機動戦士ガンダム 祝福されし子と7人の魔女   作:ケンヤ

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7話

 ジェターク寮との決闘から1週間、地球寮はルーカスが来てから平和を取り戻していた。

 

「よくもまぁ毎日やるよな」

 

 ルーカスの目の前で地球寮の生徒たちは息も絶え絶えで倒れてる。

 唯一コウタロウだけは肩で息はしている物の何とか立っている。

 

「たく……だらしねぇぞ。そんなんだから他の寮に舐められてんだ」

 

 フランが仁王立ちしながら地球寮の面々に喝を入れる。

 フランがジェターク寮を出てから始めは地球寮の面々もフランにビビッていたが、数日で打ち解けた。

 ジェターク寮にいた頃はジェターク社との契約の中に自信がアーシアンであることを公表しない事になっていたが、ジェターク社を辞めた今となっては隠す必要も無かった。

 フランがアーシアンだったことや元々寮長として寮生の面倒を見ていたこともあって面倒見の良かったフランをフレットとは別の方向で慕うようになって今では地球寮を仕切っているルーカス以上に地球寮に溶け込んでいる。

 地球寮が舐められている要因としてアーシアンである事以外に単純に見た目から貧相だという事を上げて毎日授業後に所属科に関わらず走り込みをさせている。

 元々パイロット科で日頃から体力づくりとしているコウタロウは他の生徒よりも長い距離を走らされているが何とかノルマをこなすことが出来ているが、他の生徒は実習くらいでしか体を動かしていないため、フランが軽めに設定したノルマでも苦戦している。

 

「おう、ルカ。お前も少しは走れよな」

「やだよ。面倒だし」

 

 フランはルーカスにも一緒に走るように誘ってはいるが、ルーカスは毎回行方を眩ませて参加していない。

 

「それよりそろそろ時間だろ?」

「もうそんな時間か、よし今日はこの辺にしとくか。お前らしっかりとクールダウンしとけよ」

 

 ルーカスとフランは寮のブリーフィングルームに向かう。

 すでにブリーフィングルームではセシルがモニターの準備を行い先にクールダウンを終えていたフレットも机に突っ伏している。

 後からコウタロウも来るとセシルがモニターをつける。

 

「今日の相手ってブリオン寮だけど聞かないな」

「まぁ本命はまだ出るつもりはないんだろうよ」

 

 今日はホルダーであるエマの決闘が予定されている。

 相手はブリオン寮の生徒だが、余り名が売れていない生徒のようだ。

 互いに賭けている物も大したものではなくブリオン寮としてはホルダーの現在の実力を図る目的なのだろう。

 エマとしてもホルダーの立場上、挑まれた決闘から逃げるという事は敗北を認めたのも同然で受けざる負えない。

 

「そういえば俺もあんまりエマ先輩の決闘て見たことがないんですけど、どのくらい強いんですか?」

 

 コウタロウはふと疑問に思った事をフレットやフランに尋ねる。

 決闘自体は学園内なら見る事が出来るが、ホルダーであるエマの決闘はこの1年ではほとんど行われてはいない。

 

「強ぇよ。アイツはGUNDフォーマット無しじゃアタシやレイニーでも勝つのは難しいし、GUNDフォーマットを使えばアンチドートで勝つのは無理だ」

 

 フランも直接戦った事はないが、それを確信していた。

 GUNDフォーマットを使わない操縦技術では現在の学園生の中では間違いなく最強と言える。

 実際に戦うとなればガンダムを使わなければ勝ち目はないが、ガンダムを使えば向こうもアンチドートを使い勝ち目はなくなる。

 

「フラン先輩がそこまで言うなんて」

「まぁ昔から叔父のところでMSを乗り回していたんだ。学園の奴らとは経験値が違うんだよ」

 

 エマは幼少期からMSに触れて動かす機会があり、学園の生徒よりも長い時間操縦経験がある。

 その経験が学園での強さに繋がっていた。

 

「そうなのか? 確かエマの実家って」

「スレイド・ウェポンズ。昔はアイツの叔父が社長をしていて、今はアイツの父親が社長をしてる」

「今はそこまで業績は良くはないよね」

 

 体力が回復したフレットが会話に参加する。

 

「昔はそれこそ今の御三家に匹敵する程だったんだけどな。ペルセウスって機体は知ってるよな」

 

 ルーカスの問いにコウタロウ以外はすぐに思い浮かべる事が出来た。

 

「アタシも触った事はないけどなんか凄いMSだったんだよな」

「一時期問題にもなったよね」

 

 フランとフレットは別の方向でルーカスのいうペルセウスというMSを思い浮かべているようだ。

 

「どういう事?」

「ペルセウスはスレイド・ウェポンズが開発したMSでさ、性能自体はそこそこだったんだけど、汎用性や拡張性、生産性に整備性とか良くてさ滅茶苦茶売れたんだよ。総生産数は正確なところは分からないけど1万ともいわれる程にな」

「へぇ……なんか凄いな」

「ああ。凄かったんだよ。実際、それで売れに売れた結果、ペルセウスはテロリストや武装勢力の御用達のMSになっちまった訳だ」

 

 当時のペルセウスの売れ行きは凄まじく、大量の売られた機体はやがてテロリスト等の手にも分かってしまった。

 ペルセウスはまともな操縦訓練を受けていなくてもある程度は戦え、満足な補給のないテロリストにも機体を維持することが出来て重宝された。

 その結果としてペルセウスはテロで使われることが多くなってしまったのだ。

 

「で、当時の社長だったエマの叔父さんは責任を取って辞任して弟が跡を継いだ」

「いくらテロに使われたとしてもメーカーには責任はなくないか?」

「普通はな。けど、今の御三家が結託して評議会で問題を大きくしたんだよ。普段は出し抜こうと腹の探り合いをしてんのにこういう時だけは仲良く団結しやがるんだよ」

 

 本来は自社のMSがテロに使われたとしても相手がテロリストだと分かって売らない限りは開発した会社に罪はない。

 しかし、現在の御三家である3社はMS開発評議会にてスレイヴ・ウェポンズの責任問題を厳しく追及した。

 彼らもMS開発に携わる会社として関節的とは言えテロリストにMSを提供した事に憤り、開発会社としてテロの責任自体を負わせたいのではなく、業績を伸ばしていたスレイヴ・ウェポンズの頭を叩いておきたいという利害が一致したというのは誰の目にも明らかだが当時はどこの企業もスレイヴ・ウェポンズに味方することはなかった。

 その後、ペルセウスの製造、販売は中止されたが今でも機体やパーツが無断複製されて多数が運用できる状態で維持されて使われている。

 

「そんで今じゃMSを完全受注生産で高っかいMSを売ってんだけど、まぁ売れないわな」

 

 ペルセウスの事があり、今のスレイヴ・ウェポンズはMSの完全受注生産を行い自分たちがMSを売った相手を把握し、テロに自社のMSが使われればどこから流れた物なのかを把握できるようにしている。

 だが、販売しているMSの値段は一般的な量産機の倍以上でそれぞれに客の要望の合わせたカスタムもしているため、大量には作れない上にカテドラルのような組織や民間の企業からの発注はほとんどなく、個人でMSを所有している客がたまに発注するくらいで当然、利益はほとんど出る訳もない。

 下手に幅広く使われるMSを開発すれば再びテロリストに武器を提供するのかと叩かれるため、スレイヴ・ウェポンズは高価な高性能MSの完全受注生産で販売するしかできず、他の方面に事業を変えようにも金もノウハウも足りない。

 

「で、あれがスレイヴ・ウェポンズ製のジークフリートだ」

 

 ルーカスは話している間にグラスレー寮とブリオン寮の決闘が始まっていた。

 決闘は3体3の団体戦でブリオン寮は全機がカスタムされたデミトレーナーでエマのグラスレー寮は3機ともスレイヴ・ウェポンズ製のMSジークフリートだ。

 ジークフリートは騎士を思わせる外装にモノアイが特徴的で1機は素体の状態だ。

 素体の状態でも十分な性能はある。

 装備は右手のビームライフルに左腕のシールド、腰にヒートソードのみと必要最低限となっている。

 残り2機の内、1機はウォルガ専用機で重装タイプと呼ばれている。

 全身に追加の装甲と脚部のホバーユニットが追加され、装備もビームライフルからビームガンの内臓された突撃用の槍であるガンランスに変更されている。

 残るエマ専用機は頭部がガンダムタイプと同様のツインアイとV字に中央の大型のブレードアンテナが追加された3本角が特徴的でビームバルカンもついた専用の物に換装されている。

 全身にはスラスターの追加と2本のビームサーベルの付いた専用のバックパックに変更され機動力の強化がされている。

 腰のヒートソードも2本に増え、シールドはグラスレー社から提供された試作の大型シールドを装備されている。

 決闘が開始されると左腕をミサイルランチャーに換装しているデミトレーナーがミサイルを撃つと3機のジークフリートは散開する。

 ビームガトリングガンを持ったデミトレーナーはウォルガの重装タイプに集中砲火を浴びせるが、シールドで最低限身を守りながら突撃し、ビームガトリングガンごとデミトレーナーの右肩をガンランスで突き刺す。

 右肩にガンランスを付き刺した状態でデミトレーナーを持ち上げて頭部からデミトレーナーを地面に叩き落す。

 デミトレーナーの頭部は衝撃で潰れて機能が停止する。

 

「アイツ、メカニック科なのに意外とやるな」

「アイツも昔からエマについてMSに乗っていたからな」

 

 ウォルガはメカニック科だが、エマと共に幼少期からMSに触れているだけあってあの程度の相手ならパイロット科だろうと難なく勝つことが出来るだけの操縦技術は持っている。

 ウォルガがデミトレーナーを戦闘不能に追い込んでいる間に素体タイプのジークフリードも足止めに来たデミトレーナーを戦闘不能に追い込み残るは隊長機のみとなっていた。

 隊長機のデミトレーナーは左腕をガトリングバレルに換装し、右手にはサーキュラーソーを装備している。

 ガトリングバレルのビームを撃ちながらエマ機に向かっていく。

 エマ機は大型シールドで身を守りながらビームライフルでけん制を入れる。

 ビームをかわしたデミトレーナーはエマ機に接近するとサーキュラーソーで切りかかるもエマ機は軽々とかわしてビームライフルでサーキュラーソーを弾き飛ばすと至近距離からデミトレーナーの頭部に向けてビームを撃つ。

 隊長機の頭部ごとブレードアンテナが破壊されたことで決闘はグラスレー寮の勝利となった。

 

「負けるとは思ってなかったけどさ。まぁこんなもんか」

「相手が雑魚過ぎるんだよ」

 

 流石にエマが負けたり手こずるとまでは思ってはいなかったが、ここまで圧勝だとわざわざ見る意味があったのかも疑問になってくる。

 

「この後の決闘はジェターク寮の奴が何人かやるけどどうする?」

「アタシは良いや。筋トレしてくる」

 

 今日の決闘の予定ではこの後、ジェターク寮の生徒が決闘をする予定になっていたが、フランは見る気がないらしく席を立つとブリーフィングルームから出ていく。

 

「俺も良いや。セシル。後で面白かった決闘以外は結果だけ纏めといてよ」

「了解しました」

 

 ルーカスも見る気はないらしく、フランに続いて出ていく。

 

「なぁ古巣を出た事気にしてんの?」

「あ?」

 

 フランは足を止めて振り返る。

 

「ここ最近のジェターク寮の成績は散々じゃん」

 

 ルーカスのいうようにフランが抜けて以降のジェターク寮の決闘は負けが続いている。

 負けた相手の大半はブリオン寮をはじめとした多寮連合で負けた生徒は服従を強いられている。

 

「別に……負けたのだってアタシの実力不足だったって事は悪かったとは思ってるけどな。今の負けは他の寮の奴らに弱みを見せたアイツらが悪い」

 

 フランがルーカスに負けてジェターク寮を出たことで他の寮生たちはジェターク寮を叩くチャンスだと言わんばかりに決闘を挑んでいる。

 ジェターク寮の生徒も挑まれた決闘から逃げる事は恥だと受けるも、フランが抜けた穴を埋めきれず、まともに準備も出来ずに決闘を行い負けている。

 そのきっかけを作ったのは自分の敗北であることには責任を感じてはいるが、その後の連敗はジェターク寮の不甲斐なさを原因だとフランは考えている。

 

「結構ドライなんだな」

「今のアタシはもうジェターク寮の寮長じゃないんだ。アイツらを守ってやれるのはアイツらだけだ。自分で何とかしないといけない事なんだよ」

「フランがそれで良いなら俺は別に構わないけどな。変な意地とか俺への義理とかがあるんなら、そんなもんは捨てちまえ」

 

 本当にジェターク寮のことはジェターク寮で解決させる気ならばルーカスもそれ以上は何も言う気はない。

 だが、それだけではなく自身やすでにジェターク寮の人間ではないという事や自分の行動でルーカスや地球寮を巻き込むことを考えているのであれば話は別だ。

 

「ジェターク寮がフランにとって大事な場所だっていうなら、自分で動けよ。意地張って失ってから後悔したって遅いんだ。なら誰に迷惑をかけようともやりたいようにやった方が良い。少なくとも俺がそうする。もう後悔はしたくないからな」

 

 かつてルーカスも変な意地を張り続けて伸ばされた手を取る事はなかった。

 後からあの場所が自分の世界にとっては全てで失ってから大事な場所だったことに気づかされて手を取らなかったことを後悔した。

 だからこそ、今のルーカスは自分のやりたいようにやり生きている。

 その過程で誰に迷惑をかけて誰かの大事な物を奪うとしても構わない。

 

「……もしもアタシが動けばルカや地球寮も巻き込むことになるかも知れない」

 

 フランとしても今のジェターク寮の状態を何とかしてやりたいと思っている。

 始めはアーシアンであることを隠して入寮し2年間で周囲に実力を認めさせて寮長にまで登り詰めた。

 寮生たちはフランの事を姉御と呼び慕いフランも舎弟として可愛がってきた。

 ルーカスに負けてジェターク寮を出たとしてもそう簡単にジェターク寮生たちの事を割り切れる訳がなかった。

 

「今更だな。どの道残りのガンダムを手に入れる過程で邪魔になるのなら面倒な物は全部ぶっ倒すつもりでここに来てるんだ。何なら俺も加勢してやるよ」

「ははっ……ぶっ飛んでんな。流石はアタシが惚れた男だよ。けど、これはアタシがケジメをつける事だ。けど、アタシに力を貸してくれるってんなら一つ頼みがある」

「言ってみろ。セシルは優秀だから暗殺から篭絡までなんでもやってくれるぞ」

 

 そこは自分で動く訳ではないんだなと突っ込みを入れかけたが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「MSを貸してくれ。機体は何でもいい」

 

 フランが使っていたガンダムバルデッシュはルーカスの手に渡り使えない。

 地球寮にはコウタロウの機体しかなく、フランはすぐに使えるMSがない。

 

「フランのガンダムも俺のV2もまだ直してないからな……セシルのルブリスを勝手に使えば後で煩いし……待てよ。あれが使えるか」

 

 ガンダムバルディッシュとルブリスV2は決闘での損傷をまだ直してはいない。

 セシルも自分の機体を勝手に使えば後で小言をいれば頼んでも使うのに難色を示すだろう。

 しかし、ルーカスには心当たりがあり、フランを連れて自身が使っている格納庫に連れていく。

 格納庫には3機のガンダムの他に予備パーツやルブリスV2用の装備が収納されているが、その更に奥にフランを連れていく。

 

「おいおい。なんでこの機体がここに在るんだよ」

 

 格納庫の奥には隠すようにデスルターがあった。

 

「少し前にさ、ジェターク社のカタログを見てたらつい欲しくなってさ。つい買っちゃった」

「買っちゃったって……まぁアタシも筋トレの道具とか見てるとつい欲しくなったりするけどさ」

 

 それにしても個人で新型MSを買うのとは訳が違うと言いたいが、この際黙っておく。

 地球寮とジェターク寮との決闘の時に10機のデスルターがこの学園に搬入されているその内9機は決闘で大破して修理に出されている。

 ここに在るのは使われなかった10機目と言う事だ。

 ヴィムもデスルターを送るように指示を出しただけで、決闘に使う9機とそれとは別に搬入予定だった1機の存在までは把握していた訳ではなかったのだろう。

 

「コイツをやるよ。その代わりセシルには内緒な。前にも妹の誕生日にMSを送ろうとして黙って買おうとしたのがばれて怒られてるからさ」

「いやなんでMSを……まぁ良いや。こいつがあればアタシもまだ戦える」

 

 デスルターにはGUNDフォーマットは付いてはいないが、それでもブレードアンテナの修理がされていないガンダムバルディッシュとは違い決闘に使う事は出来る。

 MSさえ用意できれば後は動くだけだ。

 

「すぐに調整をする。まだ今日の最終戦には間に合うはずだ」

「だな。それさえ間に合えばまだ何とかなる」

 

 予定では今日の決闘の最後にはフランの後を継いだ新しい寮長が決闘を行う事になっている。

 その相手はブリオン寮の中でも実力者として知られている相手だ。

 この決闘の結果次第ではジェターク寮は実質的にブリオン寮の下につき寮生たちは完全に服従を強いられることになる。

 それだけは避けたかった。

 ルーカスとフランはそれに間に合うようにデスルターの調整を急ぐのだった。

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