ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー

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復讐にも限度があるよー

 復讐自体はともかく、エウリデという国そのものを破壊せしめるだけの仕返しは容認できない。そう、強く言い切るシアンさん。

 単純な暴力ではそれこそ月とスッポンってレベルで差のあるリューゼ相手にも臆することなく向かい合い、威圧を全開にして挑むように見据えている。

 

 ふん、と鼻で笑ってリューゼもまた、威圧を放った──全開ではない。精々がシアンさんに相対できる程度の出力だ。

 こいつ、それなりに団長のことは認めているのかもしれないねー。理解はできずとも、話くらいは聞いてやろうって気になっているのかもしれない。

 

 足を組見直す巨体。じろりとオッドアイがシアンさんを睨めつける。

 視線だけで人を殺せそうとはまさにこのことか、ってくらいの眼光をもって、彼女は問いかけた。

 

「人として、ねぇ……ずいぶん吠えるじゃねえか小娘が、ちょっとオレ様並の威圧を扱えるようになったからって即座に調子に乗りやがったなァ?」

「調子に乗る、乗らないの話ではなく。ましてやあなたに極一部だけ拮抗できたからとか、できないからとかそういう話でもありません」

「あァ?」

「たとえあなたに屈服した私でも、ここだけは決して譲らないでしょう。命がある限り、八つ当たりは止めろと叫び続ける。地を這いながらでも、屈辱にまみれながらでも」

 

 何も関係がない国民までも平気で巻き込み滅べと宣う、それがシアンさんの逆鱗に触れたのだろう。この国の貴族にしては割と珍しく、エーデルライト家はまともな教育を施していたみたいだ。

 八つ当たりと再度、リューゼリアの復讐を断言して一歩たりとも引かないと言ってみせる。そこには冒険者としてだけでない、貴族としてだけでもない人間としての決意が見える。

 

 こんなところまでレイアそっくりだ……目を細める。

 あいつも、単純に人の命や尊厳、生活が脅かされそうになった時はこんな目をして事態に立ち向かっていた。いけ好かない貴族のクズとか、悪辣な不良冒険者とか、あるいは地上に出て暴れようとしていたモンスター相手の時にね。

 一歩だって退けない、退いたらそれだけ犠牲が出る。そんな状況でこそ見せていた光が、決意がシアンさんにも見えたよー。

 

 リューゼが、げぇっ! みたいな嫌そうな顔を浮かべた。あいつはどっちかと言うとあんな目をしたレイアに止められる側の人間だったからねー。

 何考えてるのか一目瞭然だよー。"なんでこんなとこまでそっくりなんだよ!? "ってところだろう?

 

 人を率いる者同士、こういうところが似通うのかもねー。

 シアンさんはそして、毅然とした態度でリューゼへと告げる。

 

「無実の者にまで被害が及ぶのであれば、その復讐は正当性なき権限を超えた行為に過ぎない。そんなことのためにシミラ卿を出汁にするのは止めてください──いえ、止めなさい」

「…………言ってくれるじゃねえか、ペーペーが。そりゃ貴族流か?」

「そうであるとも言えますし、そうでないとも言えます──エーデルライト初代、貴族にしてS級としても活躍した我が偉大なる祖先による、家訓です。そしてそれ以上に私の心、私の信念による言葉ですよ、リューゼリア・ラウドプラウズ」

 

 エーデルライトの初代、聞いたことないけどS級だったんだね。貴族なのに冒険者になるって時点で相当趣味に生きている人物だったものを、しかもS級にまで登り詰めてるなんて逆にすごいよー。

 そしてそんな人だからこそか、子孫にもいい言葉を残してくれているんだね。無実の人にまで害が及ぶなら、その復讐は権限を超えた行為──加害行動に過ぎない、か。

 

 やったらやり返される。そしてまたやり返すの繰り返しがこの世だってのはなんとなく分かってきてる僕だけど。それだけじゃないはずだってのもなんとなく知っている。

 そういう負の連鎖にもルールが有るべきで、そこから逸脱すればそれは別口に新しい復讐が生まれるだけなんだろう。永遠に繰り返すばかりか余計な連鎖まで生み出してたら、この世は本当に地獄になっちゃうよ。

 

 それを分かってエーデルライトの初代さんは、子孫にもその危険性を説いたんだろうか。

 復讐そのものの是非は問わない、けれどやられた範囲を超えてはそれは、新しい"やった"に繋がるんだって。

 そしてそれを受け継いだシアンさんが、リューゼに今、説いているわけなんだねー。

 

 リューゼも過去のS級の言葉となると、さすがに少し考えたようだった。

 横柄な言動はそのままに、けれど彼女の声色がそれなりに軟化した。

 

「フン……黴の生えた家訓なんぞ後生に抱えるか。やっぱ貴族ってのはいけ好かねえが……まぁ良い、我慢してやらァ」

「!」

「助かる話だが……ずいぶん素直だな?」

「オレ様ァいつでも素直だよ。ま、さっきちょっかいかけたこともあるんだ、借りは返すぜ」

 

 さっき挨拶の時、シアンさんに喧嘩吹っかけたことを引き合いに出して折れたよー。まあ体の良い引き下がる言い訳にしたんだろうねー。

 一方的に自分の非を認めるのは嫌なんだろう。相変わらず強情だねー。




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