彼女のセブンMy Favorite Seven   作:skav

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ストレート6のバトル

「おじさん、おじさん。なんで俺の車のモノコックがおかしいって教えてくれなかったのさ。」

「仕方ねーだろ。おれだって知らなかったんだよ!それにな、俺は専門はイギリス車だ!」

自分のCR-Xが普通の車では無いことを知った誇之は、その出所を調べるべく遠藤に詰め寄っていた。

「とりあえずあの車を持ち込んだ人に合わせてよ。」

「あー・・・それなんだけどな。その人は普段忙しくて滅多に休みが取れないらしいんだ。」

「なんでそんな人と知り合いなのさ!そもそも誰なの?」

「それは言えねーな。自分で調べるんだな。」

珍しく立場が上で嬉しいのか、遠藤はにやにや自分の車の整備を始めた。

今週は例の交流会があり、結局遠藤もマイカーで参加するつもりらしい。誇之としては324Rのドライバーに会えればそれで良いので特に準備はしない。

「おじさんもそろそろ彼女作ったら?大体理想ってゆーか、要求が特殊すぎるんじゃ無いの?ただでさえヨーロッパSって少ないのに。」

ロータスヨーロッパSに乗る女性が、遠藤の掲げる条件である。ちなみにヨーロッパSの生産台数は500台にも満たない。

「うるせーよ、お前にあの組み合わせのすばらしさが分かってたまるか。」

「分からないわけじゃ無いよ。ただ一途だなーって。・・・ふっ。」

「てめー今鼻で笑ったな?分かったよ、絶対に見つけてやるからな!」

変に気を張る遠藤を横目に、誇之は自分の車に触れる。そうすることで、この車の奇妙な生い立ちを実感できるような気がした。

 

「予想以上に集まってるんだね。」

「そうだな・・・ちらほら外車もいるから少し気が楽だ。」

そんな話をしていると、ギャラリーが割れ、その間から続々と日産のスポーツカーが現れた。主役の登場だ。

白い日産GT-Rから一人の男が出てきた。ギャラリーの反応からその人物がリーダーだと容易に検討がついた。

「皆さん、ようこそいらっしゃいました。私が主査社の西田です。今日は存分に楽しんでいって下さい。」

白髪交じりでお世辞にも若いとは言えないが、動きの一つ一つに品があり、とても走り屋のトップとは思えなかった。

「おじさん、本当にあの人がトップ?何だかどっかの社長って言った方がしっくりくるんだけど。」

「まあ、実際あのおっさんはそんなに早くないしな。みんなのまとめ役的なポジションなんだよ。で、実際に走るのは・・・。」

「おい、クソジジイ!今日こそは認めてもらうからな!」

突然大声がギャラリーの中から聞こえてきた。あまりの声の大きさに、西田も顔をしかめる。

「こら君、折角の交流会に野暮だとは思わないのかね?」

「うるせえ!良いからさっさと車に乗れ!そして、俺の走りをその見下したような目玉に焼き付けろ!」

「うわぁ・・・なんかめんどくさそうな人が来た・・・。」

思わず誇之も眉をひそめてしまった。それほどその男は、嫌悪感をまき散らしていた。

「困りましたね・・・今日は競争をするつもりは無いのですが・・・。」

「でしたら私が行きます。リーダーはそのままどうぞ。」

全く慌てるそぶりを見せない西田の横にいつの間にか一人の女が立っていた。

赤に近い茶髪のショートヘアに、鋭い目尻・・・GT-R。よし、赤毛のアールと呼ぼう。

誇之はその顔を見てとっさに気がついた。

「あの人・・・324Rのドライバーだ。ふふふ・・・これはラッキーかも。」

誇之は車の中からある機材を用意し始めた。

「何だよお前、俺はそっちのジジイに用があるんだよ!引っ込んでろ!」

「ふん・・・貴様はリーダーの横に並んでいるだけでも汚らわしい。今すぐここを立ち去るか、私と勝負して尻尾巻いて逃げるか選ぶんだな。」

「上等だ、てめえの方こそ今すぐ泣かしてやるよ!」

「全く・・・仕方ありませんね。・・・もしもし、はい。そうです・・・いつも通り封鎖お願いします。」

西田は携帯電話で何か話をしてから、ギャラリーに声をかけた。

「これより、峠レースを開始します。一時的に道路を封鎖しますので、ご配慮のほどよろしくお願いいたします。」

「マジで道路封鎖したのかよ・・・一体何者なんだ?・・・って、ガキは何やってるんだよ。」

誇之はなにやらポールを立てて、そこに白いスクリーンを張っていた。いつの間にか、遠藤のヨーロッパの屋根にプロジェクターも設置済みだった。

「さあさあ、ここで勝敗を待っているのも退屈でしょうから、これで最高の映像をお送りしますよ!」

そう言って、誇之はスクリーンに映像を投影した。そこにはコースの地図に青と赤の矢印が点滅している映像と、車の車載映像が映っていた。

「それじゃあおじさん解説はよろしくね。カメラカーは任せて!」

「あ、ちょっと待てよ!」

遠藤にピンマイクを手渡して、誇之はさっさと自分の車に乗り込んでしまった。

「まさか一緒に走れる機会が来るなんて、俺ってばラッキーだな~。」

そう言って誇之はイグニッションキーを回した。四気筒エンジンが勢いよく雄叫びを上げる。

ちらっと西田を見ると、誇之の意図を察したらしく柔らかく微笑んでいた。それに対して誇之はサムズアップで返した。

一般道を完全に封鎖して行われるこのレース。コースレイアウトはカーキット形式の一周勝負。

よーいどんで先にゴールした方が勝ち。実に単純なルールである。

青いスカイラインと赤いスープラがスタートラインに並び、その後ろに誇之のCR-Xが着く。

「さてさて、ニュル以来の全開走行だねー。着いてけるかな~心配だな~。」

余裕の笑顔で、全く心配するそぶりも無くステアリングを握る誇之。その前で二台のスポーツカーが唸りを上げる。スタート前だと言うのに完全に臨戦態勢だ。

スターターがカウント5秒前を告げて、指で合図を送る。

「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・GO!」

ホイールスピンをさせながら、強引にトップに出たのはスープラ。対するスカイラインは様子を見るように一歩引いた形で後につく。

大きいカーブを曲がって、すぐにややきついコーナーにさしかかる。五速まで加速していた二台は減速に入る。スープラは二速、スカイラインは三速までギアを落とす。誇之も一歩引いたまま早めにブレーキを踏んだ。

「いやー軽いなーうん。これ、どんだけ奥にいけるんだろうなー。」

結構距離を開けたつもりだったのだが、みるみる丸いテールランプが迫ってきた。しょうが無いので、さらにブレーキを踏んで車間距離を開ける。

コーナーを立ち上がりスカイラインはトラクションを生かして加速・・・をする様子は無かった。どうやら完全にFR仕様のようだ。

その分軽くなっているのか、旋回性能は抜群に良い。対するスープラは馬力の良さを生かしてストレートで離すタイプのようだ。直線番長のスープラとコーナーリングのスカイライン。なかなか興味深いレースだ。

上りながらのS字を抜けるとトンネルがある。そのトンネルの先が一つのポイントだ。先の見えない急斜面を上った後には曲がりながら下る坂が待っている馬力の差か、二台の距離が上り坂で離れる。前を走るスープラはアクセルを抜いて、ブレーキランプを灯した。凹凸の少ない真ん中を走るようにコーナーをクリアした。対するスカイラインは少しアクセルを緩めるが、ブレーキランプはつかなかった。つまりはノーブレーキ。まるでサーキットを走るような忠実なアウトインアウトのラインを通る。柔らかめのサスペンションは、路面の凹凸を完全に吸収する。岩の壁に車体をこするようにして最短距離をクリアした。

「度胸あるな~あのスカイライン。じゃ、俺も!」

誇之のCR-Xは坂の頂点をジャンプ台にして飛び上がった。若干横を向きながら車は着地、グリップの抜けたリアタイヤが流れ始める。この瞬間誇之の車は完全に岩壁の方を向いていた。しかし、前輪駆動の特性を生かし、そのままアクセルを踏みっぱなしでコーナーを”かっ飛んで”行った。

「やっぱりこういう舗装の荒い道路も楽しいな~。」

緩い左コーナーの先は一気に下る急な坂、そしてヘアピンカーブだ。

緩いカーブをカタパルトのようにしてスカイラインは一気にスープラのイン側に並ぶ。どうやらここで仕掛けるようだ。頭に血が上っていくようなマイナスGを感じながら二台はエアピンへ突っ込む。先にブレーキをかけたのはスカイライン。六速から二速へ一気に減速。ヒール&トゥの怒号が山に響き渡る。

それを強引にかぶせるようにスープラがイン側へ寄せるが、ここで痛恨のアンダーステアが出てしまう。どうやら突っ込みすぎたようだった。スープラは大きく膨らみ、スカイラインはイン側を舐めるように通過する。

ヘアピンの次は鈴鹿サーキットのデグナーを彷彿とさせる二連続左カーブだ。地元の走り屋はここを逆デグナーと呼んでいる。そこでスカイラインは完全に前に出た。

そこから先はヘアピン、起伏の激しいS字、直角コーナー、高速コーナーと、スカイラインに有利な区間が続く。

最終的にフィニッシュラインを過ぎる頃には5秒の差が開いていた。スカイラインの完勝だった。

「は~楽しかった。あ、おじさんお疲れ様。どうだった?解説は。」

「おかげで変な自信がついたよ・・・。それにしてもお前、ちらほらあの二台よりも早い区間があったぞ?特に急に下るS字は1秒も早かったな。」

「そう、確かにあのコーナーは楽しかった!いつか隣に乗せてあげるよ。」

「やめてくれ、失神する。」

「なんだー残念。」

後片付けをする二人の後ろに、あのスカイラインのドライバーが現れた。

「君がこのCR-Xのドライバーか?」

「はい、そうです。あ、ぶっちぎりの完勝おめでとうございます。」

「そんなことはどうでも良い。いつでも構わない、私と勝負してくれ。今日のレースでお前は相当な技量と度胸があると分かった。私はそんなドライバーと勝負がしてみたい・・・こんな気持ちになるのは初めてだ!」

突然の熱烈お誘いである。ただし、峠レースの。

なんだろう・・・全然ときめかないや。

「別に良―」

「なら一ヶ月後の交流会でやろう。今回は一周だけだったが、ちゃんと準備をするから何周でもいけるぞ。」

最後まで言わせてよ・・・。まあ良いか。

一ヶ月後ね・・・それならいろいろと手を入れる時間が取れるな。それにしてもこの人若いなー何歳なんだろ?

「丁度今年で二十歳だ。そう言うお前はもっと若いだろう?」

「18になりました・・・。」

「そうか、では私は失礼する。一ヶ月後だ、忘れるなよ。」

そう言って赤毛のアールは人混みの中へ消えていった。

「おいガキ!てめーまた美女とお近づきになられやがったな!?このこのこの・・・!」

「いててててて!止めてよおじさん、俺何も悪くないよ?」

再び個人的な嫉妬でヘッドロックをされる誇之であった。

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