ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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調査戦隊はすごかったんだよー(自慢)

 さてこれで、予期せぬ冒険者と騎士団のトラブルもひとまず一件落着した。ここからは予定通り、僕も依頼を受けることができるよー。

 

「と、いうわけでなんかちょーだいリリーさーん」

「緩いわねー。とてもさっきまで、あのワルンフォルース卿相手に真っ向から戦おうとしてたとは思えないくらい緩いわよ、ソウマくん?」

「えへー」

 

 頭をポリポリと掻く。あーいうのは本当は見せたくないんだよね、こんな場所でさー。

 物騒だし、怖がられるし、そうなるとモテないからねー。

 

 何より迷宮内だと一瞬の油断が命取りになるわけだから、否応なしに四六時中殺気立ってないとやってられないわけでして。

 だからこそせめて地上ではゆるーくゆるーく、やっていきたい僕なのだ。

 

 ギルドの受付、端っこのほう。僕とリリーさんのいつもの定位置で二人、誰にも聞かれない程度に密やかな声で話す。

 かといって密談って雰囲気もない、単に声が小さい人同士の会話って程度だ。でも酒呑んで騒いでる人達にはこれくらいでもまったく聞こえないから、僕の声から万一にもソウマ・グンダリに到達することはないと思う。

 

 そもそも聞き耳を立てるような輩がいたら、即座に気づいてるしねー。

 リリーさんが、先程の一件を振り返ってしみじみ語る。

 

「でもほんと、さっきは助かったわ。あなたがいてくれなかったら確実に冒険者と騎士団が衝突してたでしょうし、そうなってからだとワルンフォルース卿も強硬手段を取らざるを得なかったから」

「そうなるとシミラ卿が両者全員叩きのめして終わりだったと思うよー。あの様子だと自分とこの若手にも相当頭に来てたみたいだし、かといって喧嘩に乗った冒険者達もただでは済ませられなかったろうし」

「破壊神かしらあの女……部下の顔面を次々殴り飛ばしてたところなんて私、遠巻きに見ながら震えが止まらなかったわよ、怖くて」

 

 小刻みに震える手を見せてくるリリーさん。よっぽどシミラ卿による新米騎士達への粛清の光景が恐ろしかったみたいだ。

 いつも勝気だけど、内面的にはすごく繊細だもんねこの人、かわいい! まああの時のシミラ卿は僕でも怖かったし、そりゃそうなるよねー。

 ふう、と可憐にため息を吐いて、彼女はさらに尋ねてきた。

 

「あんな狂気の拳骨女でも、大迷宮深層調査戦隊の中では全然上澄みじゃなかったって聞くわね……本当なの? にわかには信じがたいんだけど」

「ん……まあ当時はあの人も、まだ騎士団長じゃなかったからねー」

 

 昔を振り返りつつ考える。シミラ卿も5年前と今とじゃ、当たり前だけど全然実力が違ってるからねー。

 

 5年前、迷宮都市の迷宮を攻略することを目的に世界中の手練を100人以上もの数、集める形で結成された大迷宮深層調査戦隊。

 メンバーはもちろん冒険者が多かったものの、騎士だの海賊だの山賊だの、鍛治師や錬金術師、教授だの、果ては杭を振り回すスラムの欠食児童だのと変わり種もチラホラいたのが特長といえば特長の、大規模パーティーでもあったんだよね。

 

 そしてパトロンとして金銭的支援を行っていたエウリデ連合王国からも、先代の騎士団長と当時期待の次期幹部候補と言われていたシミラ卿が参加していたんだ。

 そんな彼女の強さは、最初こそそこらの冒険者よりは強いかな? 程度だったけど最終的には当時の騎士団長級の、Aランク冒険者にも匹敵する強さを身に着けていたはずだったように記憶している。

 

 ただまあ、調査戦隊って上記の経緯で発足されたからか、異常なまでに層が厚いんだよねー。

 残念ながら今のシミラ卿でさえ、あのパーティーの中ではトップ層はおろか、上澄みとされる上位20名の中にも入れないだろうってほどだ。

 あれこれ考えつつもリリーさんに答える。

 

「今のあの人だったらそうだなあ、戦闘員の中で言うと50位くらいには食い込めそうかも。あの頃は解散間際でも下から数えたほうが早かったし、3年でとんでもなく強くなってるよねー」

「それでも50位って……さすが調査戦隊、層が厚すぎるわ。まあ、そのくらいじゃないとたった2年で迷宮を60階層も攻略するなんて、できなかったんでしょうけど」

「迷宮攻略法を編み出しながらの強行軍だったしねー。特に戦闘要員は結構、無茶なスケジュールで迷宮に潜ってたよー」

「ついでに受けていく依頼の数とペースも、あの頃とんでもなかったものねえ」

 

 当時を思い出し、なんであんなに頑張ってたんだろう? と不思議にすら思う僕だ。働きすぎだよー。

 みんなで迷宮に潜っていた日々は、血と生死の境に彩られていたけど楽しかったとは思う。あれはあれで一つの青春だったのかなとさえ、今の僕なら思えるほどだ。

 

 でもまあ、どうせならやっぱり学園で恋に溢れた青春がいいよねー! 可愛い女の子達とキャッキャウフフと騒いで送る学園の日々! これですよこれー!

 

「はあ、それで送れそうなのかしら? その日々は」

「ああああ灰色の青春んんんん」

 

 必死になってリリーさんに、僕の夢見る愛と幸福に満ちた青春を語ったところそんなことを言われ、僕は見事に撃沈した。

 くそー! いつの日か、いつの日か僕にもアオハルがー!!




タイトルとあらすじちょっと変えましたー
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