お前の様な雑草が居るか!?   作:うぃーど

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ドラゴン使いの雑草君

 卵を拾った。

 盗んだとか、そんな事ではなく放置されていた卵だった。

 

 拾ったのは、一人の少年。

 卵との出会いは本当に偶然。興味本位で町の外を探索していた時に見つけた。

 

 一日待ち続けた。時折、じゃれてくる野生のポケモンの相手をしながら、ぼんやりと待ったのだ。しかし、肝心の親はやって来ない。

 卵は温め続けなければ孵化できない。トレーナーの中には、特性を加味して手持ちに卵を加える者も居るのだとか。

 夜が近づき、雨が降る。それでも親のポケモンも、トレーナーもやって来ない。

 濡れ続ける卵。このままでは、殻の中の命は潰えてしまう事だろう。

 幼心に少年は察して、雨の中を駆け抜けて卵を確保。服が伸びる事も気にせずに腹側に突っ込んで一目散に家路を駆け抜ける事となる。

 

 家に帰れば、当然ながら怒られた。

 服は卵を突っ込んだことにより伸び放題。全身びしょ濡れ、オマケに雲に隠れていたとはいえ、月も顔出す時間帯。

 大目玉を食らったが、しかし少年に後悔は無かった。

 

 そこから始まるのは、卵を拾った場所と家を往復する日々だ。

 晴れの日も、曇りの日も、雨の日も。それこそ、外出そのものを自粛せざるを得ないハリケーンなどでも起きない限り、少年は卵を抱えて何度も何度もその場所を訪れてきた。

 

 それでも一度として、親もトレーナーも現れない。

 そして大事に大事に卵を抱えて動き回れば、自然と孵化が進むというもの。

 

 果たして、生まれるのは黒と青が印象的な、小さな竜。

 そしてこの邂逅こそが、少年を一人のドラゴン使いの道へと進ませる契機でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャイムの響くオレンジアカデミー。

 机の上に出していた教科書とノートを片付けながら、左目の下にもみあげへと伸びる一本の目立つ傷のある灰色がかった髪色の少年は、この後の予定を頭の中で組み立てていた。

 しかし、

 

「ウィド!バトルしよう!!」

「ッ!?」

 

 勢いよく机に両手をついて声がそのままに衝撃となって真正面から叩き付けられた事で、その思考は雲散霧消する事になる。

 少年が顔を上げれば、褐色の肌に黒い手入れのされた髪をポニーテールに纏め、二房の緑のメッシュが印象的なそばかすの少女が目を輝かせて見下ろしてきていた。

 

「ネモさん……」

「昨日はわたしが負けちゃったからね。今度は負けないよ!」

「えーっと…………」

 

 キラキラと輝きを増す視線を前に押された少年、ウィドは困った様に頬を掻いて一通りの教材その他をカバンへと詰めていく。

 いまいち反応の悪いウィド。そして、その反応の悪さにネモの圧も若干揺らぐ。

 

「あ……今日は用事がある?」

「一応は。といっても、ハッサク先生の所に資料を返して、その後にペパー君の手伝いを」

「そっかぁ……」

 

 ウィドの予定を聞いて、ネモは露骨にがっかりと肩を落とす。心なしか、元気に揺れていたポニーテールも萎びて、はねていたメッシュも落ち込んでしまっているように見えた。

 とある理由、というか彼女はこのオレンジアカデミーにおいて指折り、というか教員含めてもトップの実力を誇るトレーナーだった。

 加えて、バトル好き。しかし、誰が好き好んでまず勝てないであろう相手とバトルをしたいと思うだろうか。

 結果として、ネモとバトルをしてくれる生徒は殆ど居ない。

 ウィド以外は。

 

「…………三対三の再戦無しルールなら、良いよ」

「!ほ、本当に!?」

「うん」

 

 消沈から一変、大興奮のネモ。

 その一方で、ウィドはというと端末を操作して、後々尋ねるつもりだった恩師と友人へ少し遅れる旨のメッセージを飛ばす。

 両者ともに、ネモの性格もウィドの押しに対する弱さも知っている為、直ぐに了承のメッセージが返ってきた。

 それだけを確認し、ウィドは改めてネモへと向き直る。

 

「それじゃあ、バトルコートに行こうか」

「行こ行こ!バットル~♪バットル~♪」

 

 上機嫌に前を行くネモの後を追いながら、ウィドは少し困ったような微笑を浮かべた。

 ウィド自身、バトルは嫌いではないし苦手という事も無い。寧ろ好きだし、得意、とまではいかずとも人並み以上の実力はあるつもりだ。

 だからといって、ネモ相手の勝率が良い訳では無い。良くて、四割程だろうか。少なくとも、現状は負け越している。

 それでも、ウィドはネモからのバトルの誘いを断る事は殆ど無い。どうしても外せない用事がある時などはその限りではないが、大抵は二つ返事でフルバトルだ。

 先の通り、勝率に優れる訳では無い。それでもこうしてバトルを受けるのは自分の糧になるから、というのもあるが何よりネモの態度もあった。

 断ると、彼女は叱られたパピモッチのようにしょんぼりしてしまう。

 要するに、ウィドは甘いのだ。言い換えれば優しさだが、兎にも角にもお人好し。

 

「やっぱり、ウィドもチャンピオンクラスに挑戦しない?」

「うーん…………僕もバトルは嫌いじゃないけどね。いまいち、それが本当にしたい事なのか、って聞かれたら分からないからさ」

「勿体ないなぁ。いや、わたしも無理にいう訳じゃないけど」

 

 唇を尖らせるネモ。

 彼女もウィドの厚意に甘えてしまっているという自覚はあるが、しかしこの厚意を無碍にすると今後のバトル欲の発散に支障を来す。

 それに、誘っているのも何も理由なくという訳では無い。

 ウィドは強い。本気と言わずとも、八割強の実力で戦うネモ相手に勝ち星を拾えるのだから。

 バトルが本業ではないにも関わらず。

 程なくして到着したバトルコート。

 それぞれがトレーナースクエアに入りその手に握るのは赤と白が印象的なモンスターボール。

 周囲にはフェンスを挟んで放課後に暇していた生徒たちがチラホラ。

 

「それじゃあ、始めようか!」

 

 ネモの言葉に合わせて、二人の手からボールが放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ハッサク先生、いらっしゃいますか?」

「おお、ウィド君。バトルは終わったのですかな?」

「はい。また、勝ち星を拾われちゃいました」

 

 美術室の入り口で頭を掻く少年に、美術講師であるハッサクは笑みを持って出迎えた。

 

「資料を返しに来ました。入っても良いですか?」

「ええ、勿論」

 

 ハッサクに促され、ウィドは美術室内へと足を踏み入れる。

 独特な絵の具や石膏のニオイ。嗅覚の鋭いポケモンには苦手な空間かもしれないが、ボールから出さなければそこまで問題は無いだろう。

 嗅ぎ慣れたニオイを嗅ぎながら、ウィドはカバンから一冊のハードカバーの本を取り出した。

 

「先生、お返しします」

「ええ、確かに。それにしても、相変わらずの速読家ですね。小生がこれを呼んだ時には、数日を要したものですよ」

「前に借りた資料分の知識があったお陰です」

 

 ウィドから返される本を受け取り、ハッサクはその本を本棚へと収めるついでに別の書籍を手に取った。

 次に貸す本を選別しながら、彼はふと話題を零す。

 

「そう言えば、モノズ……いえ、今はジヘッドでしたか。どのような様子でしょう?」

「相変わらずですよ。優しい子ではあるんですけど、進化したからか力も強くなって少し加減に手古摺ってました。今は、大丈夫ですけど。それに、ヌメイルの時ほどじゃありませんよ」

「あっはっはっは!確かに、あの時は流石の君も手古摺っていましたからね。何より、多くのトレーナーが挫折を経験する事態でもあるでしょう。ドラゴンタイプは、何れも生育が難しい。幼体の頃は力も弱いですが、身を守る手段は持ち合わせていますです。まさか、四歳の子供がモノズを育てるとは、小生も驚いた事ですよ」

「その節は、お世話になりました……」

「何の何の!今では立派なドラゴン使いの一人となったではありませんか!」

 

 呵々大笑と笑うハッサクに、ウィドは少し照れたように頭を掻いた。

 二人の関係は教師と生徒であると同時に、師と弟子でもある。

 その始まりは、冒頭。ウィドが一つの卵を拾った事にあった。

 生まれたのが現相棒である、ジヘッドの進化前であるモノズ。そしてこれが実に厄介だったのだ。

 ポケモンには多くのタイプが存在する。その中でも、ドラゴンタイプというのは憧れる者が多いと同時に、扱いが難しいタイプの一つでもあった。

 その中でも、モノズは危険。

 力の弱い幼体が多い中で、目が見えない彼らは動くものに手あたり次第噛み付き、頭突きし、暴れ回って手が付けられないからだ。

 ウィドの出身であるベイクタウンのジムリーダーからドラゴンに詳しいという事で連絡を受けたハッサクは、最初こそ彼からモノズを引き取ろうとした。

 そこで待ったをかけたのが、ウィドだ。

 紆余曲折を経て、ハッサク監視の下で生傷を増やし続けながら、ウィドは必死に必死にモノズを世話して、今では一端のドラゴン使いへ。

 

「ド、ドラゴーーーーーーン!!!!」

「ッ!?」

 

 本を渡すと同時に、ハッサクの感情が爆発。その直撃を受ける事になったウィドはその肩を大きく跳ねさせた。

 

「せ、先生?」

「……いや、失敬。思わず昂ってしまいました」

「そ、そうですか」

「それにしても、ウィド君。未だに、()()()()使()()と呼ばれる事には慣れませんか?」

「…………そう、かもしれません」

 

 空いた右手を握るウィドの姿に、ハッサクの眉が少し下がる。

 

「モノズの卵を拾った事に後悔はありません。ハッサク先生の厚意を蹴ってまで、世話をした事も。その結果として怪我をしてしまった事も。何一つ後悔してません。でも…………」

「でも?」

「僕は、根っからドラゴン使いを目指していた訳じゃない。運命の巡り合わせからか、今の手持ちは全部ドラゴンタイプが入ってますけど、それでも狙ったものじゃない。そんな僕がドラゴン使いを名乗るのは、何か違うんじゃないか、と思うんです」

 

 とつとつと語るウィド。

 ハッサク含めて、彼をドラゴン使いとして見ている者は多い。先ほどバトルしたネモ然り。

 だが、ウィド自身は流れで今の地点にまで来てしまったという感想しか抱けない。手持ちのポケモンに関しても大好きだが、狙って統一パーティのようになっている訳では無かった。

 

「…………悩む事もまた、若さの特権というものです」

 

 ハッサクの静かな声が美術室に響く。

 顔を上げたウィドのヘーゼルカラーの瞳に、オレンジ色の力強い瞳が映った。

 

「悩み、迷い、立ち止まる。その葛藤は心苦しいものかもしれません。ですが、キミが立ち上がり前へと進もうとする時、大きな力とそして財産となる事でしょう」

「…………」

「焦る事はありません。きみ自身の宝を、ゆっくりと見つけてください」

「……はい」

 

 しっかりしていても所詮は子供。大人が思いもしない様な、気にも留めない様な事を悩むもの。なまじ確りしているからこそ逆に小さい事が棘のようにその胸に突き刺さるのだ。

 子供を導く事も大人の、教師の役目だろうとハッサクは思う。だが同時に、目の前の少年の強さというものもよく知っていた。

 たった四歳の子供が、幼竜とはいえドラゴンタイプのポケモンに何度も何度も襲われ、それでも一度として投げ出す事が無かった。それだけで、称賛に値する。

 彼の弟子は柔和に見えて、その実一度決めた事はテコでも変えない頑固者。

 そして、道を踏み外さないであろう善性を持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この友人はお人好しだ。

 隣を歩く灰髪の少年を横目に、ペパーはそんな事を考えていた。

 とある理由から、アカデミーにもほとんど向かわなくなり補講ばかりの自分から離れる事の無かった稀有な友人。

 

「……?どうかした?」

「いや、何でもねぇよ。それにしても、ウィドって力持ちちゃんだな。オレより背も低いのに」

「ま、鍛えてるからね」

 

 ペパーの背負ったザックよりも更に大きなザックを背負ったウィドは、いつも通りの笑みを浮かべて自分の右二の腕辺りを叩いてみせる。

 この二人は、時折こうしてパルデア地方を歩き回っていた。

 ペパーは、己の目的のために。ウィドは、そんな彼の護衛を兼ねている。報酬は、ペパーお手製の料理だ。

 

「それより、マフィティフはどうかな?」

「まだまだ、だな。ポケモンセンターでも治療できないし、となれば料理や他の面から試してるんだが……」

「そっか……僕の方でも文献を漁ったりして見たんだけど、どうにも芳しく無くてね」

「寧ろ、ここまでしてもらって感謝してるんだけどな。ウィドだって忙しいだろ?さっきも、ネモとバトルするってメッセージを送ってきたし」

「僕も好きでやってる事だから」

「にしてもなァ」

 

 そう言う所が、お人好しなんだろ、という言葉は飲み込んだ。

 現在進行形で助けられているのだから、言える筈も無い。

 言っては何だが、一番荒れていた時のペパーは焦りも合わさって人づきあいがゼロになって好感度マイナスになってもおかしくは無かっただろう。

 現に、彼の周りから人は居なくなった。お節介焼きなネモや、校長含めた教師陣を除けばその繋がりはほぼ無い。

 そんな中でも、ウィドは何かと世話を焼いてきた。

 補講用のノートや、勉強を見てもらったし、こうして野生ポケモン相手の護衛も買って出てくれた。

 

「…………お人好しちゃんが過ぎるぞ、ウィド!」

「きゅ、急にどうしたの?」

「改めて考えたんだが、ウィドは甘すぎちゃんだぜ!ソレはもう、モモンのみにハチミツをかけて砂糖で煮詰めても足りないほどの甘々ちゃんだ!」

「そう……?」

 

 首を傾げるウィドに、ペパーのため息は止まらない。

 ここまでのお人好しならば、利用しようとする者もあらわれるのが世の常。しかし、彼は意外にもそう言う目に遭った事が無かったりする。

 認識していないとかそういう訳では無い。

 というのも、彼は強い。物理的にも、トレーナーとしての腕前的にも、精神的にも、学力的にも。張り合える者など、ネモ位ではなかろうか。

 そんなウィドを利用しようとしても、本人が善性であり尚且つ悪い事は確りと悪い、と言ってしまうタイプだった。

 当然、利用しようとする者はあの手この手を尽くそうとするが、力づくでは不可能。バトルで勝つ事も不可能。学力十分。お人好しで顔も広いせいで変な噂も直ぐに立ち消えた。

 その結果、ウィドの危機感は育たない。甘さもそのままだ。

 

 とはいえ、この甘さを心地いいともペパーは思っている。寧ろ、ここまで甘くお人好しだからこそウィドとは友達を続けていられる、とも。

 

「はぁ………」

「大丈夫?疲れたなら、少し休もうか。近くに川もあるみたいだし。流石に野営は出来ないけど、休憩位なら問題ないと――――」

「だ、大丈夫!まったく、ウィドは甘々ちゃんが過ぎるぜ……」

「わぷ!………?」

 

 心配げに見上げてきた灰色頭を撫でて押し退け、もう一度だけため息を零すペパー。

 どうしても、この甘さを振り払う事は出来ないのだった。






名前:ウィド(由来は雑草のWeedsから)

容姿:灰色がかった猫ッ毛 ヘーゼルカラーの瞳(左目の下に大きな切り傷有り) 中肉中背でペパーより少し背が低い
 制服は長袖長ズボン。これは体のいたるところにある傷を隠すため。足元は動きやすいアーミーブーツ

性格:甘ちゃんのお人好し。一度決めた事はやり通す意志の強さもあるが、大抵は他人優先で、自分の事は後回しにしがち

手持ちポケモン:ジヘッド♀、???♀、???♂、???♀、???♂、???♂(?は何れもドラゴンタイプ、になる)

備考:アカデミーでも一目置かれる実力者。自分がドラゴン使いと呼ばれると少し困った顔をする。基本的に、困っている人は見過ごせないタイプ。色々と強い。しかし芸術的センスは皆無。ハッサク先生も匙を投げるレベル。ただし、デザイン画は得意
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