私は、この世界に居る意味があるんですか?

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アルトリアもどきのSAO

「ついにこの日が来ましたか……」

 

 ヘッドギア状のフルダイブ型VRマシン【ナーヴギア】を両手で持ちながら、確かめるように口に出す。

 

 今日は2022年の11月6日。全世界が待ちに待ったナーヴギアの性能を完全に引き出せる世界初のフルダイブ型VRMMORPG【ソードアート・オンライン】の正式サービス開始日。

 

 私もその正式サービスを待っていた。けれど同時に、来て欲しくなかった。

 

「杞憂なら良いのですが……」

 

 私は知っている。このゲームが――ソードアート・オンラインが。

 

 ログインしたが最後、クリアするまで抜け出せない電子の牢獄となり、そしてゲーム内での死が現実での死を引き起こす、未曾有のデスゲームとなることを、ず(・)っ(・)と(・)前(・)か(・)ら(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 そのことに気付いたのはかなり最近のこと。学校から家に帰っていつものように惰性で見ていたテレビに【茅場晶彦】の名前がニュースで流れて、初めて気付いた。

 

 確かめるために中学生になったんだからと持たされたスマホを初めて電話以外の用途で使って、慣れないながらも調べて――そうして見つけたソードアート・オンラインの文字で、ようやく確信が持てた。

 

 この世界は、鍍金(めっき)の勇者が生まれる世界。

 

 確信を持った私はすぐに動いた。もう見慣れてしまった見知らぬ両親に初めてワガママを言ってナーヴギアを買ってもらい、SAOのベータテストにも幸運A+で当選。そうして手に入れた2ヶ月の予行練習の時間を、仮想世界への適応と情報集めに費やした。

 

 真っ当に出来る準備は多分、全部やったと思う。

 

「……私に、助けられるかな」

 

 もし本当にソードアート・オンラインが私の知るデスゲームだったなら、詳しい数字は覚えていないが4桁以上もの人間が死ぬ。私はそれを減らしたい。

 

 杞憂ならそれでいい。単純にあの鋼鉄の城を楽しもうと思う。けれどもし本当にデスゲームで、私がその犠牲者を減らせたのなら――

 

 

――私は、この世界に居る意味があったと思えるんです。

 

 

ピピピピッ! ピピピピッ!

 

「っと、そろそろ時間ですね」

 

 正式サービス開始時刻の5分前を知らせるスマホのアラームを止め、ナーヴギアにベータテストの2ヶ月間ですっかり慣れてしまったコード類一式の接続をしていく。1分もしない内にコード類が繋ぎ終わったそれをベッドの枕元に置いて、私は体(・)内(・)か(・)ら(・)取(・)り(・)出(・)し(・)た(・)鞘を撫でた。

 

「頼みますよ、【全て遠き理想郷(アヴァロン)】」

 

 鞘を再び体内に納め、私はナーヴギアを被ってベッドに横になった。

 

 ナーヴギアの画面の左上に映る12:59の数字が変わると同時に、始まりの言葉を告げる。

 

「リンク・スタート!」

 

 言葉と共に身体の感覚が遮断され、電子の中の五感と繋がっていく。

 

 touch(触覚)、Sight(視覚)、Hearing(聴覚)、Taste(味覚)、Smell(嗅覚)。次々とチェックされOKされていく項目を通り過ぎ、Language(言語)をベータテストの時に設定したJapanese(日本語)のまま決定。

 

 そうして辿り着いたログイン画面でアカウントとパスワードを入力する。

 

 

 キャラクター登録 

 

βテスト時に登録したデータが 

残っていますが、使用しますか?

 Arthur(M) 

 YES      NO 

 

 

 パスワードを入力し終わると同時に出て来た画面に一瞬怯む。

 

 このArthur(アーサー)という名前のアカウントは、ベータテストをするに当たって女性キャラだと変なのに絡まれるんじゃないかと思った私が『プロトな方』を参考にして作った男性キャラだ。

 

 結構頑張って外見を整えた密かな力作だけど、それも数時間後には茅場晶彦が配布する手鏡によってリアルの私の物に変えられてしまう。唯一、その名前だけを残して。

 

 今までは気安く名乗れた名前だった。けどこれからは違う。デスゲームに乗り込む以上――誰かの命を背負う以上。私は、この名前も背負わなくちゃいけない。

 

 多くの人が笑っていたから、その営みを尊く思ったからこそ剣を抜いた、かの騎士王の名を。

 

 覚悟を決めてYESを選択する。

 

 

 

Welcome to

Sword Art Onlien!

 

 

 

 ――目を開くと、そこは街の中だった。

 

 【はじまりの街】。百層からなる【浮遊城アインクラッド】の第一層にある、すべてのプレイヤーが最初に降り立つ街。

 

 既に大勢のプレイヤーが現れ、今も続々とプレイヤーが現れるそこに、私も立っている。

 

「ただいま、ソードアート・オンライン」

 

 ベータテスト振りのこの世界に、ここがデスゲームだと知りながらもワクワクしている自分がいる。予習目的でベータテストに乗り込んだ私だけど、それを忘れさせるぐらいこの世界は楽しかった。

 

 本当に、デスゲームなのが勿体ない。そう言わざるを得ない。自分の存在理由にこのデスゲームを求めてしまった私でさえそう思う。

 

「っと、そうだ」

 

 右手を縦に振ってメニューを開く。ベータテストでは一番下にあったログアウトボタンを探すが――やはり、そこには空欄しかなかった。

 

「正真正銘、電子の空に浮かぶ鋼鉄の城か」

 

 浮遊城とはよくいったものだ。そんなことを考えながら、折角開いたのだからとメニューのOption(設定)から、メニューの表示設定をPrivate(プライベート)に変更する。こうすることで、システム的に他人が私のメニューを見ることは出来なくなった。

 

 他の設定も手早く弄り終えた私は、武器を買おうと歩き出した。

 

「ねぇ、あれアーサーじゃない?」

「うわっ、本物だ!」

 

「……?」

 

 遠巻きから聞こえてきた声に足を止め振り向く。そこには身を寄せ合いながらこっちを見ている3人組がいた。

 

「こっち見た!」

「お前声かけて来いよ!」

「おい押すなって!」

 

「やぁ、どうかしたかい?」

 

 ベータテスト中はずっとしていたアーサーのロールプレイ口調で声を掛ける。

 

「うわっ!?」

 

「驚かせてしまってすまない。どうやら僕のことを話していたようだったから、つい声を掛けてしまった」

 

「い、いえ!」

 

「むしろ声を掛けて頂けて光栄です!」

 

「光栄?」

 

 そんな風に思われるほど何かした覚えはない。訳が分からず首を傾げていると、親切にも教えてくれた。

 

 彼ら曰く、ベータテスト時のスクショがいくつかネットに流れていて、その内の1枚に写っていた私のアバターが話題になったらしい。

 

 『プロトな方』を参考にしたこのアバターは、金髪碧眼の外国人的なイケメンアバター。それで『SAOのキャラメイクはこんなにも精巧なイケメンを作れるのか』と、ただでさえ高かったSAOへの関心が更に高まっていたらしい。ネットの反応なんて調べていなかった私には寝耳に水だ。

 

「そんなことになっていたのか……」

 

「アーサーさんはネットとか見ないんですか?」

 

「恥ずかしい話、自分用のパソコンを持っていなくてね。スマホもネットを見るのに使ったことがほとんどないんだ」

 

「へ~、今時珍しいですね。」

 

 幸いネット環境は整っていたから『SAOをやるために親にネット回線を引いてもらう』何てことにはならなかった。ナーヴギアを買ってもらうのだけで私には精一杯だったのに、ネット回線までなんて申し訳なさでいたたまれなくなる。

 

「アーサーさんはどうしてSAOに?」

 

「ここじゃないと出来ないことがあってね」

 

 ──そう、私はここでしか出来ないことをしに来た。

 

 気が付いたら私はこの世界にいた。死んだ覚えもないのに、流行の転生物みたいな状況になっていた。もう見慣れてしまった、知らない人たちの子どもとして存在していた。

 

 憑依とも転移とも思えなかったのは、この身体が明らかに『彼女』めいていて、尚且つ『彼女』の能力と宝具を持っていたから。憑依だとするなら現代に生きているのに宝具を持っている訳がないし、転移だとするには身体が違い過ぎる。そんなの転生というしかなかった。

 

 気が付いたらそんなことになっていた私は、最初夢としか思えなかった。でもいつまで経っても覚める様子はないし、『彼女』の能力が必要になりそうな事態も起こらない。転生前とさほど変わらない世界に、ただ1人の異物として私が居る。『私がこの世界に居る意味は何だろう』と、考えずにはいられなかった。

 

 持ち主に不老を与える聖剣とその鞘があるのに日に日に成長していく身体について考えることさえ放り投げ、ただその日の時間を惰性で過ごす日々。

 

そ(・)ん(・)な(・)時(・)間(・)が(・)1(・)0(・)年(・)過(・)ぎ(・)た(・)。

 

 ただ空気を消費して、食事をして、学校に通う。それだけの10年間は、私が居る意味なんてどこにもない10年間だった。

 

 そんな日々の中、見ていたニュース番組で茅(・)場(・)晶(・)彦(・)の存在を知った。

 

 聞き覚えのある名前だった。ほとんど忘れてしまった10年以上前の知識に引っ掛かる名前だった。だから調べて、そしてこの世界が鍍金の勇者の生まれる世界だと確信した時、私は『これだ』と思ってしまった。

 

 私なら、デスゲームの犠牲者を減らせるんじゃないか。

 

 考えだしたら止まれなかった。私は私の存在意義を求めて、親にワガママを言ってまで自分からこのデスゲームに参加した。ここで誰かを助けられたなら、私にもこの世界に居る意味があったと思えるから。

 

 どこにでもいる誰かだった私が、この世界に居る意味が。

 

「そうだ。教えてくれたお礼としては何だけど、少しSAOのコツについてレクチャーしようか?」

 

「いいんですか!?」

 

「ぜひお願いします!」

 

 ふと思いついたことを提案すると、3人は嬉しそうにそう言って頷いてくれた。

 

「それじゃあ、まずは武器を買いに行こうか」

 

 3人を先導しながら、ベータテスター御用達のちょっとだけお得な武器屋に向けて出発した。

 

 そして――

 

 

 

 

《――プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ》

 

 2022年11月6日、午後5時30分。

 

《私の名前は茅場晶彦》

 

 初期ロット10000本を売り上げ、全世界が待望していた仮想世界は。

 

《今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ》

 

 ログアウトできず、ゲーム内での死が現実での死を引き起こすデスゲームとして、幕を開けた。




 Tips:主人公
 気付いたらアルトリアもどきになってSAOの現実世界に居た推定転生者。見知らぬ両親の下で肉体年齢5歳の頃から10年間この世界で過ごしているが馴染めておらず、精神的に参っていた。
 SAO世界だと気付いてからは既にうろ覚えの原作知識から『自分なら犠牲者を減らせるのではないか』と考えSAOに乗り込んだが、予習のためにと始めたベータテスト版が想像以上に楽しかったのでデスゲームじゃない普通のSAOを遊びたいとも思っている。
 この後は死ぬかもしれない恐怖と絶望で大混乱に陥った広場のプレイヤーたちを落ち着かせ、大多数のプレイヤーがいる《はじまりの街》のまとめ役として第一層が攻略されるまでの1ヶ月間、様々な施策を講じる。その結果第一層が攻略される1ヶ月間で約2000人を記録する死者数を約1000人に減らしてみせたが、本人が原作で何人死ぬのかを覚えていないので4桁の死人が出た時点でとてつもなく曇る。
 因みに死んだ約1000人の内213人はチュートリアルまでに家族や友人にナーヴギアを外された結果の死者で、残りは主人公の目や手が届かないフィールドや迷宮区に出てトラップにかかったりモンスターとの戦闘で死んだ人たちなのでどうしようもなかったりする。

 余談だがゲーム内の死者を減らそうと内政等に力を入れるほど自分のレベル上げが滞るためデスゲーム化したSAOとの相性が凄まじく悪い。そのくせ本人のスペックが恐ろしく高いせいで困ったことが起こる。

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