彼女のセブンMy Favorite Seven   作:skav

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青い翼

三嶋沙羅の朝は早起きから始まる。

まだ少しだけ薄暗い朝の町を走り、軽く汗を流してシャワーを浴びる。

「卵が切れそうだな…。」

冷蔵庫の中を確認して今日の朝食の献立を考える。

「みそ煮で良いか。」

昨日安売りしていたサバの切り身で味噌煮を作る。サラダと味噌汁も手早く作り終わり、同居人を起こす作業に移る。

「卯月、起きろ。」

沙羅たちが通う大学は一般教養を二年間で修了させ、次第に専門科目へと移行する構成をとっている。

そのため一年次で二年分の単位を取ることができれば、飛び級をすることが可能なのだ。

そして誇之は例に漏れず飛び級をして見せたのだった。そのため今年から沙羅と誇之は同級生ということになる。

こちらは順調に進級をしているというのに…この男は。二つも年が違うのにもかかわらずだ。

なんだか無性に腹が立ってきたので、いつもより少しだけ起こし方が荒い。

「んん~…くぁ…おはようございます沙羅さん。お、今日は味噌煮ですか~。」

しかし寝ぼけ眼の誇之の純真無垢な表情を見るたびに、沙羅の胸に罪悪感が生まれる。

いや、こいつが努力した結果だ。それに対して私が腹を立てるのは筋違いも甚だしい。

好物の匂いを嗅ぎ取った誇之がむくりと体を起こす。

「毎度のことながら凄い寝癖だな。」

寝相が悪いのか、誇之の前髪はあらぬ方向を向いた状態で硬直していた。

「味噌煮~。」

「良いから顔洗うのが先だ。寝癖も直せ。」

「は~い。」

半覚せい状態のまま誇之は洗面所へ向かっていった。

 

「いただきまーす。」

「いただきます。」

朝食を食べながら二人は今日の予定を話し合う。

「今日はおじさんのところに行ってきます。愛華さんのインテグラを早速いじろうと思うので。あ、エア抜きで人数必要なので来てくれると嬉しいです。」

「分かった私も行こう。今日は特に何もないからな。すぐに出るのか?」

「お昼頃に着ければ大丈夫です。」

「了解。」

それならばさっさと掃除と洗濯を済ませてしまおうと味噌汁をすすりながら考える沙羅だった。

 

「軽量化ですか?」

「ああ、スカイラインを極力軽くしてやりたいんだが。やはりFRPか?」

遠藤モータースへ向かう道中、沙羅は誇之に自分のスカイラインの軽量化計画について相談していた。

「そうですね~ぜいたくを言えばカーボンがベストですけどね。…あ。」

カーボンという単語で誇之は何か思いついたらしく、意味深な笑みを漏らした。

「ちょっと面白い事考え付きました。軽量化計画は任せてくださいな。」

「…あてがあるならそれに越したことは無いが。」

一抹の不安はあるが、この男なら大丈夫だろうと任せることにした。

「それはそうと卯月、後ろに張り付いてる車に気が付いてるか?」

「はい、さっきからずーっと付いてきますよね。それもかなりの至近距離で。」

ミラーを見ると四角いヘッドライトと青い車体が見えた。

「あはは~いいタイミングで合流したみたいだね。これなら道案内をする手間が省けたよ。」

好都合とばかりに誇之は少しだけペースを上げた。

 

「なんで三嶋先輩が助手席にいるのかな?」

前の車のサイドミラーから沙羅の顔が見えたとたん、愛華は言いようのない感情が沸き起こった。

「何だかんだ一緒にいることが多いような…あの二人。」

付属校とはいえ自分も同じ学校に通うのだから、もう少し同じ時間を共有しても良いのではないだろうか。

「はぁ…なーんで私は妬いてるんだろ。」

これから自分の車の戦闘力を上げに行くというのに、なんだか煮え切らない気持ちだった。

 

 

一週間ぶりに遠藤モータースを訪れる。駐車スペースにはロータス・ヨーロッパが止まっていた。

「インテはピットに入れておいて。」

「分かった。」

作業スペースに車を止める。いよいよ作業が始まる。

「とりあえず今日はラリー装備を外して、ジムカーナに必要な装備を付けて。それからブレーキのインチアップをしようと思います。そして、明日はエンジンとブッシュ系のリフレッシュね。」

「日をまたぐのか?」

「折角三人とも予定が空いてるんですから。やっちゃいましょうよ~。」

「いや、そうじゃなくて…エンジンって一日でどうにかなるの?」

「なるよ~。」

さらりと飛び出たとんでもない誇之の言葉に、二人は唖然とした顔で見つめあった。

「さて、まずはとにかく外しまくるよ~。」

ラチェットとレンチをを持ちながら誇之は腕をまくった。

 

「これラリコンの電源、バッ直(バッテリーから直に電源を取ること)かぁ…えぐいことするなぁ。」

「フォグもなかなか愉快だったぞ。」

フォグランプを外した沙羅が報告する。なんと純正のフォグランプの配線から直接新しい配線を弾いて、フォグに繋いでいたのだ。リレーも仲介させずに。案の定端子は黒く焦げ付いていて、過酷な状況であったことは明白だった。

「もう、ラリーの人は大胆すぎるよ~。」

あらかた電装系を外し終わったら、今度はサイドブレーキの延長の作業に入る。

ジムカーナでサイドターンをするとき、普通のサイドブレーキを使った場合に少しだけ不便な部分が出てくる。

普通のサイドブレーキは、ロックを解除するときにボタンを押しながら下げる必要がある。

ボタンを押しっぱなしにすれば問題なくサイドターンはできるのだが、どうせならもっと楽にサイドブレーキの操作がしたい。

そしてバケットシートの形状が両肩がせり出しているタイプなので、サイドブレーキを引く姿勢になった時腕がシートにに当たってしまうのだ。理想はシフトノブの隣にサイドブレーキのレバーがあること。

そのためには、延長と細工が必要だ。

「愛華さん、ドライビングポジションはそれでオーケー?」

「うん。」

愛華に実際に運転席に座らせて、しっくりくるポジションを探る。

簡単に曲がる柔らかい素材の棒を使って、サイドブレーキの長さと形を具体化させていく。

「ステアリングとシフトノブの間にあった方が良いよね?」

「そうだね…その方が良いかも。」

「じゃあこの長さで…曲げ具合は少しだけ上に向ける?」

誇之が手で棒を固定して、愛華に握らせる。

上を向かせたことで、従来の持ち上げるような操作から文字通り引く動作にかなり近くなった。

「こっちのほうが楽かな。」

「はーい、じゃあ加工しまーす。」

中空の鉄棒を用意して純正のサイドブレーキと溶接する。

最後に純正のボタンがある位置にコの字型の穴を空ける。

「はーい完成~。」

「器用なもんだな。」

「加工ぐらい慣れれば簡単ですよ。切って曲げてくっつけるだけなんですから。…よし、じゃあ次はいよいよブレーキのインチアップだよ~。」

インテグラ、とりわけ96スペックは後期型に比べてブレーキのサイズが前後で1インチ小さい。今回誇之が行うのは98スペックのブレーキローターを入れることと、NSX用のブレーキキャリパーを取り付けることだ。

そうすることで後期型に比べて軽い車体に強力なブレーキが加わり、戦闘力が上がると言った思惑だ。

「次からホイールは5穴用を買わないとだめだからね。」

「分かった。サイズは何が良いと思う?」

「後ろも?そうだな…後ろは純正サイズで良いとして、前は225の45が良いともうよ。」

「…分かった。ありがとう。」

全てのブレーキ交換が終わったらいよいよ、ブレーキのエア抜きだ。

ブレーキを踏む係に愛華、フルードを抜く係に誇之、足りなくなったフルードを足す係に沙羅と分かれる。

「沙羅さん、フルードこぼしたら水かけてくださいね。」

もしフルードが鉄の部分にかかった状態で放置すると数日でその部分は錆びてしまう。

「じゃあ愛華さん踏んでー。」

本日最も根気と時間がいる作業が始まった。

 

全てのエア抜きを終え、最後にサイドブレーキの引きしろ調整をする。インテグラはサイドブレーキが効きにくい車なため、サイドブレーキを多用する競技に出る場合はちゃんと効くように調節しなければならない。

しかもそれだけではロックをする保証は無いため、ちゃんとメタルパッドを入れる必要がある。

「…よし、これでオーケー。それじゃあ試運転に行ってこようか。」

誇之を助手席に乗せ、愛華はインテグラを慎重に走らせた。ちなみにこのインテグラは乗車定員2名で登録されている。

「……暇だな。」

だから沙羅はお留守番である。

 

「良く止まるなぁ…インチアップと2ポット化は正解だったみたい。」

まだブレーキの”あたり”が出ていないため全開走行はできないが、一般公道を走っている時点でブレーキが明らかに効くようになっていることを感じた。

「一戦目は岡山だっけ。あそこはどっちかというとサーキットの色が強いよね。愛華さんは速いかもよ。」

「岡山は走ったことあるから大丈夫。」

「それなら安心だ。」

「卯月君は出ないの?」

「どうしようか迷ってる。もし出るならまたあのMR-S借りようかな~NSXじゃちょっとでかすぎるし。」

「卯月君が良かったらこれで出る?」

願ってもない申し出に誇之の眼がきらりと光った。

「ホント?これで出てもいいの?」

「うん、卯月君のFFの乗り方も参考にしたいし。」

愛華の知りうる限り誇之が一番前輪駆動の車の動かし方を知っている。いや、もっと言ってしまえば車の動かしたかを熟知しているからだ。

「あと一つ教えておきたいんだけどね、愛華さんヨコハマのスカラシップ取ったら?ウチのチームもヨコハマだし、問題は無いはずだよ。」

スカラシップに登録した場合、成績に応じてタイヤが無償で供給されたりする。勝てば勝つほどタイヤには困らなくなるのだ。そして愛華は今を時めく現役女子高生レーサーだ。貴重な宣伝になることは間違いない。

ただ初めにタイヤを買わなければならないのだが。いくら有名人でもそこは平等なのである。

「良いかも。それならモチベーションの維持ができるし。…あ、そういえばさ。」

愛華は先日の事を誇之に話した。

「また妙なこと思いつくね…。それたぶんアライメントのせいじゃないかな?ハンドルは真っすぐだったんでしょ?」

「…そう言えば引き取ってから一度も調整してないかも。」

「じゃ、きっとそれだ。狂った状態でフルブレーキングしたらそりゃ変な動きするって~。あとは…サスペンションメンバーかなぁ…昔のホンダ特有の弱点かも。」

そういわれて愛華は少しだけほっとした。

良かった…私の運転が下手なせいじゃなくて。

 

 

「沙羅さんただいま~。」

「岬、車の調子はどうだった?」

「いい感じです。これならもっとブレーキで突っ込めます。」

「それは良かったな…で、卯月は何をしている?」

沙羅はそそくさとインテグラをエレベーターに載せている誇之に問いかけた。

「何ってエンジンを降ろす準備ですよ。今日中にミッションだけでもやっちゃいたいんで。」

そう言って誇之は目にも止まらない速さでホースやハーネス類を外していく。

時刻はもう少しで昼になるころだった。今日は遠藤モータースにロータス・ヨーロッパはいない。

このまま放置すれば誇之は確実に昼食を抜くだろうと沙羅は予想した。

「はぁ…岬、食材買いに行くぞ。」

「はい。」

誇之に作業を任せて二人はスカイラインに乗り込んだ。

「どうだった?インテグラの感じは。」

「メタルパッドが慣れるまで時間かかりそうですけど、止まるという点ではかなり良くなりました。贅沢を言えばもう少しパワーが欲しいですね。」

「エンジンはアイツが何とかするだろう…。しかし凄いな、あっという間に一級品の車に仕上がるじゃないか。」

「……はい。」

自分の車のことであるのに、愛華の表情は少しだけうかなかった。

「三嶋先輩はGT-Rでジムカーナをしてたんですか?」

その質問で沙羅は愛華がなぜ浮かない表情をしているのか悟った。

「最初から乗りやすい車の乗るのは確かに抵抗があるだろうな。だがそれだからと言って、乗りにくい車に乗る必要はない。お前はもうその段階はとっくに過ぎてるだろう?」

沙羅が一番初めに四駆のGT-Rに乗ったことは良くも悪くも意味があった。それと同じく愛華もインプレッサで相当腕は磨いているはずだ。

「そう…なんでしょうか?」

「そうだ。もっと自信を持て。お前はもっと上手くなるし、早くなる。」

「先輩よりもですか?」

コイツ…と沙羅は憎まれ口をたたく後輩の頭に手を乗せた。

「それはそれで楽しみだが…、私は早いぞ?」

「それなら先輩も出てみませんか?…ジムカーナ。」

折角エンジン交換までしたのだ。それに沙羅のジムカーナの技術をじっくりと見てみたいのも事実。

「そうだな…出てみるか。インテグラだけじゃ荷物が入らないだろうからな。それはそうと岬、何が食べたい?」

「カレーが良いです。」

「カレーか…了解。」

どんなカレーが良いかとブツブツ呟く沙羅を見て、なんかお母さんみたいだなーと思う愛華だった」。

 

 

「二人ともお帰り~。」

「台所借りるぞ、すぐに作る。」

「分かりました~。それじゃあ愛華さん、ちょっと来て~」

誇之に呼ばれて作業場に行くと、完全に分解されたインテグラのトランスミッションがあった。

「ちょっと四速のシンクロが心配だからこれは交換かな。それと…これを使おうと思うんだけど。」

そう言って取り出したのは別のギア一式だった。ただ二速ギアがないことから愛華はすぐにピンと来た。

「クロスミッション?」

「うん、Vtecが使いやすくなるかなって。ただちょっと街乗りが面倒になるけど。…どうする?」

愛華としてはギアを上げた時の回転の落ち込みを感じていた。できればハイカムをずっと維持したいところだ。それを解決するためのクロスミッションであるならば願ってもないことだった。

「それでも速くなるなら…お願い。」

「うん、分かった。じゃあ、ちょっと手伝いよろしく。」

そう言って作業に戻ろうとする誇之を愛華が作業服を掴んで引き留めた。

「その前に、お昼ご飯。」

「…はい。」

そのままリビングへ誇之を連れていく。

「おぉ~いい匂い!先輩お得意のカレーですね。」

「岬のリクエストだ。」

煮込まずに焼いた野菜とチキンカレーが絶妙な彩で、実に食欲をそそる。

「沙羅さんコック目指したら良いのに。」

「料理は食えればいい。それだけだ。」

妙に大盛な皿を置いて、三人は昼食を取り始めた。

「卯月、ミッションはクロス化するのか?」

「ええ、そのつもりですけど。」

「クロスミッションを入れるとクラスが変わるが大丈夫か?」

「……へ?」

やれやれと言った様子で沙羅は首を横に振った。

「Nクラスは改造範囲が狭いんだ。やるならファイナル交換くらいが限界だろう。ただ、全日本を視野に入れるなら、問題はない。」

「そうでしたかぁ…。」

「全日本戦も興味あるし、私はクラスが変わっても大丈夫だよ?」

「そっか…じゃあそのまま続行で!」

基本的に食べている間も車の話をしているのが、この三人のスタンダードのようだ。

 

そして翌日。今日は大きな作業が二つ待っていた。

「一速のシンクロが減ってたから交換するのと、98のファイナルを間違えないでくださいね。」

「分かっている。岬、マーキングは終わったか?」

「はい、大丈夫です。」

かくギアに印を入れて間違えないようにしてから、早速沙羅と愛華はギアの組み立てを始めた。

「じゃあ、俺も始めましょうかね!」

二人がミッションを整備している隣で誇之はエンジンをいじり始めた。

エンジンというものは使っていくと燃焼しきれなかった燃料がカーボンとして蓄積し、最悪それが原因でエンジンが壊れる心配がある。

ボアアップや、カムの作動角を上げたりすることがチューニングではない。そのエンジンが持っている本来の力を維持してやることも大切なのだ。

「距離のわりに意外と綺麗なエンジンだな~。元のオーナーさんがちゃんとオイル管理してたのかな?」

こうして部品の一つ一つの状態を見ることで、その車の持主の性格等をうかがい知れる。そんなことも整備の醍醐味の一つだ。

分解した部品を一つずつ丁寧に洗っていく。

「排気量は増えたらアウトでしょ…じゃあやっぱりアレしかないかなぁ…。」

何かを思いついた誇之は自分の部品棚をあさり出した。

「確かここに…あったあった!よーし、これでまた面白くなるぞ。」

一人不敵な笑みを浮かべる誇之であった。

 

「よし、下ろすぞ。」

「はーい、ゆっくりゆっくり…入った!愛華さんお願い。」

「了解。」

クレーンで吊られたエンジンをゆっくりと降ろして、エンジンマウントの穴にぴったりと合わせる。

それをボルトで固定し、ハーネスを繋ぎ終わるとようやく作業の完了だ。

「それじゃあ例にもれず試運転に行こうか。沙羅さん、夕食にラーメン食べません?NSX運転して良いので。」

「分かった。」

と言うわけで愛華の運転するインテグラの助手席に誇之が乗り、誇之のNSXを沙羅の運転でテスト走行に行くことにした。

「卯月君、エンジン組んでるときやけに入念にチェックしてたけど何かしたの?」

「それは食後のお楽しみってことで。」

首都高速道路に入り、大黒PAで夕食をとる。

「沙羅さんどうでした?NSXに乗った感想は。」

「思った以上に足がしなやかに動くな。街乗りも気にならないレベルだ。」

「当たり前ですよ!ビルシュタインベースなんですから。」

ビルシュタインとはドイツに本社を置くサスペンションの老舗だ。ドイツの高速道路で鍛えられたその足は路面の凹凸をしなやかに吸収し、快適な運転を実現している。

誇之はその足に改良を加えて、車内から自由に減衰を変更できるようにしている。

「私の車はオーリンズだが、あれと同じくらい良かったぞ。」

「オーリンズも有名どころですよね。どちらかというと競技向けで。」

「そうだな。」

どちらも足回り部品の老舗で様々なノウハウを持っている。この二つの会社以外にもクスコやカヤバなど、様々な会社がある。自分の車はどのような場面をメインに使うのか、そして車がどんな動き方をしてほしいのか、それをかなえてくれるのがサスペンションというパーツだ。

「あれ車内から減衰が調節できるように改造してあるんです。だから突然競争になっても大丈夫ですよ。」

「ほう…そんな小細工をしてあったのか。」

「それはそうと愛華さん、車の感じはどうだった?」

ラーメンを乗せたトレイを置いて沙羅の隣に座った愛華は、どこか不思議そうな顔をしていた。

「卯月君、コンピュータいじった?」

愛華が言うには、変速しようとするときにクラッチを切ると普通回転数は下がる。

しかし、愛華の車はその下がり方が以上に小さい気がしたのだ。まるで電子スロットルの車に乗ったような感覚に近いと感じた。それに、レッドゾーンぎりぎりまで引っ張ると9000回転付近までパワーが付いてきたのだ。

これは誇之が何かしら細工をしたと思って間違いないであろう。

「実はね、コンロッドをEK9用の奴に変えてるんだ。そうすると回転出力が上がるんだ。」

もちろんそれには専用のピストンが必要だけどねと言う。

「私の時もそうだが、少々やりすぎな気がするんだが…。」

「そんなことないですよ。勝つためにはレギュレーションをどう解釈するかで大きく変わるんですから。」

まあ、それもそうかと二人は納得した。モータースポーツの世界は大雑把に言えば”バレなければOK”という風潮がある。ただし、バレた場合は相応のペナルティが課せられるわけだが。

「ガイアの時も疑われてましたよね。三嶋先輩の車にトラクションコントロールが付いてるんじゃないかって。」

沙羅の優勝が決定したあのレースの再車検にて、ほかのチームからそんな抗議が出たのだった。

オフィシャルが入念な検査を行ったが、沙羅の車にはそのような電子デバイスを設けた形跡は一切存在しなかった。

それも当然、あの運転は沙羅の技術のたまものなのだから。

だからと言って何もしないわけでは無い。やるからには勝てる車に仕上げる。それが誇之の信条だ。

「だから愛華さんは安心して走ってよ。」

「分かった。…大丈夫、卯月君は信頼してるから。」

「うん、こっちも愛華さんの腕は信じてるよ。」

誇之の満面の笑顔をまっすぐに受けて、愛華は赤くなる顔を隠すようにラーメンをすすり始めた。

「ふふ…。」

その二人の姿を沙羅は楽しそうに眺めるのであった。

 

 

 

 




ぼさっとしていたらNとSAクラスが消滅してました。地方では主流のBクラスがまさか全日本戦に採用されるとは…。
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