とあるオタク女の受難(インフィニット・ストラトス編)。リメイク 作:SUN'S
「なんです、なんなんですの貴方は!?」
そう言って六つのピットでレーザーを掃射してくるセシリア・オルコットの表情は困惑と恐怖に満ちていた。彼女からすれば俺は訳の分からないものなのだろう。
レーザーの軌道を切っ先をずらすだけで変化させ、一歩も動かない俺は異様で異質で異常な存在に見え、彼女は冷静さをゆっくりと確実に失っていく。
段々と意識が研ぎ澄まされる。
俺は一振りの刀に成る。
正眼から上段へ刀を動かし、レーザーを弾きながら間合いを詰める。一歩前へ、更に前へ。折れない刀と壊れない鎧があれば俺は負けない。
「悪いな。オルコットさん、待たせた」
ようやく、あの空に飛べる。
あの人の目指した宇宙へ向かうための翼で。
ゆっくりと浮遊する。
箒や先輩との特訓のおかげで安定して飛行は出来る。オルコットさんは憎々しいと言わんばかりに俺を睨み、まだ完全に機能していないISで挑んだことに文句を言う。
それは確かに俺が悪い。けど、さっき謝ったと思うんだが彼女は聞こえてなかったのかと考えながら的を絞らせないように揺れるように動き、オルコットさんとの間合いを詰めていく。
「これは、
俺の振り上げた刀が彼女の操作するビットの一つを切り裂き、爆風と黒煙で彼女の視界を封じるも紙一重で避けられてしまい、俺の刀は空振りに終わる。
「オルコットさん、お喋りより戦いに集中してくれ。そうじゃないと本気で戦えない」
「この、嘗めないで頂きたいですわね!」
「それは違うよ、オルコットさん。これは油断も隙も落ち着くことさえ出来ないだけだ。俺は君の攻撃を受け流す度、何度やられると思ったか…」
この言葉に嘘はない。
現に俺がオルコットさんを押しているように見えるけど、まだ一撃も彼女に掠りもしておらず、徐々に俺のほうが劣勢になっているのは分かる人には分かるはずだ。
袈裟斬り、逆袈裟、左薙ぎ、右薙ぎ、回転斬り、上段突き、代わる代わるに斬撃を重ねる。オルコットさんは辛うじて避ける。だが、だんだんと掠り防御する回数が増している。
「朧流剣法"霞斬り"」
前進する瞬時加速、後進する瞬時加速、その二つを瞬間的に行う。そうすればハイパーセンサーは一つだけではなく、二つの行動を視界に伝達する。
俺の必殺技(仮)の
箒曰く「分身の術」だ。先輩は目の錯覚を利用した素晴らしい技だと称賛してくれ。ちゃっかり自分も使えるようになっていた。
「とりあえず、まず一勝かな?」
俺は刀を改めて見ると笑みが溢れた。これは千冬姉の雪片だ。正確には後継機の主戦力だっていうのは分かってるけど。
すごく嬉しい。俺はISを待機モードに変えて、未だに負けたことに呆然としているオルコットさんに駆け寄って手を差し出す。
「オルコットさん、これからよろしく」
「ふん、次は負けませんわよ!」
そう言うとオルコットさんは俺の差し出した右手をハイタッチするように弾き、そのまま帰ってしまった。まあ、何はともあれ。
「箒イイィィィッ!!!」
いきなり大声を出したことで帰ろうとしていた生徒や教師が俺を見つめる。ゆっくりと呼吸を整えて、アリーナの整備室にいる箒を見上げる。
「今、改めて言う。俺と付き合ってくれ!!」
しんと静まり返ったかと思えば俺の声よりも大きい声がアリーナに響く。まあ、そうなるよな。そんなことを考えながら顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉させる箒と、こめかみに手を添えてため息を吐く千冬姉に笑ってしまう。