機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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52話

 ルーカスとの決闘から戻ったスレッタはエアリアルを地球寮の格納庫に戻すと機体から降りて来る。

 すぐにニカを中心としたメカニック科の生徒がエアリアルの修理と整備に取り掛かるが、決闘でエアリアルは損傷していないため、修理の必要はほとんどない。

 決闘は完敗だったが、地球寮の誰もがその事実に対して気にした様子はなく、それが当然かのように受け入れている。

 この学園においてはルーカスは絶対的な存在で初めから誰もが勝てるとは思っていない。

 

「ミオリネさん!」

 

 そんな様子にイラついているミオリネにエアリアルから降りたスレッタが駆け寄ってくる。

 負けた直後だというのに悔しさどころか目を輝かせている。

 

「お義兄さん。凄く強かったです!」

「は?」

 

 ミオリネは思わず不機嫌を隠すことなく答えるがスレッタは気づくことは無かった。

 

「私、少しは相手になると思ってたんですが、何も出来なかったんです」

 

 スレッタも初めから勝てるとは思ってなかったことが更にミオリネをイラつかせる。

 実力差がある事は初めから分かっていた事だ。

 それでもやるからには勝つ気でやるべきなのに誰もそうとは思わない。

 それ思わせるだけの事をこれまでのルーカスは結果で示してきた。

 その差を見せつけられたようで面白くはない。

 

「……お義兄さん?」

「あっはい。お義兄さんがそう呼ぶようにって……まだそう呼ぶのは少し恥ずかしいんですけど」

 

 イラついて流していたが、いつの間にかスレッタがルーカスに対する呼び方が変わっている事に気づいた。

 スレッタがそのことを気恥ずかしそうに言っている事も面白くはない。

 

「ふーん」

「で、ですね……」

 

 スレッタは不機嫌になるミオリネの事を気にすることなく、先の決闘でいかに裏をかかれて何も出来なかったことを喜々として語る。

 そろそろミオリネの我慢も限界まで来ていた。

 

「ミオリネ」

 

 そのタイミングを見計らったかのようにルーカスが格納庫に入ってくる。

 ルーカスの登場にエアリアルをチェックしていたニカ達も緊張で整備の手が止まった。

 地球寮の生徒からすればルーカスは直接話す機会はおろか、直接見る事すらほとんどなく雲の上の存在だ。

 一方のルーカスはそんな空気になる事も慣れているのか一切気にした様子も見せずにミオリネの近くまで歩いてくる。

 

 「お義兄さん!」

 「……何よ」

 

 スレッタとミオリネは対照的な反応をする。

 

「スレッタもさっき振り。さっきの決闘は意外良かったよ」

「そうですか! へへ」

 

 ルーカスに褒められたことでスレッタは嬉しそうに照れるが、ミオリネはルーカスを睨みつけている。

 

「子供相手に大人げないわね」

「これも学園のルールだから仕方がない」

「アンタが決めたルールでしょ」

 

 ルーカスは悪びれる事も無く流す。

 ルールに従っていると言っていてもそのルール自体がルーカスが理事長になってから新しく作られたものだ。

 

「まぁね。それよりもミオリネ。俺とセシルは私用で少し学園から離れないといけないんだ」

「それは朗報ね」

「だからスレッタ。俺がいない間はミオリネの事は任せてもいいか?」

「ほえ? 私ですか?」

 

 完全に自分に話を振られるとは思っていなかったスレッタはきょとんとする。

 

「そう。さっきの決闘で分かったけど、実力は学生レベルとしては十分に高い。あれなら俺がいない間もミオリネの事は任せられる」

「ちょっと! 何でスレッタに頼むのよ。私は一人でやっていけるわ」

「この学園じゃミオリネに何か言えるのは俺かセシルくらいだしな。俺のいない間にまた変な事をされても敵わないからな」

 

 前回も学園を離れている間にミオリネは脱走をしている。

 絶対的な権力者であるデリングの娘にしてルーカスの妹と言う立場のミオリネに何かを言える事が出来るのは学園ではルーカスやセシルくらいで他の教員たちも基本的にはミオリネには何も言わない。

 

「だからミオリネの事は任せた。スレッタ。何かあったらいつでも連絡してくれ」

「分かりました!」

 

 ルーカスがスレッタの肩に手を置くとスレッタは背筋を伸ばして返事をする。

 

「要件はそれだけ。それじゃな」

 

 用を伝えるとルーカスは格納庫から出て行き、格納庫内の緊張が解ける。

 

「ずいぶんと短かったわね」

「まぁな。これからの事を考えると長々とするよりもさっさと面倒な事を終わらせてここに戻って来たいからな」

 

 格納庫を出るとセシルが控えていた。

 学園から離れる事をミオリネに伝えるだけだったが、セシルは最低でも1時間は見ていたが、思いのほか早く別れを済ませてきたようだ。

 

「すぐに終われば良いんだけどね。ルーカスが先延ばしにして来た結果よ」

「分かってる。これは俺たちの今後に関わる重大な事だって事くらいは……でもな。地獄なんだよ。ミオリネと離れるなんて……」

 

 ルーカスは先ほどまでとは打って変わって心底嫌そうにしている。

 そうしているとルーカスは足を止める。

 

「やっぱヤダ。セシルが一人で行ってきてくれ。俺はここに残る。クレーム処理は慣れてるだろ?」

 

 そう言ってルーカスは格納庫の方に戻って行こうとするが、セシルが掴んで止める。

 

「そういうのは良いから行くわよ」

 

 有無を言わさずにセシルがルーカスを引きずって学園フロントの宇宙港へと向かう。

 宇宙港にはルーカスが私的に所有している小型艇が停泊してあり、すでに動かせるように準備は終わっている。

 小型艇のブリッジまでルーカスを連行するとブリッジの出入口をロックして出れないようにする。

 それでルーカスも観念して席に座るとセシルは小型艇を操縦してフロントを出港する。

 

 

 

 学園フロントから出向し小型艇は事前に提出していた航行ルートを外れて進んでいた。

 この辺りの宙域はフロントは存在しない事になっているが、それはそこに存在していた。

 21年前にドミニコス隊によって襲撃を受けたヴァナディーズ機関の拠点となっていたフロント、フォールクヴァング。

 ドミニコス隊の襲撃で破壊され、内部に残されていた研究データを完全に破棄されたことを確認した後に廃棄されたフロントだったが、ルーカスは極秘裏に回収し、この場所に移動させると内部の機能を修復させると見つからないように秘匿し拠点として運用していた。

 フォールクヴァングの港に小型艇を止めると二人は内部に入る。

 フォールクヴァングの内部も完全に修復されて21年前に惨劇があったとは思えない。

 

「ルカ君! ようやく来た!」

「やぁマキア。久しぶり。仕事は順調?」

 

 内部に入ると否や、マキアがルーカスに掴みかかりそうな勢いで怒鳴り込んでくる。

 

「順調な訳あるか! 今日で徹夜3日目! ブラックにもほどがあるわ!」

「ここは正規の企業って訳でもないからな。ほら、マキアも毎日寝る間も惜しんでやりたい事をやって充実してるだろ?」

「まぁね!」

「ルーカスを殴りたいのは分かるけど、落ち着いて」

 

 セシルが止めに入ってマキアも息を整える。

 

「それよりも例の奴はどうなってる?」

「はぁ……順調。ついて来て」

 

 落ち着きを取り戻したマキアと共にルーカス達はフロント内を移動する。

 やがてフロント内にいくつもある格納庫の1つが見える部屋に到着する。

 そこから見える格納庫には3機のMSがハンガーに置かれている。

 MSの周囲にはハロのついた作業用の機器が作業を進めている。

 ここでは表立って人を付けないため、フロント内の大半は自動化されていて、技術者もマキアとレイニーの母親であるレティの2人だが、レティも昔はペイル社で雇われてガンダムの開発に関わっていた時期があったが、本来はMS開発は専門外であるため、ペイル社で得た知識を提供してからは自分の研究に集中しているため、今はマキアが一人でMS開発を行っている。

 開発するMSは複数存在し、それ以外でも技術的な事はマキアに丸投げされていてやることが多すぎる。

 流石に一人では人手が足りないが、外部の人間を入れる訳にもいかない。

 そこで人手不足を補うためにアスティカシア同様にハロを使って簡単な作業はハロに任せている。

 部屋に入るとマキアは備えつけの設備で自分だけコーヒーを入れると一気飲みをしてソファーに座る。

 

「見ての通り、ルブリスの改修は8割ってところ」

 

 格納庫の3機のMSの内の1機はかつてルーカスがアスティカシアで使っていたガンダムルブリスV2だ。

 GUND技術の規制強化に伴いルーカスが学園で回収したガンダムやルーカスが所有していたルブリスも含めて全てが廃棄処分になっている。

 しかし、それは表向きの話でルーカスはルブリスV2だけは廃棄を偽装し残していた。

 それを今は新たに改修中だ。

 改修作業はまだ終わっていないらしく、外装がところどころついていない。

 

「で、送られてきたデータから再現してみたけどやっぱりあれはガンダムで間違いない」

 

 その横の1機はルーカスがシン・セー開発公社から貰ったデータから作ったエアリアルだ。

 実際に設計図通りに作って確かめてみたが、エアリアルは間違いなくガンダムだという事が分かった。

 

「設計図通りに作ってみたんだけど、がっつりデータストームも発生するよ。本当にアスティカシアにある奴は大丈夫な奴なの?」

「パイロットの身体データを見る限りではデータストーム汚染は無かったわ。データを改ざんされている可能性も無いわ」

「セシルさんがそういうならそうなんだろうね」

 

 複製したエアリアルを稼働させて実験してみたが、データストームは発生した事が確認されている。

 しかし、アスティカシアにあるエアリアルからはそれが見られない。

 

「アスティカシアのエアリアルには設計図にも載っていないデータストーム対策がされてるのかもね。実機が手に入れば何か分かるかも。こっちの奴とすり替える事とか出来ない?」

「できなくはないけど、リスクが高いわ。機体に何か秘密があるのであれば何か対策がされているかも知れないし」

「向こうだって俺の事を完全に信用してるって訳でもないしな」

 

 スレッタが持ち込んだエアリアルと複製されたエアリアルと学園でスレッタ達の目を盗んで入れ替える事は難しくはない。

 実際にエアリアルを手に入れてばらしてみれば、複製したエアリアルとの違いを比較し設計図に載っていない何かを見つける事も出来る。

 だが、シン・セー開発公社も全面的にルーカスの事を信用しているとは思えない。

 いずれは設計図から複製してエアリアルからデータストームが発生することを知れば、アスティカシアのエアリアルを極秘裏に回収しようとするのか分かっている。

 そうなった時にすぐに分かるように何か対策をしているかも知れない。

 腹の探り合いをしていても表向きは友好的な関係を続けている今は無茶な手段はとるべきではない。

 

「パイロットが特別な可能性も含めて調査はこっちでしとく。それよりも新型の方はどうだ? 見たとこ。ヴァルキュリアの方はまだみたいだけど、レヴェナントとウラノスの方は完成して地球で運用中なんだろ?」

 

 ルーカスがそういうとマキアの表情が消える。

 

「うん。そっちの2機はもう実戦で使ってる」

 

 現在のマキアの主な仕事は新型のガンダムの開発だ。

 以前に使っていたガンダムはルブリスV2を除き全機処分しているため、新たなガンダムが必要となった。

 すでにシズカのガンダムレヴェナントとレイニーのガンダムウラノスは完成して地球で運用している。

 格納庫の3機のMSの内の最後の1機がエマ用の新しいガンダムヴァルキュリアの製造途中の状態だ。

 新しくジークフリートⅡをベースに新造している最中ですでに完成の目途も立っている。

 

「けど! セシルさんとフランの2人が問題なの! 何なのさ、何でも構わないと、何か強い奴って!」

 

 マキアは先ほどまでとは違いテンションが高くなる。

 新型のガンダムは以前とは違い各パイロットの要望をベースに設計されている。

 新造するガンダムの内、シズカ、レイニー、エマは細かく自分の好みや要望を出している。

 それを元にマキアは基本設計をしてパイロットが納得するまで話合って設計を完成させた。

 しかし、問題はセシルとフランだ。

 セシルは使うMSに拘りはなく、どんな機体だろうと乗りこなす自信があるため、マキアの好きにさせている。

 一方のフランは細かい拘りはなくとにかく強いガンダムが良いと具体性が無さ過ぎる。

 そのせいで2人のガンダムだけは未だに設計図すらできていない状態だ。

 

「何でもいいとか強いとかそれが一番面倒なの! 何かない訳!」

「私としてはMSは乗れれば何でもいいから」

 

 珍しく自分以外に問題の矛先が向いていて高見の見物を決め込んでいる。

 

「それと例の奴……キャリバーンの方はどうなってんの? そろそろ実機かせめてデータだけでも欲しいんだけど」

「ああ。それな。まだ見つかりそうもない」

「そもそもそんな機体が存在したって事も怪しいんだけど」

「データは完全に消されてるからな。けど実物を見た事はないけど確かに実在はしてるはずだ」

 

 キャリバーン、それはかつてヴァナディーズでルブリスと共に開発されたガンダムだった。

 ヴァナディーズ事変の時に消息不明となっているが、ルーカスは議会連合が回収したとみて行方を捜している。

 

「まぁ良いけど、それが無いとあれも完成させられないから」

「分かってる。最悪、キャリバーンのデータはなくても完成させるつもりでいた方が良いかもな」

「了解」

 

 現状を把握した事でルーカスとセシルは表向きの私用として予定されている期限までフォールクヴァングに残って開発を進める事になっている。

 2人が加わった事で多少なりとも進んでいたが、数日経ったある日、ルーカスは毎日の日課となっているスレッタからのメールを見ていた。

 

「今日も見てるの? 向こうの状況はこっちでも把握してるでしょ?」

「まぁね」

 

 スレッタから毎日何通ものメールが届いているが、学園の状況はルーカス達もフロント内の隠しカメラや盗聴器で大よその事は把握している。

 スレッタの周りの事も生徒手帳に仕込んだ盗聴プログラムで把握している。

 最近は流石にスレッタのプライバシーを保護するためにも盗聴はセシルが行い必要な情報だけをルーカスに伝えている。

 

「確かに何かあれば連絡を寄こすようにはいったけどさ、毎日、これだけの数のメールを送って来るとはね」

 

 メールの内容は特に何か問題が起きたという訳ではなく、ミオリネの様子が書かれている内容が大半だ。

 ルーカスもそんなことを聞くためにスレッタに任せた訳ではないが、スレッタは少しでも何かあるとメールを送ってきている。

 

「こりゃ本人の性格ってよりもよっぽど上手く仕込まれてるんだろうな」

 

 普通ならトラブルが起きた時にでも送ってくればいいところをちょっとした事でも何かと捉えて念の為にルーカスに送ってきているのだろう。

 

「何もんなんだろうな。プロスペラ・マーキュリーは」

「それもおいおい調べるとしてこれを見て」

 

 セシルは持っていた端末を見せる。

 

「学園の決闘? グエルとエランが? 何でまた? てかグエルの奴また負けたの?」

 

 モニターに写されているのは学園での決闘の様子だった。

 決闘しているのはグエルとエラン、ジェターク寮とペイル寮の筆頭同士の決闘でエランが勝っている。

 

「それに賭けたのは……どういう事? 何があったらグエルはエランにスレッタに近づかない事を要求してんの?」

 

 この決闘でグエルはエランに対して自分が勝てば2度とスレッタに近づかない事を要求している。

 何がどうなってそうなったのかは全く分からない。

 スレッタからのメールではミオリネの事しか書かれていない。

 少なくともミオリネ絡みの事ではない。

 

「その辺は問題ではないわ」

 

 セシルはスレッタの生徒手帳越しの音声から何があってそうなったのかは全て聞いているが、重要なのはそこではない。

 

「ペイル社から申請されていた新型機のファラクトが使われたみたいだけど見て」

 

 決闘ではグエルは弟のラウダのディランザを使いエランは普段使っていたザウォードではなく以前からペイル社より申請があった新型MSファラクトが使われたようだ。

 それ自体は事前に申請が出ていたため、問題は無いように思えたが、それだけでセシルがわざわざルーカスに見せに来るほどではない。

 

「こいつは」

 

 決闘の映像を見るとその理由は分かった。

 ファラクトは以前にペイル社で開発された2機のガンダム、サナトスの射撃能力とネメシスの機動力を合わせたような機体だが、買い取ってすでに廃棄されているはずのデータではあるが、それを使われている事以上の問題があった。

 

「ペイル社の奴ら……このファラクトもガンダムだろ?」

「マキアさんにも確認して貰ったけど間違いはないわ」

 

 ペイル社の新型MSファラクトは映像を見ただけでもガンダムだという事が分かる。

 すでにセシルの方でマキアからもファラクトがガンダムである可能性が高いという見解は確認している。

 

「たく……シン・セーと言いペイルと言い何で勝手にガンダムを作ってんだよ。俺らだってこうしてコソコソとやってんのによ」

 

 当然、ファラクトもガンダムとして使われている訳ではない。

 だが、どう見てもエアリアル同様にファラクトもまたガンダムだという事は明白だ。

 

「それとこの決闘でエラン・ケレスはエアリアルを賭けてスレッタ・マーキュリーとの決闘を要求し決闘員会はそれを受理しているわ」

「スレッタと? また学園でガンダム同士の戦いが起こるって事か……面倒な事にならないと良いが、セシル。いざって時の為にペイル社の弱みになりそうなことを探っておいてくれ」

「分かったわ」

 

 ペイル社がこのタイミングでガンダムを表舞台に持ち出した理由は分からないが、エアリアルのデータを取るいい機会であることは確かだ。

 それとは別にペイル社と抑えるための弱みを握っておきたい。

 以前にネメシスのパイロットだったレイニーを薬物強化していたという弱みは握っているがすでに10年も前の話だ。

 今更、それで抑えられるのは難しい。

 ペイル社の新たな弱みに関してはセシルに任せておけば問題はないだろう。

 極秘裏にガンダムを作っている以上は探れば弱みは見つかるだろう。

 後はエアリアルとファラクト、新たなガンダム同士の戦いで面倒な事が起こる事を祈るだけだ。

  

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