彼女のセブンMy Favorite Seven 作:skav
「今日から我がRennenで開発兼メカニックとして働いて貰う。卯月誇之君だ。以前にも話したとおり、経験値という点では君たちと同等、もしくは君ら以上だ。」
「卯月誇之です。よろしくお願いします。」
現在誇之はRennenの本拠地に来ている。ここではマシンのメンテナンス、開発、などレースに関することはもちろんここの場合はカーボンの研究で他の事業にも進出している。
「早速だが卯月君にはフォーミュラガイアの車体を見て欲しい。美春君、後は任せたよ。」
「分かりました。よろしく、卯月君。では、行こうか。」
「はい。」
美羽に連れられ誇之はとある一室に入る。
「「お待ちしておりました!!」」
綺麗に揃った気合いの入った挨拶に、誇之は驚いて後ずさってしまった。
「え、えっと・・・こんにちは?」
「「こんにちは、本日よりよろしくお願いいたします!!」」
「えっと、本田さん・・・これはいったい?」
何がなにやら分からない誇之は美春にすがるしか無かった。
「みんな君が来るのを心待ちにしていた・・・と言えば分かるかい?」
「よろこんで・・・良いんですかね?」
「歓迎されているのだから喜ぶべきだろう?まあいい。それよりも本題に移ろう。コレが私たちのマシン、RF-002だ。」
何人もの人間に囲まれるように鎮座しているその車は、フォーミュラガイアを走るために作られたレーシングカーだった。
ハイテク装備は必要最低限に、従来のドライバーが操るレースを目指して作られたマシンだ。
「・・・うーん、市街地コースでは早そうですね。」
この車を見て真っ先に誇之が思ったのが”曲がりにくそう”だった。ゴテゴテに着飾られた空力パーツ、トレンドを追いすぎて何を目指しているのか分からなくなってしまっていた。
空力バランスが極端すぎて、コレでは高速コーナーが安定しない。
「今年のシャシーは昨年よりも剛性が足りない。動かない車を作るために仕方が無い措置なんだ。」
コレは今年の全チームが抱えている問題だ。シャシーが”動く”ため、コース毎にセッティングが全く異なる。ある程度レンジの広い、汎用性のある車にするためには空力で押さえつける必要があるのだ。
「でもこれじゃあ・・・。」
「君のしたいようにしてくれて構わないよ。何せ私たちは君の理想を形にするために結成したチームだからね。」
「・・・そこまで期待されると、少し申し訳ない気持ちが。」
「しかし、君にはそれに値する技術がある。ここにいるメンバーは君の過去の実績、なにより君自身を信頼しているのだから。」
誇之は観念したように、RF-002へ近づく。
「テストが限られてる今、できる事は空力を”削ることです”。」
例えば200キロのダウンフォースがコースで7割しか使えないのなら、150キロが10割使えた方が効率的でもあり、ドライバーにも優しい。
「でも、それではタイムが落ちてしまうのでは無いのかい?」
「この際速い車は来年に持ち越しましょう。今は強い車、壊れない車を作る方が最優先です。」
誇之は既に、残りの二戦をどのようにして戦うのか目星を付けていた。
「あと二戦、全て邪道で勝とうと僕は思っています。そのためには、とにかく強く、タイヤに優しい車を作りましょう。」
「「おおおおぉぉぉお!!」」
「・・・・・・テスト、ですか?」
「そうなんだ、最近また調子が良くなってきて今のところ連勝中。それであるチームが君に目を付けたんだ。」
愛華のマネージャーが少しばかり興奮した様子で連絡をしてきたのが朝の話。愛華は自宅にマネージャーを呼び、その知らせを聞くことにした。
「ちなみに、どこのチームなんですか?」
「Rennen・・・、最近参加してきたチームだね。確か三嶋沙羅選手がそこに在籍しているはずだ。」
「・・・三嶋さんが?」
「詳しくは分からないが、個人的に君を知っている彼女が君を推薦した・・・と、僕は推測しているのだけど。それで、この話は受けるかい?」
「もちろんです。折角のチャンスなんですから。」
このテストで良い結果を出すことができたならば、フォーミュラの道へ進む大きな架け橋になるだろう。
「分かった・・・日程と場所は追って連絡するよ。くれぐれも体長は・・・って、君にはこんなアドバイス必要ないか。」
「いえ、お気遣いありがとうございます。」
愛華にとって今やるべきことはきちんと体調を整え、当日に実力を出せるようにすることだ。
N峠、第一駐車場。山頂付近にあるこの駐車場は、標高が高いこともあり夏場でも涼しい風が吹いていた。
そこに海のように青い色をした一台の大柄な車が駐まっていた。その近くのベンチに女性が一人。
肩まで掛かる赤い髪に、猫の様に釣り上がった目。今は暑さのためか少しだけ気怠そうだが、三嶋沙羅本人である。
冷えた缶コーヒーを飲みながら、沙羅は青いスカイラインを見つめる。
「・・・・・・。」
そんなとき、白い大柄な車が現れ、スカイラインの横に止めた。
日産GT-R。スカイラインの名を廃し、GT-Rという名前だけを受け継いだ日産を象徴するスポーツカー。
「君から連絡するなんて珍しいこともあるものだ。」
その車から、夏場だというのにしっかりとスーツを着こなした男が出てきた。
「・・・・・・叔父さん。」
「ああ、少し待ってくれ。私も何か飲み物が欲しい。」
そう言って自動販売機でペットボトルのお茶を買い、沙羅の隣に座った。
「ふう・・・年になるとこの暑さはきつい。あぁ・・・ここは涼しいな。」
「叔父さんがこのスカイラインを貸してくれて、大体二年ですね。免許取ったばかりの子供に・・・心配じゃなかったんですか?」
「心配だったさ、君が車に乗せられないかね。だが、そんな心配も一月経てば無用だったと思わされたよ。」
「叔父さんが作ったチームに特別に参加を認められて。最初は完全になめられてたけど・・・必死に走り込んで、ジムカーナで鍛えて。ちゃんと認められるようになった。」
「そしては今は世間に注目されるフォーミュラドライバー三嶋沙羅か・・・本当に大きくなった。」
「ふふ、懐かしむにはまだ早いですよ。私はもっと上を目指してるんですから。・・・それで、連絡をした理由ですが。このスカイラインをそろそろお返ししようと思います。」
「二年が経ち、ますます君の手足の様に馴染み始めた・・・何か理由ができたのかい?」
「正直、惜しい気持ちが無いわけではありません。ただ、このまま叔父さんにお世話になるわけにもいかないですから。」
「私としては可愛い姪っ子に頼りにされるのはやぶさかでもなかったのだが・・・その可愛い姪っ子のお願いとあらば仕方が無い。」
「今まで本当にお世話になりました。」
「この車も君というドライバーに出会えて幸せだったろう。・・・次は、孫にでも乗って貰おうか。」
そう言って男は白い車に乗り込もうとするが、ドアを開けたところで沙羅の方へ顔を向けた。
「それで・・・君にそう決意させたのはあのCR-Xの彼かい?」
「なっ・・・・・・!?」
不意に振られた話題に沙羅は言葉を詰まらせた。そして、案外それは的を射たりしているのであった。
「はっはっは、堅いと思っていた君がまさかそんな相手がいたとは。それはそれで安心したよ。」
「ち、違います・・・彼は―」
「都合の良い日に連絡すればすぐに手配する。それでは、失礼するよ。」
低い唸り声を上げて真っ白の日産GT-Rはあっという間に姿を消してしまった。
「・・・・・・はあ。」
疲れた様子で沙羅は再びベンチに腰を下ろした。湿気の少ない冷たい風が自分の体奥にまで吹き込んでくる気分だった。
「ん?」
ポケットで自分の携帯電話が震えているのを感じた。音声着信では無く、メールだった。
新規受信二件。
一つは以前連絡先を交換した岬愛華からで、「ありがとうございます」と短い文章が。
何について「ありがとうございます」なのかさっぱり分からなかった。茂木から送ったときにはちゃんと礼を言っていた。じゃあ、これは一体何なのだろうか。
もう一つはチームからの連絡でテスト日の日程と簡単なスケジュールが書いてあった。
そしてそこに岬愛華がテストに参加するという文章が。
岬愛華はこれに対してありがとうとメールを送ったのだろうか?
確かにチームと彼女、両方に接点があるのは私だけのはずだ。しかし、私はチームに岬愛華と言う名前を出したことは一回も無い。
とすれば別の誰かが岬愛華とチームをつないだことになる。
「・・・・・・一体誰が。」
様々な可能性を考えてみるが、結局は分からなかった。