ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─   作:てんたくろー/天鐸龍

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急に試されたよー

 立てと言われて立ち上がり、広い文芸部室の空いてるところに移動する。するとサクラさんもやってきてお互い、ちょっと間隔を空けて向かい合う形になる。

 もうじきお昼だし、そろそろ下校してみんなで親睦を深める意味でもご飯を食べるとかしたいねー、などと考えているとサクラさんはその状態で、シアンさんに話しかけた。

 

「まず言っとくと、ソウマ殿……冒険者"杭打ち"は天才の中の天才でござる」

「えっ……」

「さっきシアンにも素質があると言いはしたものの、ソウマ殿と比べりゃないにも等しいでござる。なんなら拙者とてシミラ卿とてワカバ姫でさえ、彼の持つ狂気的なまでの才能の前には無能と大差ないでござるよ」

「とんでもない過剰評価だよー!?」

 

 信じられないこと言うねこの人! 僕をなんだと思ってるのさ!

 天才とか言われて褒められるのは嬉しいけどこれは行き過ぎだよ、狂気的とか僕の前には全員無能とか、表現が傲慢すぎて逆に悪口みたいになってるよー!

 何、実はこないだのこと恨んでるの? アレそんなに引きずることじゃないでしょ、さすがにー。

 

「うん?」

 

 ────と、突然サクラさんの右腕がブレた。僕めがけて拳を振るってきたのだ。

 目にも止まらぬ速さのジャブだけど問題ない、僕は首を逸して回避する。鋭く風を切る音が部屋中に響き、衝撃で軽い突風も巻き起こる。

 唖然としてみんなが見る中、僕は一言尋ねた。

 

「え、何いきなりー?」

「これでござるよ……堪んねーでござるねー!」

 

 やるせなさと、それ以上に嬉しさを秘めた声色で笑みを浮かべてさらにパンチを投げてくる。敵意も殺気もないからシアンさんへの講義の一環なんだろう、続けて首を左右に逸らすだけで避ける。

 早いのは早いけど単調だし狙いも顔だから避けやすい。シミラ卿の突きと同じだね、フェイントを織り交ぜてきたらまたちょっと対応も変わるだろうけど、このくらいは普通に対応できるよー。

 

「っしゃあっ!!」

「スキありー」

 

 あんまり避けてくるからちょっとイラッと来たみたいだ、当てるつもりもないくせに動作がほんの少しだけ大振りになる。

 さすがにそれは見逃せませんねお客さんー。僕は即座に腰を落として左脚を彼女の側面に踏み出し、腰の回転を効かせた右腕を一つ振るって鞭のようにしならせた。

 パンチを最小限の動きで回避しつつ、アッパーをサクラさんの顎へと打ち上げる形で放つ──寸前で止める。

 

 勝負ありってところかな? 急に始まったから何をもって勝ち負けが決まるのかは分からないけど、実戦なら僕がカウンターで顎を撃ち抜き、それでサクラさんは行動不能だ。

 あとは煮るなり焼くなり僕の自在となる。

 

 まあ本気で実戦って話をしだすとそもそも得物を持ったり迷宮攻略法を使ったりと条件が大きく変わってくるからなんとも言えないけどねー。

 ともあれ右腕を戻して体勢を戻すと、サクラさんは一筋汗を垂らしながら僕に詫びを入れてきた。

 

「ふう、失礼仕ったソウマ殿。シアンには見せるが早いと思ったゆえ。怪我は……当然ノーダメージでござるよね」

「首痛いですー、後で擦ってほしいですー」

「良いでござるよー。付き合ってもらった礼にそのくらいさせていただくでござる。さてシアン、あるいは他の方々もでござるが、今のやり取りを見て思ったことはあるでござるか?」

 

 やった! サクラさんに首を擦ってもらえるよー!!

 思わぬ展開だけど最高の報酬ゲット! 今日の僕はついてるよ、わーい!

 内心はしゃぐ僕に構わずサクラさんは、シアンさんはじめ今のやり取りを見ていた者達に尋ねる。まるで講師……っていうか実際に講師なんだけど、師匠らしい振る舞いが似合うなー。

 

 さておき急な流れと質問。けれど真剣に見学していたシアンさんが、今の質問に答える。

 

「……まずは動体視力の異常さ、かしら。唐突な奇襲、しかも至近距離からの拳に対して対応しきった。そこに意識が向いたわ」

「避け方、すごいですね……体を軽く、クイクイってするだけで今のとんでもない速さのパンチを次々避けるなんて……」

「動きが若干気持ち悪かったぞソウマくん」

「というか何がなんだか分からなかったぞソウマくん」

「それは僕に言わないでよー!」

 

 いきなりしかけてきたサクラさんに言いなよー! 冒険者じゃない親友二人はそこまで真剣に見てないから、概ね僕へのからかいに留まるねー。空気が和むから助かるよー。

 でもシアンさんとレリエさんは、今後強くなる必要が明確にあるから真面目に答えてきた。動体視力と効率のいい回避法、どっちも大切だねー。

 サクラさんも一つ頷き、答える。

 

「突発的な攻撃をも完全に見切る目の良さ。そしてそれを最低限の動きでのみ回避する体捌き。それらもあるでござるね」

「……他にもある、のよね? サクラ」

「無論──彼の本当に凄まじい点。それは一言でいうと心構えでござる」

 

 そう言ってサクラさんは僕の手を取り、また席に戻った。デモンストレーションはしたから、あとは座学での授業みたいだ。

 でも心構えかー……前にもレイア達にその辺を言われたことはたしかにあるねー。着眼点が同じってあたり、やっぱりサクラさんもSランクとして相応しい実力者なんだよー。




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