ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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父性が湧くよー

 大迷宮深層調査戦隊の元メンバーだったシミラ卿への擁護はその後も続き、結果として馬鹿みたいな野次を飛ばしていた冒険者達は、そそくさと逃げ帰ることになった。

 まあ、彼らもお調子乗りなだけで極端なワルってわけでもないし。また明日にでもやってきて、いつもの通りダラダラ酒を呑んで管を巻くんだろう。そしてそれを、殴り飛ばした側の冒険者達も受け入れるのだ。

 遺恨は残さない。これもまた、冒険者達の鉄則なんだよねー。

 

「庇っていただき感謝する……本当に、ありがとう。今回の件については追って報告するが、今回のところはこれにて失礼する。改めて、ご迷惑をおかけしました」

 

 そんな絆を重んじる冒険者達の姿に、シミラ卿もどこか目尻を光らせながら再度頭を下げ、叩き出されたボンボン共を馬車まで引きずって帰っていったのが印象的だ。

 随分精神的に疲れてるみたいだったけど、この後どうせ王城でボンボンを殴り倒したことでネチネチいびられるんだろう、大変だー。

 

「騎士団長なんて糞面倒な仕事さっさとやめて、お嬢も冒険者になりゃーいいんだよ。どうせ貴族なんざ私腹を肥やすことしか考えてないゴミ以下のクズばっかなんだし、そんな連中のためにあそこまでくたびれちまうことねーんだって」

「つーかお嬢があそこまで思い詰めた感じになるとか、何してくれてんだよスカタン政治屋どもは。調査戦隊にいた頃の自信家が見る影もねえじゃねーか」

「気の毒な話だぜ、なあ杭打ち」

「……………………………」

 

 酒を呑みながらシミラ卿に想いを馳せるベテラン冒険者に、僕も内心で頷く。近くでは当時を知らない若手冒険者達もいて、しきりに僕のほうを見て瞳を煌めかせながら先輩達の話に耳を傾けているね。

 察するにシミラ卿だけじゃなく、僕も同じパーティーにいたってのを耳にして、何やら思っていらっしゃるみたいだ。

 

 このことは冒険者"杭打ち"としてあまり、大っぴらにはしてなかった経歴だ。何せ周囲への影響力がかなり高くなっちゃう類の話だからね。

 変に大層な扱いをされるのもゴメンなのでそれなりに隠してきたわけだし、今回初めて知ったって人がいるのもおかしくはないんだけれど。

 

 あんまり大々的に拡散してほしくないというか、公的には僕だけはあのパーティーにそもそも参加してなかったことになってるから、吹聴するとお偉いさんがまたぞろちょっかい出してきそうで嫌なんだよねー。

 

 まあ、その辺のしがらみもベテラン達が説明してくれるだろうからそこまで心配はしてないけれど。

 それに政治家どもも、今さら僕相手に労力を割くなんてしたくないだろうしね。何せスラムの虫けらですからー。

 

「わ、ワルンフォルース騎士団長はともかく杭打ち。あ、あんたも調査戦隊の元メンバーだったんだな……」

「道理であんな、地下86階層なんて最深部を我が物顔でうろついてたわけだわ……」

「ピィィィ……も、もしかしてレジェンダリーセブンだったりしますかぁ……?」

「? ……………………」

 

 不意に声をかけられて振り向くと、レオンくん達やヤミくん、ヒカリちゃんも戻ってきて僕を見ていた。

 何やら唖然として僕の来歴、つまりシミラ卿同様に大迷宮深層調査戦隊のメンバーだというのが本当なのか聞いてきている。彼らもやはり、そこを気にするみたいだ。

 

 略して調査戦隊と呼ばれるその集団は、3年前に解散して以降、主要メンバーが世界中に散り散りになったことも含めて今や、世界の歴史に名を刻むような伝説的パーティーだからね。

 そんなのにスラム出身の、しかもまだ子供だと思しき杭打ちが参加していたなんて信じられない話だろう。けれどレオンくん達の場合、実際に迷宮最下層部でモンスターを倒す僕を見ているわけだし……納得するしかないけどそれでも疑わしいってところかなー。

 

 あとマナちゃん、僕をあのダサいネーミングの七人組に入れないでほしい。そもそも公的には冒険者"杭打ち"は調査戦隊には属してなかったことになってるんだから、レジェンダリーセブンとかいう爆笑ものの集団になんて入っているわけがないんだよー。

 というかそもそも、そんなことよりヤミくんとヒカリちゃんだよね先に。

 僕は二人の前でしゃがみ、その顔を覗き込んだ。怖い連中が去って安堵している様子に、こっちもひとまず安心する。

 

「…………二人とも、大丈夫?」

「杭打ちさん……はい、お陰様で。あの、ありがとうございます」

「……また助けられちゃったね、杭打ちさん。この御恩は、返しきれるものじゃないかも……このお礼は必ず、どれだけ時間をかけてもするからね」

 

 二人して感謝してきた。やはり10歳の双子としては真面目すぎるくらい真面目に、健気に寄り添って頭を下げてくる。

 こんないい子達を、あのボンボンどもは物扱いしてあまつさえ、ろくでもない研究者どもの玩具にさせようとしてたんだから胸が悪くなるものを覚えるよー。

 

 やっぱり端的に言って終わってるね、エウリデのお偉い連中は。

 できればもう二度と僕の人生に関わってきてほしくないと思いながらも、僕は双子の頭にそれぞれ片手を載せ、撫でくりまわして言うのだった。

 

「……恩に着る必要も、礼をする必要もないから」

「杭打ちさん……」

「正体がなんであれ、君達は、君達のままでいい。無事で良かった」

「……ありがとう」

 

 涙を流して僕に抱きついてくる双子。あー、なんかこう庇護欲が湧くよー。

 人の親ってこんな気持ちなのかな? 子供なんていないしなんなら親だっていないからまるで分かんないけど、この子達のためなら王城の壁という壁をぶち抜いていいかなーって気になってくる。

 まあ必要もないのにそんなことしないけどねー。




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