地球寮とジェターク寮との決闘は地球寮の勝利となった。
「マジか……ははっもう笑うしかねぇな」
隊長機同士の戦闘はルーカスのルブリスV2はボロボロでフランのガンダムバルディッシュは頭部のブレードアンテナのみが破壊されて無傷でどちらが勝者なのか分からない。
「まさかこれを狙ったのか?」
「まぁな。そいつの重装甲とガンビットを抜くのは無理ゲーそうだったからな」
だからと言って頭部のブレードアンテナのみを破壊して勝つことを狙うなど正気の沙汰とは思えない。
「アタシの負けだ。持ってけよ」
フランはコックピットを開けると機体から降りる。
「おい! 見てんだろ。回収よろしくな!」
機体から降りたフランは決闘員会に回収を要請する。
「いや、どうすんの? コレ」
ルブリスV2はガンダムバルディッシュに取り押さえられた状態で身動きが取れない。
膝で胴体を抑えつけられているのでコックピットを開けて出る事もガンダムバルディッシュをどかすことも出来そうにない。
少しすると決闘委員会のモビルクラフトが到着する。
モビルクラフトを操縦していたのはフォルガでルーカスが出れず動けずの状態であることに気が付くが、鼻で笑いフランを回収して去っていく。
それから戻らない事を不審に思ったセシルが来るまで1時間ほどルーカスはルブリスV2に取り残された。
「よっ! しばらく厄介になるぜ」
決闘の翌朝、セシルが用意した朝食を食べようとした頃、理事長室にフランが訪ねて来た。
フランは何か大きな荷物を持ってきておりリビングとして使っている執務室に通されるなりそういう。
「昨日の今日でどういう事?」
「それがさあの後ウチのボスが滅茶苦茶怒鳴りつけて来たんだよ。そりゃ決闘で負けてガンダムを取られたアタシが悪いんだけどさ。あんな条件じゃこっちもやる気がでないってか負けたアタシだけじゃなくて他の奴らの事まで貶しやがったからアタシもぶちぎれて言ってやったんだよ。だったらアタシが責任を取って辞めてやるってな!」
「まぁ新型を与えて貰ってあのザマですからね」
「全機大破したんだろ? セシルももう少し手加減してやれよな。大人げない」
「殺してませんので十分に手加減はしました」
昨日の決闘ではガンダムバルディッシュはブレードアンテナのみの破壊だったが、9機のデスルターは全機が大破して学園では修理が出来ずに今朝ジェターク社に送られている。
新型機を使いながら実質1機にそこまでやられたのだヴィムが激怒するのも無理はない。
「まぁそれは良いとして辞めて来たってジェターク社を?」
「ああ。で寮にもいられないし後1年分の授業料も自腹になっていくところもないからここに来たってわけだ。あっコレ貰うな」
フランはルーカスの対面に座るとセシルが作ったサラダの器を手に取る。
「おっこのトマトうめぇな」
「それは義理の母が送ってきた奴だ。気に入ったのなら全部食べて構わない」
「ルーカス様。自分が野菜が嫌いだからと言って人に押し付けないでください。せっかく送って頂いたのですから」
「あの人には悪いけどさ。生のトマトのぐじゅぐじゅした感じが嫌なんだよ。けど俺にしては食べようと努力しただけマジだろ?」
嫌いな食べ物は一切手を付けようとはしないルーカスにしては義理の母親から送られてきた野菜は一応は食べようとは努力したが結局好きにはなれなかった。
「わざわざ送って来るなんて良い母ちゃんじゃん。これごちそうさん。うまかったよ」
「それは否定しないけどな。てか母親で思い出したけど、良かったのか? お前がジェターク社を止めたって事は母親も」
「……その辺りも調査済みって事か」
フランはバツが悪そうに空の器をテーブルに置く。
「まぁな。セシルの奴が調べてきたよ。フランの母親はヴィムのおっさんの愛人なんだろ? まぁ正確に言えば過去をネタに脅してるんだろうけどな」
フランの母親とヴィムの間にはここ数年でも一度も直接会ったり、連絡を取っている形跡はセシルの調べでもなかった。
恐らくは愛人関係というというよりも強請っているのだろう。
「フランがジェターク社でテストパイロットとしては働いた給料の6割程度がフランの口座とは別の口座に送金されている。その口座はフランの母親の物だった」
「ああ。アタシの母ちゃんは馬鹿でさ、アタシは覚えてないんだけど父親に捨てられてからいろいろと男に寄生して生きて来たけど、男から相手にされなくなると昔の男であるボスに昔アーシアンと関係を持ったことを暴露するって脅してさ」
今から10数年前、ろくに女を知らなかった頃のヴィムとフランの母親は一度だけ関係を持ったことがあった。
その当時はアーシアンと関係を持ったことを公にされないように当時のジェターク社CEOが金をフランの母親に掴ませて無かったことにした。
その金も使い切って複数の男を渡り歩くも歳を重ねるにつれて男に相手にもされなくなり、昔関係があり十分な資産を持つヴィムに過去に関係を持ったネタに強請り始めた。
その際に直接金銭を渡せば足が付くことを恐れて娘のフランをジェターク社のテストパイロットとして雇い、フランへの給料という形で金を渡していた。
「アタシがジェターク社に入ってから一度も連絡すら寄こさなかったし、アンタに負けて思ったんだよ。なんでアタシを売った母親の為にこんな事をしないといけないって。先にアタシを捨てたのは向こうなんだ。自分が捨てられる側になっても文句は言えないだろ」
母親にとってはフランは自分が楽に生活していくための道具で愛情など持っていない事は薄々は分かっていた。
それでもと少なからず期待は持っていたが、ルーカスとの決闘に負けて勢いでジェターク社を辞めて踏ん切りがついた。
「オーケー。そっちの事情は理解した。まぁそんな母親ならいらないわな。けどさ、なんで俺のところなんだよ。そりゃきっかけは俺が決闘に勝ったことかも知れないけど、喧嘩を売ってきたのはそっちだろ?」
「それはまぁ……なんだ」
フランは視線を逸らし言い辛そうにしている。
心なしか顔も赤い。
「……初めてなんだよ。ガンダムに乗って男に負かされたのは……負けたってのに不思議と嫌な感じもしねぇし……」
「つまりはルーカス様に惚れてしまわれたと」
「言い難い事をサラッと言いやがったな! ああそうだよ! 負けて惚れちまったんだよ! 悪いか!」
フランはセシルにストレートに指摘されて自棄になったかのように叫ぶ。
ルーカスにはいまいち理解は出来ないがフランにとって異性へ対する価値観としては最低限自分よりも強い相手でなければならないというのがあるらしく、ガンダムに乗って初めての敗北はルーカスに好意を持つきっかけになったのだろう。
「ルーカス様」
セシルがルーカスに耳打ちするとルーカスもフランに背を向けてセシルと内密に話し始める。
「何?」
「私は受け入れた方がよろしいかと思います。回収したガンダムを投入するにもパイロットは必要ですし、あの様子から見て何度か寝て差し上げればルーカス様には従順に従うでしょう」
「うぁなんか酷くね?」
「今更でしょう」
今後魔女狩りにおいて今回の決闘で勝って手に入れたガンダムバルディッシュは戦力としては期待できる。
それを今まで扱って来たフランがこちらにつけば戦力としては十分だ。
その上、フランがルーカスに惚れたとなれば扱うのも容易だろう。
「何かガチっぽいし、流石に俺もそんな相手を利用した事なんてないぞ」
ルーカスも過去に自分の目的の為に女を口説き利用した事はある。
だが、相手もルーカスの肩書等を目当てにしている事は明らかで、ルーカスからすれば自分の肩書を利用しようとしたんだから、こっちも相手を利用し利用価値がなくなれば切り捨てられても文句はないだろうと割り切っている。
しかし、今回はそうではない。
仮にルーカスが今の立場を捨てるとしてもフランはルーカスについてくるだろう。
流石のルーカスもそんな相手を利用することは気が引ける。
「まぁ良いか。ここにいる事は別に構わないがここは元々複数人が生活することを想定してないからな。個室みたいなのはないぞ」
ルーカスが使用している理事長室は元々理事長であるデリングが一人で使う事が想定されている。
建物の中には寝室以外にはリビングとして使っている執務室や小会議室と言った仕事で使うための部屋はいくつかあるが、それ以外には生活する上で必要な設備はあっても個室はない。
その寝室はルーカスが使い、学園に来て数日が経つが、ルーカスはセシルが普段どこで寝ているかすら把握していない。
「ああそれに関してはこっちも押しかけの居候の身だからな。贅沢は言わねぇよ。この部屋の隅の一画でも使わせて貰えば十分だ」
フランはそういうと荷物の中から一人用のテントを出すと執務室の隅に設営する。
執務室自体、それなりの広さがあるため、隅にテントを設置したところで邪魔にはならない。
「まぁいいけど。それよりもそろそろ時間だろ?」
「マジだ。やっべ!」
時間を見ると一時間目の授業が始まるまであまり時間の余裕はない
「俺らはいろいろとやる事があるから今日は出ないつもりだ」
「今日はじゃくて今日もだろ? お前らが授業に出てないってのはアタシ等の耳にも入ってるぜ。ペイル寮の魔女と言いルーカスと言いせっかく学校に通っているんだから授業くらいでろよな」
ルーカスが編入してから一度も授業に出ていない事は1つ上の学年であるフランのところにも入っているようだ。
「まぁ俺らは卒業する意味もあまりないしな。それよりも時間」
「おっと! そんじゃ言ってくる!」
フランは持ってきていた授業の用意が入ったカバンを引っ手繰って理事長室から走り去っていく。
「朝っぱらから煩かったな。それはそれとしてセシル」
「承知しています。すぐに準備に取り掛かります」
それから数時間後、セシルが準備を整えるとルーカスは執務室でモニターの前に座る。
セシルが端末を操作するとモニターが起動する。
「やぁご無沙汰してるな」
「誰だ! おまっ……これはルーカス君じゃないか」
モニターに移されたのはヴィム・ジェターク、現ジェターク社のCEOだ。
向こうは突然、仕事で使っていたPCが切り替わって憤っていたが、その相手がルーカスだと知ると何とか取り繕う。
「久しぶりじゃないか。元気にしていたかね?」
「まぁね」
ヴィムは決闘の件もあり内心では怒鳴りつけたかったが、流石に直接そんなことはしない。
「それよりも決闘で俺らが手に入れたガンダムの予備パーツとジェターク社が持ってるデータとか利権とか一通り買い取りたいんだけど良いよね」
「ああ、もちろんだとも。可能な限り早く学園の方に送らせる」
「分かった。で、こっちが本題」
ルーカスがヴィムに直接連絡を入れたのはガンダムバルディッシュに関する部品やらなんやらを丸ごとジェターク社から買い取る話を持ち掛けるだけじゃない。
それだけならば直接話す必要もなく、セシルがハッキングまでする必要もだ。
わざわざそんなことをしたのは公に出来ない話をするためだ。
「おっさんさ。親父の事が嫌いなら嫌いでも別に良いんだけどさ。俺の方に仕掛けてくんのは止めない? 正直面倒だからさ」
「……なんのことだか。分からないが……もしかして決闘で無茶な要求をしたのは俺が命じた訳ではないぞ。あれは秘書の方で勝手に俺や会社の事を思ってやったことだ。不快にさせてしまったのなら謝ろう」
「だよな。御三家のCEOともあろう奴があんな子供染みた事をする訳ないよな」
ヴィムはあくまでも自分が指示をしたわけではなく、部下が独断でやった事で押し通す気らしい。
ルーカスもそれを真に受けてはいないが、そういう事にしておく。
「社長!」
「今度は何だ?」
ルーカスとヴィムが話しているとジェターク社の社員がヴィムに何か耳打ちをする。
「何だと? 誰か指示を出したのか?」
「いえ……そのようなことは……」
話の内容は聞こえないが、何かトラブルでもあったようだ。
「どうしたの? もしかして囲っていた愛人でも事故ったの?」
「どうしてそれを! まさか!」
ルーカスはまるで何があったか知っているかのように話す。
社員がヴィムに伝えた内容としては余計な事をさせないように監視させていたフランの母親が先ほど、事故にあって命を落としたという報告だ。
始めは単なる事故ではなく自分の部下が独断で事故に見せかけて始末したのかとも思ったが、ルーカスがそのことを知っているとすればもう一つの可能性も考えられた。
「まさか何? まさか俺が指示を出したとでも言いたいの?」
「いや、そんなことはないが……」
「俺は指示を出してないけどさ。俺、昔から呪いが使えるんだよね」
「呪いだと?」
「そっ。ガンダムに乗れば死ぬとかわかりやすい物じゃなくてさ、俺が本気で邪魔だと思ってそれを口にするとあら不思議。その相手は事故にあったり病気になって死ぬんだよ」
ヴィムも本気でルーカスが呪いを使えるとは思っていない。
呪いとは比喩であって、実際はルーカスの息のかかった者による暗殺のことだろう。
ルーカス自身が直接指示を出す訳ではなく、日常会話の中でそれとなく口にしたことを何者かがその意図を読みとり、実行犯に指示を出す。
そうすることで万が一にも暗殺の事実が露見し、実行犯が捕まったとしてもルーカスはただ邪魔だと口にしただけで暗殺の指示を出した訳ではなく、指示役が勝手に判断して実行犯に指示を出しただけだと言い逃れすることが出来る。
「でもよかったじゃん。俺もフランから聞いたけどとんでもない女みたいだしさ。お互い立場もあるからそういうのは怖いよね。まぁおっさんも対応が甘いと思うよ。いくら始末させると面倒だからって金で解決するだけなのは」
強請のネタ自体はヴィムの立場を脅かすほどではないが、暴露されると例え信憑性の薄い話だろうとジェターク社を疎ましく思っている連中からすれば恰好の火種となる。
それを消すことはそこまで難しくはないが、その程度の事で人一人を始末するとしてそれにかかる費用を考えると始末して情報を闇に葬るよりは継続的とは言え愛人を一人囲うと考えて金を出して黙らせた方が簡単だと考えていた。
少なくとも向こうの狙いは金でありジェターク社を潰そうとしてるわけでも社長夫人の座を狙っていた訳でもない。
定期的にそこそこの金を渡せば向こうも金づるに不利益な事をするつもりはなく、その金額もヴィムの資産を考えると大した痛手でもない。
「でさ、俺は俺のやりたい事をやりたいんだよ。だからそれを邪魔しようっていうなら俺も本気でやらざる負えないんだよ。やるならもうそんな気が起こらないように徹底的にね。だからおっさんはそんなことはしないけど、秘書によく言っておいてよ」
それは明確な脅しだ。
本気でヴィムとやり合うのであれば父親の力も最大限に使ってくるだろう。
そうなればグループ全体にも影響が出るため、グループの利益を最優先にしているデリングは止めるだろうが、それで止まるのであればここまで好き勝手はしていない。
少なくともルーカスはグループがどうなると徹底的に潰しに来るだろう。
潰しに来て負けるつもりはないが、勝ったところでジェターク社も無事では済まない。
デリングを引きずり下ろしたいが、グループを心中するつもりもない。
「ああ。分かった。部下には俺の方から言っておく」
「俺の要件はそれだけ。ああ、後、そっちを辞めたフランは今は俺のところにいるからさ、憂さ晴らしに変な事するなよ。ついでに後1年分くらいの授業料くらい出しといてよ。どうせ退職金とか出す気ないんだろ?」
「分かった。要件は本当にそれだけだな? 俺もいろいろと仕事で忙しいんだ」
ヴィムの方もこれ以上、ルーカスと話していても碌な事にはならずいつ我慢の限界を迎えて怒鳴りつけるか分からないため、話しを切ろうとしている。
「そんだけ。じゃお互い女の扱いには気を付けような」
ルーカスはそう言い通信を切る。
通信が切れた途端にブチ切れているヴィムの様子が見なくても想像が出来る。
「さて、とりあえずフランの件はこれで方が付いたか。それにしても全く……また面倒な事が増えたな」
ルーカスはフランが設営したテントをチラリとみる。
元々ガンダムを手に入れるだけだったが、パイロットまでついてくるのは想定外の事態ではある。
「まぁなるようにしかならないか」