時間は少しさかのぼり、入学式の次の日。
園田との集合場所である、寮棟の1階のロビーへ向かおうとドアを開けた俺は、ちょうど同時にドアを開けた隣人と出会った。
茶髪をセンター分けにしたイケメンだ。服の上からだと分かりづらいが、やけにガタイがいい。あと喧嘩慣れしてそう。ただ、なぜか表情筋がピクリとも動いていない。
目が合った瞬間からお互い一言も発せず数秒がたち、
「ふふっ」
吹き出してしまった。
隣人さんが不思議そうな顔をして見ているが、その表情の変化すらよく見ないと分からない。
「ごめんごめん。なんか知らない人と見つめあってるのが面白くて」
「…そういうものなのか」
「何その返し方、面白すぎでしょ」
なんだろう、名前も知らないのに、この隣人さんが可愛く思えてきた。
「…そうか」
簡潔すぎ!コミュ力低すぎん?イケメンなのにもったいない。
「俺はCクラスの仁科亮介って言います。3年間お隣同士だと思うからよろしく」
「Dクラスの綾小路清隆だ…です」
「敬語じゃなくていいよ、俺も敬語使っちゃってたけど。ここにいるってことは同級生でしょ」
「…確かにそうだな」
僅かにだが嬉しそうな表情に変わった。もしかしたら仲良くなりたいって思ってくれてるのかも。
「綾小路くんが良かったらさ、せっかくだし一緒に学校行かない?あともう1人Cクラスの友達がいるんだけど、歓迎してくれると思う」
「…いいのか?」
「もちろん!他クラスの友達が欲しいなって思ってたし」
「…そうか!そうだよな!オレたちは友達だ」
えぇ、、、なんか切りかえ早くない?入学式で友達できなかったタイプかな、自己紹介でミスったとか。さらにかわいく見えてきた。
「これからよろしくな、綾小路!」
「あ、ああ!よろしくな!」
僅かにだが表情筋が動いて嬉しそうだ。どうやら友達が欲しかったらしい。
その後ロビーで綾小路と話している時に園田もやってきて、俺との会話で多少コミュ力の上がった綾小路は、上手く自己紹介をできた。
園田はコミュ力が高いので、すぐに仲良くなれたようだ。
「さっきも言ったけど、俺と園田はサッカー部に入るつもりなんだけど、綾小路もどう?」
「しかし、オレはサッカーなんてたことないぞ?」
「綾小路って意外とガタイいいし、キーパーとかできんじゃね?」
園田の言葉に俺も頷く。園田は俺に言われるまで気づかなかったが、綾小路の筋肉はえぐい。園田も上腕二頭筋を触って憧れを口にしていた。
「そんなに簡単なものじゃないと思うが…」
「まあでも、体験入部くらいは行ってみようよ」
「そうそう!今日部活動説明会あるし、一緒に行かね!?」
「一緒に…そうだな!一緒にいこう!」
綾小路は一緒にとかそういう言葉に弱いんだろうか。
「友達と一緒に部活が出来たらそれ以上楽しいことはないと、俺は思ってる」
「そうだぜ綾小路」
「…ああ、友達と一緒に頑張ろう!」
なんか言語機能バグってない?もう入ること決めたみたいな感じだからいいけど。
校舎に入る直前に連絡先を交換して、喜ぶ綾小路のかわいさに癒されながら今日の授業が始まった。
石崎くんとロン毛は顔がボコボコになっていた。
昼休みになり、真鍋たちと学食に向かうことにした。
綾小路、大丈夫かな…
誘ってみるか、このグループ男子少ないし。
「Dクラスの綾小路ってイケメンと仲良くなったんだけどさ、クラスに馴染めてなさそうだから今呼んでもいい?」
「いいよ〜」
「仁科くんお墨付きのイケメンなんて絶対かっこいいじゃん!呼ぼよぼ」
「おっけー」
クラスに友達いない前提でごめんな、綾小路。でも朝も感じだと連絡先交換したの俺たちが初めてっぽいよな…
「もしもし、綾小路?もし暇だったら一緒に飯食わない?」
「是非ご一緒させてくれ」
「おっけー。学食で待ってる」
電話を切って、真鍋たちに綾小路が来ることを伝える。ほんとはクラスの人と食べたりした方がいいのかもしれないけど、1人で食べるつもりだったっぽいし、まだまだ仲良くなる機会はあるだろう。…多分。
「綾小路、こっちこっち!」
きょろきょろしてた(かわいい)綾小路を呼ぶ。
「女子がいるなんて聞いてないぞ、仁科」
「言わなかったからね、それよりもほら、自己紹介」
なんか綾小路が耳打ちしてきたが、そんなんじゃ青春なんて夢のまた夢だよ。
「Dクラスの綾小路清隆だ。仁科と園田と一緒にサッカー部に入るつもりでいる。よろしく」
「おぉ~。最初に比べたらすごいハキハキしてるじゃん。みんな、ちょっと暗いけど話してると面白いし、無表情なのも面白いから、よろしくね」
「はいは~い」
「てかガチイケメンじゃん!」
「…そうか?」
「そうだよ!身長も高いし、かっこよくない?」
「かっこいい!」
「…そうか、俺はイケメンなのか」
「何そのセリフ。面白すぎでしょ」
「仁科にも言われたんだが、オレってそんなに面白いのか?」
「う~ん。なんか分かんないけど、おもしろい!」
綾小路はギャルのテンションに面食らってしまっていて、その後の自己紹介のオンパレードも終始押され気味だった。ただ、食事中にだいぶ打ち解けたようで、特に諸星さんと仲良くなっていた。比較的おとなしめの人だし、話が合うのかもしれない。
ついに放課後になり、俺たちは部活動説明会へ向かっている。もちろん綾小路も一緒で、真鍋たちも一緒にいるがそこまで興味があるわけではないらしく、ちょっと聞いたら帰るらしい。今日はサッカー部の見学するつもりだから、どっちにしろ遊べないしな。
ほとんどの部活動の紹介が終わり、次が最後らしい。にしても、部活動の数が多い。4クラスしかなくて他の学校より圧倒的に生徒数が少ないのに、こんなに部活があって大丈夫なんだろうか。サッカー部も二、三年で二十人もいなかったっぽいし。
いつまで経っても、ステージに立ってる代表らしき人が話し始めないので、ついにしびれを切らしたのか、あちこちから声が上がっていた。
「先輩どうしたー」
「カンペ忘れたんですかー?」
昨日から思ったけど、ここちょっと進学校にしては治安悪くない?高校なんて初めて通ったからわかんないけどさ。もっとがり勉ばっかだと思ってたよ。
しばらくするとそのヤジすらも消え、体育館が静寂に包まれた。それを見計らうように、男がしゃべりだす。
「私は生徒会長の…」
どうやらステージ上の先輩は堀北学といい、ヒトラーの真似事をしていたらしい。やっぱ生徒会長ってそうやってぶっ飛んだ奴じゃないとなれないのかな。生徒会に入る気はないけど。
とてもかっこいいスピーチだった。
何はともあれ、サッカー部の部活動見学だ。今日は見学だけでなく、実際に体験入部ができるらしい。
俺と園田と綾小路のほかに、五人の一年生が集まっていた。
「一年生のみんな、今日は部活動見学に来てくれてありがとう!二年Aクラスの成瀬って言います。今日は部活の時間があまりとれないので、体験入部として、実際にアップから参加してもらって、一時間くらい練習したら、ミニゲームをしたいと思います!」
二年生の一部から歓声が上がる。一年生のために、盛り上げようとしてくれているのだろう。
「それじゃあアップから行こうか!」
サッカー部の練習は、かなり質の高いものだった。この学校では色々な事情(おそらく赤点回避のための勉強とかだろう)があり、練習時間があまり長く取れないため、量より質を重視しているのだろう。顧問の先生はいてもほとんど指示を出すことなく、部員主体で取り組んでいる。
パス、シュート、ドリブル。どの練習をとっても、みんながまじめに取り組んでいる。
綾小路は始めはなかなか苦戦しているようだったが、「初心者なんだから、どれだけぶちかましても俺がフォローするよ」といったとたんに、見違えるような動きになった。というかそこら辺の二、三年よりうまい。ほんとにやってなかったのか疑わしくなるレベルだ。
白熱した練習を繰り広げていると、成瀬さんが集合をかけた。とてもホクホク顔だ。
「今年の一年は粒ぞろいみたいだな。それじゃあ、今からミニゲームをするから、一年はA、BクラスとC、Dクラス分かれてくれ。そこに適当に二、三年が入ってくから。試合は十一人制で二十分ハーフにしよう」
「どうやら、一緒のチームみたいだな」
「そうだな。頑張ろうぜ、綾小路」
「ああ」
言葉は少ないが、意気込んでいるのが微動する表情筋からわかる。園田はいいとして、もう一人のDクラスの人って…
「えっと、僕がDクラスの平田洋介って言います。ポジションは基本的にボランチかな?みんなよろしくね」
うおっ、すごい爽やかイケメンだあ。これは名前とポジションを言う流れだな。
「Cクラスの仁科亮介です。ポジションはフォワードやってたけど、キーパー以外ならどこでもできるよ。で、こっちの二人が、」
「おう、俺はCクラスの園田正志。ポジションはサイドバック。よろしくぅ」
「オレはDクラスだが、綾小路清隆だ。中学時代のポジションはマネージャーだった。よろしく」
綾小路がボケた!?
「何言ってんだよ綾小路。お前帰宅部だって言ってたじゃん」
「一応お茶を淹れる練習はしてたんでな」
「それ茶道のことじゃん」
びっくりしすぎて、ツッコミを園田に奪われてしまった。平田もクスクス笑っている。
「綾小路君っておもしろかったんだね。今までしゃべったことなかったけど、よろしくね」
「ああ、オレはおもしろいぞ」
綾小路の言葉に、みんなで爆笑してしまった。
「ピー―――」
試合開始のホイッスルが鳴り、キックオフ。こっちのボールからだ。先輩たちは俺たちの好きなようにポジ賞を決めさせてくれたので、俺がトップで、平田がボランチ、園田がサイドバックに入っている。綾小路は面白そうなのでトップ下にぶちこんだ。
平田がドリブルをはじめ、サイドの先輩を使い攻撃を展開していく。俺もパスをもらおうと動くが、マークが厳しくうまく振り切れない。先輩も結構ガチな感じじゃん。
綾小路は…そもそも何をしたらいいのかわかっていないみたいだ。練習で基礎的な技術はやったが、試合での動き方がわからないってところだろう。
「綾小路―!パスをもらいやすいような位置に動いてこう!」
俺の声を聴いた瞬間、綾小路がものすごいスピードで走り出した。何あれ、ロケット?
それを見た先輩がすかさずパス。綾小路のマークについていた先輩が必死に追うが追いつけず、綾小路が受け取り、そしてそのまま突破していく。一人、二人…三人抜きはさすがにやりすぎやない?
しかしそこでディフェンスの一人が足を引っかけるようにして止めようとする。ファウルになるかと思われたその時、綾小路はいきなりジャンプし空中でエラシコをした。
……え?
えぇ……
プレーが変態的すぎる。
だがそこで体勢を崩してしまったので、俺はすかさずパスを要求する。それに気づいて綾小路もパスを出す。
あっぶね!
綾小路のパスが速すぎて危うくロストするところだった。辛うじて足元に収めると、マークについていた先輩を突破し……
なんでそこにいるの綾小路…
ゴール前に走りこんできた綾小路にパスを出し、ワンツー。最後のシュートもきれいに右隅に決まった。
「ナイス、綾小路!」
もう驚くようなことはないので、何も動じず、綾小路のもとに駆け寄って、ハイタッチすることにした。
綾小路がハットトリック(とついでに俺がミドルシュート一本)を決めるも、綾小路の守備意識の低さで四点取られて試合はドローだった。
「綾小路。サッカー、楽しくね?」
「ああ、決めたぞ。俺は日本代表になる」
ボケなのか本気なのか分からないが、サッカー部に入る気になってくれたってことなのだろう。
「そっか、これから一緒に頑張ろうぜ」
「…オレのボケをスルーしないでくれ」
ボケてたのか。
原作での部活動の描写が少なすぎるので、サッカー部に関しては、ほぼ捏造です。