彼女のセブンMy Favorite Seven 作:skav
「ふふふふふ・・・ようやくお前に乗る日が来たぞEF8よ。随分待たせたな。」
マンションの駐車場で独り言を呟く誇之の姿があった。
排気量2Lのエンジンに載せ替え、軽量化も忘れない。
800キロ代の車体に、300馬力のエンジン。まさにモンスターだ。
きっちり改造申請もして車検も通したので胸を張って一般道を走ることができる。
「V-tec~V-tec~四気筒が吠ーえ渡る~♪」
よっぽど嬉しいのか妙な歌を口ずさみながら運転席に乗り込んだ。
「よし、行きますか!」
キーを差し込み、回すとセルが回る軽快な音が鳴る。そしてエンジンに火が入り、小さくうなりを上げた。
クラッチをつなぐとスムーズに走り出す。全くもたつきが無いのは車体の軽さのおかげだ。
真夜中の峠道はその手の車達であふれかえっているイメージだが、時間帯を選べば以外とそうでもなかったりする。
今回の目的は車の特性を知ることであり、ぶん回すことでなはい。何しろ今日初めて本格的に走り出したのだ。
ちなみに車検を通すために動かしたことはカウントに入っていない。
「それにしてもやっぱりいい音だな~人をやる気にさせる音ですわー。」
5000回転キープなのでカムは切り替わらないが、それでもスムーズな吹け上がりは体感できるようだ。
峠道を上って、下って十往復を繰り返して今日は帰ることにした。四十キロをキープして山を下っていく。どんなにきついコーナーでも速度は落とさない。アクセルだけで姿勢をコントロールできるくらいには、この車の特性を掴むことができたようだ。
「さーて、帰ったらアライメントとその他諸々の調整だ。ペダルも変えたいな~。」
そんなときに対向車線からたくさんのヘッドライトがちらついた。どうやら走りやさん達の時間が来たようだ。
Z33、R33GT-R、R33GT-R、S15、180SX・・・日産車の集まりのようである。その中で一台だけ目を引く車があった。
ぱっと見R34GT-Rの様だが、何かが違う。車高では無く、車体そのものが低いのだ。奇妙な一台とすれ違った後にその疑問は解決された。
あれはR32の車体にR34顔をくっつけた、いわゆるB324Rだった。とある有名チューナーがドリフト選手権に出場した際に有名になった一台。コーナーの曲がり方見た限り、きっちりFR化も施してあるようだった。
「面白そうな車だったなー・・・誰が乗ってるんだろ?」
サイドミラーで丸いテールランプを見送りながら、誇之は胸を躍らせた。
「青色で34の顔をした32GT-R?あー・・・確かにいたなそんな車。確かあの峠を牛耳ってるグループの一人だった。」
次の日、遠藤の元を訪ねた誇之は早速聞いてみた。遠藤も時々仲間と峠道を走ることがあるからだ。
「日産車ばかりでなかなか面白そうな集団でね。その中でも群を抜いて異質だったなーあの車。」
「まあそうだな。あのグループは日産車とゴールド免許ってのが入れる条件なんだ。そのほかにも規定のタイムを切らなくちゃいけないとか、派手な外装は禁止とか色々あるらしいぞ。」
「それじゃああのグループは選ばれた人たちって訳だね。他に知ってることは?」
「そうだな・・・ちょっと待ってろ。」
そう言って遠藤はノートパソコンを持ってきた。ネットにつなげてあるホームページを開く。
「月に一度ちょっとした交流会を開いてるみたいでな。興味あるなら行ってみたらどうだ?」
「再来週の土曜日ね・・・オーケー。じゃあ、行ってみようかな。」
「だったら俺も乗せてけよ、CR-X完成したんだろ?」
「ダーメ、隣には誰も乗せないって決めてるの。行くならおじさんのヨーロッパで行きなよ。」
遠藤の愛車はロータスヨーロッパだ。とある漫画でスーパーカーブームを引き起こした立役者でもある。
「分かったよ・・・ったく、なんでそこまで頑固なんだか。あー・・・そうだ、お前ジムカーナに興味あるか?来週ちょっとした体験会があるんだけど。まあ、お遊び程度なんだが。」
「ジムカーナ・・・うん、行く。面白そうだし。」
「メットとグローブは貸してやるから安心しろ。後は長袖長ズボンだからな、忘れるなよ。」
場所はとあるカート場を貸し切って使われるらしい。誇之自身ジムカーナは初めてだった。今の車をどこまでコントロールできるか、とても楽しみだった。
そして早々と一週間が過ぎ、当日である。
時間通りにパドックに駐車する荷台。
「へー・・・こんなところでやるんだー。」
サーキットと言うよりは広い駐車場の様な場所で、いくつものパイロンが設置されている。
「よお遠藤、久しぶりだな。ヨーロッパの調子はどうだ?」
「久しぶりだな佐藤。相変わらず冷や冷やしながら整備してるよ。ほら、コイツが誇之だ。」
「こんにちは、卯月誇之です。今日はお招き頂ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げる誇之をみた佐藤と名乗る男は、驚いた様な表情を見せた。
「お、おう・・・なんだ。見た目の割に日本語ぺらぺらなんだな。俺は佐藤陽一、よろしく。」
「こらガキ、猫かぶってんだろ?」
「いーじゃないですかー・・・それよりも、ここのコースはどんな感じなんですか?」
「あとで練習走行があるからそのときに覚えてくれ。それで、車はあのちっこいのか?」
そう言って佐藤は誇之の車を指さした。
「ちっこいですけど、きびきび走りますよ!」最高出力は280馬力、その気になれば一万回転は軽く回るんですからね。」
そう言って誇之はボンネットを開けて、自慢のエンジンの見せる。
「なんだこりゃ、2リッターじゃねーか。車検通ったのか?てゆーか誰がやったんだ?」
「僕ですよ。もちろんちゃーんと申請も通して車検もばっちり!」
胸を張って答える誇之を佐藤は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
「あー・・・こいつガキの頃からずっと車いじってたんだ。かれこれ十年以上。そこら辺のヤツよりも知識も腕もあるんだ。」
「そ・・・そうか。ま、まあ今日一日楽しんでいってくれ。」
佐藤の背中を見送り、誇之は車の中に入っている工具やタイヤを外に出していく。
いよいよジムカーナだ、楽しみだな~。どんなレイアウトなんだろうな。でもこういう低速でちょこちょこ走り回るのは初めてだったりするんだよなー。ニュル北だったら目と閉じても走れるんだけどな~後はアウトバーン300オーバーとか。
そんなことを考えながら、誇之はタイヤをスポーツタイヤに付け替えていた。今の心境は運動靴に履き替えて、外を走り回ろうとする気分に近かった。
練習走行時間の割り当てはこうだ。前半は実際にコースを歩いて、レイアウトを確認。後半から順々に走り出す。といった感じだ。
今回のレイアウトは比較的シンプルながら、大回りと小回り、180度ターンや、360度ターンも含んだテクニカルなものだった。
前輪駆動の誇之の車はアクセルを踏んでタイヤを空転させる、いわゆるアクセルターンがしずらい。
クイックに曲がったり、回ったりするためにはサイドブレーキが必須だ。
前の車がスタートして、いよいよ次は自分の番である。
「課題はサイドのタイミングかなー。」
順番を待っている間は何度も最適なタイミングをイメージしていた。あとは実践あるのみである。
「どうだった?練習走行の感触は。」
「面白いですねジムカーナって。アウトバーンより楽しいかも。」
「そ、そうか・・・それはなによりだ。」
お昼休憩を挟んで、いよいよ午後は希望者参加のタイム計測だ。
「タイムってどんなくらいがターゲットですか?」
「そうだな・・・一分10秒切ったら早い部類だな。」
「じゃあ今日の目標は一分一桁で。」
「おー・・・がんばれよ。俺は無理せず三十秒台でいいや。」
そんな会話をしているあたり、実に緩い雰囲気であった。
そして、待ちに待ったタイム計測の時間である。参加台数は10台、ウチ2台は主催者なので実質希望したのは8台だけであった。
「みんなもったいないなー・・・まあ、見てる方も楽しいけどさ~。」
そんな独り言を言いながらにやける顔を押さえきれない誇之。今日初めて限界までエンジンを回すのだ。
楽しくないはずが無い。目の前のコースでは白いロータスヨーロッパがゆっくりとパイロンを通過していた。
そして車の前に旗が掲げられる。もうすぐスタートをする合図だ。アクセルを踏み回転を上げる。あとは左足を離すだけ。
旗が振られた。コースインの合図だ。クラッチをつないで加速。
最初はスラロームだ。一速のままでパイロンをジグザグに通過していく。ここで大切なのはアクセルとハンドルを切るリズムだ。テンポ良くリズムに乗る。
パイロンを抜けたら大きく円を描いて次のパイロンへ向かう。フルスロットル、一速から二速へ。横の遠心力を残したままフルブレーキ。
あーしまった・・・ちょっと早かったかな。まだ奥まで踏めるなんて・・・どんだけ軽いんだろうこの車。
サイドブレーキを引き、パイロンをぐるっと一周する。そしてまた次のパイロンを一周半。ここから次のパイロンへ向かう距離がポイントの一つだ。
一速で引っ張るとレブリミットにあたってしまう。しかし、二速に入れるほどの距離でも無い。だが、誇之CR-Xのリミットは9000回転。レブリミットまだ吹け上がる前にブレーキが踏めてしまう。
最後に小さく回り込むコーナーを細かくサイドブレーキを引きながらクリアしてゴール。
「ふい~・・・終わったー。」
タイムは一分9秒876。一応の目標達成だ。
「お、目標切ったな。この調子で2本目も狙ってけよ。」
ジムカーナは二本走って良い方のタイムが正式タイムになる。誇之の感触ではまだまだタイムが縮めそうだった。
しかし、2本目はブレーキを我慢しすぎて1本目よりもタイムが遅くなってしまったのであった。
うーん悔しいな~・・・でも楽しいなジムカーナ。車とたくさん会話ができるし。
やっぱりクラッチペダル長すぎかな。もっと短いストロークで良いかも。それにエンジンもまだまだ吹けそうだし。
「君、ちょっと良いかな?」
自分の車のエンジンを眺めていたら、HONDAのロゴが入ったシャツを着た女性に呼び止められた。サングラス越しにでも分かるくらいの美女だが、誇之は全く顔色を変えるそぶりを見せなかった。むしろその隣にいる遠藤の方がそわそわしていた。
「なんでしょうか?」
「珍しい車に乗ってる男の子がいるからつい声をかけてしまったよ。私は本田美春(ほんだみか)。VOCって言うクラブの会長をしている。」
VOC正式名称Vtec Owner's Clubは大規模なホンダ車オーナーのクラブだ。
「勧誘はお断りですよ?俺は好き勝手に車いじって運転するのが好きなんですから。」
「別に勧誘目的じゃ無いよ。まあ、ちょっと残念でもあるけどね。その車、個人的に興味があるんだ。」
「エンジンが違うからですか?」
「いや、そんな些細な事じゃ無くてもっと大きなところ・・・。ねえ、このモノコック何でできているのかな?」
なぜそんなことを聞くのか不思議だったが、誇之は素直に答えた。
「確かアルミだったはずです。」
「そうか・・・やっぱり。ありがとう。、今日はそれだけ分かれば良い。ところで連絡先教えてくれるかな?後でゆっくり話がしたいんだ。」
「別に構いませんよ。」
誇之はポケットから取り出したメモ用紙に連絡先を書いて渡した。
「ありがとう。私が何でそんなことを聞いたのか知りたかったら、NSXの事について調べると良い。アレを仕上げた君ならすぎぐに分かるはずだから。」
そう言って本田美春は去って行った。
「おいおい、なんだよガキのくせにあんな綺麗なおねーさんにナンパされやがって!」
悔しさが顔ににじみ出ている遠藤が、誇之をヘッドロックする。
「痛いよおじさん!別に連絡先交換するくらい普通でしょ!?」
「うるせー!このイケメンが!お前にアラサー童貞の気持ちが分かるか!!」
完全に遠藤の個人的な僻みだった。
NSXの特徴と言えばオールアルミ製のモノコックでしょうね。それを開発するべく、まずはCR-Xのモノコックをアルミ製にしたものを三台試作しました。この三台の行く末は不明です。もっと言えばEF8だったのかも分かりませんが・・・。
それならば物語だけでも登場させたい。と思って主人公の愛車にしました。
自分がCR-Xに出会ったのはホンダコレクションホールの展示走行の時です。
あの時の衝撃は良く覚えてます。
一緒NSXが走ってたのを、後でカメラを見返した時に気がついたほどですから。