ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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粛清だよー(怯)

 次々振るわれる拳。向かう先は騎士ですらない、鎧を着たボンボン達の顔面だ。

 それなりに整っているのからあんまり……って感じのまで、等しく顔に一発ずつ叩き込まれて殴り飛ばされていく。本気でやってたら今頃首無し死体の山なので、精々派手にぶっ飛んで人によっては鼻血を流している程度で済んでるのはすごい優しいと思うよ、実際。

 

「……だから、貴族のガキどもを入れるのは嫌だったんだ」

「ぐぇぁばっ!」

「……我儘で、傲慢で、他者へのいたわり一つ持たない甘やかされきった精神的養豚で」

「ごぶぁぁっ!?」

「……自分達をまるで神が何かと勘違いした愚か者ども。こんな連中を育てた親の世代も、そいつらを育てた祖父母の世代も」

「うぎょえぇぇぇあっ!!」

 

 ひ、ひどい光景だー。完全に粛清の場と化してしまった、シミラ卿による単純暴力が振るわれてぶっ飛ばされていく騎士団達を見る。

 新人らしいけど目に余る暴走っぷりだ、こうなるのもある程度は仕方ないんだけどねー……王城だか拠点だかに帰ってからやってくれないかなぁ。

 

 殴り飛ばす度、鼻血が点々とギルドの中に散らばって非常に見苦しいことになっていくもの。これ、清掃するスタッフさんによってはショックでトラウマになっちゃうんじゃないかなー。

 リリーさんとかあれで案外、荒事に弱い可愛いところとかあるからね。付き合いたいー。

 

 まあそれはともかく、無表情で淡々と騎士団の新米を殴っていくシミラ卿もシミラ卿でちょっと怖い。

 なんかストレス溜まってる感じなんだろうか、さっきからブツブツ言ってるし。どうにも情緒不安定になってるっぽいよー?

 

 怖いよー。もう帰りたいよー。レオンくん達は逃げられたんだし、結果として僕を蚊帳の外にして目の前で粛清が行われてるし、僕ももういいよねー?

 どうせ後でまた国が喧嘩売ってくるだろうけど、それはそれとして今日はもう帰りたい。依頼を受けるだけの話がとんだことになっちゃったよー。まあ、ヤミくんヒカリちゃんを助けるためなら何百回でも同じことをすると思うけど。

 

 こっそり後退りする。タイミングを見て逃げられるよう、力を溜めておこう。昔ならいざしらず、今のシミラ卿相手に逃げ切れるかは不明だけど。

 機を伺っている僕に構わず、なおもブツブツ言いながらシミラ卿は、最後のボンボンを殴り飛ばそうとしていた。

 

「全員。全員が糞だ。こんな奴らを騎士団に入れさせたやつらも、断りきれなかった私も、国も王も貴族も何もかも……糞ったれどもの掃き溜めだ」

「や、止め、やめてくださ──!?」

「私が信じていた国も、騎士団もとうに喪われた。3年前、あのパーティーが伝説となった時に。ああ、なのになぜ私はそれに気づかず意気揚々と騎士団長になどなってしまったのか──なあ、杭打ち」

「!?」

 

 なんか全員殴り飛ばして気絶させた後、急に僕を名指ししてきたもんだから反射的にビクついちゃった。超怖いよーこの人ー!

 

 3年前、僕が元いたパーティーが解散したのを切っ掛けにこの人は騎士団長に就任したわけだけど……何か悩みでもあるのか、今ではそのことを後悔しているみたいだね。

 それはまあ大変ですねお気の毒ですーって感じですけど、そこでなんで僕を呼ぶの? 勘弁してよ巻き込まないでー、マントと帽子の下では僕、ずっとドン引きしてるんですよー。

 

「お前も3年前はこんな気持ちだったのか? すべてを奪われ尊厳を踏み躙られて、どうしようもない虚無を抱えてそれでも今、そうして立ち直っているのか? ……どうしてそんなに、強くあれるんだ?」

「…………いや、僕は」

「言わなくていい、みなまで言うな。そうだった、お前は強い子だ。凄惨な生まれ育ちをしてもなお、感情を持つ機会さえ与えられなくともなお、お前は清らかで優しい心を持ち続けた。そんなお前だからこそ、再起ができたのだろうな」

「あの…………」

「私は……私にはできそうもない。少なくとももう、騎士団長としては無理だ。一縷の望みをかけて今回、こいつらを教育しようと連れてきたが結果的に吹っ切れたよ。ありがとう、杭打ち」

「………………………………」

 

 人の話を聞いてよー! そしてさり気なく僕のお陰でこの蛮行に至れたみたいに言わないでよ、罪の擦り付けだよそれはー!!

 

 何やら共感を求めてきている? のだけれど、そもそも僕はシミラ卿の言う虚無なんてものを抱いた覚えはない。

 奪われたとか踏み躙られたとかなんの話ってなものだし、なんなら勝手に挫折してそこから這い上がったみたいな扱いをされてることにこそ若干ショックを受けてるんですけど。

 

 挙げ句になんか吹っ切れたみたいに言ってくるんだから何をどう言えば良いのやら。なんかすごいアレな方向に吹っ切れちゃってそうな予感がヒシヒシとするんだけど、これ僕にも飛び火しないかなー。

 というか頼むから、ここまでやっといて自分の中で何やら満足したように自己解決するよやめてよー。事情がさっぱり分からなくて困るよー。

 

「双子についてはギルド長と連携が取れた。基本的にはギルド預かりで面倒を見つつ、時折国からの調査員が聞き取りや聴取などを行う形になる。間違っても今回のような手荒な真似はしないしさせない。それなら杭打ち、お前も杭を引き下げてくれるか?」

「……………………」

「無論今回の馬鹿どもの狼藉による被害、損害の賠償は行う。後日また、ギルド長と話を付けなければな……ああ、追加でコイツらを蹴りたくなってきた」

 

 ため息混じりに説明するシミラ卿。本当に心労すごそうだなー……宮仕えなんてするもんじゃないね、心がいくつあったって足りやしない。

 でもまあ、ヤミくんヒカリちゃんをなるべく、尊重する形で動いてくれてたんだねこの人は。下が馬鹿すぎて傲慢すぎただけで。

 

 かつては仲間だったこの人まで、人を人とも思わない輩になっちゃったのかなーって思ってちょっと悲しい思いをしそうだったけど、そうでもなくてよかったー。

 僕は満足して頷き、そっと杭打ちくん3号を下ろした。




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