機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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51話

地球寮への入寮の報告をしたスレッタは突如、ルーカスからの決闘を受けて悲鳴を上げる。

 

「落ち着いた?」

「はい、いえ! あの!」

 

 落ち着くまで待ったが、中々落ち着くことはない。

 

「これはホルダーの義務でもあるんだよ。新たにホルダーとなった生徒は俺と決闘するって。俺としても新しいホルダーの実力は直接見ておきたいしね。寮も決まってそろそろ落ち着いてきた頃だと思ってな」

 

 ルーカスが理事長に就任してから新たにできた校則の一つがホルダーとなった生徒はルーカスと決闘をしかねればならないという物がある。

 

「なっ成程」

 

 スレッタも落ち着き状況が飲み込み始めている。

 

「まぁ決闘と言ってもスレッタは何も賭ける必要はない。あくまでも実力が見たいだけだからな。もっともホルダーが勝った場合は何でも望みを叶えてやる」

「なんでもですか……?」

「そう、何でもスレッタが望むなら気に入らない奴を強制的に退学にしても良いし、金や地位だってなんでもくれてやる」

 

 勝った時の見返りの大きさに思わずゴクリと唾を飲むが、すぐに顔を振る。

 この決闘に勝てばルーカスが自分の望みを叶えてくれる。

 思わず勝った時に事を考えそうになるが、流石に高望みだと考えないようにする。

 

「決闘は3日後で良いだろ。それまでにエアリアルの準備をしておけ」

 

 余りに突然の事態にスレッタは生返事をしながら寮へと帰って行く。

 

「と言う事があったんです」

「そういや、まだやってなかったな」

 

 寮に戻ると格納庫で作業をしていた同じ寮のニカやチュチュにそのことを話すと二人は特に驚いた様子も無かった。

 

 

「お二人とも知ってたんですか?」

「まぁな」

「チュチュは理事長の大ファンだからね」

「そうなんですか? チュチュ先輩?」

「あ? あの人はスペーシアンでも別格なんだよ。この学園の伝説なんだぞ!」

 

 チュアチュリーことチュチュはスペーシアン嫌いであったが、ルーカスだけは別で唯一尊敬している。

 その理由としてアーシアンへの支援に力を入れているだけでなく、アスティカシアでの短い在籍期間で様々な武勇を残しているからだ。

 

「伝説?」

「10年くらい前にこの学園がテロリストに襲われた時に当時、ここの生徒だった理事長が指揮を取って被害を出すことも無く勝ったって話」

「そんなことが……」

 

 スレッタは水星圏で育っているため、その辺りの事件には疎かったが、ルーカスが凄い事をやってのけたという事だけは分かった。

 

「そんなの尾びれが付いてるに決まってるじゃない」

 

 この場にはいないルーカスに尊敬の視線を向けるスレッタにいつの間にかいたミオリネが呆れた視線を向ける。

 

「広報がアイツの立場を盤石にするために話を盛って奇跡を作ったに決まってるじゃない。大規模な戦闘で味方機を1機も撃墜されずに敵を全滅させたなんて現実味が無さ過ぎるわ。フィクションでももう少しまともな話を作るわ」

「あ? それをやってのけたんだからすげぇんじゃねぇかよ」

「チュチュ。止めなって」

 

 ルーカスの武勇にケチをつけるミオリネにチュチュが食って掛かり、それをニカが止める。

 当時の事はミオリネも後から聞いたが、今となっては本当にそんなことがあったのかは怪しい。

 それが実際に起きた事ではなく、ルーカスがグループの跡取りとしての実績づくりの為に実際よりも盛っていると考えた方が納得がいく。

 

「そんなことよりもアイツと決闘するんでしょ」

「そうなんですよ」

「あっそ。まぁ頑張んなさい」

 

 ミオリネの方にもスレッタがルーカスと決闘することは知っているようだ。

 それに対しミオリネの反応はあっさりとしたものだ。

 

「何よ?」

「……いえ」

 

 あっさりとし過ぎてスレッタは意気消沈し、それを見たミオリネはため息をつく。

 恐らくはルーカスと決闘するにあたって、何らかのアドバイスや激励が欲しかったのだろう。

 

「たく……そもそもこの決闘はホルダーが勝つことなんて一切想定されてないの。だからなんでも望みを叶えるなんて馬鹿げたことが言えるのよ」

 

 スレッタは単にルーカスが太っ腹だと思っていた、勝った時のなんでも望みを叶えるというのも、ミオリネからすれば初めから負ける事を考えていないからこそそんなことが言えるとみている。

 

「この決闘自体、アイツが自分の力を私に見せつけるだけの物なの。だからスレッタはそれに付き合う必要はないわ」

 

 ルーカスはスレッタの実力が見たいとそれらしいことを言っていたが、それは建前に過ぎない。

 学園最強の称号であるホルダーに勝つことで自分の実力をミオリネに見せつける為だけの決闘だ。

 

「そういう大人げない奴よ。だから一泡吹かせられれば私の気分は少しは晴れると思うの。スレッタ。一発ガツンと入れてきなさい」

「っ分かりました!」

 

 ミオリネにそういわれるとスレッタの表情はパッと明るくなる。

 それから三日間ルーカスとの決闘の準備に入る。

 

「ルーカス。分かってるとは思うけど、ただでさえ大人げない事をやってるんだから、これ以上、大人げない事は控えて」

「分かってるさ」

 

 ルーカスは学園のMSハンガーでセシルからヘルメットを受け取るとかぶる。

 すでに決闘で使う機体はコンテナに収容されている。

 以前とは違い今はガンダムは使えないため、ルーカスもルールに沿った機体を使っている。

 コンテナに収容されている黒い一つ目のMSザイフリートR、それがルーカスが現在使っているMSだ。

 ギルドで使われているジークフリートⅡのエースや指揮官用のMSザイフリートと自分用にカスタムしている。

 両肩に裏にスラスターが内部には小型ミサイルが搭載された円盤状のミサイルシールドを装備し、バックパックにロングソードが2基、手持ちの火器は下部にグレネードランチャーを装備したビームライフルを2基、頭部には小型、胸部に大口径のビームバルカンが内臓されている。

 またバックパックの高出力のスラスターと各部のスラスターにより高い機動力と運動性能を持っている。

 

「今回はちょいっと突っつくだけだ。他の連中の目もあるしな」

 

 今回の決闘では決闘委員会が仕切っている訳ではないが、決闘は学園内で中継されている。

 ガンダム疑惑がかけられているエアリアルと多数のガンダムと戦った事のあるルーカスの決闘は学園だけでなくグループ全体の注目の的になっている。

 今は自分たち以外に余計な情報を与えたくはない。

 

「分かってるなら良いわ」

「じゃ行ってくる」

 

 ルーカスは機体に乗り込むとコンテナのハッチが閉まり戦術試験区域へと移送される。

 今回の戦術試験区域は市街地を模した場所となっている。

 2つのコンテナが戦術試験区域内に移送されるとハッチが解放される。

 

「ルーカス・レンブラン。ザイフリート。出るぞ」

「LP041。スレッタ・マーキュリー。エアリアル。出ます!」

 

2機のMSがコンテナから出て来る。

 

「スレッタ。今回は正式な決闘という訳ではない。固っ苦しい口上はいらない。そっちのタイミングで始めていいぞ」

「はい。分かりました」

 

 スレッタは一度深呼吸をするとビットステイヴを展開するとエアリアルと高く飛び上がらせる。

 

「見つけた。あそこだ」

 

 上空からルーカスのザイフリートRを見つけるとビームライフルで先制攻撃で決闘が開始される。

 ザイフリートRはビームをかわすとビルでスレッタの視界から隠れる。

 

「……どこから」

 

 緩やかに降下しながらルーカスの出方を伺っているとビルの合間を縫うようにミサイルが飛んでくる。

 それを頭部のバルカンで迎撃して着地するとそこを狙いザイフリートRがビームライフルで狙い撃ってくる。

 ビームをビットステイヴで身を守るとビットステイヴとビームライフルを合体させるとザイフリートRに狙いを定める。

 

「そこ……え?」

 

 引き金を引こうとするが、その前に横からミサイルが飛んでくる。

 

「時間差で!」

 

 最初のミサイル攻撃の時にルーカスは全てのミサイルをエアリアルに向けていた訳ではなく、半数は時間差で行くように撃っていた。

 その後に自身の姿を晒して視線をこちらに向けたところでミサイル攻撃の2波が来るようにしていた。

 ミサイル攻撃からビットステイヴで身を守っている間にザイフリートRは距離を詰めて来る。

 

「みんな! お願い!」

 

 ミサイル攻撃を防ぐとビットステイヴをザイフリートRに差し向ける。

 ビットステイヴはすぐにザイフリートRを囲むを四方からビームを撃つ。

 

「おっと。今日はずいぶんと攻撃的だな。だが、想定の範囲内だ」

 

 ビットステイヴからの攻撃を最低限の動きで全て回避する。

 過去の戦闘データよりも更に攻撃的な動きだったが、問題なく見切る事は出来た。

 

「よけられた! でも!」

 

 エアリアルは左手でビームサーベルを抜くと迫るザイフリートRを迎え撃つ。

 ビームサーベルの一撃をかわしたザイフリートRは至近距離でビームライフルをエアリアルに向かる。

 展開していたビットステイヴがエアリアルを守るようにエアリアルとビームライフルの間に割り込む。

 

「残念」

 

 間にビットスレイヴが割り込むとルーカスはビームを撃つことなく、エアリアルの後ろに回り込む。

 

「フェイント! 後ろを!」

 

 背後を取ったザイフリートRはエアリアルの頭部にビームライフルを向ける。

 

「それなら!」

 

 だが、スレッタも後ろを取られて動揺することなくスラスターを最大出力で使い、それを目眩ませにしながら飛び上がる。

 

「へぇやるな」

 

 上空に逃げたエアリアルにビームを撃つ。

 空中でガンビットを戻して全身に着けたビットオン状態となってビームをかわす。

 

「はぁはぁ……凄い。でも今日はみんなも凄いやる気。まだやれる!」

 

 勝てるとは思ってなかったが、少しでも気を抜くとすぐに負けてしまう戦いだが、不思議とまだやれる気がして来る。

 そんなスレッタに対してルーカスは休ませる間を与えずにミサイルを撃ってくる。

 ミサイルをかわしているとザイフリートRは距離を詰めてビームを撃ってくる。

 すぐに全身のガンビットを展開してビームを防ぐとビームライフルで反撃する。

 

「甘い甘い。そんな攻撃じゃ俺を捉える事なんて出来ないぞ」

 

 エアリアルのビームをかわして接近したザイフリートRは自分に向けられたビームライフルの銃身を自身のビームライフルの銃身で弾くとミサイルシールドを掲げて体当たりをしようとする。

 すぐにガンビットが集まってシールドとなって守るが、掲げているとは別のミサイルシールドの裏のスラスターで強引に横に動くとシールドを避けて体当たりをする。

 

 「っ!」

 「今のに反応するか。良い反応だ」

 

 ザイフリートRの体当たりはギリギリのところでガードされてエアリアルは後方に弾き飛ばされるだけでスラスターで体勢を立て直す。

 

「良し! 持ち堪えた!」

「でも……ここまではスレッタが一方的にやられる」

 

 地球寮で地球寮の面々はスレッタが何とか持ちこたえている様子を冷や冷やしながら見ている。

 今回の決闘では外部からの通信は禁止されているため、後は結果を見守るしかない。

 

「けど結構いい線いってんじゃん」

「良い線? 完全に遊ばれるわ」

「あ? どういう事だろ?」

「アイツは自分の動きに対してスレッタがどう反応するかを見てから、それに合わせて動きを変えてるのよ」

 

 一見するとスレッタがルーカス相手に食らいついているかのように見えるが、戦闘を分析していたミオリネはスレッタが良いようにされているとしか思えない。

 ルーカスは自分の攻撃モーションに対してスレッタがどう対応するかを見た上でそのまま攻撃するか、それをフェイントにするかを決めている。

 

「そんなことが可能なの?」

 

 ニカが地球寮で唯一のパイロット科のチュチュに尋ねる。

 

 「んな事無理だって事前にやる事を決めてたとしても考えている時間で相手も対応できちまうから」

 「それを瞬時にやってるの」

 「マジか……やっぱ理事長は凄すぎだろ」

 

 相手が自分の動きにたいしてどう出るかはある程度は事前に予測していたとしても実際にその通りになるかも分からない。

 それを踏まえてルーカスは瞬時にスレッタの対応を把握して次の動きに繋げている。

 並の反応速度では出来ない芸当だ。

 

「ここまでの差が……」

 

 ミオリネもスレッタが勝てるとは思ってない。

 それでもグエルに2度も勝ったスレッタとエアリアルならルーカス相手にももっとやれるかと思っていた。

 だが、実際に戦ってみればルーカスに良いように遊ばれている。

 それだけの実力差があるという事だ。

 

「けど……スレッタ。頑張んなさいよ」

 

 すでに出来る事は何もない後はただスレッタが善戦することを祈るしかない。

 

「なるほど。大体分かって来た」

 

 数回の攻防でルーカスはある程度はスレッタの事を分かって来た。

 まずはスレッタは対人戦闘の経験は少ないという事だ。

 対人戦闘の対して駆け引きは学生レベルとしては十分だが、ルーカスから見ればそこまでうまくはなく、良くも悪くも素直に反応してくる。

 しかし、それを補って余りあるのは判断力と対応力だ。

 ルーカスの動きに対する判断の速さは学生レベルではない。

 その上でフェイントに釣られたとしても動揺することなく次のそうするかを考えてすぐに行動に移せる。

 その際にも動きに一切の迷いもなくエアリアルを完璧に操っている。

 普段のスレッタを知っていれば戦闘時のスレッタとは同一人物とは思えない。

 

「どういう環境でそいつを扱ったらそうなるのか興味深い」

 

 スレッタの技術は戦闘の中で磨かれた物ではない。

 

「このまま追い込んでどうなるかってのは気になるが、情報をタダでくれてやる必要も無いか」

 

 戦闘を長引かせることは簡単だ。

 長引かせてスレッタを追い込むことで足りない対人戦闘の経験を積ませれば更に実力をつけるだろう。

 しかし、この決闘は御三家も注目しているだろう。

 戦いを長引かせて御三家にただで情報を与えるというのも面白くはない。

 最低限必要な情報を得る事は出来た。

 これ以上の戦闘は無意味とルーカスは判断した。

 

「そろそろ終わらせるか」

「……来る!」

 

 決めに来るという事はルーカスからの圧でスレッタにも伝わっていた。

 ザイフリートRは真向からエアリアルに突撃してくる。

 ガンビットで足止めをしようとするが、止まる事も速度を緩める事も出来ない。

 ビームライフルを連射するが、ザイフリートRを捉える事は出来なかった。

 

「っ当たらない」

 

 距離を止められてもザイフリートRは軽々とビームをかわす。

 ビームサーベルの一撃をかわしたザイフリートRはエアリアルの頭部にビームライフルを向ける。

 足止めに差し向けていたガンビットを戻す。

 スレッタはすぐに周囲を警戒する。

 ここまでの戦闘でルーカスは至近距離での戦闘でガンビットの防御が間に合う時は無理に攻撃することなく、死角に回り込んで来た。

 今度もそうするとスレッタは考えていた。

 だが、それはスレッタの警戒を緩める為の布石でもあった。

 周囲を警戒し、いつでもガンビットで守れるようにしていたせいで肝心の正面からの攻撃に対しては警戒が足りなかった。

 

「終わりだ」

「嘘! しまっ!」

 

 散々、死角に回り込んでいたザイフリートRだったが、最後は真正面からの攻撃だった。

 エアリアルの頭部に向けられたビームライフルの下部のグレネードランチャーが放たれてスレッタは自身の敗北を確認した。

 もうどうやってもこの攻撃から頭部を守る事は出来ない。

 そう確信していたが、グレネード弾はエアリアルの頭部の横をすり抜けて後方のビルに直撃してビルは倒壊する。

 

「へ? 外れた?」

「外したんだよ。今のは確実に頭部を潰せた分かるよな?」

「……はい」

 

 スレッタも今の一撃はルーカスが意図的に当てなかったという事は分かる。

 

「やっぱり凄いです。お義兄さん……」

「当然だ」

 

 戦闘では完全に後手に回って翻弄された。

 スレッタもここまで良いようにやられるとは思っていなかった。

 決闘には負けたが、悔しさは一切なくただルーカスに対する強い尊敬の念だけが残った。

 それほどまでにもこの決闘でルーカスとの実力差を感じ取り、勝てる気が全くしない。

 こうしてルーカスとスレッタの決闘はルーカスの勝利で幕を下ろした。

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