絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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何とか週一投稿は出来てるけど、プロットとか作らず、思いつきで書いてる弊害が出始めてるなぁ。



主様と神様

「ぐうっ!?」

 

 鈍器で殴られたかのような衝撃は、自身とエルフェウスの間に騎士ゴーレムの腕を挟み込んだ瞬間に訪れた。

 騎士ゴーレムの装甲を容易く砕く威力に、そのまま地表へと墜落する。

 

「何で……何で生きてる……!!」

 

 地面に激突したミレディを追い、着地した無傷のエルフェウスを見て、ミレディが吠える。

 あれだけの大質量での面攻撃を躱し切ったとしても、“黒天穹“まで防がれるとは考えもしなかった。視界こそ落下したブロックで遮られていたが、その気配は常に感知していた。その気配が移動すること無く、その場で消失したことは、間違いなく“黒天穹“に呑み込まれたことを示していた……はずだった。

 

「別に避けたわけじゃないですよ? ちゃんと死んでます」

「何を言って……!」

 

 周囲のブロックで砕かれた腕を修復しながら、騎士ゴーレムを立ち上がらせたミレディは、改めてエルフェウスの姿を捉え、そして気付く。

 

「装備が、変わってる?」

 

 先程まで戦っていたエルフェウスはドレス甲冑を纏っていたはずが、いつの間にか修道服に変わっていた。

 

(いや……そもそも私が最初に見た時は修道服だった)

 

 修道服を着た神の使徒と、ドレス甲冑を纏った神の使徒。その意味をするところは……

 

「始めから、二人だった……?」

「大正解♪」

 

 声を震わせながら言葉を出したミレディに、エルフェウスは満面の笑みで答えた。

 

「ちゃんとヒントをあげたのに中々気づかないんですから困っちゃいましたよ」

「始めから他の使徒も潜り込ませてたのか……!」

 

 そう考えれば、入り口に戻したのにも関わらず、侵攻が止まらなかった理由も想像がつく。目の前の使徒が入り口に戻されていた個体なのだろう。ただ、もう一人の使徒の存在に気付いていなかっただけ。

 

「あ、さっき死んだのは他の使徒じゃなくて、私ですよ?」

「……は?」

「“分魄(ぶんぱく)“って言うんですよ」

 

 “分魄“──自身の魂を分かち、他の器に埋め込むことで、自分をもう一人作り出す魔法。さらにオリジナルとコピー体は常に意識が連結しており、お互いに見聞きしたことをリアルタイムで共有することが出来る。

 器となる肉体は人間族と魔人族を適当に煽れば簡単に手に入った。

 

「数だけはたくさんありますからね。有効に利用しないと」

「どこまでお前は私を馬鹿にすれば……!」

 

 激情のままにヒートナックルを振り下ろすが、宙に跳び上がってそれを躱したエルフェウスは、そのまま器用にくるりと一回転すると、バサリとその背から生やした銀翼を大きく広げた。

 そのまま天井近くまで飛翔し、上空からミレディの姿を見下ろす。

 

「くそっ!!」

 

 ライセン大迷宮の最深部。ここはライセン大峡谷の魔力分散が一番高く、まともな方法では魔法を発動させることすら困難だ。だが、神域から無限に等しい魔力補給が得られるエルフェウスには意味がない。

 

「ミレディ・ライセン」

「ッ!?」

 

 エルフェウスの翡翠色の瞳が怪しく光る。

 まるで心の奥底まで見通されるかのようなそれに、ミレディの肩が無意識に震える。

 

「貴方の役目は終わりました。出番を終えた駒は、疾く舞台を降りなさい」

 

 翼を折りたたんだエルフェウスが、真っ逆さまに急降下した。

 

(──殺される)

 

 ミレディの脳内に激しい警鐘がけたたましく鳴り響く。

 神の使徒との戦いはこれが初めてでは無い。今でも鮮明に思い出せる。人形のように一切の感情の起伏を感じられず、能面のようにピクリとも動かない表情。

 感情を持たず、ただただ機械のように命令を実行する不気味さを覚えている。

 

 だが、()()()()()

 

 目の前の少女から感じられる感情。

 それは正しく、神の尖兵が発する自身への“殺意“だった。

 

 知らなかった。

 神の力を宿す存在に向けられる害意が、こんなにも恐ろしいものだったなんて。こんなにも生きた心地がしないものだったなんて。思わず、ゴーレムの身体が恐怖に震え、流れるはずのない汗が頬を伝うような錯覚を覚える。

 

「──ふざけるな!!」

 

 恐怖心を一喝で吹き飛ばす。

 敵が超越の存在であることなどとっくに分かっていた。これでしっぽを巻いて逃げ出したりなんかすれば、それこそ仲間たちに合わす顔が無い。

 

(魔力が尽きないといっても、分解作用が効いていないわけじゃない!)

 

 真の神の使徒の固有魔法、“分解“。

 それは触れたものをまたたく間に分解してしまうという恐ろしい力を秘めており、両手に持つ大剣や、銀の羽に付与することが出来る。

 しかし、魔力が補給されているのはエルフェウス自身。武装の大剣はともかく、身体を離れた銀の羽に付与された分解能力はほぼ封じていると言っていいだろう。

 

(つまり、接近戦に持ち込ませなければ良いッ!!)

 

 重力を操り、後ろに落下したミレディの目が一瞬光る。

 その瞬間、周囲に落ちていたブロックが、一斉にエルフェウスを押しつぶさんと上空へと落下を始める。

 ミレディとエルフェウスの間を、隙間無く埋め尽くすブロックを正面から躱すのは事実上不可能。分解を使うか、大きく旋回するしか選択肢は無いだろう。

 

 

「左腕」

 

 

──そのはずだった。

 

「……え?」

 

 ドガアァンと言うブロック同士が衝突する音が響く。

 その光景を目にするミレディの視界の隅で、モーニングスターの鎖が巻き付く左腕が断ち切られたのが見えた。

 騎士ゴーレムの左腕を両断したエルフェウスは、そのまま勢いのままミレディ背後へと通り抜けていく。

 

(どう、やって……!)

 

 ミレディは知るはずもないことだが、エルフェウスはコピー体を使うまでも無く、ハジメを通して、ミレディの戦法を十分視ている。

 重力魔法を利用して変幻自在な軌道で飛び交うモーニングスターは、巨大ゴーレムの主武装の一つだ。それを真っ先に潰すのは、戦略として至極当然の選択だった。

 

(くそっ、一旦距離を空けて……)

 

 まだ近接武装(ヒートナックル)はあるが、容易に懐に接近された事実が、ミレディに後退を選ばせる。

 

「右腕」

 

 その瞬間、背後から飛来した大剣が騎士ゴーレムの右腕に突き刺さった。

 

「なっ!?」

 

 同時に、大剣に付与されていた分解魔法が発動。

 右腕の肩口を抉りとり、支えを失ったヒートナックルが虚しく落下していく。

 

(なん、でっ)

 

 困惑するミレディ。

 背後から大剣が飛んできたこともそうだが、エルフェウスの手を離れた状態で分解魔法が発動出来たことに、だ。しかし、すぐにその理由に気付いた。

 右腕を抉り取った大剣がそのまま自重で落下していくと思われたのも束の間、突如その軌道を変えてエルフェウスの手元へと戻っていく。大剣の柄に取り付けられた一条のキラリと光るワイヤー。それがエルフェウスの修道服の袖口に伸びているのを見た。

 超スピードでミレディに接近したエルフェウスは、事前に大剣の一本を配置。ミレディの視線が自らに向いている隙を狙い、背後から奇襲かけた。

 

「左足」

 

 続けざまに騎士ゴーレムの股下をくぐり向けながら、左足を斬り落とす。

 

(ダメだ……! ゴーレムの反応が……!)

 

 もし、騎士ゴーレムが万全の状態だったのならば、ここまで一方的に蹂躙されることもなかっただろう。

 ミレディの思考伝達速度が間に合ったとしても、ゴーレムの反応伝達速度が間に合わない。

 

「右足」

 

 騎士ゴーレム装甲の奥に隠された、世界最高硬度を誇るアザンチウム鉱石を使用した特別性の装甲。

 生半可な攻撃では傷一つ付けることすら叶わないが、尋常ならざる膂力と、双大剣に付与された“分解“によって、まるでバターのように斬り裂かれていく。

 

「首」

 

 続けざまに、顔前まで瞬時に移動したエルフェウスが身体を独楽のように回転させ、遠心力を加えた回し蹴りを叩き込む。まるでむしり取られたように、騎士ゴーレムの首はグシャリと音を立ててちぎれ飛んでいった。

 

(くそっ、対応が……間に合わない)

 

 速い、だけではない。

 そこにいるはずなのに、手が届かない。躱したはずなのに、傷が増える。距離を離すことすら許されない。攻撃に転じることも出来ない。

 

 平常心を無くせば無くすほど。理性を失えば失うほど。

 エルフェウスの“誘導“によって、互いの間合いすら勘違いしてしまう。

 

 エルフェウスは、他の神の使徒と違い、強い感情や個人の明確な意志を持つ。

 その最大の違いは、()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 ほとんどの神の使徒の戦闘スタイルは、人並外れた桁違いの魔力と身体能力による制圧がセオリーだ。

 しかし、エルフェウスは違う。数千年以上の時を生き続け、人という生き物を見続けた彼女は、その人物の性格や戦闘スタイルを自身の戦術に組み込み、それを利用した戦略を構成する。

 自分のパフォーマンスを最大限に発揮させるのではなく、相手のパフォーマンスを最低限にまで抑えるような戦法。

 

 四肢と首を失い、ガラクタ同然へと成り果てた騎士ゴーレムの胸部に着地したエルフェウスは逆手に持ち替えた双大剣を頭上に掲げる。

 ミレディが魔法を唱えようとするが、それよりも剣を振り下ろす方が断然速かった。

 

「心臓」

 

 振り下ろされた二閃が、騎士ゴーレムの核を貫いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 浮遊していたブロックが次々と地上に落下していく。

 周囲をもうもうと粉塵が覆い隠す中、瓦礫の山の一角が崩れる。

 そこから出てくるのは乳白色の腕。続いて身体を引きずるようにミレディが姿を現す。

 何とか全身を瓦礫から引きずり出したあと、周囲の状況を確認しようと顔を上げ──

 

「ガッ!?」

 

 粉塵の奥から伸びてきた腕に首を捕まれ、そのまま持ち上げられる。

 

「はいはい、大人しくしてくださいねー」

「お、まえ……!」

「無駄な抵抗は止めた方が良いですよ? この距離なら貴女が魔法を撃つよりも私が“分解“する方が速いですし」

「くっ……!」

 

 エルフェウスの言葉に、ミレディはただ呻くことしか出来なかった。

 そもそもこのミレディの身体は他のゴーレムと違い、貧弱で戦闘用に作られていない。魔法を発動出来ないわけではないが、エルフェウスの隙を付くなどというような器用な真似は出来ないし、一度使えば、打ち止めになるほどに燃費が悪い。

 

「さて、最後に何か言い残すことはありますか?」

「……死んじまえ、クソッタレ共」

「わあ、口が悪いですね。一応イイトコのお嬢様だったんですからもう少し言葉遣いに気をつけましょうよ」

「黙れ。いつか必ず、彼らがお前たちを倒すぞ」

「その彼らってハジメ様たちのことですか?」

「…………」

「なんて分かりやすい沈黙。それは私がハジメ様たちのことを既に把握していることを分かった上での発言ですよね?」

「〜〜ッ!!」

 

 エルフェウスはハジメたちの存在を既に認知していた。その気になれば、この後すぐに彼らを殺しにかかることも出来る。それを知っているミレディは、自身の言葉がただの負け犬の遠吠えでしかないことも分かっている。

 それでも、死の間際となっても弱さを見せることだけはミレディの意地が許さなかった。

 

「なら、優しいエルフェウスちゃんが一つ、貴方の勘違いを正してあげましょう」

「……は?」

 

 そんなミレディの最後の意地は──

 

「ーーーーーーーーーーーーーーですよ?」

「…………え?」

 

 ポッキリとへし折れた。

 

「……あ、ありえない!! 嘘を付くな!!」

「この状況で嘘をつく理由がありませんよ」

「だって、あんなに……あんなに普通に……!!」

「普通じゃなかったら気づかれるじゃないですか」

 

 いや……でも……とミレディは半ば呆然としながら、与えられた情報を頭の中で何度も反復する。それほどまでに信じられない情報だった。

 これが戦いの最中であれば、自身を動揺させるための罠と断言できたが、既に勝敗がついた以上、その必要は無い。つまり、エルフェウスの話は真実である可能性が高い。

 

(嘘だ……そんなの、だって……それが本当なら、私がしたことは……)

 

 

──全部、無駄だったってことじゃないか。

 

 

「…………殺せ」

「はい?」

「もう殺せ」

「いきなり自暴自棄になりましたね」

「……もう、疲れた。殺してくれ」

 

 ダランと腕を垂らし、エルフェウスを睨む力すら失ったミレディは懇願するように言葉を紡いだ。

 希望は潰えた。仲間たちを失いながらも、必死に繋いできた意志が完全に途切れた。

 そう判断するには十分だった。

 

「…………ふむ」

 

 そんなミレディの様子をじっと見つめていたエルフェウスは、何かを考えるような仕草を取った後──

 

「やーめた」

 

 掴まれていた首を突然離され、どさりと尻もちをつくミレディ。

 

「貴女の知識は有用だったので、このまま神域に連れて帰ろうと思ってましたが、やめました」

「……何を、言って」

「貴女はまだ放っておく方が面白くなりそうです」

 

 腰を落としたまま立ち上がることすら出来ないミレディの顔を覗き込むように屈みながら、エルフェウスは続ける。

 

「安心してください。貴女の存在は、まだ()()()()()()()()()()()

「……は?」

 

 呆然としたまま固まっていたミレディだったが、その言葉に今度こそ言葉を失った。

 自身の存在を報告していない。いや、彼女の言い方からすれば、今後も秘匿し続けるつもりのようだ。

 かつて神に反旗を翻した解放者。そのリーダーたるミレディを見逃すということは、それすなわち神への裏切りに違わない。

 

「何、で……? だって、全部知ってるって……」

「ああ、あれ嘘です。私が貴女を補足したのは最近ですし。まあ、大方予想は出来てますが……」

「……お前は、何なんだ……? 何が目的なんだ……?」

 

 ミレディの身体が無意識に震えている。

 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。

 

 だからこそ、怖い。

 

「お前はクソヤローの下僕なんだろう!? 何で私を捕まえない!? 何で奴にバラさない!? 何なんだ!? 何なんだよお前は!?」

 

 恐怖を紛らわすように叫ぶミレディに目を丸くしたエルフェウスは、しばし顎に手を当てて考え込んでから、その翡翠色の瞳をミレディに向けた。

 

「ミレディ・ライセン。貴女は()()()()()()()()()()()()()()

 

 突然のことに、ミレディは呆然とすることしか出来なかった。

 エルフェウスの瞳はまるで、子供が大人に尋ねるかのような純粋な輝きを秘めている。 

 

「……か……み?」

「私はね、神様って天秤みたいな存在だと思うんだ」

 

 胸の内を明かすように、純粋に……ただ真っ直ぐに。 

 

「悪人には相応の罰を与え、善人にはその行いに相応しい恩赦を与える。そうすることで、世界を管理する唯一無二の存在」

 

 その表情には、今までのような嘲笑も愉悦も存在しない。

 

「でも、今はその天秤が大きく傾いちゃってる。だから、私はその傾きを調整しなきゃならない」

 

 幼子が夢を語るように……

 

「そうすれば、きっと神様は褒めてくれるから」

 

 

──太陽のような笑みを浮かべた。

 

 

 

 痛いほどの静寂が辺りを支配する。

 黙ったままのミレディに何を思ったのか、エルフェウスは一つため息をついたあと、背を向けて部屋の入り口へと歩き出した。

 

「一応言っておきますけど、ハジメ様たちに接触するのは禁止ですからね。破ったらハジメ様たちごと、今度こそ軍勢を率いて塵殺しますのでそのつもりで」

 

 返事の無いミレディを気にすること無く、エルフェウスは破壊して入ってきた大穴に姿を消した。

 

「…………」

 

 ミレディには、エルフェウスが何を言っているのか分からなかった。まるで理解できなかった。

 (エヒト)が天秤? 悪人を裁き、善人を救う? 馬鹿も休み休み言え。あれは自身の欲望を満たすためだけに行動しているだけだ。善悪の区別すら無い。そこに他者や世界の幸福など存在しない。

 ミレディには、エルフェウスと自身の中のエヒトが同一人物にはとても思えなかった。

 

「……あ、れ?」

 

 そんなとき、ふと頭を過ぎった違和感。

 何かが頭の片隅に引っかかるような、そんな感覚。

 思い出すのは、エルフェウスの言葉の数々。

 

『初めましてー!! 主様の忠実なる下僕、エルフェウスちゃんでーす!!』

『安心してください。貴女の存在はまだ()()()()()()()()()()

『ミレディ・ライセン。貴女は()()()()()()()()()()()()()()

『私はね、神様って天秤みたいな存在だと思うんだ』

 

 

『そうすれば、きっと神様は褒めてくれるから』

 

 

 

「あいつの言う神様は、主様(エヒト)のことじゃない……?」

 

 

 

 




>“分魄“

 ぶっちゃけリアルタイムで情報のやり取りが出来る影○身の術だってばよ。
 目で見たことや体験したことは伝達されてるから、コピー体が死んだ感覚もちゃんとリンクされてます。

>エルフェウスの強さ。

 身体能力云々は他の使徒と比べても大差無いが、戦術や戦略の幅が広い。
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