ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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ハーレムだよー(泣)

 ギャップとかじゃなくてー。僕のこのダンディーさでモテたいんですぅー。男の魅力でモテたいんですぅー。

 って言ったら死ぬほど鼻で笑われた。ひどいやリリーさん。

 

「はいはい。そしたら今日の依頼はこれだけね。えーっと迷宮内でゴールドドラゴンの奥歯、もしくはウォーターゴーレムの排水溝を2つずつ」

「あー、じゃあゴールドドラゴンで」

「相変わらず即決ねえ。お金?」

「お金」

 

 提示された依頼の中でも一際難易度が高く、でもその分実入りのいいゴールドドラゴンの討伐を選択する。言うまでもないけどお金が儲けられる方を選ぶ、それが僕のスタンスだ。

 こう言うと僕が守銭奴に思われかねないんだけどそんなことはない。一応、僕を育ててくれたスラム内の孤児院に多少なりとも援助するためというとても素晴らしい目的があるのだ。

 

 まあ、それはそれとして浮いたお金は自由に使うんだけどねー、と。

 その辺の事情だってご存知のリリーさんはさすが、何も言わずに依頼受諾処理をしてくれた。

 

 ゴールドドラゴンっていうのは迷宮の、到達済み階層の中でも割と最下層に生息しているモンスターだ。

 本来なら僕みたいなDランク冒険者が相手取るなんて無茶もいいところだって判断されるのが普通なんだけど、この人は僕の腕前を信じているから融通してくれるのだ。

 ありがたいー。惚れ直してしまいそうー。

 

「はい、受諾完了。じゃあ頑張ってきてね、冒険者"杭打ち"さん」

「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」

 

 用も済んだし早速、ギルドを出る……出ようとする。受付から離れて出入口へ向かおうとした、その矢先だ。

 冒険者パーティーの一団が、ちょうど入ってきて僕と面向かう形になったのだ。

 

「あん? "杭打ち"?」

「…………」

 

 若い、僕と同い年くらいの金髪の青年。不敵な笑みを浮かべたイケメンくんで、背が高くて体もがっしりしてる。背中には大剣を背負っていて、服装もなんだか綺羅びやかに輝いた上質の鎧を着込んでいる。

 よく知る顔だ──オーランドくん。僕から計10人の好きだった女の子をかっ攫っていった憎いあんちくしょう。いや、別に付き合ってたとかじゃないから、これは完全に僕の僻みなのだけど。

 

 とにかく女誑しで親の七光りな天才くんが、仲間を引き連れてお越しになられたのだ。

 そして僕を見るなり、嫌悪と敵意を剥き出しにした小憎たらしい目で睨みつけてくる。

 

「チッ……朝から嫌な奴に。どけチビ、Dランクが偉そうに歩いてんじゃねえぞ」

「…………」

「黙りか、馬鹿にしやがって……」

 

 なんかやたら僕を敵視してくる彼だけど、特に因縁ないはずなんだよね、僕らは。精々彼の親とそこそこ仲良くさせてもらっているくらいで。

 僕が顔含めた身体全体を隠すような格好だから、実は同じ学校に通う同学年のソウマ・グンダリだなんて気づいてもないみたいだし……となると本当になんで、ここまで敵視されてるんだか理解できなくて困る。

 

 泣く子も黙るAランクさんがこんな、Dランクの小石にイキらないでよ怖いよー。

 声を出すと正体がバレないとも限らないので黙っていると、それもまた気に入らないようだった。舌打ちをしてさらに、睨みつけてくる。

 こんなところで揉めたくもないので僕は黙ったままだ。もし正体がバレたら、明日から学校で凄惨ないじめが始まるかもしれない。嫌だよー。

 

「……………………」

「オーランド、そんな輩に何をムキになっている? ふふ、可愛いやつめ」

「あ? ……ムキになってねえよ、リンダ」

 

 もういいから行きなさいよーって祈ってたら、オーランドくんの後ろにいる女性陣の一人が面白そうに笑い、彼をからかう。

 こちらも見た顔だ……うちの学校の3年生、剣術部部長のリンダ先輩。他にも生徒会の会長シアン様とか副会長イスマ先輩、会計のシフォンちゃんもいる。

 全員美少女だ。うん、もっと言うとね?

 

 

 ────全員僕が好きだった女の子だ!!

 

 

 ああああ脳破壊ハーレムパーティーいいいい!!

 なんの嫌がらせなのおおおお脳が砕け散るうううう!

 

「……………………っ」

「Dランク程度で二つ名を授かりいい気になっている、ただの野良犬。"杭打ち"など……物珍しい得物を使うだけで実力など大したことはないさ、オーランド」

「分かってるけどよ、こんなやつがデカい面して冒険者気取ってるってのがどうにも我慢できねえんだよ。なんせ俺は、Sランク冒険者を両親に持つからなァ」

「ああ、分かっている。冒険者としての誇りを大事にするからこそ、このような輩がのさばっているのが許せないのだな。真面目で立派だぞ」

「へっ、よせやい」

「………………………………」

 

 ああああ心無い言葉が突き刺さるうううう!!

 好きだった子からの罵詈雑言が心を砕くうううう!!

 

 も、もう勘弁してほしい……死ぬ。このままだと身体より先に心が死ぬぅ!

 リンダ先輩のあんまりな言葉に帽子とマントの奥、僕の素顔は涙目もいいところだ。なんでこんなに嫌われてんの僕? なんかしたっけ冒険者"杭打ち"?

 

 しかも僕の悪口をダシにいちゃついてるし。拷問じゃんこれ。思春期を殺す拷問じゃないかよこれ。

 しんどいなー。

 

 迷宮に入る前からもう気分はどんよりドン底だ、今すぐ帰って不貞寝したくなってきた。

 なんだろう今日、厄日だよー。

 

「……………………」

「んんん? 急に何を、入口の前で立ち止まっとるんでござるかガキンチョども?」

 

 地獄のような空気を切り裂くように、朗らかな声が不意に響いた。オーランドくんハーレムパーティーの後ろからだ。

 見れば特徴的な、民族衣装を身に纏った美人のお姉さんがキョトンとして、僕達を見ていた。




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