少し強めの風が吹く中、僕は学校に向かっていた。
朝Alexaに聞いたところ今日の最低気温は6℃だと言っていたので、トレンチコートと手袋を身につけている。
マフラーがないので首元が少し寒い。これからもっと冷えると思われるので早めに用意しなくては。
「渋谷さん。大丈夫かな」
昨日の彼女の様子を見るにかなりまいっているように思えた。それもそうだ。あんなゲームがまだ続くと知ってしまえば普通はそうなるだろう。
学校に着いたら声をかけてみようかな。
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「それでね。まじでここがおもろくてねー」
「あはは。なりそれ〜」
学校に着くとそこには元気そうに友達と仲良く喋る彼女の姿があった。
どうやら杞憂だったようだ。渋谷さんは強い子なのだろう。
元気なら元気で何よりだと思い自席でライトノベルでも読んでいると渋谷さんが近づいてきた。
「おはよう。秋葉くん」
「お、おはよう。渋谷さん」
「それ、なんて本?」
「え、ああ。これは【ソードアート・オンライン】だよ」
「へー面白そうだね。じゃあお昼ご飯の時に話聞かせてよ。それじゃあまた後でね」
「わ、分かったよ。また後で、、、」
びっくりしたー! なに、どういう風の吹き回し。もしかして友達になって欲しいって言ったから?
それにしてもあんな風に女の子と話したのはいつぶりだろう。なんか凄い。これだけで今日一日ハッピーな気分だ。
全能感を感じながら授業を受けているといつの間にか午前中が終わっていてお昼休みになっていた。
とりあえずいつもの場所に向かうとそこにはもう渋谷さんがいた。
「はやいね。渋谷さん」
「うん。秋葉くんに話したいことがあってさ。これを見て欲しいの」
そう言いながらコンパクトを取り出される。コンパクトの上にはホログラムのようなものが映し出されていた。
次回転送まで残り6日
なるほど。どうやら次からはいつ転送されるかが表記されるのか。
それにしてもマッチングってなにとだろう。
「これは昨日から出てきたんだけど、どうやら私たちにしか見えないらしいの。それでね、今回のゲームもお願いしたい、、、」
そういう彼女の身体は震えていた。やはり怖いし不安なのだろう。どうやら今朝は気丈に振る舞っていたらしい。それでもまっすぐ目を見て話してくれた。
「僕は全然手伝うけど、渋谷さんは大丈夫なの?」
「確かに怖いよ。凄く痛いし、辛い。でも私には秋葉くんがいてくれるから、秋葉くんに助けて貰ってるから頑張れる」
「そっか。そう言われたら頑張るしかないな」
はぁ──心が、心が浄化されていく。
可愛いがすぎるんだが。見た目も心も綺麗な子が僕のおかげだとか言ってるんだぜ。そりゃ頑張るしかないよなぁ!
「ありがとう。はは、なんだかいつもありがとうって言ってる気がする」
「気にしなくても大丈夫。なんたって僕たちは友達だからね」
その後は昼飯を食べながら、今朝聞かれた【ソードアート・オンライン】の話をして昼休みを過ごした。それはまさしく幸せに満たされた時間だったと言えるだろう。
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あれから6日がたった。つまり今日が転送の日だ。
ただこれまでとは違い、お互い覚悟は決めてきている。恐れがない訳では無い。それ以上に渋谷さんは僕を信頼してくれているし、僕はそんな渋谷さんに応えたい。ただそれだけだ。
コンパクト鳴り響き、転送が始まる。
転移先はいつもの森で変わらなかった。
だが、そこには僕たちとは別の人がいた。
「え、、、人、、、?」
【改めまして、チュートリアルクリアおめでとうございます! これからはクマのようなザコキャラではなく、その都度戦況によって戦い方が変わってくる知恵と勇気の、、、】
やはりそうか、なんとなくそんな気はしていた。マッチングとは対戦相手が決まったということだろう。そもそもドレスタは対人戦のゲームだ。チュートリアルが終われば次は本番だものな。
けれども信じられなかった。いや、信じたくなかった。だってそれは、渋谷さんに人を殴らせなきゃいけないということじゃないか。
肝心の渋谷さんは混乱している。というよりも戦慄していて身動きをとれずにいた。
このままではまずいと思い、この前手に入れたカードで変身させる。
「な、どうして変身を、、、」
渋谷さんは戸惑いを隠せないでいるが事は急を要す。このままでは無防備と言ってもいいからだ。相手も合わせて変身をしてくる。
ただ僕は手を出せないでいた。
その隙に相手は攻撃を仕掛けてくる。それをガードするが反撃を仕掛けられない。
このままではまずいと思い、すぐに別のドレスに変身させる。そのまま渋谷さんを筐体まで戻すと次の瞬間、転移した。
「え、どこここ」
「僕のもつエスケープ効果のあるドレスで転移したんだ。これでしばらくは時間を稼げるはず」
そうは言ったものの根本的な問題は解決していない。逃げはただの現実逃避にしかならない。
「ねぇ、秋葉くん。どうしたらいいの。急に対人戦って言われてもわかんないよ。あの子と殴り合わなきゃいけないの? そんなのって、、、」
予想通りの反応が渋谷さんから返ってくる。当たり前だ。同じ立場なら僕だってそう言う。
でもこれを解決するのは僕ではない、、、渋谷さんだ。僕にできるのは正しい情報を伝えること。そして支えることぐらい。あとは彼女の心次第である。
「恐らくどちらかを倒すまでこのゲームは終わらない。ドレスタにはリザインの機能がないんだ」
「そんな! でも、出来ないよ、殴り合いなんて」
「辛いのはわかる。けど二つだけ聞いて欲しい。まず今回のゲームで渋谷さんが痛い目に会うことは無いこと。僕はそれぐらいにはドレスタで自信があるんだ。そして僕のできる限りの事は尽くすこと」
正直厳しいだろう。こんなのは身の安全を保証しているだけだ。渋谷さんの気持ちが晴れる訳では無い。そう思っていたが彼女の返答は意外なものだった。
「わ、わかった。じゃあ一つだけお願いを聞いて。次のゲームが来ても秋葉くんに助けてもらいたいの」
正直拍子抜けした。だってそんなもの当たり前のことだったからだ。よく分からないがそれで頑張れるならそれでいいだろう。
「分かった。次のゲームも任せて欲しい。それじゃあさっさとこのゲームを終わらせよう」
そう言いながら最初のドレスに変身させる。そして索敵すること数分後、少し開けた場所で敵と遭遇した。敵も臨戦態勢を取ってはいるが隙が多い。先手必勝と思い突撃する。
ボディブローを入れ、怯んだところを膝蹴り。そのまま上から叩きつけ、倒れた相手を抱き上げて片手で掌底、吹っ飛ぶ相手にコマンドを入れながら近づく、そのまま必殺技のドレスタパンチをぶち込んだ。
瞬殺だ。恐らく10秒もかかっていないだろ。なるべく早く終わらせること、顔は殴らないことに気を使った。
相手は為す術もなく倒され「くそっ!」と声を荒らげたあと消えた。恐らく現実に戻されたのだろう。空にはYou Winの文字があった。
手に光が集まりぱっとカードが現れる。新しいドレスカードのようだ。性能はやはり破格と言っていい。そしてそのまま僕たちも現実に戻された。
渋谷さんの様子は酷いものだ。顔全体は青白いのに目元だけは真っ赤で涙を流していた。かける言葉が見つからず手を握ることしかできなかった。
すると彼女は泣きやみ、呟いた。
「もう大丈夫。ありがとう」
嘘だ。大丈夫な奴がそんな顔をする訳がない。だが何も言えないままその日は2人で手を繋いで帰った。
こんな時でも手を繋げて嬉しいと思ってしまった僕はどうしようもないクズなのだろう。
少しずつですが文字数増やしていきたいです。スラスラいくと思ってたら意外と止まってしまいました。難しいですね。
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