絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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来月発売のゼルダの新作。
何故発売がGW前じゃないのだろうか……


私のママ(おかあさん)だから

「あの……ごめんなさいなの」

「ああ、うん。気にしなくていいよ。私もごめんね」

 

 喋るゴーレムという世にも奇妙な存在との突然の邂逅でパニックに陥っていた幼女──ミュウだったが、ミレディの奮闘もあり、何とか落ち着きを取り戻していた。

 それでも少し距離を感じるのは、まだ警戒が完全に抜けていないからだろう。

 

(しまったなぁ。あれほど注意してたのに、完全に頭から抜けてた)

 

 言うまでも無く、今のミレディはゴーレムの身体だ。フードを深くかぶり、手足を覆い隠せば見た目だけは幼い子供に見えなくもない。

 ミュウを助けたところまでは良かったが、自身の見た目のことを忘れていた。

 

(それにしても、大方予想通りだったね)

 

 たどたどしいながらも、ある程度の事情はミュウ本人から既に聞いていた。

 ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っている時に運悪く人間族の男に捕まってしまったらしい。

 その後、辛い道程を慣れない馬車にて幾日も揺られ、このフューレンにやってきたということだ。

 

 フューレンは大陸一の商業都市ということもあり、人や物の流れが盛んだ。いつでも活気に満ち溢れた街であることは間違いないのだが、流れてくるものが正規のものだけとは限らない。

 大迷宮に籠りっぱなしだったミレディは知らぬことだが、このフューレンには表の賑わいに隠れるように暗躍する裏の存在がある。

 その一つが、違法な人身売買だ。

 海人族は王国に保護された種族だ。その海人族を誘拐し、売買するということは正規とは違うルートを使わなくてはならない。それを取り仕切る組織がこのフューレンに存在するのだ。

 

(まあ、それは今はいいか。それよりも……この子、どうしよう?)

 

 だが、正直それはどうでもいい。

 神を相手にしていたミレディからすれば、その程度の小悪党は敵では無く、その気になれば一日もかからずに殲滅することも可能だ。

 問題は保護したミュウをどうするか、ということだった。

 

 まだ幼いミュウだけでは母親の元に一人で帰るなどほぼ不可能だろう。

 どこかで野たれ死ぬのが目に見えているし、そもそもフューレンから出られるかも怪しい。

 かといって、連れて行くとなると……

 

(……あれに会わせるとのはマズイよなぁ)

 

 自分は今一人でいるわけではない。側にはあのエルフェウスがいる。

 もし、エルフェウスがミュウの存在を知ったらどうなるか。

 

(興味を持たないなら御の字。逆に持たれると色々ヤバい……!)

 

 エルフェウスの考えることなど想像も出来ないが、ミュウのことを利用できる駒とでも認識でもされたら、碌なことにならない気がする。

 

(それならやっぱり保安署だけど……)

 

 それならばエルフェウスの目にも止まらないだろうし、海人族ともなれば、保安署の職員からも手厚く保護してもらえる可能性が高い。

 普通ならその選択肢が無難なのだが、ミレディにはその手段を躊躇する理由があった。

 

(果たして、私の話を信じてくれるのかってとこが問題だなぁ)

 

 ミレディの身体は小さく、ミュウと並んでもそこまで差がないほどだ。ぶっちゃけミュウと同じ子供にしか見えない。そんな自分が保安署に行けばどうなるか。常識のある大人ならば、ミレディのことも保護しようとするだろう。

 ミュウを預けて逃げ出すことも出来るが、それで万が一騒ぎになって、エルフェウスの耳に入れば元も子もない。

 

「…………はぁ、しょうがないか」

「……?」

 

 ミュウを前に、うんうんと悩んでいたミレディだったが、諦めたように息を吐いたあと、決心したように頷いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「元居た場所に戻してきなさい」

「この人でなしぃいいい!!」

 

 バッサリと言い放ったエルフェウスにミレディキックが発動するが、ひょいと簡単に避けられる。

 

 結局、ミレディはミュウを連れてエルフェウスの元に戻ることにした。

 エルフェウスの思惑は未だに分からないが、その性格は何となく掴めてきている。

 こういったタイプには隠し事は逆効果なのだ。コソコソするからこそ相手も変にやる気を出してしまう。それならばいっそ堂々とした方が良い方向に転ぶ可能性があることを過去の経験から知っていたミレディは、エルフェウスの元に一度ミュウを連れて行くことにした。

 

 一も二もなく捨ててこいと言われたことに思わず足が出てしまったが、エルフェウスがミュウに興味を持っていないことに多少の安堵を覚えていた。

 

「じゃあ、私がこの子を保安署に送っていくよ」

「一人で行かせれば良いじゃありませんか」

「さっきまで誘拐されてた子を一人に出来ないだろ」

 

 何はともあれ、これでエルフェウスがミュウにちょっかいをかける心配は無くなった。後は保安署にミュウを届け、適当に理由をでっち上げるとしよう。最低限ミュウが誘拐された事実さえ伝われば問題ない。

 

「じゃ、お姉さんと一緒に行こう……か?」

 

 そのままミュウの手を取ろうとしたミレディだったが、肝心のミュウはトテトテとエルフェウスの方へと歩いてしまった。

 

「ミュウちゃん危ないよ!? 良い子だからこっちに来なさい!!」

「私を猛獣か何かとでも思ってるんですか?」

 

 自身の扱いの悪さに流石のエルフェウスもジト目でミレディを睨みつけるが、ミレディは気にもしない。

 ミュウはそんな二人の空気の中、ジーとエルフェウスの顔を見上げ、徐ろにエルフェウスの服の裾を掴むと……

 

「ミュウ、こっちのお姉さんといる」

「はぁあああああああああああ!?」

 

 まさかのミュウの発言にミレディの絶叫が響き渡る。

 反対に、エルフェウスはニヤニヤと嫌らしい笑みでミレディを見下ろす。

 

「おやおや? どうやらミレディよりも私の方が良いみたいですね。まぁ、こんな美少女とオモシロ人形じゃあ勝負にもなりませんでしたね」

「誰がオモシロ人形だ!!」

 

 ギャーギャーと喚き散らすミレディをエルフェウスがあしらっていると、ミュウはそんなエルフェウスの腰にしがみついた。

 

「このお姉さん、寂しそう。だからミュウが一緒に居てあげるの!」

「「……は?」」

 

 その発言にミレディだけでなく、エルフェウスも思わずその場で硬直する。

 

「ちょっと、いきなり何を言って……」

「ミュウね、ずっと怖かったの。ママと離れ離れになって、すっごく寂しかったの」

「だから一体何のことで──」

「お姉さんも、()()()()()()()()()()()?」

「…………」

「だったら、ミュウも一緒にお姉さんのママを探してあげるの! だからね……」

 

 

──もう泣かないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何のつもり?」

「それはこっちのセリフだ。この子はまだ子供なんだぞ?」

「だから?」

()()()()()()()()()()()()()馬鹿がどこにいるんだよ!!」

 

 尻もちをついたミュウ。

 そのミュウを庇うように重力場による結界を展開したミレディ。

 そして、二人目掛けて大剣を振り下ろした態勢のエルフェウス。

 

 ミレディが居なければ、今頃ミュウはどうなっていたか。想像すらしたくない。

 

「ここに居るけど?」

「何が気に触ったのか知らないけどさ、子供の言うことを真に受けるなんて案外器が小さいんだね」

「それは挑発のつもり?」

「……」

 エルフェウスとミレディの攻防は、幼子のミュウには一切認識できない速さで行われた。自分の命が脅かされたことなど知るよしも無いミュウは、睨み合う二人を不安そうな表情で見上げる。

 先に折れたのはエルフェウスの方だった。

 乱暴に大剣を虚空に消すと、ミレディたちに背中を向ける。

 

「さっさとその子供を連れて行ってください」

「言われなくてもそうするよ」

「あ……」

 

 ミレディがさっとミュウの手を取ってその場を離れる。

 

「あの……」

「ごめんね、今は大人しく付いてきてくれる?」

 

 ミレディに手を引かれながら、ミュウは遠ざかっていくエルフェウスの後ろ姿を捉える。

 

(……やっぱり、寂しそう)

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……お人形さん、お姉さん」

 

 薄暗い牢屋の中で、ミュウは小さく呟いた。

 ミレディとエルフェウスとの邂逅から、既に幾日か経過していた。

 

 エルフェウスの元からミュウを連れ出したミレディは、そのまま保安署にミュウを連れて行った。そしてほとんど一方的に事情を話した後、ミュウを保安署の職員に押し付けた。

 そこでようやくミレディが自分を置いていくつもりだと気付いたミュウが慌てて振り返るも、その時にはもうミレディの姿はどこにも無かった。

 その後、悲しみに暮れるミュウを職員は手厚く迎え、案内されるがままに着いた先が……この牢屋だった。

 

 フューレンにはフリートホーフと呼ばれる裏組織が街中に根を蔓延らせている。そして、その一部が役所の人間すら取り込み始めているのは、ギルドの人間ですら把握していない実態でだった。

 ミレディがミュウを預けた職員もまた、フリートホーフの息がかかった男だった。そんな男がミュウをそのまま保護するわけもなく、あっという間に牢屋に放り込まれてしまった。

 

 牢屋の中に居た他の人間族の子供たちも日に日に数を減らしていき、外の男たちの会話から自分の番が近づいていることを察したミュウが、無意識の内に数日前に会った二人のことを思い浮かべる。

 

 結局名前を聞くことも出来なかった二人。

 自分を怖い人たちから助けてくれたお人形さん。

 その姿に驚いたが、怖がる自分の頭を優しく撫でてくれた。その手は少し硬かったけど、すごく暖かかったのを覚えている。

 そして、お人形さんに連れて行ってもらった先で出会ったお姉さん。

 お姉さんは笑っていた。笑顔を浮かべていた。その姿を見てミュウは思った。

 何で寂しいのに笑ってるの、と。

 

 その後のことはよく分かっていない。

 いつの間にか、お姉さんが大きな剣を持っていて、お人形さんと怖い顔で睨み合っていた。

 何が起こってるのか分からなかったけど、その迫力にミュウは声を出すことも出来なかった。

 

 その時もお姉さんは寂しそうだった。

 

 もしかしたら、自分が何か悪いことをしてしまったのかもしれない。それで、お人形さんも自分を置いて行ってしまったのかもしれない。それなら、ちゃんと謝りたい。悪いことをしたらゴメンなさいしなさいってママに言われてたから。だからもう一度だけ……

 

「……お姉さん」

「呼びました?」

「ッ!?」

 

 ミュウが小さく呟いた。心の内の言葉が洩れてしまった程度の小さな呟き。それに言葉が返ってくるとは思ってもみなかった。

 ミュウがバッと顔を上げると、そこには今思い浮かべていた人物──エルフェウスが牢屋の格子越しにミュウを見下ろしていた。

 

「──ダメなの! お姉さん逃げて!!」

「うっせえぞ、ガキ!! 静かにしてろ!!」

「ひぅ!」

 

 エルフェウスがこの場に現れたことに驚いたミュウだったが、このままではエルフェウスまで捕まってしまうと、思わず逃げるように叫んでしまう。案の定、牢屋の番をしていた男がミュウを睨みつけながら怒鳴る。

 

「全く、うるさい人達ですね」

「……なん、で?」

 

 エルフェウスも捕まってしまう。そう考えたミュウだったが、怒声を上げた男は縮こまるミュウを一瞥するだけで、目の前に居るエルフェウスには目もくれず視線を元に戻してしまった。

 

「心配しなくても私は大丈夫ですよ。こう見えてお姉さん強いので。それよりも……ここから出たいですか?」

「お姉さん……?」

「ここから出たいかと聞いています」

 

 困惑するミュウを気にすること無く再度問いかけるエルフェウスにミュウは少し怖じけつくが、それでもハッキリと頷いてみせた。

 

「ママに、会いたいの」

「そのママに捨てられたのだとしても?」

「…………え?」

 

 しかし、続く言葉にミュウは言葉を失った。

 

「貴方の事情は聞きました。海で偶然母親とはぐれてしまったと……本当に偶然ですか?」

 

 運悪く母親とはぐれてしまった。そのタイミングで人さらいに見つかってしまった。

 それが、全て仕組まれたものだとしたら……?

 

「海人族の子供となればそれなりの値段が付きます。生活に苦しむ親が子供を売るなど特別珍しいことでは──」

「ママは!!」

 

 エルフェウスの言葉をミュウの大声が遮る。

 そんなことをすればまた男に怒鳴られるかもしれないが、既にミュウの頭からそんなことは抜け落ちていた。しかし、何故か監視の男が振り返ることはしなかった。

 

「ママは、そんなことしないの」

「何故、そう言い切れるんですか?」

「だって……だって、ママはミュウのママだもん!!」

「…………」

 

 ミュウの言葉に、エルフェウスの顔が僅かに歪む。

 どこか苦しそうなその表情に、ミュウが「お姉さん大丈夫? どこか痛いの?」と心配そうに見上げる。

 

『お母さんはそんなことしない……だって、お母さんは私のお母さんだから』

 

 何かを振り払うように頭を左右に振ったエルフェウスは、徐ろに一歩踏み出す。その手が牢屋の扉にかかり、そのまま音もなく扉が開いた。

 そのことに目を丸くしているミュウをさっと抱え、有無を言わさず牢屋の外に連れ出す。

 

「まあ、剣を向けてしまったことの詫びです。精々死なないように気張りなさい」

 

 それだけ告げると、エルフェウスはミュウを乱暴に放り投げた。その先は小さな穴が空いており、そこからは懐かしい水音が聞こえた。

 

「お姉さん、ありがとうなの……!!」

 

 バシャーンという大きな水音に、見張りの男たちが慌てた様子でなだれ込んでくる。

 

「何だ今の音は!?」

「……おい、海人族のガキが居ねぇぞ!? 牢屋も空いてやがる!!」

「はあ!? 誰だ締め忘れたバカ野郎は!?」

「んなことは後で良い! ガキは地下水路だ、追え!!」

 

 困惑する男たちはドタバタと飛び出していった。その場に居る下手人には目もくれずに。

 

「……何がありがとうだ、ばーか」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 男たちの野太い怒声が響き渡る建物からエルフェウスが出てくる。

 その光景を屋根の上からミレディが見つめていた。

 

「お前は……」

 

 ミレディが己の失態に気付いたのがつい先程。

 長らく人との関わりを断っていたせいか、人間社会の闇を甘く見ていた自分に嫌気が差したが、まずはミュウの救出を、と考えていたミレディだったが、それよりも早くエルフェウスが行動に移していた。

 

 例えあの場を逃したとしても、あんな幼い子供が何の伝手もないこの街で一人で逃げ続けることはまず不可能だ。地下水路では一般市民の目に止まることも無い。最悪一人で誰にも知られること無く衰弱死する可能性すらあるだろう。

 だが、ミレディはここに来る数分前にある噂を耳にしていた。

 それが、金色の髪に紅い瞳の少女と青みがかった白髪の兎人族。さらに黒髪の妙齢の美女を連れた白髪の眼帯を付けた男が入り口の検問を顔パスで通ったというものだ。実際はもう一人いるのだが、他の四人の存在感がありすぎるせいで人々の記憶から抹消されていた。

 

(美女三人を連れた白髪眼帯の男……間違いなくあの子らだろうね)

 

 一人増えているが、他の三人の特徴はバッチリ一致するため間違いないだろう。

 

(あの子たちなら地下水路に居るミュウちゃんの気配も感じ取れるかもしれない)

 

 無論、ハジメの気配感知も街全体を感知できるほどのものではなく、必ずしも気づくとは限らない。

 しかし、可能性はゼロでは無い以上、ミュウの生存率もそれだけ高まる。

 ハジメ達が街に居ることを、エルフェウスも当然気付いているだろう。

 

(ミュウちゃんを彼らに助けさせて何かを企んでる……?)

 

 そんな考えがミレディの頭の片隅に浮かぶが、そんな杜撰(ずさん)な計画をエルフェウスが立てるだろうか?といまいち断言が出来ない。

 

「まさか、本当に逃しただけ? あの子を助ける為に……?」

 

 思い出すのは、数日前のミュウの言葉。

 

「……寂しそう、か」

 

 この数日間だけでも、エルフェウスの様々な顔を見た。

 

「本当にお前は何なんだよ……」

 

 ライセン大迷宮でも怒号と共にぶつけた疑問。

 しかし、その時には感じもしなかった不思議な感情が、その言葉には込められていた。

 

 最初の印象は、いけ好かないエヒト(クソヤロー)の人形でしか無かった。でも、戦いを通じて、他には無い強い感情と何かしらの使命感を感じた。

 食事や娯楽で一喜一憂する姿は、本当にただの町娘のようだった。

 ミュウを見つめる姿はどこかあやふやで、今にも消えて無くなってしまいそうな儚さを感じた。

 

 

──ねえ、どれが本当のお前なんだ?

 

 

 

 




回り回ってミュウはハジメ達の元へ行きました。流石に同行は色々と問題ありそうだったので。
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