あれからどのぐらい時間がたったのだろう
海に落ちたところまでは覚えてる
でも、そこから先が覚えない
とにかく眠いし体が重いし冷たい
まだ海の中にいるんだろうか
なんだか深海へとゆっくり落下してるような感じがする
どこまで落ちてゆくんだろう
終わるのか 俺?
だったら せめて
最期くらい、晴れ渡った
重い瞼をなんとか開ける
その瞬間 全身が冷たさを強く感じた
やっぱりまだ俺は海の中にいる
とにかく上へ 上へ
必死に両腕を掻くように動かす 両足も今出せる全力でバタつかせる
だけど暗闇色の景色は変わらない
このままみっともなく足掻いても水面にすら近づけなさそうな気がしてしまう
諦めたほうが楽かもしれない
でも
本当に最期なら 自分が1番見たいもの見てからにしたい
顔を上げてもっと強く激しく四肢を動かす
その後二度と浮上出来ないところまで落ちても構わない
あ
なんだかさっきより明るくなった
そのまま上へと向かっていくと少しずつ明るさが増えてきて
見えてきた
まだ少し遠いけど
キラキラと星のように光る 太陽の光を浴びてる水面が
残り少ない力をここで出し切る
俺と水面の距離が縮まっていく
まず片手から水面から飛び出る
もう片方もでる
そのまま顔も水面を突き破るかのように飛び出す
そこで見えたのは──
「あれ……」
見えてきたのは澄み切った蒼穹ではなく白い天井と照明の光だった。
「海の中じゃ、ない……?」
さっきまで何も見えない海の中で必死に四肢を動かしてたはずなのに身体は横になってる気づいた。
思い返したらさっきは呼吸もせずにただ手足を動かしている事に疑問すら浮かんでなかったのにも気づき、確認のために胸に手を置き口を開いて空気を大きく吸って吐いていく。
呼吸もできてる。心臓も動いてる。今自分がまだここに在る事を漸く実感し始めた。
「今のは、夢だったのか……でも」
確かに自分は海に落ちた、はずだ。となると誰かが自分を屋根があるところに運んでくれたことになる。
「でもだれが……」
今横になっているベッド以外に部屋にあるのは自分のバイタルが表記されている
物以外だと横にある黄色のカーテンと反対側には窓ガラスのみ。ガラス越しからは外の壁が見えるため恐らくは廊下だと思われる。
寝起きのせいか、海に落ちたと思われる前後で何かが起きたのか、あるいは両方かそれ以外が原因なのかわからないが、自分の名前と研究対象として生かされていた事、後は
そんな時、部屋のドアが開いて2人の少女が入ってきた。
1人は腰まで伸びた黒髪に眼鏡をかけており、もう1人は金髪を後ろで括った少女であった。その入室してきた2人を見ていると目が合い、自分が起きている事に気づいてこちらにすぐさま駆け寄ってきた。
「貴方、目を覚ましたのね!」
「体に異常は?なんともない?」
「あ、えっと……はい、大丈夫、です」
いの一番に聞いてきたのが自分の体調とは思わず、くぐもった声で返事をしてしまったが、至近距離のためちゃんと聞こえていたようだ。
「百由、理事長代行に彼が目を覚ましたって連絡を。ここは私が見ておくから」
「了解。すぐにいってくるわねー天葉。あの機体が急に動き出したからまさかと思ったけど、どうなってるのあの
と、百由と呼ばれた少女は小声でなにか呟きながら誰かを呼びにすぐさま部屋から退出し、残った少女ーー天葉と呼ばれた少女が再び話しかけられた。
「起きたばかりでどうなってるのかよくわからないよね。ごめんね、保護してからずっと目を覚まさなかったから心配で……私は天野天葉、貴方の名前は?」
「…………」
「あれ?どうしたの?もしかしてまだ意識がはっきりとしてないとか?
「あ、いや大丈夫……えっと名前は……大空、航……」
「それじゃあワタルくんって呼べばいいかな。よろしくね」
「あ、ああ……よろしく……」
あまりにも綺麗な名前で思わず放心してしまっていたが、かろうじてハッキリと覚えている自分の名前を告げた。それを聞いた天野は呼びやすい下の名前で呼んできたが別に問題はないだろう。
どうせそんな風に呼ばれる機会なんてあまりなさそうだろうな、と思っていたのだから。
この時の俺はまだ知らない/君は知るだろう
彼女たちとの出会いが自分にとって大きな転換点であり、再出立点という事を/彼らが積み上げてきた憎しみと怒りに立ち向かわなければならない事を
この瞬間、俺にとって生きるための旅が始まった/暗夜の航路、死へと近づく旅路の始まりだという事を、君はまだ知らない