腰を痛めて戦線離脱になってしまったハッサンは、バーバラにリレミトとルーラを唱えてもらい、マーズの館にやってきた。
「おおっ!お前さん、派手にYo!2!になったのう。」
「あのな!ばあさんまでそう言うのかよ!って…いててて…。」
「わしもアモスの発言には笑わせてもらったからのう。これで雰囲気が明るくなればそれで良いではないか。」
「……。」
ベッドに横になったハッサンはそれ以上何も突っ込めなくなり、黙り込んでしまった。
「まあ、お前さんも長いこと旅をしてきた上に、ムドーとの戦いでかなり体に負担もかかっていたじゃろうからのう。これは天から与えられた休養と考えるがよい。」
「わ…、分かったぜ…。」
ハッサンはそれを聞いて納得し、しばらくは休養に専念することにした。
「それで、バーバラはこの後どうするんじゃ?」
「あたし?あたしはこのままアークボルトに戻るつもりだけれど。」
「そうか。でもその前にダーマ神殿に行って、武闘家に転職してみてはどうじゃ?」
「武闘家?あたしは賢者になりたいって言っているのに。」
「それは分かっておる。じゃが、今武闘家になっておけば、その後でお前さんにいいことが待っているぞい。」
「いいこと?何それ。」
「それは自分の目で確かめるがよい。まあ今日一日だけでもなってみてはどうじゃ?少しだけなら大した遠回りでもないぞい。」
「…分かったわ。じゃああたし、ちょっとだけ武闘家になってみる。」
彼女はグランマーズに説得される形でダーマ神殿に行くことを決意した。
バーバラがアークボルトに戻ってきた時、手術はまだ続いていた。
彼女が来た通路をとぼとぼと引き返していると、そこでポニーテールをした一人の少女が通りかかった。
その少女ははがねのムチと身かわしの服、そして魔法の盾を装備しており、見た感じかなりの実力者だった。
「あら、君がバーバラさんという女性なの?」
「えっ?どうしてあたしの名前を?」
バーバラは初対面の人にいきなり名前を言われて驚いた。
「そう、君なのね。ブラストさんから話は聞いているわ。私と同様にHP不足に悩まされている人がいるって。」
「確かに、あたしは魔法使いになってから打たれ弱くなってしまったせいで、相当苦労をしてきたけれど…。そもそも、あなたは誰ですか?」
「あっ、そう言えばまだ名前すら言っていなかったわね。私はサラ。モンスター討伐の一員になるためにアークボルトにやってきた人よ。よろしくね。」
サラと名乗った少女はそう言って右手を差し出し、握手を求めてきた。
「あたしはバーバラ。あの…、よろしくお願いします。」
彼女も右手を差し出し、握手をした。
2人は自己紹介をした後、別室に移動し、お互いのことを色々話すことにした。
そしてバーバラはこれまでのストレスが積み重なったことが原因となって過呼吸になってしまい、戦闘が怖くなっていたことを打ち明けた。
「そう。大変だったのね。」
「うん…。」
「でも、私としてはパーティーメンバーの一員として行動出来たことがうらやましいわ。」
「えっ?」
サラから意外なことを言われ、バーバラは思わず驚いた。
すると今度はサラが自分の過去について話し始めた。
彼女はダンサーだった母親の影響を受けて育ったこともあり、幼い頃から踊りが上手だった。
それもあってサラは踊り子としての実力をメキメキとつけていき、将来を期待される逸材になった。
しかし、一方でHPとMPが低く、しかも成長してもHPは45、MPは15からなかなか伸びなかった。
『それでもこれから伸びる時が来るわ。』
彼女はそう言って楽観的に考え続けていたが、両親はあまりにも伸びが遅いことをおかしく思い、診察を受けることを勧めた。
サラは最初こそ拒んでいたが、彼らに説得される形でようやく診察を受けることを決意し、母親と一緒にアークボルトにやってきた。
しかし、その結果は『君はHPとMPが伸びるのが遅いのではない。成長しても、レベルアップしてもこれらがほとんど伸びない体質になってしまったんです。』という、非情なものだった。
受け入れがたい事実を知り、彼女は椅子に座ったまま、呆然と動けなくなってしまった。
『ごめんね…、こんな体にしてしまって…。』
『お母さんのせいじゃないわ。だから泣かないで。』
サラは母親を懸命に慰めたが、動揺は静まらなかった。
『あの、この子のHPとMPを伸ばす方法はあるんでしょうか?』
『残念ですが、アイテムを使わない限り無理でしょう。』
『アイテムですか?』
『はい。』
医師の男性は命の木の実と不思議な木の実で少しずつ伸ばすしか無いことを伝えた。
解決策そのものはあることを聞いて、サラと母親の表情は一瞬緩んだが、それでも60や70、まして100以上も伸ばしていくことを考えると、やはり落ち込んでしまった。
元々賢者だった彼女の父親はそれを知ると、『これから娘のために実を探しに行きます。どうかパーティーメンバーに入れてください。』と言って現役復帰を決意した。
それを見て、母親も加わることにした。
『お父さん、お母さん。私のために無理をしないで。』
『無理なんかはしてないわ。娘のためなら頑張れるから。』
こうして2人は現役復帰を決意し、旅に出ていった。
「そう…。それでどうなったの?」
「その後、命の木の実を3個と不思議な木の実を2個持ってきてくれたわ。でもね…。」
「でも、何?」
「2人とも無理がたたって体を壊してしまい、戦えない体になってしまったの。その姿を見て、私は自分を責めたわ。私がこんな体になったせいで、両親を不幸にしてしまったって…。」
サラは両手を握りしめながらわなわなと震わせ、今にも泣き出しそうな表情になった。
そして彼女は両親からもらった武器と防具を持っているのだから、自分で実を探しに行きたい。これ以上両親に迷惑をかけられないという思いを打ち明けた。
(そうなんだ…。あたしもアモスさんやチャモロに実を探しに行ってもらっているし、何だか気持ちは分かる気がするわね。)
バーバラは彼女の悔しさを素直に受け止めた。
「じゃあ、あたしと一緒に外に出てみる?」
「えっ?それってモンスターと戦うの?」
「そういうわけじゃないわ。せめて、外の景色だけでも堪能出来ればと思ったの。あたしは聖水を持っているから、しばらくは安心して歩けるわよ。」
「じゃあ、その条件で外に出てみましょう。」
「やったあっ!」
サラが同意してくれたことを受けで、2人は城の入口までやってきた。
そこにはガルシアがおり、用件を聞いてきたため、バーバラは少し散歩をしたいことを告げた。
すると彼は「僕も少しの間ご一緒しましょう。」と言って、パーティーに加わることを申し出た。
バーバラ「えっ?いいの?」
「はい。お嬢さん2人だけでは不安ですし、僕もこうやって立っているだけでは退屈でしたから。」
サラ「それはうれしいわ。ありがとう、ガルシアさん!」
「なあに、いいんですよ。こちらこそ君の両親を守ってあげられずにけがをさせてしまいましたから。せめてその償いをさせてください。」
ガルシアは深々とおじぎをした後、パーティーに加わってくれた。
外に出ると、サラは口笛を吹いてデビルアーマーとオークマンをそれぞれ2匹ずつ呼び出した。
すると素早さの最も高いサラがはがねのムチでオークマン2匹を攻撃し、双方にヒットさせた。
(えっ?そのムチ、凄い攻撃力じゃない!)
サラは決してムキムキな体格ではないだけに、バーバラはそのダメージに思わず圧倒された。
「こらこら。君、戦闘中ですよ!」
「あっ、ごめんなさい。」
ガルシアに忠告されて、彼女はすぐに気持ちを切り替えた。
するとオークマンAが通常攻撃を、Bが振り回しをしてきたが、ガルシアがかばってくれた。
次にバーバラがメラミを唱えてデビルアーマーBにヒットさせ、一発でKOをさせた。
デビルアーマーAは仲間を呼び、あちこちにけがをしている状態のホイミスライムが加わった。
次のターンでサラは再びオークマン2匹に通常攻撃をヒットさせ、さらにバーバラがメラミを唱えてデビルアーマーAにヒットさせ、一気にKOさせた。
残ったホイミスライムは驚いたのか、それとも相手が怖くなったのか、戦おうともせずに、徐々に距離を置いていったため、戦闘はそこで終了になった。
(良かった…。また過呼吸になるかと思ったけれど、何とか持ちこたえられたわ。)
バーバラは深呼吸をしながら自分を落ち着かせた。
「サラさん、すごいじゃないですか!」
ガルシアは彼女の実力をベタ褒めしていた。
「ありがとうございます。これも、お母さんがくれた武器のおかげです。」
サラは緊張から解き放たれて、ホッとしていた。
(そのはがねのムチ、すごい攻撃力なのね。)
そう思ったバーバラは、そのムチを使わせてもらえないか問いかけた。
「あら、君にも使えるの?」
「多分使えると思います。あたしは過去にいばらのムチを使っていましたから。」
「じゃあ、いいわよ。ついでに魔法の盾も持ってみる?」
「えっ?盾?でもあたし、これまで盾を使ったことが無いんだけれど。」
「それならちょうどいい機会だわ。一度使ってみる?」
「う、うん…。」
バーバラは戸惑いながらも、はがねのムチと魔法の盾を受け取った。
そして盾を持ちながら何度も素振りをした結果、両方とも使いこなせそうなことを実感した。
「じゃあ、その状態で君が通常攻撃で戦ってみてはどうですか?」
「えっ?」
バーバラはこれまで呪文がメインで、通常攻撃は単なるおまけ程度にしか過ぎなかったため、ガルシアの提案をすぐには受け入れられなかった。
「私だって出来るんだから、君にも出来るわ。自信持って!」
「あ、はい。分かりました。」
バーバラはサラに説得される形で納得をし、もう一度戦闘をすることになった。
サラが再び口笛を吹くと、今度は踊る宝石1匹が姿を現した。
するとガルシアが「この相手への攻撃はおまかせしましたよ。」と言ってきたため、バーバラが戦うことになった。
踊る宝石は戦闘開始後、すぐにマホトーンを唱え、バーバラの呪文を封じ込めた。
こうなってはメラミが使えないため、通常攻撃しか彼女に出来る術は無かった。
(正直、通常攻撃に自信は無い。でも、やってみるしかない!)
腹をくくったバーバラは思い切り右腕を振り、はがねのムチで通常攻撃をした。
ビシイィッ!!
彼女の攻撃は大きな音を立てて踊る宝石にヒットした。
(何これ!?あたしでもこんなことが出来るの!?)
バーバラはそれまで経験したことも無いほどのダメージを与えたことが信じられずにいた。
すると相手に隙を見せる結果になったため、踊る宝石はチャンスとばかりにギラを唱えてきた。
(あっ、危ない!)
彼女はとっさに魔法の盾で身を守った。
するとギラのダメージをかなり軽減してくれた。
(この盾、こんな効果もあるのね。これはぜひ欲しいわね。)
気持ちの面で弾みがついた彼女は再びはがねのムチで通常攻撃をヒットさせた。
残りHPがわずかになった踊る宝石は、最後の悪あがきとばかりにメダパニを唱えてきたが、そこはガルシアがうまく身代わりになってくれた。
そして3度目の攻撃を加えると、十分にお釣りが来るほどのダメージを与えてKOさせた。
すると踊る宝石にかかっていた呪いが解けたのか、普通の宝石になっていった。
「やりましたね。君でもやれば出来るじゃないですか!」
「このムチと盾があれば、君も打撃面と防御面で貢献出来るわね。」
ガルシアとサラは満面の笑みでバーバラをほめてくれた。
「ありがとう。」
バーバラは未だにそのムチと盾の効果に驚きながらも、次第に笑顔があふれていった。
(これまであたし、通常攻撃メインで戦うなんて、考えたことも無かった。あたしには賢者しかないって、ずっと思っていた。でもこの武器があれば、あたしでも本当に通常攻撃で戦力になれる。ミレーユのおばあちゃんが武闘家を勧めてきたのはこういう理由だったのね。)
バーバラは自分に新たな可能性を感じていた。
オリキャラとして登場したサラですが、名前の由来は特に無く、単に以前からつけてみたいと思っていたものです。
彼女のHPとMPが伸びないという設定は、リオネル・メッシ選手のエピソードを参考にしています。
彼は少年時代に医師から身長が伸びないという宣告を受け、サッカー選手断念の危機に陥ったことがあります。
その時、バルセロナの協力を受けて成長ホルモンを投与し続け、身長を伸ばすことが出来、無事にサッカー選手になれました。