絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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もう一度、必ず──

『趣味の合間に人生』

 

 その言葉を胸の奥に掲げるハジメの見る景色はいつもモノクロで移り映えのないものだった。

 友人と呼べる存在も居らず、将来の道筋を立て始めていた彼にとって学校など最低限のステータスを得るためのものでしか無かった。

 

 無意味な時間を無気力に過ごし、何を為すわけでもなく、その日その日をのらりくらりとやり過ごす退屈な日々。このような所にわざわざ通わずとも、必要なものは全て手元に揃っていた。

 

 ゲーム会社の社長を勤める父と漫画家の母。

 幼い頃からハジメの周りには数多の心躍るものがあった。

 ハジメの世界は、自らの家の中だけで完結していた。

 

 そんなハジメだったが、幼い頃ふと疑問に思ったことがあった。

 

 父と母はどうして結婚したんだろう、と。

 

 勿論仲が悪いわけではないし、二人が笑っているとハジメも自然と嬉しくなる。

 でも、時折思うのだ。自分にとっては二人は血の繋がった大切な家族だ。しかし、二人は違う。元々は赤の他人だったはずだ。それなのに、どうしてそんなにお互いを信頼しているのだろうか。

 

 幼いハジメは、自分もいつか今は顔も名前も知らない誰かとそんな関係になるのだろうかと思い浮かべたようとしたが、そんな光景は欠片も浮かばなかった。

 小学校で同い年の女子と関わる機会はあったが、内気な性格で口下手なハジメはうまく馴染むことが出来なかったし、自分の好きな話をしようにも彼女達はそれを理解してはくれなかった。

 

 だからある日、直接聞いてみることにした

 

「お父さんとお母さんはどうしてお互いを好きになったの?」

 

 家族三人で夕食を囲んでいた時に息子から告げられた質問に、両親は思わず顔を見合わせるも、すぐに笑みを浮かべながらハジメに語りかけた。

 

「母さんが美人だったからだな」

「お父さんが高給取りだったからよ」

「え゛!?」

「冗談よ」

 

 母──菫の言葉に一瞬父──愁が死にそうな表情を浮かべるも、すぐに付け加えられた菫の言葉に安堵から崩れ落ちた。

 

「え、と……」

「ああ、ごめんね。どうして好きになったかだったわね? うーん、何でと言われても気付いたらとしか言えないし……」

「じゃあ、どうして好きになったって気付いたの?」

「む? 我が息子ながら中々哲学のようなことを聞く。そんな聞き方どこで覚えたの?」

「お母さんの持ってる漫画」

 

 はっきりと答えるハジメに「私のせいか〜」と天井を仰ぐ菫に代わり、愁がはいはいと手を挙げる。

 

「お父さん答えられるぞ?」

「何?」

「それはな……俺の持ってるゲーム全部捨てても母さんが欲しいと思ったからだな」

「ゲーム、全部捨てちゃうの……?」

 

 愁の言葉にハジメは戦慄する。ゲーム会社の社長という立場故に、愁の手元には定番な人気ゲームからもう手に入らない希少なゲームまで様々なジャンルが揃っている。それを全て捨てることは、ハジメにとって全財産を投げ捨てるようなものだ。

 

「あくまでたとえだよ。でも他の何を捨てても母さんと居たいと思ったのは事実だぞ」

「それなら私も漫画全部捨ててもお父さんと居たいと思ったわよ?」

「……他の何を捨ててでも」

 

 つまりハジメにとって大切なゲームや漫画。それらを全て捨ててでも隣に居て欲しいと思ったらその人が好きということになる。

 

「そんな人、居るのかな?」

「ハジメはまだ子供なんだから焦らなくてもいつか出会うわよ」

「そうだぞ。よし! 男なら目標はでっかくいくとしよう!!」

 

 そう言うと愁は両手を大きく広げた。

 

「よく聞けハジメ。お前にもきっと運命の相手は現れる。それでもしその子が苦しんでいたら、何を犠牲にしてでも、それこそ世界を壊してでも絶対に助けるんだ!!」

「ええ……?」

 

 突然話がぶっ飛び始めたことにハジメは思わず引く。

 

「それ良いわね!『お前を救う為なら世界なんてどうでもいい!』とかあれば完璧ね!!」

「だろう! 世界を救うにはヒロインを殺すしか無い。でも主人公はこう言うんだ。『お前が居ない世界に価値などない!』と」

「イイ!!」

 

 完全に話が脱線し始めた両親をおいて、ハジメは一人思いにふけた。

 

(それだけ大切に思える人が、本当に居るのかな……?)

 

 正直、全く想像は出来ない。それでも……

 

(居たら……いいな)

 

 だって、目の前の二人はとても幸せそうな顔で笑い合っているから。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……こ、こは」

「む? 起きたかご主人様」

 

 目を覚ましたハジメは、自分がティオの膝に頭を乗せた態勢で横になっていることに気付いた。つまり膝枕である。

 

「……どのくらい気絶してた?」

「ほんの数分程度じゃ。気分はどうじゃ?」

「最悪だよ……あいつは?」

「すぐそこで香織の治療を受けておる。全く、流石の妾でも肝が冷えたぞ?」

 

 ティオの指差す方向を見ると、瓦礫に背中を預けた体勢で治療を受ける光輝の姿が見えた。

 

「──ぐっ!?」

「これ、まだ動いてはいかん」

「ティオ。肩貸してくれ。あいつと話がしたい」

「……ふむ、どうやら少しは冷静になったようじゃな」

 

 しばらくハジメをじっと見つめた後、ティオは肩を貸してハジメを立ち上がらせる。そこでようやく他の面々もハジメが意識を取り戻したことに気付いたのだろう。周囲に再び緊張が走る。

 そんな視線を気にすること無く、ハジメはティオの手を借りて光輝の前まで来るとそこに腰を下ろした。

 

「あの、ハジメ君……」

「大丈夫だ。もう暴れねぇよ」

 

 不安げな表情で光輝の治療を続ける香織にハジメはそう言って戯けるように両手を上げた。

 

「おい天之河。お前に聞きたいことがある」

「……何だ」

「お前は言ったな。戦うと。敵がどんなに強大でも戦い抜くと……お前、エルフェウスに戦いを挑む気か?」

「「「ッ!?」」」

 

 ハジメの指摘に全員が目を見開いて光輝を凝視する。

 そんな彼らの視線を一身に受けた光輝は……

 

「ああ。その通りだ」

 

 ハッキリと肯定した。

 

「何でそこまで……」

「一つは恵里の為だ」

 

 王都の人間を大量に殺害した恵里の罪は重い。本来なら情状酌量すら認められずに裁かれるだろう。

 

「だけど、今は人類滅亡の危機だ。それを俺達の手で回避できれば、それなりの恩赦が与えられるはずだ」

「……まさかお前」

「それで恵里の減刑を願う」

 

 光輝の言葉にリリアーナは僅かに表情を歪めるも口を挟むことはしない。恵里の罪は並大抵では拭いきれないものだが、今は人類滅亡の危機だ。個人的な感情はともかく、罪人一人を見逃すだけでその救済の対価となるなら安いものだ。

 

「お前、本当に天之河か?」

「当たり前だ。何度も聞くなよ」

「いや、流石に変わり過ぎだろう」

 

 あの光輝が人助けに対して対価を求めた。それは無償の善意が当たり前だった彼の性格を知る面々からすれば信じられない光景だった。

 

「それともう一つ。エルフェウスさんのことで気になることがある」

「……何だ」

「あの人は多分嘘をついてる……いや、少し違うな。真実を語っていない、と言った方がいいかな」

「はあ?」

「まあ、俺もよく分かってないんだが……」

 

 要領の得ない解答にハジメが首を傾げると、ハジメの隣に居たティオが口を開いた。

 

「そのことじゃが、ご主人様達にも伝えておく情報がある」

「「情報?」」

「うむ……エルフェウスがついに動き出したようじゃ」

「「「ッ!?」」」

 

 ティオが告げた内容にその場に居るほぼ全員が驚愕に目を見開く。

 

「とはいっても、少々不可解での……」

 

 無言で話を促すハジメに、ティオは先程ガハルドからもたらされた情報をハジメ達に伝える。

 

「……巨像に歌、か」

「何でそんな回りくどいことを?」

「分からん。じゃが、そこの勇者の言う通り、妾達の知らぬ何かがあるのは確かじゃ」

 

 人類を滅ぼすにしてはあまりに行動が遅く、何よりも犠牲者が眠りにつくだけで生きている状況に何か意図があるのではないかとティオは考えていた。

 

「なあ、南雲。お前、エルフェウスさんのことどれくらい知ってる?」

「あ? 何だよ急に」

「この世界に来てからお前が奈落に落ちるまでそれほど時間は経ってない。つまりそこまで彼女と一緒に居たわけじゃない」

「……何が言いたい」

「俺もお前も、あの人について知らなさすぎるんだ。でも、ただの愉快犯じゃないことは分かる」

 

 準備に準備を重ねた。常にいくつもの罠を仕掛けた。最適な瞬間に最良な手段でエヒトを殺した。あそこまで突き詰めるのは何か明確な行動理念が無ければ説明できなかった。

 

「何か理由があるんだ。()()()()()()()()()()()()()()が……本当に諦めるのは、それを全部聞きだした後でもいいんじゃないか?」

「勝手なことを。そもそもどれだけ戦力に差があると思ってるんだ。聞き出すにもどうするつもりだ?」

「……え? いや、それは……その……」

「……おい、お前まさか」

 

 聞き出す以前に接触すら困難な状況をどう打破するのか尋ねたハジメだったが、突然しどろもどろに言葉に詰まる光輝にハジメは嫌な予感を覚える。

 

「い、一応自分でも考えてみたんだが、あまり良い案が出てこなくて……それで南雲なら何か分からないかと……」

「……」

「す、すまない……」

 

 俯いたまま黙り込んでしまったハジメに、もしかして怒らせてしまったかと不安になった光輝だったが、よく見るとプルプルと肩が震えていることに気付いた。

 

「……くくく」

「な、南雲?」

「ははははははははははっ!!」

「なっ!? 笑わなくてもいいだろう!!」

「あれだけ啖呵切っといて無策とか馬鹿じゃねぇの!? お前は確かに勇者だわ! 馬鹿の勇者だ!!」

 

 腹を抱えてひーひー転げ回るハジメに、光輝も羞恥に真っ赤になりながら言い返す。 

 

「お前だってエルフェウスさんに振られて落ち込んで引き籠もってたじゃないか!!」

「はぁあああ!? 引き籠もってねぇよ!! それはあれだ……オタクの習性みたいなもんだよ!! 偶に引き籠もりたくなるんだよ!!」

「どんな習性だ!?」 

 

 ギャーギャーと喧嘩を始めたハジメと光輝に、先程までの殺し合いをヒヤヒヤしながら見ていた面々は何とも言えない表情で二人を見つめる。

 

「──痛っ!!」

「あ、ごめんね。手が滑っちゃった」

 

 そんな時、腹部にズキンとした痛みを感じた光輝が視線を下げると、ニコニコと笑顔を浮かべる香織と目が合った。

 

「治療中に動くと危ないよ? また手が滑っちゃうかも」

「……あ、ああ」

「ハジメ君も体がボロボロなんだから暴れないようにね?」

「……お、おう」

 

 表情と言葉遣いはとても優しいのだが、その背後に見える般若の姿に二人は体を縮こませる。

 

「全く、どっちも馬鹿なんだから」

「でも、二人が無事で良かったです」

「たく、仲裁に入る羽目になった俺らの苦労は何だったんだよ」

「龍太郎、途中から完全に喧嘩する側にいってたよね?」

 

 その様子に呆れてため息をつく雫と安堵の表情を浮かべる愛子を他所に、龍太郎は死ぬ気で二人の仲裁に入る羽目になったことに文句を口にするが、鈴のジト目の指摘にばつが悪そうに視線をそらした。

 

「おい、天之河」

「ん? 何だ?」

「良いだろう。協力してやる」

「ッ!? 本当か!!」

「勘違いすんな。俺は俺の目的が出来ただけだ。お前に協力するのはその方が都合が良いからだ」

「ああ、それで構わない。助かるよ」

「……まあ、何だ……その……」

 

 何か言いづらいことなのか、口を開けたり閉じたり繰り返すハジメの姿に光輝達が首を傾げる しばらくすると、ハジメが光輝から精一杯顔をそらしながら。

 

「………ありがと、な」

 

 囁く程度の小さなものだったが、側に居た光輝達の耳に確かに届いた。その内容に全員が目を見開き──

 

「いや……何か気持ち悪いからやめてくれ」

 

 光輝がドン引きする。

 

「ご主人様、やはりまだどこかおかしいのでは……!」

 

 ティオが本気で頭の心配をする。

 

「香織!!」

「任せて、雫ちゃん!!」

 

 ふわっとハジメを光が包み込んだ。香織からの回復魔法だ。

 

「あわわわ!? 南雲君が壊れてしまいました!?」

「うっし! いっちょ俺がぶん殴って──」

「やめなって!? ちゃんとした所で診てもらわないと!!」

 

 わたわたと両手を振って慌てる愛子に拳を振り上げた龍太郎を必死に止める鈴。

 他にもリリアーナが最後の希望が途絶えたと言わんばかりに崩れ落ちたり、ガハルドが鳥肌の立った両腕をさすっていたりと、その場がカオスに包まれた。

 

「お前ら……」

 

 ハジメなりのケジメとして感謝を告げたつもりなのだろうが、普段の行いのせいで頭がおかしくなったと思われていることにハジメの頬がピクつく。光輝に関しては普通に悪口だった。 

 

「はあ、まあいい」

 

 盛大なため息をついたハジメは重い腰を上げ、彼らに背を向けて歩き始めた。

 

「ちょ、ハジメ君もまだ安静にしてなきゃ──」

「俺のは怪我ってよりもただの栄養不足だろ。飯食えば治る」

「そうだけど……ていうかどこいくの!?」

「ちょっと野暮用だ。すぐ戻る」

 

 香織の静止も虚しく、ハジメはトコトコと中庭を出ていってしまった。

 

「野暮用って……」

「ふふふ、流石ご主人様。普段ならこの場に居るであろう者が居ないことに気付いておったか」

「……あっ!」

 

 ティオの言葉に香織は一人の兎人族の少女ことを思い出した。ハジメは彼女が今どんな状況かは知らないはずだが、この場に居ないことで何となく察したのだろう。

 

「ご主人様に任せておけばきっと大丈夫じゃろう」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……えぐっ」

 

 王城の一室。カーテンが閉められた薄暗い室内で、シアは毛布に包まって横になっていた。

 

「ううぅ……」

 

 あの日からシアは部屋に引き籠もり一人泣き続けていた。

 目を瞑れば今でも鮮明に思い出せる。ユエが自分達に背を向けて去っていく光景を。

 

「ユエ……さ、ん……」

 

 真実を受け止めたくなくて、他者を遮断した。

 過去に縋りたくて、己を閉じ込めた。

 

 それでも、時が経てば経つほど非情な現実はまるで毒のようにシアの心を蝕んでいた。

 

「シア、居るか?」

 

 その時、ドアをノックする音と同時に、シアの大好きな男の声が聞こえた。

 久しぶりに聞くその声に、シアの肩がピクリと跳ねるもそれ以上の変化はない。

 

「……入るぞ」

 

 しばらくすると、このままでは埒が明かないと思ったのか、ハジメが扉を開けて室内に入ってくる。

 毛布に包まった動かないシアの姿を一瞥すると、そのままベットの脇に腰を下ろした。

 

「……そのままで良い。少し話をしたくてな」

 

 穏やかに、されど、どこか覚悟の感じる声色にシアは僅かに毛布から顔を覗かせた。

 

「ハジメさん、その頬……」

「ああ、これか? ちょっと馬鹿に噛みつかれてな。まあ、お陰で少し目が覚めた」

 

 その表情から。その瞳から。シアは察した。

 

(ああ、ハジメさんは乗り越えたんだ……)

 

 ハジメの叫び声はシアも聞こえていた。

 ハジメだって辛かったはずだ。苦しかったはずだ。ユエに裏切られ、ミレディに裏切られ……更にはエルフェウスに裏切られた。ハジメがどれだけエルフェウスのことを想っていたのかは旅の道中で嫌というほど知っている。

 

 それでも、ハジメはもう一度立ち上がったんだと気付いた。

 

(でも、私は……)

 

 それが正しい姿なんだと思う。このまま部屋に引き籠もっていても事態は好転しないことは重々承知している。それでもシアは立ち上がれなかった。

 未だに現実を直視出来ず、何よりもユエと戦う可能性など考えたくもなかった。

 そんなシアにハジメは優しく声を掛けた。

 

「なあ、シア。ユエのこと……どう思う?」

「どうっ、て……」

「嫌いになったか?」

 

 ハジメの問いかけにシアはふるふると首を振る。

 

「俺も同じだ。裏切られたはずなのに、不思議と怒りとか憎しみとか湧かないんだ。ただただ、どうしてなんだって一人で問いかけ続けた。今までは全部嘘だったのかってな……多分、悲しかったんだ」

「ハジメ、さん……」

「でも、一つ思い出したことがある。何で俺は“クリスタルキー“を作れたんだろうな?」

「え?」

「概念魔法の発現に必要な極限の意志。もしユエが俺達を最初から裏切るつもりなら、“クリスタルキー“は完成するはずがないんだ」

 

 エルフェウスの目的は人類の滅亡。その中にはハジメ達異世界人も含まれている。ならば異世界への転移も可能とする“クリスタルキー“の完成はエルフェウスの目的を達成する上で不都合になるはずだ。

 

「それは……エルフェウスが“クリスタルキー“を何かに利用しようとしていたとか……」

「それならエヒトが破壊する前に止めに入るだろ? あいつの立場ならいつ介入してもおかしくはなかったからな」

 

 エヒトが“クリスタルキー“を含むアーティファクトを破壊するのを止めなかった。つまり、エルフェウスにとってハジメの持つアーティファクトは価値を見出すものではなかったということになる。

 

「エヒトもエルフェウスも関心を持たなかった。なら、“クリスタルキー“を作り出したのは紛れもない、ユエの意志ってことだ」

「それって……」

 

 ハジメの言葉に、シアの瞳に僅かに希望が宿る。

 

「勿論、俺達とは関係がないところであいつの思惑があったのかもしれない。でも、立ち上がるキッカケくらいにはならないか?」

 

 これらは全て推論に過ぎない。しかも、かなり私的な感情が込められた希望的観測だ。

 

「自分でも楽観的だと思うがな……それでも信じたいんだ。今までの俺達の旅路が、全て偽りだったなんて思いたくないんだ」

「ハ、ジメさ、ん……」

「まあ、遠回しにはなったが、俺の言いたいことは一つだけだ」

 

 そこでようやくハジメはシアに向き直った。

 

()()()()()()()()?」

 

 難しいことはどうでも良い。理由なんて何だって良い。建前も信念も何もいらない。必要なものは唯一つ……

 

 

 

 

 

「…………………………………………………………………………………あいたいですぅ」

 

 シアの心の底からの願望だけだった。

 

「もう一度、ち゛ゃんと……会って、はなしをじたいでずぅぅ」

「そうか……じゃあ、会いに行くか」

「はい゛っ!!」

 

 このまま希望を見出さないほうが楽なのかもしれない。目を閉じ、耳を塞いでいるのが最善なのかもしれない。憶測だけで手を伸ばし、手痛いしっぺ返しをもらうかもしれない。これ以上の絶望を味わうことになるかもしれない。

 

 もしかしたら、この時立ち上がったことを最後に後悔するかもしれない。

 

 それでも、二人は立ち上がった。

 答えは出ていない。覚悟も決まっていない。

 でも、それがどうしたというのだ。

 

 世界を救う必要は無い。人類を守る覚悟もいらない。

 

 大切だった。大好きだった。

 

 

──だから、もう一度会いたい。

 

 

 最初からそれだけで十分だったんだ。

 

 

 

 




良し、ようやくスタートラインだ。
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