、スレッタとエアリアルを手元に置いておいた方が都合がいい。

 

「まずはお手並み拝見だな」

 

 今回の一件でべネリットグループはシン・セー開発公社のCEOであるプロスペラを呼びつけて査問会を開くことは確実だ。

 そこでプロスペラがどのように切り抜けるかによってはルーカスの立ち回りも変わってくる。

 今はただその結果がどうなるかを見届けるしかなかった。

 

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