ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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デート?だよー!(歓喜)

 信じられないことが起きているよー! 僕がなんとあの、シアン生徒会長と二人で迷宮を歩いているのだ!

 それも横並びで、ちょっとした拍子に肩が当たるくらいの近さで! 僕のほうがちょっぴり背が低いのが悔しいけど、このシチュエーションは夢にまで見た青春の1シーンと言って過言ではないのではないでしょうか!?

 

「…………っ」

 

 なるべくこの、幸せーな時間が長く続くようにと願い、遅延にならない程度に心なしかゆっくりめに歩く。やばいー、頬が緩んで仕方ないよー。

 横目で見るシアン会長のお姿がホントもう、美しいのなんのって。携帯ランタンは会長ももちろん使ってるんだけど、胸元の少し下らへんに提げているそれが、仄かな暖かみのある光を放ち彼女を照らしている。

 すると結果として少し陰の差したお顔に見えるわけで、それがまた大人びていて素敵なんだよなー。

 

 こんな機会、今後生きていて二度もあるなんて思えないからしっかり目に焼き付けとかなきゃね!

 

「杭打ちさんといると、モンスターが逃げていくんですね……そういう技術があると聞いたことはありますが、もしかして迷宮攻略法だったりするんですか?」

「! …………」

 

 はははは話しかけられちゃった! あのシアン様と世間話してるよ、この僕がー!

 お淑やかって言葉をそのまま声にしたような、澄みきった冬の空を思わせる涼やかな振動が耳朶を打つ。はー、幸せー。

 

 内心で感激に震えながらも、興奮を抑えて僕は頷く。

 いけない、これ以上妙ちきりんな反応をして怪しまれてももったいない。僕側の都合で正体を明かせないのが心底惜しいけれど、さすがに会長といえど同じ学校の人だし仕方ない。

 シアン様はそんな僕の葛藤をよそに、またも麗しく微笑み返してくれる。

 

「すごいです……さすがです、杭打ちさん」

「……!」

「それに……ふふ。昔と変わりませんね。頼りになるのにどこか可愛らしい、でもなんだか切なくも感じる姿。あの時見た姿と、まるで変わりませんね」

「?」

 

 褒めてくれるのはすごく、すっごーく! 嬉しいんだけどー……

 え、なんか昔から僕を知ってるみたいに言ってくるよー? なんだろ、関わりなんてこれまでなかったはずなんだけど。もし知り合いだったら入学式の時点でそういう関係を前面に押し出してアプローチしてるもの。

 

 調査戦隊時代にどこかですれ違ったりしたのかな? あの頃はメンバー共通の拠点と迷宮をひたすら行き来するだけの生活だったから、あるとしたらその道中のどこかでだろうけど。

 でもシアン会長様ほど美しくてオーラのある素敵な女性を見て覚えてないなんてこと……あるねー。その頃の僕ならあり得るねー。

 

 うわーもしかしたらもったいないことしてた!? 僕、幼き日の出会いイベントスルーしちゃってたー!?

 そういうところだよー昔の僕ー。後でこうして悔いる羽目になるんだから、少なくとも可愛い人には注目しておかなきゃいけなかったんだよー。

 あーあー逃しちゃってた、特大のチャンス……

 

「……………………」

「ふふふっ! 今度はまた、なんだか落ち込んでますね。本当、分かりやすいくらい分かっちゃって可愛いですよ。私と何処かで会ったか悩んでますか?」

「……」

 

 落ち込んでいるのが分かりやすすぎたのかもしれない。またしてもクスクス笑ってシアン会長は、僕を伺うように見つめている。

 ちょっと小悪魔っぽいのいいなあ……かわいい。こんな人が毎日隣で笑ってくれていたら、どんなにか僕の人生は幸せに満たされるんだろう。ちょっと想像もつかないや。

 

 ついつい見惚れてしまういい笑顔。そんな顔をして会長は、僕との出会いについて仄めかす。

 

「それは……迷宮から出て別れ際、お教えしますね。私にとっても大事な、本当に大切な思い出ですから。道すがら、雑談程度に話したいことでもありませんので」

 

 やっぱり、本当に昔どこかでお会いしたことがあるみたいだ。それもこの人にとって本当に大切な思い出だからときた。

 なんでそんな大切なことを僕は覚えてないの? 馬鹿なのかな昔の僕、絶対馬鹿だったよ昔の僕。

 

 気になるし早く話を聞きたいけれど、できればもうちょいシアン会長と二人で歩いていたい! 相反する心!

 それでも時間とは無情なもので、ゆっくり目に歩いても地下3階程度なら、あっという間に地上に出られるくらいの距離しかない。

 わざと道に迷うとかってのは冒険者としても人間としてもアウトだし、最短距離で向かうしかなかった……ああ、お日様が見えるー。

 

 来た時に出入り口で見た新人さんパーティーといくつかすれ違いながら──とんでもない美少女を連れて歩いていたからか、しきりに視線を向けられていた。ちょっと嬉しい! ──出口へ到達する。

 草の匂いも深く、青空には太陽の煌めく爽やかな夏の日。ぼくとシアン会長との二人きりのドキドキ迷宮探索が、儚くも終わってしまったのだ。

 

「…………」

「到着、ですね……ありがとうございました、杭打ちさん。お陰で無事に外界へ戻れました」

「……………………」

 

 名残惜しいよー。寂しいよー。

 夢のような時間が終わっちゃって、僕は頷きながらも、どうしようもなく切ない気持ちに胸が一杯になっていた。




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