お前の様な雑草が居るか!?   作:うぃーど

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ドラゴン使いの雑草君 2

 パルデア地方東部の草原。

 人の足では移動するにも少々困ってしまう広さのパルデアだが、そんな中でウィドは結構暢気にあちらこちらを歩き回っていた。

 

「今日はこの辺で良いかな」

 

 草原の一角に陣取り、ウィドは腰のボールを六つ手に取り放る。

 飛び出してくる六体のポケモン達。

 

「っと、あんまり遠くには行かなこと。良いかい?」

 

 真っ先に自分の頭の上に跳んできた綿毛の様な翼を持つ鳥ポケモン、チルットを支えながら空いた手の人差し指を立てて釘を刺すウィド。

 彼の周りに居るのは、いずれも珍しく、尚且つドラゴンへと到達するものばかり。

 双頭であるジヘッド。五感に難があり、知能も低く扱いの難しいヌメイル。光物が大好きな、ガバイト。リンゴの様な見た目のカジッチュ。まだまだ甘えた盛りで抱っこをせがむセビエ。

 右手でセビエを抱き上げてあやしながら、左手で頭の上でくつろぐチルットの相手をする。

 宛ら子育て中の親のようだが、実際の所セビエは卵が孵ったばかりである為致し方なし。

 というのも、このセビエのおやは、ハッサクの切り札であるセグレイブだったりする。

 ウィドがねだった訳では無い。ただ、一トレーナーとして手持ちは六体固めておきたいと考えていた彼が、ちょっとした話題として師匠であるハッサクに相談を持ち掛けたのだ。

 その際に、手持ち同士の交流も含めて自由にさせていたのだが、聞き付けたセグレイブがいつの間にかあった卵を押し付けてきた。

 何度か断ったが、最終的にはハッサクの手持ち勢揃いからその卵を押し付けられる事になり、押し切られて今に至る。

 

「ギャウ?」

「何でもないよ。ほら、セビエも遊んでおいで。風が気持ちいいよ?」

 

 草原を吹き抜ける風は爽やかだ。

 頬を撫でる風と、青草のニオイ。遠くのポケモンの鳴き声が聞こえる事もある。

 目を輝かせたセビエを下せば、駆けていくのは欠伸をするジヘッドの下だ。

 ジヘッドやモノズは、その目元を固い毛でおおわれて周りを見る事が出来ない。その為、手当たり次第に噛み付いたり、真っすぐ歩く事すら覚束ない事が珍しくない。

 ウィドも随分と噛み付かれ、体当たりされてきた。

 今では、ジヘッドも過去の経験から落ち着き、見えないなりに周りを察知する能力というものに磨きがかかっていた。お陰で、駆け寄ってくるセビエにも不用意に噛み付いたりせず、じゃれついている。

 気付けば、チルットも少し風を受けて空中散歩と洒落込んでいる。ガバイトは地面を掘って何やら掘り起こし、カジッチュはそんなガバイトの開ける穴を興味深そうに覗いていた。

 

「ヌゥ~」

「やあ、ヌメイル。お散歩はもう良いのかな」

 

 寄ってきたヌメイルの頬を、一切の躊躇なくウィドは撫でた。

 僅かに掌がチリチリとしてくるが、撫でる手を止めずカバンから取り出すのは霧吹き。

 

「~♪」

「ご機嫌だね」

 

 霧吹きで体を湿らせながら、触覚を擽ればくすぐったそうにヌメイルが笑う。

 本能の強いポケモンが相手でも、こうして確りとコミュニケーションを取れば意思の疎通はある程度出来るようになる。

 何より、今回この辺りに来たのはただ散歩をする為だけではない。

 風が一際吹いて、ヌメイルの触覚が揺れる。同時に、そののっぺりとした顔が空を見上げた。

 

「………来たかな。皆、集合!」

 

 ウィドの声が響き、集まる手持ち達。

 ヌメイルを残してボールへと戻して、ザックを確り閉めた事を確認して背負い直すと前へと向き直った。

 空は気付けば、鉛色の雲が広がり始めていた。遠くでは、雷の光の様なものが見えた気がした。

 パルデアは、どちらかといえば乾燥した土地だろうか。少なくとも、雨はそれ程多くは無い。

 そして、この少ない雨の影響を諸に受けるのが、ヌメイルだった。

 もう一段階進化する事が出来るヌメイルだが、その際に必要なのがポケモンの技や特性によって引き起こされたものではない、自然の雨。

 厄介も、厄介。雨を追いかけなければならないのだが、そこで役に立ったのがウィドの散歩癖だ。

 歩き回る道すがらに、遠くに雨雲を視認した事は一度や二度ではない。実際に通り雨に降られた事もある。

 それらをマップの地理情報として照らし合わせて、ついでに独自の感覚も交えて彼は一種の雨予報マップを創り上げてみせた。

 精度はまだまだ難点ばかりだが、それでもこうして狙った地点で雨を待つ程度は出来る。

 

「それじゃあ、頑張ろうかヌメイル」

「ヌメ!」

 

 ウィド自身、ポケモンの進化は当人たちに任せていた。

 進化したくないのなら、それでも良い。何ならかわらずのいしを渡しても良いと考えてすらいる。

 そんな中で、ヌメイルは進化する事を望んだ。その本能に占拠された中身の中で、それでもトレーナーであるウィドをこれ以上己の体で傷つけたくは無かったから。

 雨と風が強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年齢幅広く受け入れているアカデミーだが、そんな場所でも悩みの種というモノは付きまとう。

 その一つが、特徴的な星形のゴーグルに加えて、改造ライドポケモンという校則違反。授業自体もボイコットしており、その内情を知らなければ不良の巣窟だ。

 

「ありがとう、メロコさん。タオル貸してくれて」

「オレたちの縄張りで風邪ひかれても困るしな」

 

 そっぽ向く赤毛のそばかすのある少女を横目に、ウィドは濡れ鼠となった髪をタオルで拭っていく。

 彼女こそ、スター団ほのお組“チーム・シェダル”のボスを務める団内の何でも屋。

 本来ならば、アカデミー生は基本的にスター団には近付かない。

 不良の一団として見られている為と、それから彼ら側もどこか針を逆立たせるハリネズミの様な雰囲気があるせいだろう。

 しかし、そんな彼らを相手にアカデミーでも優等生と言えるウィドは親しげだった。

 

「……で?テメーは態々何してんだよ」

「え?ああ、彼女の進化の為に、天然の雨が必要だったんだよ」

 

 出てもらっても?とウィドがモンスターボール片手に問えば、メロコも頷く。

 そして、ボールから出てきたのは一体の竜。

 

「ヌメルゴンか。あのヌメイルか?」

「そう。彼女の進化に必要だったんだ。まあ、そのまま進化してはしゃいじゃった事は否定できないけど」

 

 すり寄ってくるヌメルゴンの相手をするウィド。

 そんな彼を眺めながら、メロコはため息を吐きだした。

 

 彼がメロコ、ひいてはスター団その物と関りを持ったのは一年ほど前の事だ。

 とある一件が不完全燃焼で終わり、おいそれとはアカデミーにも戻る訳にもいかず、授業ボイコットを続けていた時。

 彼は、やってきた。

 ライドポケモン無しに、広大なパルデア地方を東へ西へ、北へ南へ歩き回る変人。

 加えて手持ちは扱いの難しいドラゴンタイプばかり。しかし、物腰は柔らかで最初は基本的に対話から入り、それでもどうにもできなければバトルに突入。そんな気質。

 絆された、と言われればそうなのかもしれない。ただ、この繋がりにはウィドの態度もある。

 

――――『言っても無駄だとしても、それでも言葉は発さないと伝わらないよ』

 

 詭弁だ。しかし同時に、ウィドが実践してきた事でもある。

 

「…………オマエって、ホントに変な奴だよな」

「え、急に言ってくるね?」

 

 首を傾げるウィドだが、メロコは返事の変わりにその背中を一発張った。

 小気味いい音が、テント内に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な環境の存在するパルデア地方。

 雪山から、砂漠、森などなど。これら自然環境が多くのポケモン達の生育環境を育んでも居た。

 その一方で、固く侵入を禁じられる場所もある。

 ソレが、中央に開いた“パルデアの大穴”。

 管理するポケモンリーグもそうだが、アカデミーの校外学習でも決して足を踏み入れてはいけないと言われている。

 物理的にも封鎖されており、その周囲の高い岩壁を仮に登れたとしても高レベルのポケモン達が徘徊しており迂闊な行動は命の危険にも直結していた。

 

 その日、ウィドは大穴近くの散策を行っていた。

 無論、大穴へと足を運ぶつもりはない。気分的に、何となく足を進めているだけ。

 

「…………ん?」

 

 不意に彼の耳がとある音を拾った。同時に、鼻腔を突く金気臭。

 旅をしていれば、()()()()()()に出くわす事もある。自然環境内での弱肉強食は世の常である為、それ自体に忌避感はない。

 問題は、ここまで周りに鉄臭いニオイを振り撒くような存在が居るという点。ウィドは油断なく、腰のボールへと手をかけた。

 周囲を見渡し、一際ニオイのキツイ茂みがある事に気が付く。

 本来ならば近寄るだけでもアカデミーでは赤点ものだ。だが、どうしてもウィドは気になってしまった。

 恐る恐る、気配を消して呼吸を殺し、足音を限りなく立てないように気を付けながら、彼はそっと茂みへと近づき、覗き込む。

 そして、息を吞んだ。

 

(…………ボーマンダ?いや、違う……噂のメガシンカ、でもないか。パルデア地方では、メガストーン関係は見つかっていない筈だから)

 

 頭の中で可能性を弾き出しながら、しかし答えには行きつけない。

 彼が見つけた竜は、既存の彼の頭の中にある知識の中で何れも該当しない見た目をしていた。

 強いて挙げればドラゴンポケモンのボーマンダ。だが、翼の形状が違う。そもそも、その見た目が彼の知るボーマンダではありえないほどに、()()()()

 すわ、メガシンカと呼ばれる現象か、とも考えたがこちらもまた知識の見た目と違う。何より、トレーナーが周りに居ないのだ。

 傷だらけの見た事のない竜は、荒く息を吐きながらぐったりとしている。その巨体は傷だらけで、傷ついていない部分を探す方が難しいほど。

 このままでは、三十分と持たずに息絶える事だろう。

 これも自然の摂理として、見捨てることは難しくない。現状自分一人しかこの場に居らず、見える範囲でも誰も居ないのだから。

 だが、

 

「……」

「ッ、やあ」

 

 ウィドは意を決して前へと足を進める。

 両手を斜め上へと軽く持ち上げて、害意が無い事を示しながらゆっくりと近づいていく。

 残り距離が一メートル程になった所で、竜は僅かに目を開けた。

 

「グルルルル…………」

 

 唸り声。残る力全てを出して、僅かに頭を持ち上げながら牙を見せる。

 本来ならば、とても強い竜なのだろう。少なくともウィドにはそう思えた。

 だが、今の姿は精々が毛を逆立てたニャオハ程度の圧しかない。そもそも、圧なんて感じられないと言える。

 ゆっくりと、背負ったザックを下しながら声を掛けた。

 

「分かるよ。見ず知らずの相手なんて恐ろしいよね?でも、キミ自身も分かってるはずだ。そもままじゃ、本当に死んでしまうって。どうか、僕に君の治療をさせては貰えないかな?」

「グルルルル……!」

 

 手にきずぐすりやきのみを持って再度距離を詰めるウィドに、竜はさらに激しく威嚇する。

 彼は、真っ直ぐにその折れずも怯えの混じった目を見返し続けている。

 残り、十数センチ。その瞬間、

 

「づっ……!」

 

 勢いよく竜の頭部が動き、ウィドの左前腕へと食らいつく。

 制服の布など容易く貫かれ、その鋭い牙は皮膚を引き裂き、肉を貫いて、骨へと達する。

 鮮血が溢れるが、しかし同時に竜の肉体も限界というモノ。

 もし仮に万全の状態であったのなら、いくら鍛えていると言っても人間の腕一本喰い千切る程度造作もなく可能なのだから。

 とはいえ、弱っているとはいえ骨を軋ませ、ヒビを入れる程度は容易い。

 途方もない激痛が襲い掛かる中で、それでもウィドは真っすぐに竜の目を見返した。

 

「頼むよ……!このまま、君を見殺しになんてしたくないんだ……!」

 

 既に左手の指先の感覚は無いが、それでも優先するのは目の前の竜の事。

 言葉が通じたのか、或いはその眼力のお陰か。不意に、噛み付く力が弱まった。

 グラリと揺れる頭。反射的に受け止めるが、その呼吸は荒くも弱くなっていく。

 幸いだったのは、ウィドの持ち物に多くの治療系のきずぐすりやきのみ、げんきのかたまり等のひんし状態から回復させる道具を持っていた事だろう。これは、野宿をする事の多い彼の基本装備。ポケモン達を常に万全の状態にしておくためのもの。

 左腕が使い物にならない為、右手と顎、口を使って彼は手際よく治療を続けていった。

 元々、生命力が強いのだろう。竜も幾つかのきのみときずぐすりなどのお陰で徐々に呼吸も安定していく。

 

「……っ、ふぅ…………これで、何とか………っ」

 

 一息ついた所で、グラリと体が揺れた。

 当然だ。彼は自分の怪我を処置していない。竜の治療中にも、血が流れ続けていたのだから。

 眠る竜に凭れる様にして、ウィドは左袖を捲り上げて傷口へときずぐすりを吹き付けてから、包帯を巻いていく。

 抜けてしまった血は、どうしようもない。徐に、彼は二つのボールを取り出して放る。

 中から飛び出してくるのは、二体の竜。

 

「ヌメルゴン、ガバイト。少し、周りを見張っていてくれるかな」

 

 ぐったりとしたウィドの指示に、心配そうにしながらも二体は素直に従ってくれる。

 この間に、彼は何とか立ち上がると置いたザックへと歩み寄り、サイドに設けられたケースへと手を伸ばす。

 取り出すのは、強度や防塵、防水性に重きを置いた今時珍しい、ロトムの入っていないスマートフォン。

 電話をかけるのは、恩師。

 面倒を懸ける事になるが、血の足りない頭では考えも纏まらず、結果ポケモン関係で頼りになる大人に指示を仰ぐことにしたのだ

 

 この日の出会いが、彼には新たな転機を齎す事になるのだが、ソレは少し先の話。

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