機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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48話

エアリアルがガンダムか否かの決着は曖昧のままミオリネが自身の将来を賭けての決闘と言う形で審議会は終わった。

 すぐに学園に戻ると軟禁状態のスレッタに決闘をすることを伝えた。

 スレッタも渋々ながら退学になるわけにもいかずにその決闘を受ける事を了承するしかなかった。

 

「……何でいるのよ」

 

 スレッタが軟禁されていたフロント管理の建物から出るとルーカスが移動用の車を用意して待っていた。

 ルーカスを見つけた途端にミオリネは不機嫌になり、逆にスレッタは少しほっとした表情をする。

 スレッタにとってはこのフロントで唯一の大人の知り合いで、訳も分からず軟禁されて尋問を受けて心細かったからだ。

 

「決闘までの間はスレッタは俺の監視下に置かれることになってんだよ」

「は? 何でよ」

「魔女疑惑は完全に晴れた訳じゃないからな」

 

 エアリアルのガンダム疑惑自体はまだ決着がついた訳ではない。

 当然、スレッタも魔女の疑いはかけられたままで完全に自由にさせる訳にもいかなかった。

 ミオリネもルーカスの言っている事は筋が通っているため、反論は出来なかった。

 最悪、決闘まで軟禁状態だった可能性を考えると最低限の自由があるだけマシかも知れない。

 ミオリネの心中を察することなくスレッタがミオリネの制服の袖を引っ張る。

 

「何?」

「……駄目です」

「は?」

「理事長さんにそんな口の利き方は……駄目です」

 

 スレッタはオドオドしながらもそういう。

 

 「口の利き方って……ああ」

 

 ミオリネもスレッタが何を言いたいのか何となくわかった。

 ミオリネ自身も意識していなかったが、ルーカスはこの学園の学園長だ。

 スレッタもそのくらいは知っていて、ミオリネが学園長を相手にため口で話していた事を注意したのだろう。

 

「別に良いのよ。コイツ、私の兄なんだから」

「うぇ! お兄さん!」

 

 スレッタは驚き二人の顔を何度も見る。

 二人は血が繋がっていないため、事情を知らないスレッタは二人の関係に気づくことなかったが、ファミリーネームが同じだったことを思い出した。

 

「……似てない、です」

「……そんなことはどうでも良いでしょ。さっさと行くわよ」

 

 ミオリネが痺れを切らして車に乗り込みスレッタもルーカスと共に乗るとルーカスが運転して動き出す。

 そのまま第二理事長室に近くまで向かった。

 

「取り合えずは俺のところで寝泊まりしてもらう」

 

フロントには学生寮の他にも宿泊施設はあるが、スレッタの置かれている状況的に自分の目の届くところに置いておいた方が都合がいい。

 

「寝室のベッドとか部屋の物は好きに使って構わないけど、出かける時はどこに行くかくらいは伝えてくれ」

「何考えてるのよ。この子にまで手を出すつもり?」

「出さないって。それと」

 

 ルーカスは没収されてたスレッタの生徒手帳を出す。

 

「あ……ありがとうござい、ます」

「それがないとここでの生活には困るから何があっての絶対に持ってるようにな」

「はっはい」

 

 スレッタに生徒手帳を渡してスレッタの荷物を寝室に置くと一息つく。

 

「で、ミオリネ。決闘の勝算は? スレッタとエアリアルが戦うんだろ?」

 

 一息ついたところで今後の事を切り出す。

 決闘はミオリネが言い出したことだが、実際に戦うのはスレッタになるだろう。

 

「まぁね。この子とあのモビルスーツなら学園レベルの相手なら問題ないわ」

「だろうな」

 

 無効になったが、グエルと圧倒した実力は確かなもので学園にグエルと同等のパイロットはそうはいない。

 

「ちなみに決闘の相手はグエルで明日には決闘委員会から正式に通達が来る事になってる」

「だったら楽勝じゃない。あの損傷じゃすぐには直せないし、勝ったも当然じゃない」

 

 今回の決闘の相手はジェターク社の強い要望でグエルで決まっている。

 ジェターク社もグループ下位の企業のモビルスーツに自社のディランザが負けたままという訳にもいかないのだろう。

 すでに一度は勝っている相手にミオリネは完全に勝利を確信し、スレッタもそれに頷いている。

 

「だったらどんなに楽か……ジェターク社から新しいモビルスーツの登録申請が出てる」

「ジェターク社の? 確かフランさんのところで試験運用していた……」

「ダリルバルデ。ジェターク社の新型機だ」

 

 学園で運用するモビルスーツは事前に学園側に登録申請を出して登録しなけばならない。

 決闘が決まってすぐにジェターク社からその登録申請が出ていた。

 申請されたモビルスーツは現在、ドミニコス隊で試験運用している第五世代モビルスーツのダリルバルデだ。

 

「試験的とは言えもう実戦で使ってる機体でしょ。そんなのをわざわざ学園で使うっていうの?」

 

 企業が学園で新型機や新技術を投入することは珍しい事ではない。

 いきなり実戦に投入するのは危険と判断して学園の決闘でデータ収集や商品として宣伝をするために使われる。

 だが、ダリルバルデは量産体制は整っていないがすでに実戦にも投入されている。

 このタイミングでわざわざ投入するという事はこの決闘に勝つためだけにだろう。

 

「昔っから大人げないんだよ。あのオッサンは。けど、ダリルバルデの性能は大したものだって聞いてる。グエルが使いこなせるかは知らんが、油断してたら負けるぞ」

「でも今更どうしようもないわ。スレッタが油断しないようにするだけよ。分かった」

「はい……分かりました」

 

 相手がグエルだと知り何とかなりそうだという雰囲気だったが、ルーカスがはっきりと負けると言い切った事でミオリネもスレッタも気を引き締める。

 

「ん。それでいい。ちなみに優しいお兄さんはこんなものを持ってるんだけどな」

 

 ルーカスはデータディスクを取り出す。

 

「この中にはドミニコス隊で試験運用されたときのダリルバルデのデータが入ってる」

「……それ勝手に持ち出したら不味い奴でしょ」

 

 データディスクの中身はダリルバルデの試験運用時のデータだった。

 それはジェターク社の機密情報でルーカスもおいそれと持ち出せるものではなく、持ち出されたことが公になれば大問題になる。

 

「ミオリネ。犯罪だってバレなきゃ犯罪じゃないんだ。これもバレなきゃ問題ない」

「呆れた……汚い大人ね。それに学園の理事長が片方に肩入れするのはルール違反じゃないの?」

 

 本来ならばルーカスはどちらに肩入れすることも出来ない。

 

「そもそもこの決闘自体、モビルスーツの性能とパイロットの技量で決まるわけじゃない。そいつ等をバックアップするスタッフや時に相手への妨害工作やその他もろもろも黙認されてる。バレなきゃいいんだよ。俺がどっちに協力しようとね。この学園で俺のやる事を咎める事が出来る奴はいないからな。ここでは俺がルールなんだよ」

 

 昔から決闘は単純にパイロットの実力やモビルスーツの性能で決まる訳ではない。

 だからこそ寮や会社からバックアップを受けられる御三家やグループ上位の企業から推薦されている生徒が圧倒的に有利となっている。

 

「事前のデータがあるとないとでは勝率も変わってくる。スレッタ。決闘までにこのデータを全部頭に叩き込んでおけ」

「え? あっはい!」

 

 会話に入れなかったスレッタは突然話を振られて思わず背筋を伸ばして返事をする。

 

「ミオリネもスレッタをフォローするなら予定されている戦術試験区域の情報を全て覚えろ。出来るだろ?」

「当然じゃない」

 

 もう一枚のデータディスクを出す。

 そっちには決闘が行われる予定の戦術試験区域の詳細なデータが入っている。

 決闘が始まればルーカスは表立って動けなくなる。

 決闘中のスレッタの支援はミオリネにしか出来ない。

 そのためにも戦術試験区域の情報は事前に把握する必要があった。

 

「後、ミオリネがほっぺにチューしてくれるならすぐにでももグエルを病院送りにして不戦勝にすることも出来るけど、どうする?」

 

 そう言って自身の頬を指さすルーカスをミオリネの視線は冷たくなっていく。

 

「きもっ」

 

 冷ややかな視線と共にミオリネはデータディスクを持って出て行く。

 

「振られたな」

 

 笑いながら肩をすくめるルーカスに部屋に残されたスレッタはどうすることも出来ずにオロオロするだけだった。

 

 

 

 翌日、ルーカスは朝早くからフロント内の隠れ家にいた。

 この隠れ家はかつてはセシルがセリカたちをフロント内で匿うために用意したもので表向きはテロリストの潜伏先は不明のままで未だににこの場所はフロント警備の方でも把握されていない。

 そこを改良して表では出来ない事をするための拠点として使っている。

 

『じゃあお母さん。お仕事頑張って』

『スレッタも理事長のいう事はちゃんと聞いて勉強を頑張るのよ』

『うん。分かった』

 

 ルーカスが付けているインカムからはスレッタとプロスペラの会話の様子が流れている。

 

「普通の親子の会話だな。暗号を使ってる様子も無しか」

「生徒の会話を盗み聞きするのは余り趣味の良い事とは言えないけど」

 

 その会話はセシルも聞いていた。

 ルーカスがスレッタに返した生徒手帳には細工がされていた。

 発信器と盗聴器としての機能だ。

 それによりスレッタは生徒手帳を持ち歩くことで常に居場所が分かり、会話の内容も筒抜けだ。

 

「仕方がないだろ。あのエアリアルとスレッタには何かある。それを調べるにはこれが手っ取り早い」

「今の会話を聞く限りでは彼女は何も知らないみたいよね」

「まぁな。普段の言動や通信が盗聴されている可能性を考慮してアレなら大した女優だよ」

 

 スレッタの言動を見る限りでは意図的にあのキャラを演じている様子は考え辛い。

 恐らくはスレッタ自身は何も知らないのだろう。

 

「ならエアリアルの方を調べた方が良いか」

「実際に機体を調べるにしてもどんなセキュリティがあるか分からないわ。下手に触るとシン・セーに知られる危険性があるわ」

 

 極秘裏にエアリアルを調査するだけなら簡単だが、エアリエルにデータにはないセキュリティがある可能性がある以上は対策も無しに触る事も出来ない。

 最悪、シン・セー開発公社にルーカスが極秘裏にエアリアルの事を探っている事がバレかねない。

 バレたところで表立って糾弾されることはないが、向こうも警戒を強めされることは間違いない。

 

「当面はスレッタの監視を続けるしかないか。この学園にいる以上は俺の目からは逃れる事は出来ないからな」

 

 スレッタ自身は何も知らなかったとしてもシン・セー開発公社の方から何らかの動きがあるかも知れない。

 この学園には警備のための監視カメラの他にも表には出ていない隠しカメラや盗聴器が大量に設置されている。

 普段から記録されている訳ではないが、その気になれば全てのプライベート空間を監視できるようになっており、唯一監視出来ないのはミオリネの使っている理事長室くらいだ。

 

「まぁそれも決闘に勝たないと意味はないけどな」

「何かするつもり?」

 

 次の決闘に負ければスレッタは退学となりエアリアルは廃棄処分となる。

 その気になれば極秘裏にエアリアルと確保することも出来なくはない。

 だが、プロスペラの意図が読めない以上はそれは最後の手段として取っておきたい。

 

「それにエアリエルの性能も把握しときたい。セシル、一つ頼まれてくれないか?」

「……聞くだけ聞くわ」

 

 嫌な予感はしたが一応は耳を傾ける。

 こういう時は大抵は無茶ぶりをして来る。

 

「……また面倒な事を」

「あのオッサンの事だ。ダリルバルデを投入してくるだけじゃ済まないだろうからな」

 

 ジェターク社にとっても、今回の決闘は社運がかかった一戦と言っても過言ではない。

 アスティカシアの決闘ではある程度は企業のバックアップは認められているが、認められている以上の事をやってくることは目に見えている。

 

「エアリアルとスレッタの実力を図るには丁度いい。俺も便乗させて貰う」

「まぁ……やれるだけやってみるわ」

「そう言ってもセシルは完璧にやってくれると信じてる。全部上手く言ったら最高級のホテルの部屋も取ってディナーでも奢るからさ」

「それでやる気を出したと思われるのも癪だけど……」

 

 ルーカスからの頼み事は案の定、厄介な事で時間があればそこまで難しい事でもないが、決闘までに行うという事を考えると難易度は跳ね上がる。

 それでも不可能だと思っていればルーカスは頼むことはない。

 セシルなら出来ると思っているからの頼み事だ。

 

「頼む」

 

 セシルは頷きすぐに頼まれごとの準備に入る。

 

「さて……ジェターク以外にも動いているようだけど」

 

 モニターの一つは学園の中庭の様子が映されている。

 そこにはシャディクがどこかと通信している。

 その会話の内容も盗聴している。

 どうやら先の審問会でのデリングやヴィムの行動にサリウスが疑問を持っているようだ。

 その点に関してはルーカスも同意見だ。

 エアリアルをガンダムだと断定した後にミオリネの決闘を了承して保留にすることは普段のデリングからは考えられない。

 またヴィムが擁護に回った事もだ。

 ジェターク社からすればエアリアルは禁止されているガンダムであった方が都合がいい。

 サリウスはシャディクにスレッタの方から探るように指示を出していた。

 

「どうもいろんなことが動きだしたように思える。まぁ最終的に全てを手に入れて勝つのは俺たちだ」

 

 今のところ、どこがどういう思惑で動いているのかは把握しきれてはいない。

 同様にルーカス達が裏で動いている事も知られてはいないだろう。

 エアリアルの存在によりそれらが動き始める事になるだろう。

 それでも最後に勝つのは自分達だとルーカスは確信している。

 そんな大人たちの思惑を他所に決闘が開始されようとしていた。

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