ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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モンスターすら避けて通るよー

 迷宮の正門を入り、一番最初に見えてくるのは階段だ。仄暗い地下へと続くそれは底知れない不気味さを湛えるけれど、まあぶっちゃけ雰囲気だけのものだ。

 地下10階までは別段、新米さんでもあまり梃子摺ることなく進める程度の難度でしかないからねー。

 

 出てくるモンスターも雑魚いし、階層自体に何倍もの重力がかかってるとか、異様な寒暖の差とか異常気象とかって怪奇現象があるわけでもない。

 ある意味一番、世間一般的に考える迷宮のイメージに近いのが地下10階層までなのかもしれないほどだ。

 

「…………」

「ぴぎ!? ぴぎ、ぴぎぎ」

「ごげ!? ご、ごげご」

「ぎゃあああああ! ぎゃぎゃああああああ!!」

「……………………」

 

 そんな浅層部、生息しているモンスターにとっては僕こそがまさしくモンスターなのだ、ということなんだろう。

 さっきから見かけるモンスターみんなして、僕を感知するなり悲鳴をあげて逃げていく。ただの一匹たりとて、僕に殴りかかるどころか近寄ることさえしないのだ。

 さすが野生ってところかな、実力差を即座に理解して一目散にその場を離脱するってわけだねー。

 

 大体地下50階層を降りたあたりから、僕に限らず大迷宮深層調査戦隊のほとんどのメンバーはこんな感じに、浅層のモンスターから避けられるようになってしまった。

 おそらくはそのあたりの階層を攻略するために身に着けた迷宮攻略法・威圧を与えたり身に纏ったりする技術による副作用だろう。

 

 アレを常時発動できるようにならないと、一歩だって前に進めない環境だったからね……迷宮内では無意識下でも威圧法を発動していられるよう訓練したのが仇になった形だ。

 ちなみにこの威圧法は迷宮の外では意識しないと使えないし、そもそも人間相手にはよほど強く威圧しないと効果が薄かったりするよー。

 

 本気でかけたら迷宮最深部の化物まで退散させられるような威圧に対して、全然感知するところのない人間の鈍感さを嘆くべきなのかな?

 そんな感じに主張する仲間が昔いたけれど、僕としてはむしろ威圧や威嚇に耐性があるんだと解釈して、人間の適応力ってすごい! って内心で思っていたんだけどねー。

 どちらが正しいか、それは未だに分からないことだ。

 

「…………」

 

 ともあれそんな感じで、いっさいモンスターに近寄られることもなく戦闘なんて全然起きない、平和な迷宮ピクニックと化した道を僕は進んだ。

 

 マントの上から提げた紐付きの携帯ランタンが照らすのは、狭い通路広い通路。そして小さな部屋大きな部屋。

 時折分岐路もあったりするのを、迷いなく下階への最短距離で突き進む。かつての迷宮攻略にあたり、地下30階くらいまでの最短距離は頭の中に叩き込んだからね。

 それ以降は地図がないと普通に迷うけど、少なくとも地下3階くらいまでなら問題ないや。

 

 地下2階もとりたてて特筆すべきこともなくさらに地下へ。途中、入り口同様新米さんらしきパーティーと出くわしたけど僕がモンスターにさえ怯えられていることに気づき、すげーやべーの大合唱だった。

 才能と意欲があればそのうち辿り着けるから今のうち、浅層のモンスターとの戦いを頭に焼き付けといたほうがいいよと内心でつぶやく。マジで相手しなくなるから、記憶も朧気になってなんか切なさがこみ上げる時があるんだよねー。

 

 ああ、僕ってば遠くまで来ちゃったなー、みたいなー。

 今でもたまに会う、元調査戦隊メンバーにそんなことを言ったら鼻で笑われたけど。ひどいよー。

 かつての仲間に憤りつつさらに下階へ。はい、地下3階に到着ですー。この階層あたりからしばらく、件の薬草が自生してるねー。

 

「……………………」

 

 ほうらさっそく、道端に生えてる草発見。一見なんてことのない普通の草で、ともすれば雑草と一括りに言われてしまいがちなんだけど実はこれ、薬草なんですねー。

 まずは一草ゲット。この調子であちこちに生えてるからいただこう。この階層に生えてる草だけで、目標とする量は取れちゃいそうだ。

 

 モンスターもバッチリビビって襲ってこないし、僕は余裕綽々で薬草を摘み、10本単位で束にして持参した袋に詰めていく。

 これを10束。つまり100本分の薬草をゲットすればいいだけなのだ。すごい楽ー。ガンガン取るよ、サクサク摘むよー!

 意気込んで僕は3階中の部屋、道、壁などに自然と生えている薬草を丁寧に摘んでいく。

 

 途中、地中奥深くや壁の中にぎっちり根を張ってるようなものもあるけど、そんな時のための杭打ちくんだからね。問題なく杭でぶち抜いてゲットしていく。

 床はともかく壁は、場所によってはぶち抜いた先に別の道なり部屋なりにつながることもあり得るから、一応ぶち抜く前に軽く叩いて、向こうにいるかもしれない人達に警告しておく。はい、コンコン。

 

『あら? …………えっ? あら!』

『……なんだ、今の音?』

『そこの壁からだな。調べてみるか?』

 

 おっとまさかのドンピシャリー。向こうの空間に誰かいて、今僕の起こした音に反応してるね。

 男の声と女の声。二人組? さすがに壁を隔てた空間の気配までは読み取れないねー。

 

 壁を調べようとしているみたいだけど、むしろ離れてもらえると助かるんだけどね。声掛けでもしようかな?

 そう思って口を開こうとした瞬間、別の女の人っぽい声が聞こえてきた。

 

『……いえ。むしろ離れたほうが良いでしょう』

『何? なんかあんのかよ』

『ええ、私の推測が正しければ──距離は取りました! どうぞ遠慮なく来てください!』

「!? …………!!」

 

 え。何? もしかして僕だと気づいてる!?

 まさかの呼び声に一瞬、僕は目を見開いた。




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