絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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恋する乙女

「香織、貴方最近変よ?」

「ふえ?」

 

 時刻は昼時。王宮の食堂にて食事を摂る香織は、唐突に雫から告げられた言葉に首を傾げた。

 

「変って何のこと?」

「そのままの意味よ。まさか、誤魔化せてるとでも思ってるの?」

 

 ジト目で睨みつける雫の姿に、香織はギクリと肩を揺らした。心当たりが嫌というほどあったからだ。

 誰かに声をかけられてもぼーっとしてて気付かなかったり、じっと空を見つめていたかと思えば、大きな溜息をつく。何も無いところで転んだ回数など片手では足りないし、考え事に集中しすぎて、壁に激突した日は流石に驚いた。

 

「最近は訓練にも身が入ってないし……実戦じゃないとは言え、危ないわよ?」

「うっ……それは、ごめんなさい」

 

 騎士団主導の元で行われている勇者一行の訓練。安全に十分注意して行われてはいるが、戦いの術を学んでいる以上、危険が無いとは言い切れない。前衛を務める雫はもちろんのこと、後衛の香織も最低限の自衛手段を持つことは必須。

 そんな訓練を上の空で取り組んでいれば、いつ怪我に繋がってもおかしくはない。

 

「それで、一体どうしたのよ?」

「それは……その……」

 

 雫の追求に、頬を僅かに赤く染めて、モジモジと挙動不審な様子を見せる香織。

 その様子に、何となく原因であろうクラスメイトの存在が浮かび上がった雫だったが、急かさずに本人の口から語られるのを辛抱強く待つ。

 

「……南雲くんが」

「彼がどうかしたの?」

 

 予想通りの名前が出てきたことに、雫は内心で納得する。

 南雲ハジメ。一緒に異世界に転移してきたクラスメイトの一人で、香織が想いを寄せている男子生徒だ。

 普段からかなり積極的なアプローチをかけてはいるが、成果はあまりよろしくないというのが雫の見解だ。正直、本人達以外にも周囲の環境に多大な障害があるのだが、そのことに香織は未だに気付いていない。

 

「最近、南雲くんが女の人と一緒に居るところをよく見るの」

「……ホント?」

 

 しかし、続く言葉に雫は僅かに目を見開いた。

 南雲ハジメという少年は……こう言ってはなんだが、そこまで容姿に優れたような男性ではない。良くも悪くも平凡という言葉が似合う少年だ。

 地球に居た頃は、普段のだらけた性格と、学校のマドンナ的な存在の香織に積極的に話しかけられていたことから、周囲からの印象も良くはなかった。

 

 さらに、他と比べて劣ったステータスのせいで、ハジメを軽視するトータスの人間も居ることは香織を通じて雫も聞いているし、実際に何度か耳にしたこともある。

 そのことについては彼女も思うところはあるものの、噂というものは時に真実以上にその人を悪く印象づけてしまうものだ。一概に全員がそうとは言えないが、現状のハジメの評価を知った上で、親しくする女性が居ることに雫は驚いたのだ。

 

「しかも、すっごい美人なの。南雲くんも何だか楽しそうだし……」

 

 私が話しかけてもあんな風に笑ってくれないのに、と落ち込む香織を慰めながら、雫は香織が何を話しかけても苦笑いしか返さなかったハジメが楽しそうにしていたという事実に少し意外に思うが、あれは周りの視線が迷惑だっただけかと思い直す。

 

「……ていうか、南雲くんがその女の人と仲良くしてるなんてよく知ってるわね?」

「……」

「……香織、貴方まさかまた……?」

「ち、違うよ!? そういうのじゃないよ!? たまたま! 偶然見かけただけで!!」

「はぁ……」

 

 必死に言い訳を口にする香織の姿に、またかと雫は溜息をつく

 この少女、ハジメへの想いを拗らせすぎて、若干ストーカーの域に入りだしているのだ。地球に居たころも、暴走する香織を止めたことは一度や二度ではない。

 

「そんなに気になるなら本人に聞いてみたらいいじゃない」

「そ、そんなの聞けないよ!? もし、二人がそういう関係だったら……」

 

 あんなに積極的にアプローチをしておきながら何を今更とジト目で送るが、あいにく香織は大真面目だ。

 正直、他人の恋路にあまり深入りしすぎるのもどうかと思うが、このまま訓練に身が入らない香織にヒヤヒヤさせられるのも勘弁して欲しい。

 

「なら、聞きにいくわよ」

「へ?」

「南雲くんに直接聞けばいいのよ。そうすれば全部解決するわ」

「え!? ちょっと待って!? それは流石に……!」

「つべこべ言わない!! さっさと逝くわよ!!」

「何か字が違う気がする!?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ほんとに女の子と喋ってる」

「だから言ったじゃん!? だから言ったじゃん!?」

 

 香織を無理矢理引っ張りだし、ハジメが居る場所に当てはあるか聞くと、王立図書館によく二人で居るところを見るとボソボソと話す香織に、やっぱりちゃんと把握してるじゃないと呆れながら向かった。

 案の定、そこにはハジメが居た。しかも隣には修道服を着た美少女が座っている。

 

(何か、思ってた以上に盛り上がってるんだけど)

 

 二人は傍目から見ても分かるくらい意気投合していた。図書館故か、声量はそこまで大きくはないのだが、それでも話題に尽きないのか、二人で本を開きながら何やら盛り上がっている。

 

 雫はチラリと自分の服の袖を掴み、涙目でその光景を見つめる香織の姿を見る。

 幼馴染という身内びいきを除いて見ても、香織は十人が十人とも美人だと答えるくらいには容姿が整っている。見た目が全てと言うわけでは無いが、正直、ここ数日で仲良くなった少女相手に遅れを取ることはないだろうなと楽観視していた。

 

 視線を前に戻した雫は、ハジメの隣に座る少女を凝視する。

 ハッキリ言うと……想像以上だった。事前に香織から美人とは聞いていたが、正直ここまでとは思ってもいなかった。この国に来てから容姿に優れたメイドや侍女をたくさん見てきたが、彼女らと比べても間違いなく頭一つ飛び抜けている。

 

「もしかして、本気でピンチかも」

「え、雫ちゃん!? それどういう意味!?」

「ごめん、香織。安易に聞けばいいなんて言って……」

「何急に!? まだそうと決まったわけじゃないでしょ!? 私にだってきっとチャンスが──」

「何のチャンスですか?」

「「きゃぁあああああ!?」」

 

 いきなりそばから声を掛けられた香織と雫は、叫び声を上げながら飛び上がる。

 その光景をハジメは苦笑しながら見つめていた。

 

「……何かデジャブだなぁ」

 

 この後仲良く司書にお説教された香織と雫だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「地球ではお声を掛けると叫ぶ習慣でもあるのですか?」

「いやいや、そんな習慣ないから……」

「うぅ、あの司書さん怖かったよぉ」

「心の底から同意するわ……」

 

 ようやく解放された香織と雫は、ハジメとエルの居る机の対面に腰掛けて、上体を机の上に投げ出していた。余程説教が堪えたらしい。

 

「ところで、白崎さんに八重樫さん。図書館に来るなんて珍しいね。何か用事?」

「え!? あ、いや……用事と言えば用事なんだけど……」

「?」

 

 何やら煮えきらない態度の香織にハジメは首を傾げる。普段の彼女はいつでも裏表が無く、ハキハキと話している姿をよく見ていたので、おどおどとしている香織に違和感があるのだろう。

 堪らず雫がフォローを入れる。

 

「はぁ……それより南雲くん。そちらの女性は?」

「ああ、この人はエルス。エルス・フェウ。見ての通り、聖教教会の修道女をしてる人なんだ」

「名前呼び!? しかも呼び捨て!?」

「え? うん。最初はさん付けだったけど、エルスが敬称は要らないって」

「私はただの修道女に過ぎませんから」

 

 エルスの言葉に「僕も要らないんだけどなぁ」と告げるハジメに対して「申し訳ありません」と笑みを浮かべるエルスに、香織はビシャーンと雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

 

「私はまだ名字なのに……さん付けなのに……」

「……八重樫さん、白崎さんどうしたの?」

「そっとしておいてあげて。残酷な現実に直面してるだけだから」

 

 ブツブツと小声で何かを呟き出した香織に少し引きながら雫に尋ねるハジメ。彼女の内心を痛いほど理解していた雫は、せめて傷口に塩を塗る事態にはならないようにと、これ以上の追求をしないように頼んだ。

 

「…………ほう?」

 

 すると、そのやり取りを眺めていたエルスが、ニヤリとその顔に悪い笑みを浮かべた。

 

「ハジメ様、こちらの本を棚に返却しておいて頂けますか?」

「え? うん、それは別に良いけど……珍しいね。いつもはエルスが自分で片付けようとするのに」

「たまには良いではありませんか。少し遠くの棚なのでお手数をかけてしまうのが心苦しくはありますが……あ、それとも、二人で一緒に行きますか?」

「ファッ!?」

「「え!?」」

 

 そう言うと、ハジメの腕を取り、ぎゅっと抱え込むエルス。そのことに当事者のハジメはもちろん、香織と雫も顔を真っ赤に染める。

 

「エルスさん!? 当たってる!? 当たってるから!?」

「当ててんのよ」

「何故そのネタを!? 分かったから! 僕が一人で返しに行ってくるから!!」

「あら、残念ですね」

 

 ふふっと笑みを浮かべるエルスを尻目に、ハジメは逃げるように本を抱えて走っていった。

 遠くで「館内は走らない!」という怒りの声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

「さて……改めまして、エルス・フェウと申します。お気軽にエルスとお呼び下さい」

「あ、えっと、白崎香織です」

「八重樫雫です」

「では、香織様。私に聞きたいことがおありですよね?」

「え?」

「お顔に書いてありますよ? 好きなのでしょう? ハジメ様のことが」

「ななな、何故それを!?」

「いや、香織かなり分かりやすかったわよ?」

 

 あれだけ動揺していたら自ら白状しているようなものだろう。もしかしたら、ハジメもうっすらと気付いている可能性もある。

 

「もしかして、南雲くんに本の返却に行かせたのはそのためですか?」

「はい。想い人が他の女性と懇意にしていれば、気にするなという方が無理な話でしょう?」

「もしかしてさっきの……その、アレも南雲くんを遠ざけるために……?」

「いえ、アレは何となく面白そうだったので」

「あ、そう……」

 

 笑顔でハッキリと告げるエルスの姿に、雫は見かけによらず、中々お転婆な性格をしているのだなと少し呆れる。

 すると、それまで口を閉じていた香織がおずおずと口を開いた。

 

「あの……それで、エルスさんは南雲くんとはどういったご関係で?」

「さんはいりませんよ? そうですね……お喋り友達といったところですかね。私がハジメ様の世界に興味があってお話を聞かせて頂いているのです」

 

 その代わりに私もこの世界のことをハジメ様にご教授させて頂いているのです、と続けるエルスに、香織はゴクリと唾を飲み込んでから確信をつく質問を投げかけた。

 

「ぶっちゃけ、二人は付き合ってるんですか!」

「ぶっちゃけ過ぎよ、香織……」

「ふふっ、面白い方なのですね、香織様は。ご安心ください。私とハジメ様は恋仲ではありません」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、本当です」

「そ、そうなんだ……はぁあああ、良かっ──」

「あ、でも」

 

 エルスから直接否定の言葉を貰ったことに安堵の息を吐こうとした瞬間、エルスがそれを遮り……

 

「これからどうなるかは分かりませんが」

 

 ペロリと舌舐りをするエルスからは、妖艶な空気がにじみ出ており、思わず同性の香織と雫ですら、勘違いを起こしかねない程の魅力を兼ね備えていた。勝手に同い年くらいかと想像していたが、この姿を見ると、もしかしたら自分たちよりも経験豊富なお姉さんでなのでは無いかと思ってしまう。

 

「……って、結局それって──」

「あ、ハジメ様が帰ってきましたよ?」

「ふえ!? もう!?」

「返してきたよ、エルス。あれ? 白崎さんどうかした?」

「ななな、何でもないよ!? うん、ホント何でもないから!? それにしても今日は良い天気だねー!! あはははは!!」

「……これって、つっこめばいいのかな?」

「ごめん、流してあげて。この子、疲れてるのよ」

「やっぱり香織様は面白い人ですね」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「んんんーんーんー、んんんーんーんー♪」

 

 夜の帳が下りた真夜中の王都。

 誰もが寝静まった街中をエルスが鼻歌を口ずさみながら歩いていた。

 少女は機嫌が良かった。自らが選別した神の使徒。それらが駒として、自らの予想を遥かに超える逸材だったから。

 

「舞台を盛り上げる脇役も着々と育っています。ああ、楽しみですねぇ……ん?」

 

 恍惚とした笑みを浮かべいたエルス──改め、エルフェウスだったが、ふと周りを見回すと、いつの間にか大通りを外れ、路地裏に迷い込んでしまっていることに気付く。

 

「……ここ、どこでしょうか? ま、適当に歩いてればどこかに出るでしょう」

 

 首を傾げたが、特に問題はないかと構わずテクテクと歩き続ける。

 

「おいおい、修道女様がこんなとこでどうしたよ?」

 

 そんな時だった。

 突然掛けられた声にエルフェウスが振り向くと、暗闇からガラの悪い風貌の男がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら近づいてきた。

 

「何か御用ですか?」

「何、実はお兄さんちょっと懐に困っててな? エヒト神に仕える修道女様なら、こんな可哀想な一般市民にお恵みをくれねえか?」

「まあ、それは大変ですね。ですが、申し訳ありません。あいにく手元に持ち合わせが無くて……」

「そうか。ならしょうがねぇな」

 

 それだけ言うと、突如男がエルフェウスの腕を掴み、壁に押し付けた。

 

「じゃあ、代わりにその体で楽しませてくれよ」

「乱暴ですね。女性の扱いがなっていませんよ?」

「くはは、この状況で大した度胸だ! 嫌いじゃねえぜ。ま、朝には帰してやるよ。その時にはぶっ壊れてるかもしれねぇがな!」

 

 乱暴にエルフェウスを押さえつけ、目をギラつかせる男に、エルフェウスは内心溜息をつく。金銭はあくまでついで。元々そういう目的だったのだろう。

 

(もう適当に殺してしまいましょうか? こんなチンピラ一人居なくなっても誰も気が付きませんし)

 

 仮に真っ当な王国市民だったとしても、エルフェウスならば処理は簡単だが、こんなゴロツキ程度ならばその辺に転がしておいても問題ないだろうと思い、その手に僅かに力を込める。

 

「それに修道女ってのは()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいなもんだろ」

「……今なんと?」

「あ? 何だ、文句でもあんのか? 神官ならともかく、修道女なんてもんは適当に祈ってるフリするだけでいいから楽なもんだよな。なら、せめて俺たちの慰めもんにでも──」

「えいっ♪」

 

──ぶちっ!!

 

 男がそれ以上言葉を吐き出すことは出来なかった。

 エルフェウスが突然、男の顎を掴み、そのまま引きちぎってしまったからだ。

 

「〜〜〜ッ!!!??」

 

 男は激痛に叫び声を上げるが、舌も一緒に千切れてしまったのか、意味の分からないうめき声を上げることしか出来ない。

 

「はいは〜い、静かにしてくださいねぇ。仕事の出来るエルフェウスちゃんは周囲に結界を張ったのでもう誰も来ませんよぉ」

 

 引き千切った顎を男に見せつけながら、エルフェウスは魔法で最低限の止血を行う。この程度で死なれてはつまらないからだ。

 

「全く、助けてもらうのが当たり前? 無償で奉仕を受けて当然?」

 

 ゆっくりと近づいてくるエルフェウスの姿に、男は必死に距離を取ろうとするが、恐怖から身体がうまく動かず、芋虫のように地面を這って進むことしか出来ない。

 

()()()()()()()()が一番ムカつくんですよねぇ」

「あああぁッ!?」

 

 顎を持っていない手を振るう。

 男の右腕が細切れになる。

 

「安心して下さい。止血はちゃんとしますので即死はしませんよ?」

 

 再び腕を振るう。

 左足が太ももから弾け飛ぶ。

 

「私の身体が欲しいなら、それ相応の代償を払って頂かないと」

 

 男の元にたどり着いたエルフェウスが、男の背中を踏みつける。

 背中が陥没し、男の身体が四散した。

 

 グルンと白目を剥いた男の意識が暗転していき──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、助けてもらうのが当たり前?無償で奉仕を受けて当然?」

「……ふぇ?」

 

 男は千切れた顎を押さえながら、困惑の声を上げた。

 そんな男の様子に、エルフェウスは心底楽しそうにニッコリと笑みを浮かべた。

 

「あれ? どうしたんですか? もしかして、死んだと()()()()()()()? 嫌ですねぇ、しっかりしてくださいよぉ」

 

 顎を持っていない手を振るう。

 男の右腕が再び細切れになる。

 

「あはぁああッ!?」

「あはは、『あはぁああッ』ですって! 面白い悲鳴ですね!」

 

 再度振るわれる腕。

 男の左足が再び弾け飛ぶ。

 

「サクッと殺っちゃおうかと思ってましたが、止めました。ご希望どおり、朝までお付き合いします。今夜は寝かせませんよ? なんちゃって!」

 

 男の元にたどり着いたエルフェウスは、その細足を振り上げ……

 

 

「ですので、1、2回死んだ(イッた)ぐらいで終わりなんて言わないでくださいね?」

 

 

──ぐちゃり。

 

 

 

 




>当ててんのよ

 原作では何故かユエが無自覚に使ってたネタ。

>エルスの正体

 何と、エルスの正体はエルフェウスだったのだー(棒読み)


 ……はい、茶番ですね。
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