絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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ちょいと更新遅れました。

あれだけ愛子に頑張ってもらったのに続きを執筆していく内に「あれ? 連合無い方が上手いこと展開出来んじゃね?」と一人絶望してました。


転がる運命

「決行は三日後の夜明けだ」

 

 各国、各種族の長が集まる王宮の会議室。彼らの視線を集めていたハジメは堂々と言い放った。

 

「戦争で速さは重要だ。速ければ速いほど良いが……」

「問題は三日で間に合うのか、だな」

「それ以前に、三日も王都が保つのでしょうか?」

 

 開戦までの時間を掛ければ掛けるほど“熾天使の唄(ララバイ)“は人類の活動領域を蝕んでいく。そもそも戦準備以前に、三日間の間に王都が唄の影響を受けないとも限らない。

 フリード、ガハルド、リリアーナの疑問にハジメは肩を竦めた。

 

「それについては気にするな。少なくとも三日で王都が呑まれることはない」

「ふむ、それは彼らが無事だったことと関係があるのか?」

 

 そう問いかけたのは、集まった面々の中でも特に威厳を放つ偉丈夫の男──竜人族の長、アドゥル・クラルスだ。

 本来なら大陸の外で姿を隠して暮らしている彼らだったが、ガーランドから帰還後、万が一に備えてティオが応援を要請。リリアーナの承諾を得て王都周辺で待機していた。

 そのアドゥルの言葉に、森人族の長、アルフレリック・ハイピストは頷いた。

 

「我々が無事にここに居られるのは、ハウリア族の尽力があってこそだ」

 

 “熾天使の唄(ララバイ)“は魔力の保有量が少ない者ほど効果が顕著に現れる。それ故に亜人族は逃げる余裕も無く全滅したと思われていたが、アルフレリックをはじめとした多くの亜人族がその危険を未然に避けることに成功していた。その理由がハウリア族達だった。

 

 数日前、カム達ハウリア族はある方角から奇妙な歌声が聞こえてくることに気づき、数名の斥候を放っていた。無論、そんなことをすれば魔力を持たないハウリア族の末路は察しの通りなのだが、連絡が突然途絶えたことに嫌な予感を感じたカムは、一族を連れて北へと移動することにした。その際にフェアベルゲンに異常が迫っていることを長老会に伝えていたらしい。

 

「というか、帝国の奴隷制度が無くなったとは言え、よくアルフレリックも決断したな」

 

 北に逃げるということは、故郷であるハルツィナ樹海を捨てるということだ。帝国に捕まる心配はないとはいえ、未だに危険も少なくない。

 

「そうだな。以前までの私達なら彼らの忠告を聞かずに残っていたかもしれない。しかし、ハウリア族には大きすぎる恩がある。彼らがそれだけの事態というのなら、きっとそうなのだろうと判断したまでだ」

 

 残念ながらハウリア族をの忠告を信じずにフェアベルゲンに残った者も居るが、アルフレリックをはじめ、奴隷になっていた家族を取り戻してくれたハウリア族に恩義を感じていた者の多くが、後ろ髪を引かれながらも故郷を後にした。

 

「亜人族の方々が無事だった理由は分かりました。ですが、それと三日保つことに何の関係が?」

「言っただろ。ハウリア族は()()()()()()()()()異常に気づいたと」

「……待て。唄声を聞いたのか?」

 

 ハジメの補足にフリードが目を見開いた。

 ミレディによれば、“熾天使の唄(ララバイ)“はその唄声を聞いた者の魂を鹵獲する。その身に魔力を持たないハウリア族では唄声が聞こえたと認識した瞬間には眠りにつくはずだ。しかし、ハウリア族はその唄声を聞いただけでなく、僅かだが接近もしている。

 

「つまり、“魅了“の効果は唄声ではなく、広がり続ける魔力そのものに付与されていると考えて良い」

 

 あくまで仮説になるが、ハジメは唄声と共に魔力の膜のようなものが巨像を起点に広がり続けていると予測していた。恐らく“魅了“の効果範囲はその魔力の膜の内側にのみ及ぶのだろう。その膜は人の聴力で唄声が聞き取れる範囲を覆うように展開されていると考えられるが、兎人族の聴力は常人を遥かに越える。だからこそ、その膜よりも外で唄声を聞き取ることが出来たのだろう。

 そのことを聞いたガハルドは納得するように頷いた。

 

「なら俺達は聴力をわざわざ殺す必要はないってことか」

 

 元々“魅了“を防ぐ為のアーティファクトは必須だが、発生源が音と考えられていたことから万が一に備えて耳からの情報の遮断は避けられなかった。周囲の音を遮断するということは仲間同士の伝達手段を一つ潰すことにもなる。だが、魅了の効果が音から来るものでないのならその必要性も無い。

 

「カム達を使って、あれの正確な侵食速度を計算した」

「なるほど。三日とは王都に“熾天使の唄(ララバイ)“の影響が出ないギリギリの期日ということですね」

「ああ。泣いても笑っても、三日後に人類の命運が決まる」

 

 ハジメの言葉に、この場に集った全員の表情が引き締まる。

 

「“魅了“の対策と装備諸々に関してはこっちでなんとかする」

「間に合うのか?」

「間にあわせるんだよ。その代わり統率は任せたぞ。先生一人じゃ限界がある」

「はい! お任せください!!」

「愛子殿の努力を無駄にはせん」

 

 人間族と魔人族を代表して、リリアーナとフリードが答える。愛子の奮闘によって、何とか足並みを揃えることは出来たが、万が一が無いとは限らない。最終決戦までは細心の注意を払う必要がある。

 

「……んじゃ、当日の大まかな作戦を伝えるぞ」

「何だ? もう策を練ったのか?」

「大まかだっつったろ。細かい所はこれから詰めてく」

 

 全員の視線が自身に向いたことを確認したハジメは徐ろに口を開いた。

 

()()()()()

「……はい?」

 

 予想だにしない発言に、リリアーナはぽかんと口を開けて呆然とする。

 

「ま、それしかねぇか」

「それが最善であろう」

「……なるほど、確かに」

 

 反対に、ガハルドとアドゥルは即座にその意味を理解し、アルフレリックも遅れてハジメの言葉の真意を汲み取ったようだ。

 

「え? え……えぇ?」

「姫さん。この戦い、俺達の勝利条件は何だと思う?」

「え? それは……エルフェウス率いる神の軍勢を倒すこと、ですか?」

「半分正解だ。正直軍勢はどうでもいい」

「はい?」

「じゃあ反対に敗北条件は?」

「……全ての人類が魅了され、取り込まれることでしょうか?」

「違う。全然違う」

 

 未だに答えが分からないリリアーナにアドゥルが助け舟を出した。

 

「リリアーナ殿。確かに全人類が取り込まれればそれも敗北だが、それは最終的な結果でしかない。それ以前に、私達には必ず避けなくてはならないことがある」

「避けなくてはならないこと?」

 

 アドゥルがの言葉を反復しながら、何気なしにリリアーナは周りの面々を見渡し……その視線がハジメで止まった。

 

「……あっ、ハジメさんが倒されること!」

「その通りだ」

「ま、こいつがやられたら誰が敵の親玉をぶっ倒すって話だよな」

 

 ガハルドの指摘に「確かに」と納得する。敵はあのエヒトすら殺しきった存在だ。ハッキリ言ってハジメ達神代魔法の使い手以外では相手にもならない。逆に言えば、ハジメ達さえ無事ならば可能性は潰えないということだ。

 

「残酷だが、彼ら以外が何人生き残ろうとも意味がない。つまり、我らの役目は……」

 

──ハジメ殿を目的地まで送り届けることだ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 決戦までの三日間でのハジメの最大の難所。それがこれから行うアーティファクト製作だった。

 時間的猶予が無いことは言わずもがな、何よりも資源と設備が全く足りていなかった。今から一々材料を集めていたのでは時間が掛かるし、それを運搬するにも人手が居る。

 その問題を一気に解決できるのがオルクス大迷宮の最深部にある、オスカー・オルクスの隠れ家なのだが、最深部へのショートカットがあるライセン大峡谷は既に“熾天使の唄(ララバイ)“に呑み込まれている為使えない。かといって正面から再び潜るほど時間に余裕もない。

 以上のことから王都の錬成場を使うしか無いと諦めていたハジメだったが、ある人物の協力によって無事にオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着くことが出来ていた。

 

「……にしても、ゲート無しでの転移。やっぱ便利だな」

 

 工房にてアーティファクトの制作を始めていたハジメは感心した様子で褐色肌の男──フリードに視線を向けた。

 

 空間魔法。

 その十八番が空間と空間を繋げることによる転移だ。その力によって、ハジメはあっさりとオスカーの隠れ家に辿り着くことが出来た。本来は転移先の座標が分からなければ使用は控えるべき危険な魔法だが、その問題はハジメの持つアーティファクトが解決した。

 

「私としてはあの羅針盤とやらの存在の方が驚きなのだがな」

 

 そう言いながらフリードは転移の補助に使用したアーティファクトを思い出す。

 

──“導越の羅針盤“

 かつて解放者が生み出した概念魔法の一つ。それによって、オスカー・オルクスの隠れ家の正確な座標を得ることで安全な転移を可能にしていた。

 

「しかし、ここは王都よりも南に近い。保って二日といったところか?」

「ああ。最終調整は王都でやるつもりだ」

『ハジメさん!』

 

 その時、フリードが手にしていた念話石が光を帯び、そこからシアの声が聞こえた。

 

『また材料を見つけました! ゲートをお願いします!』

「了解した」

 

 フリードが手をかざすと、光り輝く楕円の膜が現れ、ドサドサと様々な鉱石や魔物の素材が落ちてくる。

 ハジメ、フリードと共にオスカーの隠れ家に来ていたシアは現在、“導越の羅針盤“を使い、ハジメのアーティファクト制作に必要な素材を回収して回っていた。

 

「助かる、シア」

『このくらい何でもないです! 残りの素材もすぐに見つけますので!』

 

 快活な返事と共に念話が途切れる。この調子ならば必要な分の素材はあっという間に集まるだろう。

 

「あの時傷心していた姿が信じられないほどの変わり様だな。彼女も……そしてお前も」

「やらなくちゃならねぇことが出来たんでな」

「……そうか」

「……」

 

 カチャカチャと室内にハジメの作業音だけが響く。元々殺し合っていた敵同士。今は同じ目的の為に動いているが、だからと言って会話が弾む訳もない。王都とを繋ぐゲートは既に設置した為、材料さえ揃えばフリードがここに留まる必要もない。

 しばらく無言でハジメの背を見つめていたフリードだったが、突然口を開いた。

 

「エヒトとアルヴを殺した使徒の女。奴とは親しかったそうだな」

「……親しいって程の付き合いでもねぇよ」

「だが、好きだったのだろう?」

「はぁ!? てめぇいきなり何言ってんだ!?」

「違うのか? あの時のお前の様子からそうなのかと思っていたのだが、間違っていたのなら謝罪しよう」

「いや、そういう訳じゃ……何だ……その……」

 

 いきなりド直球で投げつけられた疑問に、思わず言葉に吃ってしまうハジメ。フリードはそんな様子のハジメをしばらく見つめた後、「そうか、突然すまなかった」と話を切り上げた。

 再び無言の時が進んでいくが、先程と比べ、些か作業の進みがぎこちない。

 

「……んだよ、言いたいことがあるなら言えよ」

「言っても良いのか?」

「……」

「今回の事の首謀者、エルフェウス。エヒトの力を手にした奴を止められる可能性があるのは……南雲ハジメ。お前だけだろう」

 

 最強には最凶を。あの神の如き力を相手にするならば三人。最低でも二人で当たるのが理想の展開だ。あくまでそれは一枠にハジメが入ることが大前提の話ではあるが。

 

「兎人族の少女や竜人族の女性も十分稀有な実力者だが、恐らく彼女らだけでは足りない。だからこそ聞いたのだ……奴と対峙した時、お前は戦えるのか?」

 

 真剣な表情でそう問いかけるフリードに、ハジメは答えに躊躇する様子を見せた後、ぶっきらぼうに顔を背けた。

 

「人の心配出来るほど余裕があんのかてめぇは」

「……そうだな。その通りだ」

 

 背を向けたフリードは工房を出ていこうと足を進める。元々座標が分かっていれば離れていても転移は可能なのだ。わざわざハジメのすぐ側で待機しておく必要はない。

 その手が工房の扉に触れた時、フリードが肩越しにハジメに振り返った。

 

「もし迷っているのなら、誰かの力を借りろ」

「……は?」

「他者を頼ることは恥ではない。お前は確かに強い。しかし、同時にとても脆く崩れやすい」

 

 フリードはハジメの姿に過去の自分の面影を感じていた。

 神代魔法を手に入れ、自分一人で全てを成し遂げようとしていた頃の愚かな自分を。

 

「私はそれで失敗した。周りよりも卓越した力を得たことで、自分が成し遂げなければならないという使命感に囚われていた」

 

 その焦りが、驕りが、奴らに付け入る隙を与えてしまった。負の自分自身に打ち勝って手に入れた大きな自信が、他者を頼るという当たり前の選択肢を取り除いてしまっていた。

 

「お前は私のようにはなるな」

 

 そう言い残し、フリードは今度こそ工房を後にした。

 

「……何だっつうんだよ」

 

 一人になった工房でハジメは訳も分からず独り呟いた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「意味分かんない……」

 

 薄暗い地下牢にて、自由の代償と引き換えに首にかけられた紅い宝石のついたネックレスを見て、恵里は小さく呟いた。

 数時間前、数人の騎士達を引き連れたリリアーナが地下牢に現れた。

 ついに自分の処刑が決まったのかと人ごとのように考えていた恵里だったが、リリアーナから伝えられたのは自身の一時釈放の報せだった。

 

『貴女がしたことは到底許されることではありません。しかし、私達に協力するならば仮初の自由を与えましょう』

 

 リリアーナが恵里に差し出したネックレスは、ガハルド達帝室に連なる人間につけられた“誓約の首輪“。その改良版だ。

 “誓約の首輪“とは魂魄に直接誓約を刻み込むことで命を代価に装着者に誓約を強制させるアーティファクトだが、その誓約自体は装着者が自ら口にする必要があった。

 新たに作り出された改良版は、装着者以外の人物が強制的に誓約を刻み込むことが出来る優れものだ。その代わり、装着者への縛りは弱まっており、外しても死ぬことは無いが全身を痺れが襲いまともに口も開けなくなる

 

 恵里がつけられた“誓約の首輪“には既に一つの誓約が課せられていた。

 それが『人に害為すことを禁ずる』というものだ。

 それによって恵里は半ば強制的に一時の自由を得た。

 

『私はもう躊躇しません。たとえ外道と呼ばれようとも、人類の勝利が1%でも上がるならどんなことでもします』

 

 負ければ人類仲良く滅ぼされる。勝てたとしても光輝の願いにより恵里は解放される。

 

『なら、好き勝手やってくれた分、私もとことん利用してやろうじゃないですか!!』

 

 その腹黒い考えに、ハジメはにやりとあくどい顔を浮かべて賛同した。もしかしたら恵里への恨みが少し残っていたのかもしれない。

 

「ふん、何で僕が有象無象の為に戦わなくちゃいけないんだ」

 

 恵里にとって光輝を手に入れることが全てだった。その光輝が手に入らないのなら力を振るう必要なんて無い。そんな世界、さっさと無くなってしまえばいい。

 誓約内容は人に害を為さないこと一点だけ。たとえ恵里が雲隠れしたところで何か罰がある訳でもない。

 そんな考えが先程から何度も恵里の頭を過り続けていた。

 

『それと皆さんから伝言です……待っている、と』

 

 恵里はモヤモヤとした苛立ちを感じながら……

 

「今更、何だってんだよ……!!」

 

 無意識に拳を強く握りしめていた。

 

 

 

 

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