絶望の物語の作り方   作:羽織の夢

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プライベートが忙しかったり、話の切りどころがいまいち決まらずいつもよりも投稿遅れました。


本当の望み

『私の名前はエルフェウスです。その……貴女はアレーティアで合ってます、か?』

『どうしてそれを……貴女は?』

 

 夢を見た。

 

『見てくださいアレーティア!! 地上ではこのような遊びが流行っていまして……!』

『そうなんだ……ちょっとやってみたいかも』

『ッ! そう言うだろうと思って持ってきました! 一緒にやりましょう!!』

 

 薄暗い地下深くで育まれた小さな繋がり。

 

『アアア、アレーティア!? そこで何か黒光りしたものが!?』

『……うわ、これゴキブ──』

『その名を口にしないでください!!』

『飛んだァ!?』

『いやぁあああああああああああ!?』

 

 それは孤独な二人にとって暗闇に垂らされた一筋の光にも等しく。

 

『……アレー、ティア』

『エルフェウス? どうしたの?』

『わたし、その……』

 

 されど、儚くも散るのは突然で。

 

『………嘘つき』

『──ッ』

『信じてたのに……! 感謝してたのに……!』

 

 後悔しても全ては遅く。

 

『ごめんなさい』

 

 溢れる雫を拭うことも出来なかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……貴女は悪くない」

 

 全身を血で汚して横たわるユエは、空を見上げながら小さく呟いた。

 

「あの時、そう言えてたら何か変わったのかな」

 

 過去の言葉を後悔しなかった日は無い。

 裏切られたと思った。今までの繋がりは偽りだったのかと憤りを感じた。

 

 エルフェウスが側に居てくれたことでせき止められていた不満が、一気に溢れ出した。

 本当は気付いてた。あの子がそんなことをする子じゃないことくらい。心の底では気付きつつも、吐き出される怨嗟は止められなかった。

 

「裏切ったのは私だった」

 

 信じて話してくれたエルフェウスを突き放した。

 

「繋がりを断ち切ったのは私だった」

 

 差し出された手を払い除けた。

 

「だから、私は戦わなければいけない」

 

 

 全ては、過去の罪を精算する為に。今度こそ、あの子の側を離れないように。

 

 

「なのに、なんで諦めないの?」

 

 ユエが首だけを横に向けると、そこには全身ボロボロの状態で立つシアとティオの姿。

 身体強化と“龍人化“は解け、少しつつけば簡単に倒れてしまいそうなまでに酷い有り様だ。

 

 反対にユエの傷は既に再生を完了していた。破れた衣服すら元の形を取り戻し、魔力も満タン。

 シアとティオの決死の一撃は、瞬きの間に無かったものとされてしまっていた。

 

 それでも、シアとティオに諦める素振りは無い。

 

「まだ、ちゃんと話をしてないです」

「ふふふ、この程度で妾達が諦めると思うか?」

 

 力のない足取りでふらふらとユエに近づいた二人は、そのままトスンとユエの隣に座り込んだ。

 手を伸ばせば相手の心臓に容易く手が届く距離。そこまで接近されていながら、ユエは何故が迎撃することが出来なかった。体力は万全。魔力は十全。それなのに、体が鉛のように重く感じる。

 

「私はユエさんの本音が知りたいです」

「本音も何も、最初から──」

「エルフェウスを裏切る訳にはいかない。私は戦わなければならない。それって、本心はそうじゃないってことですよね?」

「──ッ」

 

 シアはユエの言葉の言い回しから、その裏に隠された本音を薄っすらと感じていた。

 裏切らないではなく、裏切る訳にはいかない。戦うではなく、戦わなければいけない。

 

「お主も本当は気付いておるのではないか? このままでは誰も幸せにならん。無論、あのエルフェウスもじゃ」

「それでも、私は……」

「ユエよ、それは本当にお主が望むことか?」

「本当に、望むこと……」

 

 今度こそエルフェウスを裏切らない。最後まで側で支える。それが私の……

 

「助けたいんじゃないですか?」

「──ッ!」

「自分から命を断とうとしているあの人を。誰かの為に犠牲になろうとしている人を」

 

 シアの言葉にユエは固まる。

 

「ユエさんはあの人の言う未来を望んでる訳でも、世界を正したいと思ってる訳でも無い……ただ、友達が心配で、ほっとけなかっただけなんですよ」

「……違う。私はそんな優しい人間じゃない。自分勝手で、周りが何も見えてない。恩を仇で返すような最低な人間。それが私」

「そんなことありませんよ。ユエさんはとって優しい人です」

「なんでそんな事が言える。どうしてそう言い切れる!!」

 

 全てを見透かされているような言い方に、思わず声を荒げてしまうユエ。

 

「ずっと騙してたんだよ!? 迷宮を攻略してる最中も、何気ない会話をしている時も、最後には全部無駄になるって知ってて黙ってた!! そんな私が優しい……!! そんな訳ない!!」

 

 故郷への帰還を願っていたハジメ。家族の安全を願っていたシア。一族と世界の安寧を願っていたティオ。

 最後には全てが壊れると知りながら、笑顔を貼り付けて仲間面をしていたユエ。

 

「皆に私の何が解るって言うの!!」

「解りません」

「……は?」

 

 予想外な即答に、思わずユエの激情がふっと収まる。

 

「考えてみれば、私ユエさんのことそこまで知ってる訳じゃないんですよね。まだ出会って一年も経っていませんし、しょうがないと言えばしょうがないんじゃないかと思うんです」

「然り。他者を理解するというのは思うよりも難しい」

「だから、これから少しずつでも良いんで教えてもらえませんか? ユエさんの国のことや、子供の時のこと。それに、エルフェウスさんのことも」

「……え?」

「やろうとしておることに共感は出来んが、かの者もまた自分なりに答えを探し求めた結果なのじゃろう。誰かの為に自らを犠牲に出来る者は中々おらん。世界を観測してきた者として興味はあるの」

「……どうして、そこまで」

 

 声が震えるのを必死に抑えながらユエは問いかける。

 顔を見合わせたシアとティオは満面の笑みを浮かべ──

 

「だって、仲間じゃないですか」

「だって、仲間じゃろ」

 

 欠片も偽りのない言葉。一切の陰りもない表情。それは今のユエには眩しすぎるもので、同時に心の底で求め続けたもので。

 

「ユエさん、知らないんですか? 仲間って助け合うものなんですよ?」

「うむ。一人で為せないことも、仲間となら乗り越えられる。そうであろう?」

「シア、ティオ……」

 

 二人の言葉に、ユエは自身の声が震えていることに気づく。

 

 本当は止めたかった。世界なんてどうでも良い。人類なんてどうでも良い。ただ、貴女がそこに居てくれればそれで満足だった。

 でも、それを口にした瞬間。捨てられるかもしれない。見放されるかもしれない。今度こそ戻ってきてくれないかもしれない。そう想像したら怖くて言い出せなかった。

 

 何よりも、自分一人ではエルフェウスを止めることなんて不可能だった。

 

 だから、協力することにした。たとえそれが間違った選択だったとしても、そうすれば少なくとも側に居られたから。

 本音を押し殺し、感情を押し殺し、自分を、他者を、全てを偽り続けた。

 そんな自分をまだ仲間と呼んでくれる。落ちるところまで落ちた自分にまだ手を差し伸べてくれる。

 

 ユエの頬を暖かい雫が伝った。

 

「……シア」

「はい」

「……ティオ」

「うむ」

 

 今更都合が良いと思われるかもしれない。軽蔑の目で見られるかもしれない。

 そんな心配は二人の表情の前では浮かびようも無かった。

 

「私は、エルフェウスを……助け、たい。お願い、手を貸して……!」

「もちろんです!!」

「任せておけ!!」

 

 エルフェウスのことが大切だった。一緒に居て欲しかった。幸せになってほしかった。

 心の底からそう思うのなら、恐れるのは繋がりが断たれることじゃなかった。

 

 エルフェウスを裏切りたくは無かった。どんな選択でも受け止めるべきだと思ってた。

 間違った道へと進もうとする友人を止めないことこそが裏切りであることに気付かなかった。

 

(エルフェウスは私を助けてくれた。今度は私が……)

 

 決意を新たに拳を握りしめるユエ。その瞳にもう迷いはなかった。

 

「……後はミレディを何とかしないと」

『あー、それは一応大丈夫かなぁ』

 

 自分と同じでエルフェウスについたミレディのことを思い出したユエは、シアとティオを連れてすぐにミレディの元へと戻ろうとしたが、すぐ背後で聞こえた声に慌てて振り返った。

 

『やっと気付いてくれた。ここまで近付いても気付かないなんてよっぽどだねぇ』

「ですが、こちらも終わったのなら好都合。吸血鬼、エルフェウスの居場所を教えなさい」

 

 そこに居たのは見慣れた騎士ゴーレム……だけでなく、交戦していた筈の光輝、雫、龍太郎、鈴に何故か姿が戻っている香織の五人。

 

「香織さん? 何故姿が……?」

「あー、うん。話すと長くなるんだけど……──私の名はノイント。この体の元の持ち主です。時間がありません、早く案内しなさい吸血鬼──端折り過ぎですよ!?」

「あの時の神の使徒か!!」

 

 唯一ノイントと対面していたティオが大きな反応を示すが、ノイントはちらりと横目で見ただけで特に反応はしない。

 

「……驚いた。生きてたんだ。貴女のことはエルフェウスから聞いてる。あの子のお姉さんなんでしょ?」

「ええ!? エルフェウスさんのお姉さんなんですか!?」

『いやいや、シアちゃん。神の使徒は本当に血が繋がってる訳じゃ──』

「それは違うミレディ。エルフェウスとノイントは血の繋がった本当の姉妹」

『……マジ?』

「そうなのか。それであんなに必死に……」

「家族なら焦る気持ちも解るわね」

「時間が無いと何度言えば良いのですか」

 

 淡々としながらも、どこか焦ったような表情が浮き沈みしていたノイントの理由に光輝達が納得していると、ワントーン低くなったノイントの声が彼らをぶるりと震わせた。

 

「分かってる。でも、良かった。貴女ならきっとエルフェウスも話を聞いてくれると思う」

 

 エルフェウスにとって家族は何よりも大切なものだ。今この瞬間、人類を改変しようとしているのも、ひとえに母の想いあってのものだ。そんな彼女が姉であるノイントの話を無下にするとは思えない。

 

 そう考えたユエが安堵の表情を浮かべると、途端にミレディ達の表情に影が差す。

 

「……何?」

「あのね、ユエ……」

 

 その様子に首を傾げたユエに、香織がノイントから聞いた話をそのまま伝えた。

 

「……」

「私達は大きな勘違いをしていた。だから、今すぐエルスを止めないと」

「……」

「ユエ?」

「ユエさん?」

「なにそれ」

「ユエさん!?」

 

 俯いたまま黙り込んでしまったユエを心配してシアが顔を覗き込もうとした瞬間、ユエは踵を返して飛び出してしまった。

 

「ちょっ、どこ行くんですかユエさん!?」

「待つのじゃユエ!?」

 

 慌てて追いかけてくるシア達に見向きもせず、ユエはエルフェウスの元へと駆ける。

 その胸中は抑えきれない程の怒りで満ちていた。

 

 エルフェウスが今までどんな想いで生きてきたと思っている。どれだけ我慢してきたと思っている。

 

 怒りを抑え込んだ。憎しみを抱え込んだ。悲しみを内に秘めた。残酷な運命を一人で背負った。

 

 認められる訳が無いだろう。許される訳が無いだろう。

 途方もない程の年月。全てをかけてきたあの子のこれまでが……

 

 

──全て、奴の思惑どおりだったなんて。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ギャイン、という金属を擦り合わせたような耳障りな異音がハジメの鼓膜を刺激する。

 

「くっ!!」

 

 ハジメは展開された可変式円月輪“オレステス“によって展開されたゲートが両断されるのを視界の端に捉えながらその場を飛び退いた。

 

 エルフェウスとハジメの間には約50メートル程の間合いが空いている。にも関わらず、エルフェウスは手刀の形で持ち上げた手を縦に振った。

 

「っ!!」

 

 轟音。

 

 体を高速で捻り、自ら吹き飛ばされることで回避したハジメは、肩で息を整えながらエルフェウスを睨みつける。

 つい先程まで自分が居た場所には鍔も柄もない、歪な大剣がまるでハジメ目掛けて振り下ろされたのような状態で存在感を放っていた。

 

「……ちっ」

 

 未だに一歩も動く気配の無いエルフェウスに比べ、ハジメの体には無数の切り傷が刻まれ、決して少なくない血を流していた。

 

(空間魔法での転移にしては早いな。そもそも予備動作がなさすぎる)

 

 当初、ハジメはエルフェウスが大剣を空間魔法によって転移させているものかと判断していたが、すぐにその考えは改めるはめになった。

 

 剣という武器は斬る、もしくは突くことで敵を攻撃する武器だ。ハジメの傷も大剣に斬られ、貫かれたことで負ったものだ。だが、あの大剣には以上な程に予備動作というものが無かった。

 

 斬る為には

 1、剣を振りかぶる。(準備)

 2、剣を振り下ろす。(実行)

 3、対象を斬る。(結果)

 

 突く為には

 1、剣を水平に向ける。(準備)

 2、剣を押し出す。(実行)

 3、対象を突く。(結果)

 

 という幾つかの工程が存在する。

 状況や態勢によってはそれを省略することも可能だが、少なくとも振り下ろさなければ敵は斬れないし、押し出さなければ敵は貫けない。

 

 その1(準備)と2(実行)の工程がエルフェウスには存在しなかった。

 

 エルフェウスが腕を下ろす。

 すると、既に剣は振り下ろされていて、ハジメを斬ったという結果だけが存在した。

 

 エルフェウスが手を突き出す。

 すると、既に剣が突き出されていて、ハジメを貫いたという結果だけが存在した。

 

 攻撃を仕掛けられた瞬間には、既に攻撃が終わってる。ハジメが回避出来たのは、大剣の出現を予測して一歩先に動いたからに過ぎない。

 更にハジメを現在進行形でジリジリと追い詰めている事象が一つ。

 

 懐から取り出した神水を服用した。

 

(……やっぱりだ、効果がねぇ)

 

 どんな傷でもあっという間に癒やし、魔力の回復もできる神水。魔力の回復は問題なく行えるが、全身の傷は一向に治る気配をみせなかった。

 

(ま、当たり前って言えば当たり前だな。俺だったらいの一番に対策してる)

 

 どれだけ傷を負ったとて、どれだけ魔力を消費したとて、神水一本で全てが元通り。そんなチートに何の対策もしてない訳がないかとハジメは疲れたようにため息をつくと、徐ろに手を頭上に掲げた。

 

「……ん?」

 

 ハジメの持つ“宝物庫Ⅱ“から紅い魔力が溢れ出す光景に、エルフェウスは僅かに目を細める。

 

「──来い、“グリムリーパー“!!」

 

 眩い閃光と共に紅い魔力が弾け飛び、空を紅く染め上げる。

 

「魔物……いえ、ゴーレムですか」

 

 光が収まった先には、真っ白な空を覆い尽くさんばかりの魔物の大群が居た。

 

「お前の大剣。厄介だが、一度に出せるのは二本までだろ?」

 

 ハジメもただ何もせずに逃げに徹していただけではない。ぎりぎりで致命傷を避けながらも、大剣の動きに一つの規則性を見つけていた。

 

「一度転移した大剣を再度転移させるのに必ずインターバルがある」

 

 大剣の転移から再転移の合間に1秒程のインターバルがあることにハジメは気付いていた。エルフェウスは大剣二本を別々のタイミングで転移させることで僅かな隙を消し、それを掴ませないようにしていたが、絶対に自身を殺せるタイミングで大剣が転移してこなかったことからハジメは確信した。

 

「それに、大剣を転移させる時、必ずお前は俺を視界に入れていた。つまり相手の位置を正確に把握する必要があるってことだ」

 

 エルフェウスが大剣を転移させる時は、決まって必ずハジメの姿を正面に捉えていた。そこからハジメはあの超速転移が座標を軸に発動するのでは無く、対象を目視することで発動する術式である可能性が高いと考えた。

 

 “グリムリーパー“の軍隊が広く展開し、エルフェウスからハジメの姿を隠す。

 

「俺の姿を目視できず、大剣二本じゃこの数を殲滅は出来ねぇだろ!!」

 

 金属の魔物達が雄叫びを上げながらエルフェウス目掛けて突進する。

 最早金属の壁とも言えるそれらの背後で、ハジメはドンナーとシュラークを構える。

 

 簡単にああは言ったが、この程度でどうにかなる相手だとはもちろん思っていない。“グリムリーパー“の一体一体がそこらの魔物を凌駕する戦闘力を秘めてはいるが、エヒトの力を取り込んだエルフェウス相手には敵わないだろう。

 

 だが、これだけの物量だ。必ず対処する為に次の手を打ってくる。

 

(魔法で薙ぎ払うか、それとも後退して各個撃破か……どっちにしろ必ず動く……!!)

 

 ハジメの武器は総じて大型で重量級のものが多い。宝物庫から取り出し、構え、撃つ。この工程を踏む間に必ず大剣が跳んでくる。

 目視しただけで跳んでくる大剣。あれがある限り距離を取るのは愚策でしか無い。物量で常に距離を縮め、生まれた隙で最大火力を撃ち続ける。

 

 ハジメからもエルフェウスを目視することは出来ないが、魔力感知で位置は常に把握している。相手の動きが不明瞭な以上、ありと汎ゆる手段で攻勢を見つけていかなければならない。

 

(回避か……迎撃か……どう来る)

 

 視界を埋め尽くす黒の津波がエルフェウスを呑み込まんと迫り。

 

 

 一瞬で粉々に砕け散った。

 

 

 

 




ちょっと区切りが中途半端になってしまい申し訳ない。次回は早めに投稿出来ると思います。
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