You Are There   作:地球の星

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Quest.10 体の傷と心の傷

 リレミトを唱えてアークボルトの医務室から逃げ出したリベラとバーバラは、夢の世界のライフコッドにやってきた。

 現地ではランドがターニアとデートしようと、積極的にアプローチをかけていた。

 彼女がどうしようか迷っていると、ふとリベラとバーバラがいることに気が付いた。

「あら、お帰りなさい。」

 彼らに会えたことで、最初は喜んでいたターニアだったが、その2人の様子がおかしいことに気づいた。

「どうしたの?何だか暗いけれど。」

「ターニア。僕達、もうおしまいだ…。」

「あたし達、もう耐えられない…。」

 うつむき、泣きそうな表情の彼らを見て、ターニアはいてもたってもいられなくなった。

「ランド、ごめんなさい。私、今からお兄ちゃんとバーバラさんの面倒を見ることにするわ。」

「ええっ?彼らの方が大事なのかよ!」

「こんな姿を見たら、放ってはおけないわ。」

「チェッ!何だよ、わざわざ予定をあけておいたのに!」

 ランドは捨て台詞のようなことを言うと、悔しそうにその場から走り去っていった。

「お兄ちゃん、バーバラさん。本当にどうしたの?とにかく私の家に行きましょう。何か悩みでもあるのなら、聞いてあげるわよ。」

「ありがとう…。」

 リベラは懸命に気持ちをこらえながら答えた。

 そして3人はターニアの家の中に入っていった。

 

 ターニアから飲み物を提供されると、リベラは左手で、バーバラは両手でコップを持ち、ゴクゴクと飲んでいった。

 そして少しは気持ちを落ちつけた後、まずリベラがアークボルトの医務室で医師から告げられたことを話した。

 

『うー-ん、これは重症ですね。右肩がここまで悪化しては、もはや手術をするしかないでしょう。』

『手術…ですか…?』

『そうです。このような状態になってしまった以上、もはや塗り薬はおろか、呪文でも治せません。もしそれを断れば、君は武器を持って戦うどころか、日常生活もままならなくなってしまいますから、もうパーティーメンバーに戻れませんよ。』

『そんな…。あの、手術をしなくてすむ方法は無いんでしょうか?』

『ありません。』

『……。』

 医師から信じたくない事実を突きつけられ、彼は言葉を失ってしまった。

『あの、手術をしたら、治るまでどれくらいかかるんでしょうか?』

 隣のベッドにいるバーバラは、リベラにとって代わるように問いかけた。

『日常生活を問題なく送るには2ヵ月。もし通常攻撃が出来る状態にまで治すのであれば、3ヵ月かかるでしょう。その間、戦闘はあきらめてください。』

『3ヵ月も…。うそだ…。そんなに待てない…。』

 ますます絶望の底に突き落とされるような言葉をかけられ、リベラの目からはとうとう涙があふれだした。

 

「そう…。大変なことになってしまったのね。」

「うん…。今まで頑張ってきたことが、よりによってこんな結果を招くなんて…。」

 リベラが悔しそうに言うと、会話を聞いていたバーバラがビクッと反応した。

「あっ、ごめん。君に言ってはいけない言葉を言ってしまったね。」

「だ、大丈夫…。」

 彼女は動揺しながらも、何とか自分を落ち着かせた。

「バーバラさんはどういう診断結果だったの?」

「あたし…、過呼吸になってしまったの…。」

「過呼吸?」

「うん…。」

 バーバラの話によると、彼女はパーティーメンバーに加わった時からHPや攻撃力が低いことに加え、頼みの呪文も火力不足で、ラリホー頼みとなっていた。

 そんな苦しい状況を打破しようと、転職でメラミとホイミを覚えた後、何としても魔法使いとして熟練度を上げていき、強力な攻撃魔法を覚えて戦力になろうと意気込んでいた。

 しかしただでさえ低いHPがさらに下がってしまい、ますます打たれ弱くなってしまったため、今まで以上にみんなの足を引っ張る結果になってしまった。

 そして戦力になれないことがストレスになり、とうとう過呼吸を発症するようになってしまった。

「あたし、この言葉が怖いの。これまで精一杯努力してきたのに、それでもさらにこんな言葉を言われ続けて…。あたし、もうこの言葉に耐えられない…。」

 彼女は過呼吸を発症する前から戦闘になると足が震え、何度も逃げ出したくなったことも打ち明けた。

「でもあたし、逃げたって他に行くところもないから、何としてもこのパーティーで役に立たなきゃって思っていたの…。だけど、もう限界なの…。」

 ターニアはバーバラがどれだけつらい思いをしてきたのかを理解した。

「そう。お兄ちゃんは右肩に、バーバラさんは心に大きな傷を負ってしまったのね。」

リベラ「うん…。」

 彼らの話を聞いて、ターニアも思わず涙ぐみそうになった。

「2人とも、話してくれてありがとう。しばらくここに泊っていくといいわ。そして戦いのことも忘れて、ゆっくりと療養していってね。」

バーバラ「ありがとう。でも…。」

「でも、何?」

「みんながここに来たらどうしよう…。」

「そこは私が何とかするわ。だから、安心して。」

「本当に?」

「ええ。」

「じゃあ、早速ベッドで休ませてもらってもいい?」

「いいわよ。」

 ターニアの了解を得ると、バーバラは一緒に寝室に行き、ベッドに横になった。

 そしてターニアが部屋から出ていった後、たちまち眠りに落ちていってしまった。

 

 寝室から出ていった後、彼女は薬草で作った塗り薬を持ってリベラのところに戻ってきた。

「さあ、お兄ちゃん。今からこれを塗ってあげるから、肩を見せて。」

「そんなことをしたって、治るわけではないけれど…。」

「何もしないよりはいいと思うわ。さあ。」

「分かった…。」

 リベラが上半身の服を脱ぎ始めると、右腕を動かす度に痛みが走り、その度に顔をゆがませた。

 そして患部である右肩は大きくはれ上がっており、真っ赤になっていた。

「これはかなりひどい状態ね。確かに薬で治せるものではないわね。」

「うん…。」

 ターニアは無駄だと分かっていても、薬を塗り、ガーゼを当ててその上に包帯を巻いてくれた。

「ありがとう。」

 リベラはお礼を言うと、痛みをこらえながら服を着た。

「それで、これからどうするの?」

「…分からない。これからのことなんて、とても考えられない。みんなきっと怒っていると思うし、3ヵ月も戦力になれないって知ったら、戦力外になってしまう気がするから…。」

「みんななら、きっと待ってくれると思うけれど。」

「本当にそんなに待ってくれるのかな…。」

 リベラは未だ出口の見えないトンネルの中をさまよい続けている心境だった。

 そして気持ちが晴れないまま、2人はこの家で過ごすことにした。

 

 その日の夕方。ターニアが夕食の準備を始めようとしていた時にハッサン、チャモロ、アモスがやってきた。

ハッサン「よお、リベラとバーバラはいるか?」

「いたらどうするつもりなの?」

「決まっているだろう。失踪したことをこっぴどく叱った上で、パーティーに連れ戻してやるよ。」

「それはやめて。本当に取り返しのつかないことになってしまうわ。」

「どういう意味だよ。そう言うってことは、2人はそこにいるんだろ?」

 ターニアは痛いところを突かれ、思わずはっとした。

アモス「ということは、いるんですね?」

「…確かにいるわ。でも、2人ともすでにボロボロの状態だから、そっとしておいて欲しいんだけれど。」

チャモロ「ボロボロって、そんな状態なんですか?」

「はい。とてもパーティーに復帰出来る状態ではありません。」

 ターニアはリベラの右肩と、バーバラの心の状態について正直に話した。

アモス「そんな状態になっていたなんて…。何だか、申し訳ないことをしてしまいましたね。」

チャモロ「それなら、リベラさんが手術を受けられるように、私達はお金を集めることにしましょう。」

「ありがとう。では、お兄ちゃんとバーバラさんの面倒は私が責任を持って見ますので、どうか今はそっとしておいていただけますか?」

ハッサン「分かったぜ。」

「では、私はこれから食事の準備をするので、これで失礼させていただいてもよろしいですか?」

アモス「おっと、そうでしたね。失礼しました。」

 3人はお辞儀をすると、徒歩で家を後にしていった。

 

 その頃、寝室にいるリベラは、ベッドに横になっているバーバラをじっと見つめていた。

「リベラ、ごめんね…。また迷惑をかけてしまって…。」

「そんなことないよ。」

「あたし、戦力外よね?」

「そんなことは僕がさせない。僕達は誰一人が欠けてもパーティーとしては成り立たないと思っているから。」

「本当に?」

「うん。」

「ありがとう…。」

 バーバラはリベラの優しさに触れて、思わず顔を赤らめた。

 それを見て、彼もまた顔を赤らめた。

(とはいえ、このままではバーバラの立場が危うい。何とかこの状況は変えていかなければ…。)

 リベラは自身の体だけでなく、バーバラのことでも頭を悩ませていた。

 




 バーバラの診断結果である過呼吸は、僕自身が過去に経験したことです。
 さらに時期は違いますが、「頑張れ」と言われた時に「こんなに頑張ってきたのにまだ『頑張れ』だって?」と思ってしまい、この言葉が怖くなってしまったこともあります。
 心の傷は誰かに話してもなかなか理解してもらえず、逆にもっと傷ついたこともあるだけに、僕自身は他の人の悩み事に関して、しっかりと耳を傾けていこうと思っています。
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