ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

70 / 280
青春するよー!

「と! いうわけで僕の青春もいよいよ本格始動するわけだよー! 羨ましい? 羨ましいー?」

「むしろその浮かれっぷりに心配になってくるぞソウマくん」

「うまく話が進んだのは結構だけど、調子に乗ってるとまたソウマっちゃうぞソウマくん」

「ソウマっちゃうって何ー!? ひどいよ二人ともー!!」

 

 騒動から一夜明けての学校。今日は一学期の終業式だけして後の時間は放課後なので、昼前に早々と文芸部室に集合しているよー。

 明日からは夏休み! 今が7月中旬だし、9月になるまでざっくり1ヶ月半はたっぷりお休みなわけだねー。

 

 ソウマっちゃうなどと謎かつ意味不明、かつびっくりするほど僕に失礼な発言をしてくるケルヴィンくんとセルシスくんと3人、例によってお菓子をつまんでお紅茶なんてしてるわけだけどー。

 今日はそれに加えてシアンさんとサクラさん、つまりいよいよ発足する新世界旅団の団長と副団長もお出でだったりする。

 僕ら同様にお菓子をつまみながら、サクラさんが僕に話しかけてきた。

 

「にしてもソウマ殿、いくらなんでも強すぎでござるよー。拙者ほぼなす術なくやられたではござらぬかー」

「昨日も言ったでしょ、あれは時の運や条件有利なのもあったってー。それにあのまま続けてたらもしかしたら逆転されてたかも」

「10秒近くも行動不能にされた時点で続きなんて無理筋にござるって知ってるでござろ! 意地悪でござるなあ、もー!」

 

 ぷんすかしている。かわいい!

 彼女ってば昨日の戦いを未だに引きずってるみたいで、主に僕の強さが想定を遥かに上回っていたことに驚いているみたいだよー。

 それでいて僕がいやいやそんなそんなと謙虚に振る舞ってるのが不満みたい。ヒノモト人は勝者はふんぞり返るものなのかもしれないけれど、僕にはできそうにないねー。

 

「大体、拙者の斬撃を全部撃ち落とした時点で実力差は明白でござるよ。アレ普通にほぼ全部ダミーでござったのに、それごとまとめて対応し切るとかさすがに落ち込ませてほしいでござる。ござござ……」

「ダミー……フェイントかしら? あれだけすさまじい勢いで繰り出していた斬撃の、ほぼすべての軌道がフェイントだったの? サクラ」

 

 紅茶を飲みつつシアンさんが、落ち込むサクラさんに尋ねる。

 サクラさんも入団して団長・副団長の関係になったこともあり、学校での立場を超えて二人は友情を結んだみたいだ。

 まだまだ新人だけど向上心豊かに強くなるための教えを請うてくる友人に、Sランク冒険者は然りと頷く。

 

「ござござ。殺気と動作の最適化、あと錯覚を利用することを極めればあのくらいは造作もないでござるよ。フェイント技術の極地と、昨日までは思っていたのでござるがねー」

「実際に極地だと思うけれど……ソウマくんはそれを上回る実力があっただけで」

「ござござー……」

 

 言われてまた落ち込むけれど、そこはシアンさんの言う通りなんだよね。あの無数の斬撃こそはSランク冒険者サクラ・ジンダイくらいにしかできない、極めきったフェイントテクニックの賜物だ。

 無数の斬撃の視覚的威圧感は半端じゃないし、大体の相手はまずそこで圧倒されて冷静でなくなる。見切れたとして、そのほぼすべてがフェイントなため今度は本命の斬撃を見つけて対応しないといけない。

 そして本命を見つけたところで対応できるかも微妙だもの。速度はそこそこながら威力がすごかったからね。

 

 シミラ卿に密着するまで持っていけた僕の杭打ちくんを、無理矢理打点をずらさせるなんて半端な膂力じゃ無理だし。

 Sランク冒険者はすべてにおいて頂点だけれど、さらに各々そこから得意分野が変わってくる。サクラさんはその得意分野が対人テクニックとパワーにあるってことだねー。

 

「そういえばそうだ、シミラ卿どうなるかなあ。一応思惑通りにいったわけだし、そうそう最悪の事態にまで追い込まれるとは思わないけどー」

「なんぞ朗らかな笑みを浮かべていたでござるし、まあ大丈夫でござらぬか?」

 

 話をする中でふと、シミラ卿の安否が気にかかる。計画どおりにはいったわけだし、マーテルさん逃走についての責任は冒険者ギルドとも折半になったから最悪には至らないと思いたい。

 でもエウリデだしなー、不安は残る。サクラさんもそこについては同感らしいけど、逆に楽しそうに獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「それに仮に国が彼女を追い詰めるとなれば、そこは冒険者達も喜々として殴り込みにかかるでござるよ。もちろん拙者も、一回くらいは偉そうにふんぞり返ってるクソどもの根城をぶった斬ってやりたいと思ってるでござるしねー」

「シミラ卿に害が及ぶなら僕も動くかなー。3年前、本当はあの城の壁という壁をぶち抜きたくって仕方なかったんだー」

「貴族としてはなんとも反応に困る話をするなあ、ソウマくんもサクラ先生も……」

「あはは……」

 

 冒険者らしい反骨心をむき出しに笑い合う僕らに、貴族のセルシスくんと冒険者だけど貴族のシアンさんが苦く笑う。

 別に全部の貴族に噛みつくわけじゃなし、相手は選ぶよー。政治屋とか大臣とか、国王とかね。

 

 だから安心してーって言ったらなおのこと苦笑いされちゃった!




ここまで第一章、次から第二章ですー
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いしますー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。