ついでにWILD HEARTSもやってきました。
更新速度落とさないよう、頑張ります。
オルクス大迷宮。
トータスに存在する七大迷宮の一つ。
階層を増すごとに魔物が強力になっていくというダンジョンの特性を利用し、新兵の訓練や冒険者に強い人気を誇っている。近場にホルアドという宿場町があるのも大きな利点の一つだ。
メルド団長を含む騎士団に率いられ、勇者一行はホルアドへと足を踏み入れた。
目的はもちろん、オルクス大迷宮での実戦訓練を行うためだ。
王都以外の町並みを初めて見る彼らは、物珍しさから辺りをキョロキョロと見回すも、既に夜も遅く、明日の迷宮挑戦に向けて英気を養うようにと言い含められ、今夜宿泊する宿屋へと連れて行かれた。
夜も更け、多くの宿泊客が眠りにつき始める中、一人、廊下を歩く少女が居た。
(うーん、やっぱりこんな時間に迷惑かなぁ?)
少女──香織は目的地に向けて足を進めながらも、不安そうな表情を浮かべていた。
香織はハジメに会うために、彼が寝泊まりする部屋に向かっているのだが、既に深夜にあたる時間。こんな夜更けに尋ねるのは迷惑に思われないかと危惧しているのだ。
しかし、香織には引けないある理由があった。
(でも、あの人が居ない絶好の機会。こんな好機を逃すわけには!)
最近、ハジメとの距離を急速に縮めつつある修道女の少女──エルス。
彼女の多彩な話術は、口下手であまり他人に興味が無いハジメですら、気付けば話にのめり込んでしまうほどの技術を持っており、その可憐な容姿も合わさり、この数日だけで香織に多大な危機感を募らせる結果になってしまった。
(しっかりしろ、私! 女は度胸! 雫ちゃんも言ってたじゃん!)
そうやって自らを鼓舞する香織の格好はかなりヤバイ。
純白のネグリジュにカーディガンを羽織っただけのもの。いくら好意を抱いていると言っても、深夜に思春期の男性の部屋を尋ねる格好には到底適さないだろう。
本人は完全に無自覚なのだが、今の香織の姿を雫が見れば「度胸ってそういう意味じゃないわよ!?」と盛大なツッコミをもらうこと間違いなしだ。
(それに、さっき見た変な夢のことも……)
僅かに表情に影を作った香織だったが、嫌な考えを振り払うように頭をブンブンと振り、目的地に急いだ。
クラスメイトの宿泊する部屋は男女で階が別れているのだが、
「南雲くん、起きてる? 白崎です。今大丈夫かな?」
すると、中からバッタンバッタンと何やら音が聞こえてきた。
(どうしたのかな?)
首を傾げる香織だったが……
「早く、早く隠れて!?」
「ああん、ハジメ様のえっち!」
「──ッ!?」
その声が聞こえてきた瞬間、香織はドアを蹴破る勢いで乱暴に開けた。
「あっ」
「あら?」
そこに居たのは、自身の想い人であるハジメだ。それは別に良い。ここは彼の泊まる部屋だし、居ても何もおかしくない。
問題は、その彼にベットに押し倒される形になっているエルスの姿。しかも、彼女の服はやけに乱れており、あと少しで色々と見えてしまうような危ない格好だ。
香織は自身の血が一瞬で冷たくなるのを感じた。
「何をしてるのかな? かな?」
「いや、違っ──!?」
瞬間、満面の笑みでハジメに迫る香織に、ハジメは必死に勘違いを正そうとするが、香織は笑みを浮かべる表情とは裏腹に、その眼は一切笑っていない。気のせいか、香織の背後に般若が見えるような気がする。
動揺で言葉が出てこないハジメに代わり、エルスが口を開いた。
「……凄かったです」
「「は?」」
「私、初めてでしたのに……あんなに激しく……」
まさかの火に油を注ぐ行為にハジメが顔面を蒼白にし、香織はスンッと表情から感情が抜け落ちる。
「見た目にそぐわず、凛々しい方でしたのね。でも……そんなハジメ様も……」
「いやいやいや!? 何言ってるのさ!? 僕は何もやって──」
「ハジメくん?」
思わずエルスの方を向き直ったハジメだったが、その背をゾクリと悪寒が駆け巡った。
ギギギっと壊れたロボットのようなぎこちない動きで振り返ったハジメの瞳に写ったのは、瞳から一切の光を失った香織の姿。
あ、これヤバいやつや。と、口元を引きつらせるハジメを前に、香織は幽鬼のように一歩ずつハジメに近づいてくる。
「1回ヤッちゃったんなら、2回も3回も一緒だよね?」
「何が!?」
「何がって、ナニがじゃないですか?」
「エルスは黙っててくれないかな!?」
「大丈夫、ダメになっても私が回復魔法かけるから」
「それはそういう目的で使うものじゃないと思います!!」
「わっ! もしかして3
「女の子がそういうこと言うんじゃありません! あとピー音付けたら伏せ字の意味がない!!」
◇
「ううぅ……ごめんなさい、私動揺しちゃって」
「いや、白崎さんは何も悪くないよ」
「そうですよ、香織様。誰だって勘違いはあるものです」
「うん、その通りなんだけどね? 言っておくけどエルスのせいだからね?」
「……?」
「意味が分からないって顔しても無駄だから。絶対確信犯でしょ」
あれからバッタンバッタンと大暴れした三人だったが、ハジメが何とか香織の誤解を解いて場を収めることに成功。ハジメのハジメが無限昇天地獄に陥ることだけは回避した。その際に「ちっ」と小さく舌打ちをした修道女のことをハジメは忘れない。
「えっと……それで何でエルスがここに?」
「偶然ホルアドでお勤めがあったのです」
「……いや、流石にそんな偶然が──」
「お勤めがあったのです」
「……あの──」
「あったのです」
最早二の句も告げさせないエルスに香織はハジメに視線を向けると、ハジメは疲れたように頷いた。
どうやら彼の方でも同じような問答だったらしい。
「ところで、香織様こそこんな時間にどうしたのですか? てっきりそのご格好から夜這いかと思ったのですが」
「よばっ!? ち、違うよ!? 私は……わた、しは……」
「……白崎さん?」
エルスの指摘に顔を真っ赤にして否定する香織だったが、見る見る内に消沈していく姿に、ハジメが心配そうに声をかける。
しばらく何か言い淀むような態度を取ったあと、真剣な……されど何処か思い悩むような表情を浮かべた。
「明日の迷宮なんだけど……南雲くんには街に残ってて欲しいの」
困惑するハジメに、香織は静かに語りだす。
夢を見た。どれだけ声を上げても、どれだけ必死に走っても、南雲に気付いてもらえない自分。終いには目の前で消えて居なくなってしまう。
全てただの夢だ。しかし、香織にはそれを所詮夢だからと割り切ることが出来なかった。こうして直接本人の元に訪れてしまうほどに。
しかし、ハジメには行かないという選択肢は無い。
行きたいわけではないが、行かなければ、ただでさえ居場所の少ない自分は、もうどこにも居られなくなってしまう。光輝を始め、クラスメイトからの非難や侮蔑の言葉も今まで以上のものになるだろう。
光輝たちは自分と違い、強い。それにメルドたち騎士団員も着いている。だから大丈夫だと告げるも、香織の不安な表情は晴れない。
どうしたものかと、ハジメが頭を悩ませていると──
「なら、香織様がハジメ様をお守りすればよろしいのでは?」
黙って二人のやり取りを聞いていたエルスが口を挟む。
「私が……守る?」
「はい。香織様は治癒師なのですよね? なら、ハジメ様がどれだけボロボロになっても香織様が治療して差しあげれば問題ありません」
「僕の男としての矜持が問題大アリなんだけど……」
ハジメだって男だ。いくら無能の烙印を押されているからと言って、毎回女性に助けを乞うのがそうとう恥ずかしいという自覚はある。
「ハジメ様、私は戦いのことはよく分かりません。しかし、死んでしまってはそこで終わりです」
「それは……」
「男性からすれば、女性に助けを求めることに抵抗を感じるかもしれません。ですが、ハジメ様が亡くなると、少なくともここに二人、悲しむ女性が居ることを忘れないで下さい」
「……」
じっとこちらを見つめるエルスの姿に、いつもなら目を逸してしまうハジメだが、まるで不思議な引力が働いているかのように目を逸らすことが出来ない。
「……僕は弱い。皆よりもずっと弱い。それでも、僕なりに頑張ってみようと思ったんた」
「南雲くん……」
「凄い情けないし、自分でも何言ってんだろうって思うけど……いつか、絶対役に立てるよう頑張るから。それまでは、僕のことを守ってくれないかな?」
ハジメは顔から火が出るかと思うほどに真っ赤になっている自覚がある。月明かりで照らされた室内では香織からもその様子がハッキリと見える。
今度は香織とじっと見つめ合うハジメ。エルスの時のような惹きつけられる錯覚は無いが、香織の不安を晴らすには、逸らしてはいけないと分かっていたから。
「……ふふ、変わらないね。南雲くんは」
「え?」
そんな静寂は、香織が浮かべた笑みと共に破られた。
困惑するハジメに、香織は今まで秘めていた彼との出会いを話し出す。
不良に絡まれていた小さな男の子とおばあさん。誰もが見て見ぬふりをする中、ハジメだけが彼らの前に立ち塞がった。
物語の主人公なら、不良たちを倒して颯爽と立ち去るべき場面だろうが、そんなものとは無縁のハジメは、ただただ土下座を披露して、不良たちが呆れて帰るのを待った。
カッコイイ姿とはかけ離れた姿だったが、香織にはそれがどんな行為よりも強い人に見えた。
「それで、南雲くんのことを知りたくて、色々話しかけてたんだ」
「そうだったんだ……」
「だから……うん。私が南雲くんを守るよ」
「……ありがとう」
香織からの決意に、ハジメはハッキリと頷いた。
見つめ合う二人の間に温かい雰囲気が流れ……
「……私が居ること忘れてません?」
「「──ッ!?」」
そばから掛けられたエルスの言葉に弾かれるように距離を取った。
「私だって良いこと言ったのに、完全に二人の世界に入ってましたね。キスの一つでもしそうでしたよ?」
「キキキ、キス!?」
「しないよ!?」
「まあ、ハジメ様のファーストキスはもう私が頂いてしまいましたが」
「したの!?」
「だからしてないって!?」
ぐるんっとハジメに顔を向ける香織に、ハジメはブンブンと首を横に振る。
「まあまあ。夜も長いですし、これからすれば良いではありませんか」
「何言ってんのさ!? というか、もうこんな時間!? 白崎さんも流石にもう寝ないと明日に差し支えるよ!?」
「じゃ、じゃあ最後にお休みのキスを──」
「しないよ!?」
でも、とゴネリだす香織を宥め、何とか部屋の外まで誘導することに成功したハジメ。「今日は帰るね」の“今日“のところが妙に強調されていることに悪寒がしたが、気のせいだと思い込むことにした。
「じゃあ、また明日」
「うん……あの……」
部屋の扉まで見送りに出てきたハジメだったが、香織が何か言いたそうにしていることに疲れたように肩を落とす。まだ変な勘違いを起こすのでは無いかと。
「……どうしたの?」
「その……
「……」
その言葉にハジメが振り返ると……
「私ですか? 私はこのままハジメ様のお部屋に泊まらせて頂くのでお気遣いなく」
何故かハジメの荷物がまとめてある方のベットに潜り込んで、顔だけこちらに向けているエルスの姿があった。
流れるように室内に戻ったハジメがエルスの首根っこを掴み、そのまま香織に投げ渡した。
「何するんですか!? 乙女をそんな犬猫みたいに扱うなんて!?」
「何するのかはこっちのセリフだよ!? 自分の部屋で寝なよ!!」
「残念でした! 私は今夜宿を取ってません! つまり、誰かのところに厄介にならなければ野宿することになります!!」
「何してるの!? ホントに何してるの!?」
「なら、私たちの部屋に泊めてあげるから! 私と同じベットになっちゃうけど!」
「だが断る!!」
「だから何でそのネタ知ってるの!?」
「昔から処女を捧げた夜は、その男性の腕の中で寝るって決めてるんです!!」
「きゃああああ!? 静かに! エルス静かに!! ここ廊下だから!!」
「ホントに黙って!? お願いだから!?」
◇
その後、何とか暴れるエルスを香織が羽交い締めにし、ハジメが無理矢理扉を閉めることで決着がついた。
今、エルスと香織は並んで部屋に向かっているところだ。
「もう、エルスも女の子なんだから、あんまりそういうことを大声で言っちゃダメだよ?」
「ハジメ様に処女を捧げたことをですか?」
「だからダメだってばぁ」
ダメだと言ったのに早くも口にするエルスに、香織はがっくりと肩を落とす。
「誰も出てこなかったから良かったけど、もし誰かに聞かれたら変な誤解されちゃうんだよ?」
「……それもそうですね。こんな美少女二人と肌を重ねたと知られたら、ハジメ様が後ろから刺されてしまうかもしれません」
「うん、もうそれでいいよ。だからあんまり外で叫んじゃダメだよ?」
「分かりました。それにしても……」
──誰にも聞かれなくて良かったですねぇ。
◇
「白崎と、あの美人の女が……南雲と……?」
二人の背中を見つめる男が信じられないと言った表情で呟いた。
「あの、無能がぁ……!!」
男の表情は憎悪に醜く歪んでいた。
>香織が来る前のハジメとエルス
ハジメ「あの、エルス? 僕、もう寝ようと思ってたんだけど……」
エルス「そうなのですか? では……どうぞ」
ハジメ「……何で僕のベットに入ってるの?」
エルス「え? だって私と寝るんですよね?」
ハジメ「どうしてそうなったの!? 普通に寝るだけだよ!」
コンコン←香織が扉をノックする音。
ハジメ「ヤバい、誰か来た!」
エルス「むっ、急がなくては!」
ハジメ「何脱いでるのさ!?」
エルス「外堀から埋めようかと」
ハジメ「早く、早く隠れて!?」←エルスを隠そうと彼女に近づくハジメ。
エルス「ああん、ハジメ様のえっち!」←ハジメの腕を掴み、自分に引き寄せるエルス。
香織(般若)「何してんだごらぁ!!」