絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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またあの時のように

 ユエは風を扇ぐように広げた腕を振るった。

 

「“雷戦斧(らいせんぷ)“」

 

 高速で回転する斧を模した雷が、シアとティオを挟み込むように襲いかかる。

 

「ティオさん!」

『分かっておる!」

 

 シアは高く跳び上がることで回避し、ティオは“竜化“を解き、人の形態へと戻る。

 ティオの“竜化“は強力だが、人の状態に比べ小回りが効かない。エヒトの力の一端を宿したユエ相手に力押しは分が悪いと見たティオは手数とスピードで押し切る気だ。

 

「“レベルⅣ“!!」

「“竜鱗装甲“!!」

 

 シアが強化段階を上げ、体から発する光が輝きを増し、ティオの体を竜鱗が包み込み、鎧のように纏われた。

 一気に跳躍したシアの一撃をユエは障壁で難なく防ぐ。

 

「あの人がユエさんにとって大切な人だってことは分かりました! でも、それなら尚更ユエさんがあの人を止めるべきです!!」

「……」

 

 シアの頭上に渦巻く火炎が出現。そのまま螺旋を描きながら落下する。

 

「“焔蛇矛(ほむらじゃほう)“」

「ぐぅううううう!!」

「ティオさん!!」

 

 シアを庇うように前に出たティオがその一撃を身を防ぐ。

 

「友なのだろう! 恩人なのだろう! なればこそ、間違った道へと進もうとするあやつを止めるのがユエの役目ではないのか!!」

「……ッ」

 

 ユエが両腕を上下に広げて構える。

 すると彼女を起点に、鋭い鎌を模った氷の刃が生成された。

 

「“凍月鎌(いてづきれん)“」

 

 十対にもなる大鎌がシアとティオの命を狩るかのように襲いかかる。

 

「“レベルⅤ“!!」

 

 さらに階位を上げたシアが力技で全ての刃を粉砕する。

 

「シアの限界は“レベルⅣ“だった筈……そうか、ハジメの……」

「何よりも、迷ってるのはどっちですか!!」

「──ッ!」

「私がどれだけユエさんのことを見てきたと思ってるんですか!! 戦いに集中できていないのはユエさんの方ですよ!!」

「そのような半端な精神で、妾達を止められると思うでないぞ、ユエ!!」

 

 輝きを増したシアのヴィレドリュッケンと竜鱗で肥大化したティオの拳が障壁ごとユエを吹き飛ばす。

 

「言って分からないなら、ぶっ飛ばしてでも分からせてやるです!!」

「──るさい」

「ああん!! 声がちっさくて聞こえねぇですよ!!」

「シアよ。興奮しすぎてご主人様みたくなっとるぞ?」

 

 

「──うるさいッッ!!!」

 

 

 爆発的な魔力の波動がシアとティオの髪を撫でる。

 空に雷鳴が轟き、大気を蒼炎が焼き焦がし、暴風が肌を斬りつけ、大地に氷河が訪れ、地面が激しく隆起する。

 

「“五天龍“……とは少し違いますね」

「うむ。どうやら変成魔法で魔物化しているようじゃの。全く、骨が折れそうじゃ」

 

 ユエを中心にとぐろを巻くように宙を泳ぐ五体の天竜は、その赤黒い双眸をギロリと二人に向けた。

 

「──“五天魔龍“!!!」

「来るぞ!!」

「はいっ!!」

 

 次の瞬間、天を舞う魔竜達の咆哮が空間を震わせ、巨大な顎門を広げてシアとティオに襲いかかった。

 魔物と化した魔竜達はユエの制御を離れ、自律行動を持って獲物に喰らいつく。

 

「何も知らないくせに、分かったようなことを言わないで!!」

 

 飛ぶ、というよりも落ちるような速度で降り立った石龍が大地を削り取りながら迫り来る。

 接近させるのは危険と判断したティオがブレスで石龍を押し返す。その瞬間、バチリと音を立てて雷龍がティオの背後に現れた。石龍の対処に精一杯なティオに代わり、シアがヴィレドリュッケンをフルスイングしてぶつける。

 

「エルフェウスはずっと頑張ってきたんだ!! 誰の助けも借りれず、ずっと一人で耐えてきたんだ!!」

「〜〜ッ!! “レベルⅥ“!!」

 

 そのままでは押し切られると感じたシアは身体強化をさらに一段階上げることで何とか弾き返す。

 

「ッ!? シア! 跳べッ!!」

「──くっ!?」

 

 ティオの焦りを含んだ声に、シアは半ば無意識にその場を跳び上がる。次の瞬間、嵐龍がシア達の立っていた地面を切り刻みながら通過した。

 しかし、その隙を天より狙いを定めていた蒼龍が咆哮を上げる。

 開かれた顎から放たれる凄まじい熱量の蒼炎は、シアとティオを呑み込みその体を芯から焼き尽くしていく。

 

「うぐぅううう!? シア、無事か!!」

「このくらい……何とも無いです!!」

 

 二人はすかさず“宝物庫Ⅱ“から取り出した試験管を口に含む。すると、赤く腫れ上がっていた肌が瞬く間に元の色を取り戻した。

 

「これ以上、エルフェウスにまだ頑張れって言うのか!!」

 

 嵐龍、雷龍、石龍が咆哮を轟かせながら上空より迫る。

 

「避け──ッ!?」

 

 その場を離れて回避しようとした二人の頬を冷気が撫でる。

 すると、まるで洪水が押し寄せるかのようにシアとティオの腰から下を氷が呑み込んでしまう。二人から離れた位置では氷龍が口内から冷気を吐き出していた。

 ヴィレドリュッケンで砕こうとしたシアだったが、肝心のヴィレドリュッケンが氷に捕まり動かすことが出来ない。

 

「”レベルⅦ“──いえ、”レベルⅧ”!!」

 

 一段階の強化では足りないと瞬時に判断したシアが、無理やり強化段階を一つ飛ばして“レベルⅧ“を発動。

 両腕を振り下ろし、自分達を地面に縫い付ける氷を粉々に殴り砕く。下手をすれば自身の肉体ごと砕きかねない所業だが、肉体を極限まで強化したシアと、龍鱗を纏っている二人は最低限の負傷で済んだ。

 だが、空より落ちてくる天災を完全に避ける時間は無かった。

 

「何よりも、私はもうエルフェウスを裏切る訳にはいかないんだッ!!」

 

 嵐龍、雷龍、石龍が二人目掛けて落下。万物を切り裂く暴風の中、稲妻と石礫が全てを切り刻んでいく。さらに蒼龍と氷龍からの強烈なブレスが追い打ちを掛ける。

 “五天魔龍“の総攻撃に、辺りが閃光に包まれ、大爆発を起こす。

 

「はあ、はあ……」

 

 圧倒的優位に立っているというのに、ユエの表情は優れなかった。神域から魔力の供給を受けているユエに実質魔力切れはない。それは“自動再生“を持っているユエにとっては絶対に負けない状態。いわゆる無敵モードだ。

 それこそ、再生する間も無く肉体を完全に消滅させるか、エルフェウスがユエへの魔力供給を切るしか勝利する方法は無い。

 

(そうだ、落ち着け。何も焦る必要はない。最初から私に負ける可能性は万が一にも無いんだから)

 

 シアの身体能力は脅威だが、それでも肉体を完全に消滅させるような攻撃手段は持っていない。ティオに関しては“竜化“状態の上、彼女のスキルによって極限まで高められた一撃なら可能性はあるが、その特性を知り尽くしているユエがその調整を見誤ることはしない。

 

 呼吸を整えた後、地上を見下ろしたユエは片手を横に薙いだ。それだけで横風の突風が巻き起こり、地上を覆っていた黒煙を吹き飛ばす。

 現れた二人は全身血塗れで見るからに悲惨な状態だった。

 

「……もう諦めて。二人じゃ私には勝てない」

 

 ユエがそう通告するが、シアはそれを無視して“宝物庫Ⅱ“から取り出した回復薬を口にする。その効能によってシアの傷が瞬く間に治っていくが──

 

「“壊刻“」

 

 ユエが魔法名を口にした瞬間、治ったばかりの傷が再び開き、彼女の姿を血濡れに戻す。

 

「くっ……! それ、相手に触れないと使えないんじゃないでしたっけ?」

「今の私なら数分程度の巻き戻しならこの距離でも可能」

 

 “壊刻“は対象が過去に負った傷を巻き戻すことが出来る魔法だ。術者の技量次第では数年単位を遡ることが出来るが、魔法を発動する対象に直接触れなければいけない誓約がある。

 しかし、今のユエにはその誓約が無い。ユエとシアとの距離は目算でも30メートル程だ。有効範囲がどの程度かは分からないが、魔法の麒麟児であるユエと距離を取ることは勝機を逃すに等しい愚策だ。

 

 つまり再生魔法を含む、全ての回復方法が封じられたことになる。

 

「分かるでしょ? 二人じゃ私には勝てない。無駄な抵抗は止めて──」

「じゃあ、殺せばいいじゃないですか」

「……」

「然り。妾もシアもとうに命を捨てる覚悟で来ておる。今更我が身可愛さに退く訳なかろう」

 

 ティオの物言いに明らかに表情を歪めたユエの姿に、シアが「やっぱり」と声を上げる。

 

「私達を殺す覚悟が無いのはユエさんの方ですよ」

「そんな訳が──」

「何故、追撃を仕掛けてこなかったんですか?」

 

 シアの追求にユエは言葉を返せなかった。

 

 “五天魔龍“の総攻撃が直撃した後、シアとティオは天を衝くような大爆発で巻き上がった黒煙で姿が視認できなくなっていたが、魔力を感知できるユエからすれば視界などあってないようなものだ。初めからシアとティオを殺す気ならば、そのまま追撃を仕掛けるのが最善だった筈。

 

 そのような状況の中、ユエはわざわざ黒煙を吹き飛ばすことで二人の姿を視認した。

 

「妾のダメージを確認する目的かとも思ったが、その様子を見るに違うようじゃの」

 

 ティオの技能“痛覚変換“はダメージを受けるほどステータスを上昇させることが出来る。

 ユエは知らないことだが、ティオは竜人族の里で初代クラルスの龍鱗に触れたことで竜化の最終奥義“竜神顕現“を会得していた。

 その力は今のユエすら上回りかねない強力な技だが、瀕死の重傷まで自身を追い込まねばならず、更に持続時間も短いというデメリットからティオの技能を熟知しているユエ相手に発動するにはほぼ不可能だと割り切っていた。

 

 ユエの攻撃にはティオを瀕死に追い込む程の力は無く、最初は“痛覚変換“のステータス向上を最低限に抑え、ある程度疲弊させた後に、戦う余力など残らないくらいの全力の一撃をぶつけるつもりなのかと思っていた。

 

「その“五天魔龍“とやらはお主の制御を離れ、完全に自律行動をしておる。ならば、何故お主はそれを見ているだけで挟撃を仕掛けない?」

 

 “五天魔龍“の最大の利は、魔物化による術者の制御無しに自己で判断をして行動する点だ。しかし、ユエはその有利性を活用しようとはしなかった。

 

「あまり妾達を舐めるでないぞ……!!」

 

 ティオが右腕を“部分竜化“し、その鋭い爪を自身の胸に突き刺した。

 

「なっ!?」

 

 突然の奇行に目を見開いたユエが目を見開いた瞬間。

 

──ドクンッ、と大気が鳴動した。

 

 ティオを中心に天に伸びる黒い柱が出現する。それは上空にて旋回していた石龍の体を容易く消し飛ばした。

 黒の波動が収まると、顕になるは漆黒に染まった一体の武人。

 

 全身を龍鱗が覆い、今までよりも刺々しく、しかし無駄の無い流水文様が如く滑らかな鎧。龍を模した兜から覗く双眼が紅く光る。

 

 魂魄変成複合魔法“龍人顕現“──それはティオの持てる全ての経験と技能を注ぎ込んで発動する究技。その()()()()である。

 

「龍とは名ばかりの欠陥技能じゃ。爆炎は吐かぬ。雷も落とさぬ。ただ……──」

 

 次の瞬間、ティオの姿が掻き消えた。

 

「己が障害を拳を持って打ち砕くのみ!!」

 

 同時に、戦場を吹き荒れる暴風と威圧。背後を取ったティオの拳が雷龍を一撃で粉砕した。

 

 龍としての技能の全てを自身の身体能力向上に当てた捨て身の変異。

 元々ユエ相手に“龍神化“を発動できるとは思っていなかった故に編み出した“龍人化“。

 

 神話の顕現とも言うべき荘厳な姿と、天地を引き裂く魔法の力。龍としての権能全てを捨て去り、発動条件の緩和と膂力の向上に全てを割り振った対ユエ専用(ピーキー)形態。

 

 雷龍を粉砕したティオは空を蹴って方向を変えると、石龍の頭上目掛けて飛び出した。

 

「──ッ!?」

 

 未だに状況を把握できていない蒼龍の頭蓋を蹴り砕かんとした瞬間、ティオが突然表情を歪め、態勢を崩す。その隙をついて、嵐龍と石龍がティオを挟み込み、ガパリと顎門を開いた。

 

「シアッッ!!」

「“レベルⅨ“ッッ!!“」

 

 嵐龍へとターゲットを変えたティオが、その身を幾万の刃に切り刻まれながら嵐龍の口内に腕を突っ込み、体内の魔石を握り潰した。

 その背後を狙った石龍だったが、更に覇気を増したシアが振り下ろしたヴィレドリュッケンによって叩き落され、あまりの衝撃に地上で爆散する。

 

「ティオさんッ!」

「すまぬ! もう慣れた、大丈夫じゃ!!」

 

 心配そうな表情を浮かべるシアに問題ないと答えるティオだったが、僅かに震える体からそれが虚勢であることは明らかだった。その身に纏う漆黒の龍鱗には幾つもの亀裂が入り、明らかに嵐龍から受けたダメージ以上の傷を負っている。

 

(ティオが内包する力。あれは明らかに肉体の許容量を超えてる……そうか、あの鎧は蓋か)

 

 ティオが纏う漆黒の鎧は自身の身を守る為のものでは無く、本来は龍へと姿を変えることで内包することが出来る力を人の身に留めておく為の蓋の役割を担っている。だが、無理やり押さえつけられた力はティオの体を蝕み、常に身を引き裂かれるような激痛を受けていた。

 

(それにシアも限界が近い)

 

 シアの身体強化の限界は元々“レベルⅣ“だ。それをハジメ特製の魔法薬“チートメイトDr“を服用することで無理やり限界を超えさせた。シアでなければ数秒と保たずに自壊してもおかしくない危険なものだ。無論、そのシアも代償が無い訳ではない。

 

(無理に近づく必要は無い。距離を離して時間を稼げば勝手に自滅する。多分、後持って一分程度……)

 

 ユエの意思を汲んだ蒼龍と氷龍は追撃の手を緩め、シアとティオに対して距離を取ろうとする。本能がこのまま近づいて牽制を仕掛けるべきだと訴えかけてくるが、それを抑え込み、主の命を優先する。

 

 その僅かな逡巡が致命的な隙を生んだ。

 

「だからぁあああ!!」

「逃げるなと言うとろうがぁあああ!!」

 

 シアとティオの姿が消えた。そう認識したのと蒼龍と氷龍が爆散したのはほぼ同時だった。

 

「なっ!? さらに早く!?」

「どうせ私達が自滅するのを待てば良いとか考えてたんでしょう!!」

「生憎と時間を掛けるつもりは無いのじゃ!!」

「──ッ!!」

 

 魔龍を全て撃破されたユエは、ここでようやく自身の手から魔法を放つ。

 

「──ッ!?」

 

 しかし、多種多様な魔法の軌道が全て分かっているかのようにシアとティオは最小限の動きで全てを躱していく。

 固有魔法“未来視“の派生 “仮定未来“。

 それはシアが決めた一つの仮定を元に未来を予知する技能だ。そして仮定した事柄は「もし、ユエが自分達を殺す気がなかったのなら」だ。

 

 見えた光景は心臓や頭蓋を撃ち抜く攻撃ではなく、こちらの戦闘を続行させないようにすることに注視された攻撃。

 

 そして、ティオもユエの攻撃を躱し切れている理由、それがシアとティオがハジメより受け取った二機一対のアーティファクト“繋ぐ物“の効果だ。

 その効果は、アーティファクトを持つ者の同士の感覚を誤差なく共有するというものだ。これによって、シアが未来視で視た光景から得た攻撃の未来をティオも知ることが出来る。

 

「行け、シアッ!!」

「はい!!」

 

 シアが空を蹴り出すタイミングでティオの拳がシアの足裏を捉え、シアを加速させる。魔法の弾幕を一気にすり抜けたシアがユエの前に躍り出た。

 

「偉そうなこと言って、結局ユエさんが一番中途半端なんですよ!!」

「くっ!」

 

 ヴィレドリュッケンを障壁で防ぐがあまりの衝撃に、ユエは両手を翳して魔力を更に込める。

 

「もう一度ユエさんと話したかった! 何を考えているのか、どんな気持ちで私達と一緒に旅をしていたのか知りたかった!!」

 

 衝撃でヴィレドリュッケンに亀裂が入るが、シアは構うこと無く押し込んでいく。

 

「でもそんなの後回しです!! 私達を裏切っておきながらそんな中途半端されるのが一番ムカつきます!!」

「なら、二人だって同じ!! 二人だって私を殺す気が無い──」

「当たり前じゃないですか!! 誰がユエさんを殺したいなんて思うんですか!!」

 

 更に力が増す。ユエの障壁に罅が入る。

 

「そうですよ!! ユエさんを殺したくなんてありませんよ!! 悪いですか!! でもしょうがないじゃないですか!!」

 

 誰に言われなくても分かっている。ユエは敵だ。自分達を裏切り、人類の在り方を歪めようとしている。そんなことが許容できる訳も無く、ユエ自身の選択である以上、ぶつかることは避けられない。

 

「それでも、また一緒に笑い合いたいって思っちゃいけないんですか!!」

「……出来ない。出来る訳が無い!! 私達は袂を分かった!! もう一緒には居られないんだ!!」

 

 障壁の外から生み出された炎槍がシアのヴィレドリュッケンに突き刺さり、そのまま粉々に粉砕した。

 

「これで──」

「やっぱり、武器を狙いましたね」

 

 ゾクリとユエに悪寒が走る。

 ヴィレドリュッケンが壊される瞬間。いや、それよりも早くシアはヴィレドリュッケンを手放していた。

 

「──“レベルⅩ“ッッッ!!!!」

 

 シアの手には真紅の戦鎚が握られていた。

 変成魔法“紅戦鎚“。変成魔法によって自らの血液を武器とする魔法。

 

「どりゃああああああッ!!」

 

 大振りの一撃がユエの障壁を一撃で砕き割る。

 キラキラと光り輝きながら散る障壁と、桜の花びらのように形を崩す戦鎚。

 目を見開くユエを尻目にシアは器用に宙で態勢を変えると、ユエの背に組み付いて動きを阻害する。

 

「何をッ!?」

「良いんですか? 前、見なくて」

 

 シアの言葉にはっと視線を戻した時には、もうそれは既に目の前まで迫っていた。

 

「仕置じゃ! 少し響くが辛抱せよ!!」

「ガハッ!?」

 

 一条の流星となった飛び込んできたティオの拳が無防備なユエの鳩尾に突き刺さる。

 血反吐を吐き、視界が明滅する。飛びそうな意識を気合で繋ぎ止めたユエはその身から魔力を絞り上げた。

 

「私は! 負ける訳には……あの子の為にも……!!」

 

 練り上げた魔力が形を成し、魔法として発動する……前に、ティオがニヤリと笑みを浮かべた。

 

「悪いの、時間切れじゃ」

「は?」

 

 言葉の意味を理解する前にボロボロと剥がれ落ちるティオの龍鱗に気付いた。それは内に内包する力を抑える蓋の役割をしているもので……

 

「まさか──!?」

 

 そこでようやくティオがやろうとしていることに気付いたユエが脱出を試みるもシアとティオが前後からユエの体を抱きしめることでそれを許さない。

 

「逃げないでくださいよユエさん」

 

 耳元で囁かれた呟きは妙に艷やかで、思わず同性のユエですら背筋を何とも言い難い感覚が駆け巡った。

 

 

 瞬間、大気が振動する程の大爆発が三人を呑み込んだ。

 

 

 

 

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