戦姫絶唱シンフォギア 装者と鋼の勇者達   作:宇宙刑事ブルーノア

19 / 162
第17話『クリスと両親と小父さんと………』

「叔父さん! 一体何処まで行くんだよ!?」

 

「黙って居ろ………」

 

背負ったロケットで空を飛ぶロケットマンにしがみ付いた状態で、都心の方へと向かっていた。

 

何時しか日はすっかり傾いており、辺りを夕闇が包み込み始めていた。

 

やがて駅前らしき場所へと到達したかと思うと、そこを見下ろせるビルの上に着地するロケットマンとクリス。

 

「見ろ、クリス」

 

「ああ? 一体何………を………」

 

ロケットマンに促されて、駅前を見下ろしたクリスが思わず固まる。

 

そこには………

 

「お願いしまーす! 娘を探して下さい! お願いしまーす!」

 

「お願いします! クリスを探して下さい!」

 

帰宅ラッシュで賑わう中で、手作りと思われるチラシを配っている男女の姿が在った。

 

「パパ………ママ………如何して?………」

 

それは正しく、クリスの両親………『雪音 雅律』『ソネット・M・ユキネ』であった。

 

「お前が行方不明になって以来、2人はああしてチラシ配りをしているのだ。それこそ毎日な………」

 

そう説明するロケットマンの視線も、2人に向いている。

 

「お願いしまーす」

 

「お願いします」

 

帰宅ラッシュの雑踏の中で懸命にチラシを配る2人。

 

しかし、受け取ってくれる人は少なく、受け取ってもすぐに捨ててしまう様な者まで居る。

 

それでも2人は、完全に暗くなるまでチラシを配り続けていた………

 

「………ソネット、今日のはこの辺にしておこう」

 

「でも………」

 

「また明日仕事が終わってから配ろう」

 

「………そうね」

 

帰宅ラッシュ時間を過ぎ、人通りが疎らになったのを見て、雅律とソネットは漸く帰路に着く。

 

「…………」

 

「行くぞ………」

 

呆然となっていたクリスの手を引き、ロケットマンは2人の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雅律とソネットは駅から暫く歩いた後………

 

築何10年経っているだと思う様なオンボロアパートの1室へと入って行った。

 

「な、何であんなとこに………」

 

「お前を探す費用を捻出する為に、2人は財産と呼べる様な物を全て売却してしまったのだ」

 

「! そ、そんな………」

 

「雅律に至っては、自らの命とも言えるヴァイオリンもな………」

 

「!?」

 

ロケットマンから放たれた言葉に愕然となるクリス。

 

ヴァイオリニストである雅律にとって、ヴァイオリンは正に命そのものである。

 

クリス自身も、幼少期に無断で触ろうとしてこっ酷く怒られたのを良く覚えている。

 

そのヴァイオリンを自分を探す為に売却してしまった………

 

「…………」

 

「今の2人の暮らしぶりを見てみるか?」

 

「…………」

 

ロケットマンに尋ねられて、クリスは重々しく頷く。

 

正直言って、コレ以上見るのは耐えられないが、それでも全て見なければならない………

 

何故ならコレは自分が招いた結果なのだから………

 

雅律とソネットが入った部屋の前に立つロケットマンとクリス。

 

如何やらこのアパートに、2人の他に住人は居ないらしい。

 

「…………」

 

ロケットマンが出入り口のドアノブに手を掛けて音がしない様にゆっくりと回すと、扉はアッサリと開く。

 

鍵が壊れているのか、それとも元から付いていないのか………

 

扉を僅かに開け、中の様子を窺うロケットマンとクリス。

 

部屋の内装も、外観に違わずボロボロであり、家具や私物らしい物が殆ど無かった。

 

「クリス………何処へ行ってしまったの?」

 

「大丈夫だよ、ソネット。きっと見つかるさ。ロケットマンさん達も一生懸命に探してくれてるんだから」

 

そんなボロボロの部屋の中心で泣いているソネットを、雅律が慰めている。

 

「…………」

 

そんな2人の姿を見て、胸が締め付けられる様に痛むクリス。

 

とその時、部屋の中に在った時代が掛かった黒電話が鳴った。

 

「ハイ、雪音です………ハイ………そうですか………分かりました。ありがとうございます………ハイ、引き続きお願いします………ハイ、失礼します」

 

雅律が出ると、そんな遣り取りをして受話器を置いた。

 

「○○興信所からだったよ。残念だけど、まだクリスの事は見つけられていないそうだ」

 

「そう………」

 

「追加調査費用を稼がないと………暫くはまた節約だね」

 

「大丈夫よ。この前パート先でパンの耳や野菜くずを沢山貰ったから」

 

何とも涙を誘う台詞がソネットの口から出る。

 

良く見れば、雅律とソネットの頬は痩せこけており、髪もボサボサで、来ている服も継ぎ接ぎだらけという有様だった。

 

「!!………」

 

とうとう居たたまれなくなったクリスは、その場から逃げ出そうとする。

 

「待て!」

 

しかし、ロケットマンがその腕を掴んで止める。

 

「! 離せっ! 離してくれよ、小父さん!」

 

「コレがお前の望んだ光景だろう! お前の望んだ、夢を諦めた両親の姿だろう!」

 

「! ち、違う! アタシは! アタシはこんな事を望んでたんじゃない!!」

 

目に涙を溢れさせ、必死に否定するクリス。

 

「誰か居るんですか?」

 

とそこで、騒ぎを聞き付けた雅律が扉を開けて出て来た。

 

「! あっ!?」

 

「久しぶりだな、雅律」

 

思わず固まるクリスを余所に、ロケットマンは雅律に挨拶する。

 

「ロケットマンさん? それに………クリス?」

 

ロケットマンの姿を確認した後、その横に居たクリスの姿を見て、今度は雅律が固まる。

 

「えっ!? クリスッ!?」

 

雅律の言葉を聞いたソネットも慌てて室内から飛び出して来る。

 

「パパ………ママ………」

 

久しぶりに目にした両親の変わり果てた姿に、クリスは更に居たたまれなくなる。

 

「「! クリス!!」」

 

クリスの声で我に返った雅律とソネットが、クリスに近づく。

 

「!!」

 

思わず身構えて目を閉じるクリス。

 

怒られる………それどころか殴られるかも知れない………

 

当然だ………2人があんな惨めな目に遭っているのは自分のせいなのだから………

 

ひょっとしたらお前なんかもう娘じゃないと言われるかも知れない………

 

そうなっても………仕方のない事だ………

 

自分はそれだけの事をしたのだから………

 

クリスの胸中にそんな思いが過る。

 

しかし、その次の瞬間にクリスが感じたのは………

 

柔らかな感触と優しい暖かさだった。

 

「………えっ?」

 

「クリス! 本当にクリスなのね!!」

 

「ああ、良かった! 無事だったんだね、クリス!!」

 

戸惑いながら目を開けたクリスが見たのは、大粒の涙を零しながら自分を強く抱き締めてくれているソネットと雅律の姿だった。

 

「何………で?」

 

「クリス、ゴメンよ………クリスの言う通り、僕達が馬鹿な夢を見ていたせいで………」

 

「そのせいで貴方が居なくなってしまって………凄く後悔したわ。自分の娘も幸せに出来ないのに、如何して歌で世界の平和になんて言えるのって」

 

「! 違う! 違うんだ!! 馬鹿なのはアタシだ! パパとママの夢の事を理解しようともせず、勝手に飛び出して………それで、あんな………あんな事を………」

 

懺悔するかの様に、今まで自分が行って来た事を包み隠さずに話すクリス。

 

「今まで散々パパとママの夢を否定する事をして、こんな惨めな生活をさせる様にしちまったアタシにこんなこと言う資格は無いの分かってる………でも! それでも言わせてくれ! パパ! ママ! 夢を諦めないでくれ!!」

 

何時しかクリスも大粒の涙を流しながら、雅律とソネットに向かってそう叫ぶ。

 

「「クリス………」」

 

クリスの懺悔と告白を聞いた雅律とソネットは、再びクリスの事を強く抱き締める。

 

「やっぱり………貴方は私達の娘ね」

 

「ああ、ホント………優しいクリスのままだ」

 

「パパ………ママ………アタシ………」

 

「もう良い。もう良いのよ、クリス」

 

「そうだ。ココからやり直して行こう………また家族3人で」

 

「! アタシの事………まだ家族だって思ってくれる?」

 

「当たり前だろう!」

 

「貴方は雪音 クリス………例え何があっても、私達の娘………大切な家族よ」

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

そこでクリスは、堰を切った様に大声で泣き始めた。

 

「「…………」」

 

そんなクリスを、雅律とソネットは涙を浮かべたまま優しく抱き締め続ける。

 

「…………」

 

そしてロケットマンは、そんな姿を見守りながら、何処からともなく『()()()』を取り出し始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫し時が流れ………

 

「ヒック………ヒック………」

 

若干愚図りながらも、漸くクリスが落ち着きを取り戻す。

 

「「クリス………」」

 

「パパ………ママ………」

 

「「………おかえり」」

 

そう言ってクリスに微笑む雅律とソネット。

 

「………ただいま」

 

それを受けて、クリスも心からの笑顔を浮かべるのだった。

 

「………ロケットマンさん。ありがとうございました。クリスを見つけてくれて」

 

「本当にありがとうございます」

 

そこで雅律とソネットはロケットマンの方に向き直ったかと思うと、改めてお礼を言う。

 

「気にするな。私は世界忍者として引き受けた仕事を果たしたに過ぎん………それより、雅律。コレはお前への餞別だ」

 

ロケットマンはそう返すと、取り出していた『ある物』………ヴァイオリンケースを差し出す。

 

「このヴァイオリンケースは?」

 

「開けてみろ」

 

促されて雅律はヴァイオリンケースを開ける。

 

そこには外観通りに1挺のヴァイオリンが入っていた。

 

「! こ、コレは!? まさか!?………」

 

しかし、雅律は驚愕しながらそのヴァイオリンを手に取る。

 

「! やっぱりそうだ! コレは私のヴァイオリン!」

 

「!? ええっ!?」

 

「ホントなの、アナタ!?」

 

そのヴァイオリンが、手放してしまった自分の物である事を確信した雅律が声を挙げ、クリスとソネットも驚きの声を挙げる。

 

「ああ、間違い無い! でも、如何して?………」

 

「闇市に流れていたのを俺が回収して於いた」

 

驚いたままの雅律に、ロケットマンがそう告げる。

 

「アラ? まだ何か?………」

 

とそこで、ソネットがヴァイオリンケースの中に、まだ紙の様な物が残っていた事に気付き、それを手に取る。

 

それは、見た事も無い様な桁の金額が掛かれた小切手だった。

 

「! ア、アナタ! コレッ!!」

 

「!? こ、この小切手は!?」

 

「お前達が売り払ってしまった財産の額に少し色を付けておいた。それで元の生活に戻ると良い」

 

「こ、こんなの受け取れれませんよ!!」

 

小切手をロケットマンに返そうとする雅律だったが………

 

「勘違いするな、雅律。その金は俺からお前達への仕事の依頼金だ」

 

「依頼金?」

 

「そうだ。依頼内容は………『()()()()()()()()()()()()』だ」

 

「「「!!」」」

 

ロケットマンからの仕事の依頼内容に驚愕する雪音一家。

 

「私も戦争は嫌いだ。だが世界忍者である私には戦う事しか出来ない………だからこそ、お前達の夢に賭けたい。戦わずに平和を作る事にな」

 

「ロケットマンさん………分かりました」

 

「そう言う事でしたら、ありがたく受け取らせて貰います」

 

雅律とソネットは、ロケットマンの気持ちを汲み、小切手を受け取るのだった。

 

「小父さん………」

 

「クリス。暫くは家族と過ごせ。数年ぶりなのだからな………二課の方には私から言っておく」

 

「………ありがとう、小父さん」

 

クリスも、ロケットマンに向かって笑顔でお礼を言う。

 

「………では、家族水入らずの邪魔者はそろそろ退散するとしよう。さらばだ」

 

そう言うと、ロケットマンは踵を返してその場から去って行った。

 

「「「…………」」」

 

その姿が見えなくなるまで、雪音一家は頭を下げて見送ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

その日、クリスは雅律、ソネットと共にボロアパートの狭い1室で、狭い布団の中に3人で横になって一晩中ずっとお喋りをしていた………

 

失った時間を埋めるかの様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ロケットマンに連れられたクリスは、今の両親………雅律とソネットの姿を目撃します。
クリスが行方不明となった日から、2人はずっとクリスを探し続けており、その為の費用を捻出する為に財産を粗全て処分するまで行っていました。

極貧暮らしをしている両親を見て罪悪感に押し潰されそうになるクリスでしたが、両親はクリスが無事帰って来てくれた事で十分でした。
ロケットマンのちょっとしたフォローもあり、雪音一家はまた家族に戻れたのでした。

さて次回は響達デート回です。
今作では奏は居る事に加え、藤兵衛や勿論轟もちょっと関わってきます。
幕間の息抜き回みたいな感じになりますね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。