ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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バレてるよー!?

 柔らかに吹き抜ける風。草原、迷宮への出入り口を出て少し歩いたところで二人、僕とシアン会長は向き直っている。

 なんでもここで待っていたらじき、彼女のお家の馬車が迎えに来るらしい。もちろんシアン会長だけのね。

 僕はこのあと孤児院のあるスラムに行くから、ここでお別れだ。寂しいよー。

 

 元々予定していた時間より大分早く、着いたみたいなのでそれまではこうしていようと思う。シアン会長とお話していたいし、さっき言ってた話も気になるからねー。

 

「今日は本当にありがとうございました、杭打ちさん……それと、先日に大変な失礼をしてしまったことについても謝罪させてください」

「?」

 

 いきなり何やら謝りたいって言ってきたけど、シアン会長に何がされたっけ僕? 数ヶ月前に他の男子達に混ざって恋心が爆散させられちゃったことだろうか? でも先日の話だからなー。

 ふと思いつくのはこないだ、オーランドくんに絡まれてサクラさんがめっちゃキレた時くらいかな? でもあの時は会長、別に何も嫌なことをしなかったしむしろ優しく笑いかけてくれたから、嬉しかったくらいなんだけど。

 

 不思議に首を傾げていると、シアン会長はおもむろに頭を下げ、折り目正しい謝罪を示してきて言うのだった。

 

「グレイタスくんに絡まれた時、助けに入れたものを助けに入らなかった。結果的に彼とリンダ・ガルのあなたに対する失礼極まる物言いに、まるで私まで賛同しているかのような誤解を与えてしまいました。本当に、申しわけありませんでした」

「!?」

 

 えぇ……すごい真面目だ……

 助けに入らなかったからあの二人と同類に思われたかもしれない、だなんて気にし過ぎだよー。

 別にあの場にいたハーレムパーティーメンバーで、僕に直接あれこれ言ってきたリンダ先輩以外も同じタイプだーなんて思ってやしないのに。ずっと気にしてたんだねー。

 

「あなたがあの場を離れたあと、私含めパーティーの全員がジンダイ先生から改めて、冒険者とは身分や出自に依らずみな、公平であることをレクチャーしていただきました。残念ながらリンダ・ガルには効果は薄かったようですが……」

「…………」

「そう、気落ちなさらないでください。他のメンバーはグレイタスくん含め、みんなサクラ先生のレクチャーを受けて深く反省しました。彼女のような者ばかりとはどうか、思わないでいただけると嬉しいです」

 

 別に気落ちはしてないけれど……サクラ先生、シアン会長達にも説教かましたんだなーって驚きのほうがどっちかというと大きい。

 新米だからこそ、あえてやらかしてようがそうでなかろうが、まとめて言い含めようってつもりだったんだろうか。

 本当に正義感が強いタイプの冒険者だね、サクラさん!

 

 そしてそれを受けての、シアン会長の生真面目さだってこれでもかと伝わってくる。素敵だー。

 鼻で笑われがちな理想論を本気で受け止める姿勢がまず尊敬に値するし、それもあって僕のことをこんなにも気にかけてくれてるんだなーって喜びがジワジワ湧いてくるよー。

 

 内心テレテレしながら聞いてる僕。いやーサクラさんに感謝だなー! えへ、えへへ!

 顔が盛大に緩むのを感じながらも、僕はそれでもこればかりは、言葉にして伝えないといけないと思い、口を開いた。

 

「……ありがとう」

「! 杭打ち、さん?」

「…………別に、彼らのことを気にしてはいなかった、けど……そう言ってくれたことが、とても、とても嬉しい……です」

 

 ソウマ・グンダリとして伝えたかったけど、さすがに同じ学校の人だしまずいと自重する。

 特に会長は喧嘩別れこそしたけどオーランドくんのパーティーメンバーだったし、現メンバーの副会長や会計の人とも今後も交流自体はあるだろうし、僕の正体についてその辺から漏れられても困るからねー。

 

 だから冒険者として"杭打ち"として、せめて辿々しさでどうにか誤魔化せないかなーと祈りながらぽつりぽつり、声をかける。

 オーランドくんやリンダ先輩に怒ってくれたことじゃない。僕のことをどんな形であれ尊重してくれた、そのことそのものが心から嬉しいよー。

 本当にありがとうございます、シアン会長!

 

「はい。私も、そう言ってくださってとても、とても嬉しいです。ありがとうございます、杭打ちさん……いえ、いいえ」

「……?」

 

 ニッコリ笑って、でも少し言い淀んで俯くシアン会長。

 どうしたのかな……もしまたお会いできないかとか尋ねられたりしたらどうしよう、うへへー。

 あ、なんなら今度一緒に、秘密基地直結の地下道を探検したりなんかしちゃったりしてー。自分で思いついといてなんだけどなんていいアイディア!

 

 ひたすら自分に都合の良い妄想を展開する僕。いいじゃん思うだけならタダだし、誰にも迷惑かけないしー。

 実際は当然そういう話じゃ無さそうなんだけどね。シアン会長が、にわかに頬を染めてはにかみ、僕に告げた。

 

「驚くでしょうが、それでもあえてこの名を呼ばせてください────ソウマ・グンダリくん」

「…………!? えっ、は、え!?」

 

 ええええ正体バレてるうううう!?

 なんで!? どーいうことー!?




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