絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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物語の始まり

 改めまして、私の名前はエルフェウス。

 創造神エヒトルジュエ様に仕える、神の使徒の一人です。

 

 自分で言うのもアレだが、私はとても優秀なんです。

 姉様達を馬鹿にするつもりはないが、ああも無表情で淡々とされ続けていたら主様だって疲れると思います。

 いくら美人といっても、何を話しても、何をしようとも、表情筋一つ動かないのは誰だって嫌だと思うんです。無表情の美人って逆に怖くないですか?

 

 それと引き換え、私は違います。

 まず、感情が豊かです。楽しければ笑うし、嫌なことがあれば顔を顰めます。

 人間が不幸な目にあった時、主様の隣で一緒に嘲笑してます。想定外の行動をする邪魔者が居ればすぐに殺しにかかります。

 そんな出来た女性なおかげか、エヒト様の私の評価はうなぎ登り。もはや止まることを知りません。誰か私を止めてほしいくらいです。

 

 その証拠に、エヒト様から異世界から呼ぶ駒の選別という大役を仰せつかりました。

 勢いを増してきた魔人族に対抗するための人材というわけですが、誰でも良いというわけではありません。

 魔人族の侵攻に対抗しつつ、良い具合に見ごたえのある盤上を作らなければいけないのです。

 

 そんな使命を持った私が行ったのは、まずは地球という世界の情報収集です。

 と言っても、魔法の概念が存在しないかの地では、私の干渉が防がれることもなく、あっという間に裏の裏までを丸裸にすることができました。

 そして分かったのが、力量という点ではトータスの人間族にも劣る種族だということ。科学というこの世界特有の技術には少し興味をそそられましたが、戦力を導入してまで手に入れたいかと言われればそうでもありません。

 取り込めばトータスの文明レベルは飛躍的に向上すると思いますが、人類の文明レベルなど私達からすればどうでもいいからです。

 

 最初こそウキウキで観測を続けていた私だったが、想像よりも軟弱な人類たちに早々にダラけ始めていました。

 そんな時、ある存在の情報が上がったのです。

 

 信憑性は低いが、この世界には星をまるごと消し飛ばすビームを放つ戦闘民族や、生者を生贄に死者を蘇らせる術を使う忍が居るらしい。更には、人間の社会に人ならざる者が紛れ込んでいて、それを日夜狩るために活動している秘密組織もあるという。

 

 そんな情報がなぜ今まで手に入らなかったのかは疑問だが、情報が確かならば非常に興味があります。

 鬼が出るか蛇が出るか……こんな面白そうなことに手を出さないわけにはいきません。

 

 そうして私はそれに出会った。

 

 

 “アニメ“という文化に。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 辺り一面を呑み込む業火の波。轟く剣戟と天を衝くような爆発と共に崩壊していく町並み。

 独特な形の額当てをした隻腕の男と、カマキリのような四肢を持った不気味な男が、雄叫びを上げながら激突する。

 隻腕の男の一撃が不気味な男の片腕を斬り飛ばすが、代償として片目を失ってしまう。

 

『宇髄さん!!』

 

『止まるな!! 跳べ!!』

 

 男の言葉に、額に痣のある少年が刀を構えて跳びかかるが、男が振り上げた鎌が顎に突き刺さる。

 それでも少年は諦めない。刃が顎を貫通した状態のまま男の首に刀を振り下ろす。

 少年の覚悟に応えるように、金髪の少年と、猪の被り物を被った少年も、帯を操る少女に刀を振るう。

 

『『『うおぉおおおおおおおお!!!』』』

 

「うおぉおおおおおおおお!!」

 

 それを観ていた少女も、思わず拳を握りしめ声を上げる。

 そして三条の剣閃が、ついに──……

 

 

──プツン。

 

 

 小さな切断音のような音と共に目の前が真っ暗になった。

 雄叫びを上げていた少女は、一瞬何が起こったのか分からず固まるも、ギギギッと首を後方へと向けた。

 

「我らが主からの神命です。すぐに出立します」

 

 そこには世界を支配する杖(テレビのリモコン)をこちらに向けながら、無表情で指示を出すノイントの姿があった。

 

「何してんだぁああああああああ!?」

 

 思わず敬語が抜け、乱暴な言葉づかいでノイントに掴みかかるエルフェウス。

 そんな彼女の姿に目を細めながら、ノイントは煩わしいと言わんばかりに、エルフェウスを振り解いた。

 

「何をしているのかはこちらのセリフです。毎日毎日自室に引きこもり、下等な人間如きが生み出したくだらない妄想を見るなど時間の無駄でしかありません」

「妄想じゃありません! 彼らは私達の心の中に確かに存在しているのです!」

「……はぁ」

「あ!? 何ですか今の溜息は!? まるで私が聞き分けのない子供みたいな態度じゃないですか!?」

 

 地団駄を踏みながら抗議を繰り返す妹を無視し、ノイントは少し前とは一変した妹に与えられている自室を見回す。

 壁にはポスターや垂れ幕が飾られ、新たに設置された棚には精巧に作られた人形が所狭しと飾られている。

 机の上には巨大なモニターが置かれ、周辺には大きな箱のような機材や、ディスクが入った小さな箱。

 更に本棚には溢れんばかりの本が敷き詰められている。しかし、それは決して乱雑に置かれているわけではなく、種類や数字で綺麗に整頓されている。

 

 地球で言うところの、お手本のようなオタク部屋がそこにはあった。

 

「主のお力を借り、様々な物品をこちらの世界に持ち込んだようですが……まさか自らの欲求を満たすだけのために利用したのではありませんか?」

「ちーがーいーまーすー! これは実際にあちらの人間を転移させるための予行練習のようなもので、私はそれを再利用しているだけですぅ!!」

「……はぁ」

「また溜息!? 溜息つくと幸せが逃げてくんですよ!!」

 

 ギャーギャーと喚き散らす妹の姿に、ノイントは今日3回目の溜息をついた。

 

 エルフェウスが地球観測の最中に見つけたオタク文化。

 それは当初の予想と違い、架空の作り話に過ぎないものだったが、何のけなしに覗いたが最後。複雑に作り込まれた物語。綿密に計算された伏線。怒涛の衝撃展開の連続。

 彼女がその世界観にのめり込むのに、そう時間は掛からなかった。

 

 そこからの彼女の行動は早かった。

 人間を転移させる予行練習という名目で、テレビを初め、ゲームに漫画にDVD、ポスターにフィギュアなどなどを異世界から取り寄せた。パソコンにも手を出したかったのだが、魔力で代替できる電力と違い、ネット環境などというものが存在しないトータスではただの鉄の塊でしかなく、泣く泣く断念した。

 

 彼女たち神の使徒には睡眠が必要ない。エルフェウスは暇だからと寝ることはあるが、活動を続ける上では実際に不眠不休でもパフォーマンスが落ちることはないのだ。

 それを利用し、今までは娯楽として睡眠に当てていた時間を全てアニメや漫画、ゲームに割り当てていた。

 無論、当初の役割を放棄したわけではない。そちらも同時並行で進めていた。

 故に彼女は宣言する。私はサボっているわけではない。ちゃんと仕事もこなしているんだぞ、と。

 

「これ以上まだ私に働けって言うんですか!? ブラック企業反対!! 労働基準法の改正を求めます!!」

「また意味の分からない言葉を……いいから行きますよ」

「はっ! さてはノイント姉様妬いてます? 私ばっかり主様に仕事任されるんで妬いてるんでしょ?」

「…………」

「ぐえっ!? ちょ、待っ!? 首、首絞まってます!!」

 

 不満な表情から一変、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ始めたエルフェウスに、ノイントは黙って襟首を掴んで部屋の外に引きずっていく。

 

「怒ってます!? 怒ってますよね!?」

「怒ってなどいません」

「絶対怒ってますよね!? 絶対感情持ってますよね!? ってちょっと待って本当に待って下さい!? 実は私、これからやらなければいけない使命があるんです!!」

「……使命?」

 

 その言葉にノイントはピタリと静止する。

 彼女がエルフェウスを外に連れ出すのはエヒトからの神命だが、同時並行で彼女にはやるべきことがあるのかもしれない。それが神域でしか果たせないものならば、いま下界に降りてしまうのは効率が悪い。話を聞き、優先順位が高いものならば先にそちらを済ませるのが得策かと考える。

 

「その使命とは何ですか?」

「名探偵コ○ンのアニメ全話視聴」

「……ちなみにどの程度かかりますか?」

「えっと……1話を20分と考えれば、今1000話を超えているので……大体15、6日くらいで終わると思います。あ、でも劇場版とかを含めるとさらに──うぐっ!?」

「却下です」

「ああっ!? コ○ーーーン!!」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「うう、私のコ○ン……」

「情けない声を出さないで下さい」

 

 場所は変わり。ここはハイリヒ王国の神山にある聖教協会の神殿。

 中央にある広間では、今まさに異世界からの召喚の儀が行われようとしていた。

 

「この場に居る者は、私達が主に仕える使徒と知っている者達だけです。つまり貴方の立ち振舞いがそのままあの方の風評に響きます」

「言われなくても人間たちの前では非の打ち所が無い従順で美人で完璧な神の使徒様を演じますよぉ」

 

 今のエルフェウスとノイントの格好は普段のドレス甲冑ではなく、聖教教会に仕える修道女のものだ。

 一介の修道女がこの召喚の儀を行う場にいるのは非常に似つかわしくない光景だが、誰も彼女たちを邪険にしようとするものは居ない。

 何故ならば、彼らは知っているからだ。彼女たちが聖教教会に仕える修道女などでなく、自分たちと神を結びつけるメッセンジャーなのだと。その証拠に、今この瞬間もチラチラとこちら伺うような視線を感じる。

 

「最も、貴方一人の振る舞いで主への信仰が揺らぐことなどありえませんが」

「耳障りの良い言葉を並べるだけで簡単に信じちゃいますからねぇ。お馬鹿すぎて思わず抱きし締めたくなっちゃいますよ」

 

 この場に人間たちが居なければその顔に嘲笑を浮かべていただろうが、神聖で高潔な神の使徒を演じているエルフェウスは貼り付けた仮面を剥がさない。

 それでも、隣にいるノイントには仮面の奥に隠された感情がハッキリと伝わっていた。彼女の本性を知っているからなのか、姉妹だからこそなのか……本人にもそれは分からない。

 しかし、一つだけ断言できることがある。

 こういう時のエルフェウスの纏う雰囲気は、嫌というほど自らが仕える(エヒト)にそっくりだった。

 

「……」

 

 その雰囲気を近くで感じるたびに、胸の奥に何かが引っかかるような違和感を感じる。

 それは言わば、父に気に入られている末妹に対する嫉妬。姉妹の中でただ一人、主に近い感情を持ち合わせている妹に対する羨望。

 しかし、自我が薄い彼女は自らのそんな思いにすら気付かない。

 

「ノイント姉様、どうかしましたか?」

「……いえ、何でもありません。それよりも、準備が整ったようです」

 

 ノイントの言葉にエルフェウスが視線を前に向けると、神官の中でも特に豪華な法衣を纏った老人が二人の前に歩み出て来た。

 

「使徒様。召喚の儀の準備が整いました。つきましては、使徒様のお力をお貸し頂きたく存じます」

「エルフェウス」

「はい、ノイント姉様」

 

 その場で跪く老人──イシュタルの姿に、名を呼ばれたエルフェウスは前に出る。

 異世界からの召喚。それはまさに神の御業。イシュタル達では発動することすら出来ず、実行するのはエヒトよりその任を任されたエルフェウスだ。

 

「イシュタル。この後の流れは分かっていますね?」

「もちろんでございます。召喚成功後、勇者様へのご対応は私共で行わせて頂きます」

「よろしい」

 

 異世界から勇者たちを召喚するのはエルフェウスの役目だが、その後の流れはイシュタルを始め、聖教教会側に任せる手筈になっている。ノイントやエルフェウスの存在は聖教教会でもこの場に呼ばれるほどの高位の神官しか知ることは出来ない。なるべく真実を知る者は少ない方が都合が良い。

 

 エルフェウスは台座に描かれた魔法陣の前に立ち、片手を前に突き出した。

 

「では、始めましょう。我らが神に導かれし勇者の召喚を」

 

 バチバチッと稲妻が奔り、魔法陣の円環が回転を始める。

 描かれた幾何学(きかがく)模様が宙に浮かび上がり、円環の回転に合わせるように踊り始める。

 そんな幻想的な光景を前に、周囲で祈りを捧げる神官たちは恍惚とした笑みを浮かべた。

 

「我は神の代弁者。我は救世の求道者。我が声に応え、降臨せよ」

 

 その瞬間、カッと爆発したかのように周囲を光が覆った。

 思わず腕で顔を覆う神官たちを無視し、エルフェウスはテクテクと彼らの最後尾──ノイントの隣まで戻ってくる。

 

「結果は?」

「私が失敗するわけないじゃないですか」

 

 エルフェウスに横目を向けていたノイントは、彼女の言葉に視線を前に戻した。

 周囲を覆っていた光が収まり、落ち着きを取り戻した神官たちが慌てて両手を組み、祈りの体勢を作り直す。

 

 その祈りを向ける先では、困惑した表情で周囲を見回す()()()()()()()姿()()()()()

 

「大成功です」

 

 エルフェウスは一人、歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 




>鬼○の刃

 あの戦闘シーンはマジ凄かった。
 そして想像して欲しい。あの三人が鬼の首を斬り落とす瞬間。あのタイミングで、もし自分がテレビの電源落とされたら……初視聴でそれをやられたらどうなるか……

>無意識嫉妬ノイントさん

 親に甘やかされる妹に嫉妬する姉の図。
 感情が薄いため、本人は完全に無意識。
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