絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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ありふれ三作目、始めました。



番外個体

 草木一つ生えていない荒野に激しい剣戟が響き渡る。

 空を数多の魔法が飛び交い、その度に、多くの怒号と悲鳴が木霊する。

 

「行け! アルヴ神に仇なす神敵を撃ち滅ぼすのだ!!」

「怯むな! エヒト神に歯向かう魔物もどきをひとり残らず殺せ!!」

 

 指揮官と思われる人物の激励に、兵士たちは声を高らかに上げ、目の前の怨敵を殺すために剣を交わす。

 無骨な大地が飛び散った鮮血で赤く染まり、その度に戦闘は苛烈さを増していく。

 

 今この地では、人間族と魔人族によるお互いの信仰する神の違いによる争いが繰り広げられていた。

 と言っても、両陣営の戦力は数百人規模の小さなもので、国境際の小競り合いと言ったほうが良いかも知れない。

 それでも戦争に違いはなく、一分一秒で多くの命が失われていく。

 

 そんな光景を上空から見下ろしている一人の女性が居た。

 

「毎日毎日バカの一つ覚えみたいに、よく飽きませんよねぇ」

 

 とても戦場を見た感想とは思えないような言葉を吐き出す女性は、やる気なさそうに宙をふわふわと浮かびながら呟いた。

 儚げな印象を感じさせる薄水色の髪を肩まで伸ばし、翡翠色の瞳に白を基調としたドレス甲冑を纏っている。

 特に目を引くのはその背に広がる一対の銀翼だ。その優れた顔立ちと格好から、さながら神に仕える戦乙女(ワルキューレ)を連想させる。

 

「特に目立った変化は無いし……もう寝ててもいいですよね」

 

 女性は一つ大きな欠伸をしたあと、空中で器用に横になって瞳を閉じる。

 

「良いわけ無いでしょう」

 

 しかし、眠りに落ちる寸前に鈴の音のような声が女性の耳に飛び込んできた。

 女性は慌てて身体を起こして声の主の方に身体を向ける。

 

「やだなぁ、冗談ですよ冗談」

「与えられた神命は全力で当たりなさい」

「分かってますよ、()()()()()()

 

 女性の言葉に女性──ノイントは眉を僅かに動かすも、自らの成すべきこと果たすべく言葉を続けた。

 

「まぁいいです。ここは私が引き継ぎます。貴方はすぐに神域へと戻りなさい」

「神域? 何故です?」

「主がお呼びです」

 

 ノイントの言葉に女性は心底面倒くさそうに表情を歪めた。

 

「えー、私今地上に来たばっかりなんですけど。せっかくなんで何か美味しいものでも……んんっ、我らが主様の神命を果たそうとやる気満々だったんですけど」

「戻りなさい」

「でも──」

「戻りなさい。三度は言いません」

「はぁ、了解です」

 

 無表情で淡々と催促してくるノイントの姿に、女性は根負けしたように渋々了承した。

 

「じゃ、行ってきまーす」

「主に失礼の無いように」

「分かってますって」

 

 気の抜けた返事を返しながら離れていく妹の姿を見て、ノイントは目を細めた。

 

「相変わらずイレギュラーな存在ですね。何故主はあれを放置なされているのか理解できません」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

(わざわざ呼び戻すなんて何の用ですかね?)

 

 神域に戻った女性は、主が居るであろう居住に向けて足を進めていた。

 

(そもそも暇なら地上の様子でも見てこいって言ったのはそっちなんですけど)

 

 グチグチと内心で愚痴をこぼしているせいか、女性の足取りも少々乱暴なものになっている。

 女性は自身の主である神によって作られた存在だ。

 神の使徒と呼ばれている彼女らは、創造主である神の意向に従うように設計されている。そのせいか、自我が薄く、個人の意志を持つことはほぼ無い

 

──()()()()()()()()を除いて。

 

 神の使徒でありながら、確固たる自我と意志を持ち合わせた唯一無二の存在。

 創造主である神を持ってしてもイレギュラーと言わしめた特殊個体。

 

 

──神の使徒 番外個体 エルフェウス

 

 

(ま、創造主様の言うことはちゃんと聞かないとですね)

 

 しかし、自我を持つからと言って、彼女が神に対して反抗的だというわけではない。

 指示を違えることはないし、自我がある故に重宝されている面もある。

 性格もハッキリ言えば創造主に近いと言える。この前も適当な人間族を焚き付けて争いを引き起こさせたくらいだ。他の姉妹達は自我が薄いため分からないが、子は親に似るということだろう。

 

(それにしても、最近は下界の遊戯もありきたり過ぎてつまんないんですよね。何か良いキッカケは無いもんですかねぇ?)

 

 

 

 ◇

 

 

 神域の最奥。その玉座に向けて、エルフェウスは膝を付き、頭を垂れていた。

 

「番外使徒エルフェウス。御身の前に」

 

 エルフェウスが頭を下げる先には、光そのもので出来た人型が玉座に鎮座していた。

 かの存在こそが、この世界トータスの神にして、エルフェウス達神の使徒の生みの親。創造神エヒトルジュエだ。

 

『よく来てくれた、エルフェウスよ。わざわざご苦労だったな』

「何をおっしゃいますか。我が主のためならばいつどこへでも」

 

 尊大な態度のエヒトに対して、全身で敬意を現すエルフェウスの様子は、誰が見ても絶対の主とそれに仕える従者のそれだろう。しかし、そんな様子のエルフェウスに対してエヒトは心底愉快そうに笑みを浮かべた。

 

『ククク……ここには我とお前しか居ない。いい加減その気持ちの悪い態度を改めると良い』

「……気持ち悪いって酷くないですか? これでも従順な下僕として全力を尽くしてるんですよ」

 

 エヒトの指摘に、それまでの畏まった態度が鳴りを潜め、飄々とした口調で肩をすくめる。

 

「こう見えて結構気を使ってるんですよ? あんまりくだけすぎると姉様達が厳しいんですよ」

『別に人形のことなど気にする必要などないだろう? どうせ自らの意志ですら無いのだ』

「さらっと人の姉を人形扱いとか流石エヒト様ですね。もはや鬼畜さが天元突破です」

『何をしようとも、我を讃え、肯定するのみ。あれを人形と呼ばず何と言う』

「エヒト様が作ったんでしょうが」

 

 いつの間にかその場に立ち上がり、気さくにエヒトと言葉を交わす姿は、まるで友人同士の会話にも見える。

 他の神の使徒が見れば、間違いなく眉を顰める光景だったが、彼らにとってはこれが普通だった。

 

「それで、一体何の御用なんですか?」

『何、お前のことだ。変わり映えのない光景に飽き飽きしてるしてるのでは無いかと思ってな。どうせサボっていたのだろう?』

「べべべ、別にサボってなんかないですよ!? ちゃんと職務を全うしてました!!」

『貴様の性格など嫌というほど理解しておる。良くも悪くも、貴様ほど我の娘と言える存在はいないからな』

「褒めてます、それ?」

 

 最上級の褒め言葉だ、と告げるエヒトにジト目を向けるエルフェウス。

 そんな彼女に構わず、エヒトは本題を切り出す。

 

『異世界に興味はあるか?』

「異世界……って、エヒト様が居たっていう?」

『そこはもう滅んで存在しない。我の故郷とは別の地だ。貴様も知っての通り、長年拮抗を保っていた人間族と魔人族の争いだが、最近変化が訪れ始めた』

「……ああ、確かフリードとかいう男が神代魔法を習得したんでしたっけ?」

 

 七大迷宮の一つ、氷雪洞窟。

 現代の人類レベルでは到達できないと思われていた迷宮に単身乗り込み、見事攻略してみせた魔人族の英傑。

 今では手に入れた“変成魔法“で魔物を生み出し、徐々にだが戦況を有利に押し始めている。

 このまま行けば、遠くない未来に魔人族が人間族に勝利する日も近いだろう。

 

『このまま人間族がじわじわと追い詰められていくのを見るのも一興だが、それでは一方的過ぎて面白みに欠けると思ってな。新たな駒を呼ぶことにした』

「へえ、いいんじゃないですか? 面白そうですし」

 

 どうせ退屈な毎日に辟易としていたエルフェウスは特に悩む素振りを見せずに肯定する。

 他の神の使徒とは違い、自らの意志をハッキリと示す彼女の姿に、エヒトは上機嫌に話を続ける。

 

『エルフェウスよ。貴様にはこの世界に転移させる人材の選別を任せよう』

「え? 私が決めるんですか?」

 

 てっきりエヒトが独断と偏見で決めるのかと思っていたのだが、そうではないらしい。

 

『単純な力量ならともかく、我に奴ら如きの良し悪しが分かるものか。反面、貴様は人の深層心理に精通している。得意だろう? “絶望“を生み出すのは』

「……ふふっ」

 

 返答は無い。

 返したのは人間味にあふれた純朴な笑みだけ。

 傍目から見れば、その優れた容姿も相まって、心奪われる者が続出しかねない姿だ。しかし、その性格を熟知しているエヒトは、その奥底に潜む闇に満足そうに頷いた。

 

『ああ、やはり貴様は良い。期待しているぞ、我が望む盤上を作ってみせよ』

「我が主のお望みのままに」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 エヒトの居住を後にしたエルフェウスはテクテクと真っ白な道のりを歩いていた。

 神域は外界とは隔離された特殊な結界内に存在してる。その広さはエヒトですら把握しきれない程に広大だ。

 どれだけ歩いただろうか。すでに人工的な建造物は姿を消し、道としての役割を果たしていた僅かな目印も無い。

 

 上も下も右も左も分からない真っ白な空間。周囲に誰も居ない無人の地にて──

 

 

「…………あはっ」

 

 

 彼女は笑った。

 

 

「あはははははははは、はははははははははははははっ!!!」

 

 

 大口を開け、腹を抱え、その身を捩り、頬を赤く染め、秘部を濡らし、ヨダレを垂らし、瞳孔を開き、それでも彼女は笑い続ける。

 

「ああ、楽しみです! 楽しみ過ぎます!! 最高のシチュエーションじゃないですかぁ!!」

 

 天を仰ぎ、両手を広げ、その場にくるくると回り続ける。まるでプレゼントを貰った幼子のように。

 

「どんな物語にしましょうか!? 王道展開? 恋愛物? それとも喜劇もいいかも!!」

 

 異世界から呼び出した勇者役に世界を救わせてハッピーエンド?

 世界を救うために傷だらけになりながら戦う勇者に恋する姫との純愛ストーリー?

 種族の垣根を取り払い、世界中が手を取り合い笑顔があふれる平和な結末?

 

 ああ、迷うなぁ。迷うなぁ。そう言いながらエルフェウスはああでもないこうでもないと、一人で頭を悩ます。

 くるくると回り続けていたエルフェウスだったが、突如ピタリと静止したかと思えば、その場に膝を付いた。

 

「でも……最後はやっぱり、悲劇が一番ですよねぇ!!」

 

 うっとりとした表情を浮かべながら、エルフェウスは心の中で自らの主を思い浮かべる。

 

「ご期待下さい、エヒトルジュエ様。このエルフェウスが、最低最悪な物語をご用意してみせます」

 

 既に美人が台無しなほどに様相を崩したエルフェウスだったが、そんな事は気にもならないと、腕を組み天に祈りを捧げる。

 遠くない未来。そこで自分の完璧な物語を披露したときの主の姿を思い浮かべて……

 

 

──エルフェウスは嗤った。

 

 

 

 数日後、エルフェウスはエヒトに授けられたアーティファクトを使用し、地球と呼ばれる世界の観測を始める。

 

 全ては、“絶望の物語“を作り上げるために。

 

 

 

 




>着地点は見えてます。

 逆に言えば着地点しか見えていません。基本ノリと勢いだけ。

>主人公 エルフェウス

 ちょっと頭がオカシイだけの普通の女の子。

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