彼女のセブンMy Favorite Seven   作:skav

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幽霊退治

「ねえねえ、おじさん。どうしてそんなにそわそわしてるのさ?」

普段誇之が平日に帰ってくるのは珍しい。久しぶりに彼の作った夕食を食べながら、誇之は遠藤の様子がおかしいことを指摘した。

「ここだけの話なんだがな・・・、近々面白い依頼があるんだ。」

「面白い依頼?」

「ああ、ポルシェの車体に別のポルシェのエンジン換装と、ミウラのレストアだ。」

「えっと・・・それだけ?」

エンジンを載せ替えるだけなら、特に面白いことは無いはず。それにレストアもコレと言って特別では無い。しかし遠藤はいつになく気分が高揚した様子だった。

「なんとポルシェの依頼主はあの白鳥桜だ!お前も名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「うん、まあ一応は。顔は思い出せないけど。それがどうしてここに?しかもエンジン換装なんて。」

「十年以上あっちでポルシェをいじってたからな。腕よ、う・で。」

少々納得できない誇之だったが、遠藤の腕は良いのも確かだった。人脈もある彼の事だから、どこかから噂が流れたのだろう。

「ふーん、まあ、頑張って。で、ミウラの方は?」

「そっちは知らん名前だったな。だが、かなり若い娘だったのは確かだ。そっちはガキがたのむ。」

遠藤はポルシェの方に夢中のようだった。腕は良いのだが、少々視野が狭くなるのが彼の悪いところでもある。

「別に良いけどさー。あ、それと今日先輩とH山へ幽霊退治に行ってくるから。」

「H山・・・ああ、あの青い幽霊のことだな。珍しく帰って来たのはそのためか。別に構わねーよ、翌朝棺桶で帰ってこなければ。」

「そうなったら化けてでてやる・・・!一生独身の呪いをかけてやる~。」

あまり笑えない冗談を、さらにブラックジョークで返す誇之だった。

 

日付が変わる夜十一時、見慣れた青いスカイラインがファミレスの駐車場に止まった。

車から降りて、店内に入り、誇之の顔を確認して彼のいるテーブルに向かう。

「凄いですね、0分ジャストですよ。」

「お褒めに預かり光栄だ。」

「光栄ついでに、何か飲み物はいかがでしょうか?」

「気にするな、水で構わない。」

メニューを開こうとする誇之を制止して、沙羅はセルフサービスの水を取ってきた。

「あれから少し情報を集めてみました。sawaken塾の連中は一度このレストランに集合してからH山へ行くそうです。幽霊は山の方のパーキングエリアで合流するそみたいですよ。」

「そうか、ならば彼らが来るまでコーヒーでも飲みながら待つとしようか。」

「・・・・・・結局頼むんじゃないですか。」

 

2杯目をたのむかどうか迷っている間に、空気を低く震わせる音が駐車場から聞こえてきた。

「ランサーエボリューション、シルビア、シビックですね。あと2台ほど来るはずです。」

「ようやく来たみたいだ。」

車から降りた三人は、誇之と沙羅の車を一瞥してから店内に入る。そのまま禁煙席の窓際を陣取った。

丁度誇之達の一つとなりのテーブルだった。

「さて、どうします?」

「そうだな・・・とりあえず2杯目を頼もうか。」

静かな店内に呼び出しのブザーがやけに大きく響いた様な気がした。

遅れてロードスター二台が到着し、三人は店内を出て行った。遅れてきた二人と少し話をしてから、ランサーを先頭に駐車場を出て行った。

「私たちも行くぞ。ここは私が奢ってやる。・・・これから頑張る後輩のためにな。」

「そう言われたら断れじゃないですか。あーあー、もう頑張るしか無いですね。」

会計を済ませ、愛車に乗り込む。興奮する気持ちを抑えて、誇之はキーを差し込んだ。

 

H山麓のパーキングエリア。そこには先ほどみた五台の車が駐まっていた。二人はその五台の反対側の駐車場に車を止める。

「こんばんは。」

「あんたら・・・さっきの二人か。」

どうやらランサーに乗る一番年配のこの男がグループのリーダーのようだ。

「初めまして、卯月誇之と言います。」

「・・・三嶋沙羅。」

「俺は・・・まあ、いいか。sawaken塾、この集団のまとめ役みたいなもんだ。塾長とでも呼んでくれ。それであんたらは何の用だ?」

「ええ、幽霊退治に来ました。」

誇之の言葉に、塾長は「はあ・・・」とため息をついた。

「大方噂を聞いてきたんだろうな。ま、こちとら引き留める理由なんざねーよ。」

「それで、肝心の幽霊さんはどちらに?」

「もうそろそろ来るはずだ。・・・それにしても坊主。その車、注意した方が良いぞ。」

「と、言いますと?」

「”彼女”はな、CR-Xを探し回ってるんだよ。毎晩毎晩目当ての車を探しながらバトルをして気がつけば144勝だ。」

なぜ彼女がCR-Xを探しているのか理由は定かでは無い。だが目当ての車が見つかったとき、彼女はどんな反応を見せるのか。

それが一番心配なことだと、塾長は言った。

「できればそっちのスカイラインの嬢ちゃんが走って欲しいんだがね。」

「私は、走りません。」

「・・・・・・そうか。」

その時、タイヤと路面が擦れる癇高い音が山に響いた。ソレと共に聞こえてくるのはボクサーサウンド。6気筒では無い、4気筒だ。

「・・・来た!」

「もうどうなっても知らん。」

暗闇から涙目形のヘッドライトが現れる。青いボディのGDB型インプレッサ。間違いなく青い幽霊(ブルーゴースト)だった。

インプレッサはランサーの隣に車を駐め、エンジンを止めた。

しかし、一向に車から降りてく気配が無かった。様子がおかしいことに気がついた塾長がインプレッサの元に駆け寄る。

しばらく話をしてから、塾長だけが誇之の元に来る。

「スタート位置に付いてくれ。」

それだけ言い残し、塾長はもう一度インプレッサのところへ向かった。

「どういうことだ卯月?」

「よく分からないですけど、こっちも準備しますよ。」

「ああ、後ろから見てるからな卯月。もちろん一番だ。それ以外は認めない。」

沙羅にサムズアップをしてから、片目を閉じて見せた。妙に様になっていたのはその容姿故だろう。

誇之は運転席に乗り、一度深呼吸をする。

「最後のレース・・・よし、行こう。」

キーを刺し、回す。セルが軽快回る。エンジンに火が入る。獣の呼吸ような吸気音。低い唸り声。

「水温、油温、問題なし・・・アイドル、ばっちり安定。」

ゆっくりとスタートラインに車を並べる。ちらりと横の車を見るが、人の姿が無いように見えた。

だが、確かにそこにはドライバーがいる。

「ここから山頂まで行って折り返し、ゴールはここだ。」

「了解です。」

sawaken塾のメンバーの一人が、そう説明して二台の前に立つ。

「よし、始めるぞ。スタート5秒前!」

指が一本ずつ折らていく。

 

カウントゼロ

 

4っつのピストンから発生した動力が円運動に変換され、クラッチ、変速機、と伝達され最後にタイヤが路面へと駆動力を叩きつける。

一千、二千と回転数が上昇し、六千回転付近でインプレッサがクラッチを切り二速に入れた。その瞬間僅かながら減速し、CR-Xが前に出る。

彼の車のレッドゾーンは一万三千回転。実にインプレッサの二倍だった。

「よし、前取った!」

軽い車体と、異次元のような回転数を使い、CR-Xが先頭を取った。

 

「卯月・・・また何かをしたのか?」

二台から少し距離を置いて沙羅は彼の車から発せられる方向が尋常では無いことを感じ取った。

自分が走ったときよりも数段高い限界で発している。登りはまだ良い、少しミスをしても誤魔化しは効く。

しかい下りは話が違う。一歩間違えれば、車は棺桶に変貌する恐れがある。

「これは・・・危険かもしれない。」

沙羅はより一層二台の動きに注意を払うことにした。

 

二台はぴったりと縦に並び、真夜中の峠道を突き進む。どちらが仕掛けるわけでも泣く、不気味な膠着状態が続く。

しかし誇之は後ろの車から様々な感情が伝わってきた。

喜び、怒り、楽しさ、悲しさ、まさに喜怒哀楽。全ての感情が伝わってきた。

「やっぱり・・・幽霊の正体は、君だったんだ。」

誇之の脳裏に小柄で、無表情の女子生徒の姿が浮かび上がった。

「まさか、こんなところで再会するなんてね。じゃあ、なおさら引き下がれないかな!」

全く言葉を交わしていないが、これだけははっきりと分かる。

 

勝負は、下り区間。

 

深夜の峠道に、三台の咆哮が響く。

 

 

 

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