ブラストとの勝負が終わった後、アモスは彼と年齢差が少ないこともあって、お茶を飲みながら親し気に会話を始めた。
「へえ、あなたには息子さんがいるんですか。」
「そうです。ワンパクでもいい、たくましく育ってほしいと思っていますし、自慢の息子です。」
「ブラストさんの息子ってことは、コブラストさんでしょうか?」
「何ですか!そのプロレス技みたいな言い方は!」
「いやあ、そんな名前じゃないのかなと思ったのですが。」
「息子はそんな名前ではありません!」
ブラストはアモスの発言に対し、ツッコミを入れながら色々な会話をしていた。
その一方で、ミレーユはテリーに遭遇してしまったことへの動揺が静まらないままだった。
「おい。さっきからどうしたんだよ?」
「……。」
ハッサンに声をかけられても、彼女は何も言わないままうつむいていた。
「なあ、話してくれなきゃ分からないじゃないか。」
チャモロ「ハッサン、ここはそっとしておきましょう。」
「でもよ。」
「誰にだって話したくないことの一つや二つあるでしょう。」
「ま、まあ…。そうかもしれないけれどよ。」
「じゃあ、そっとしておきましょう。」
「…分かったよ…。」
ハッサンは渋々ながらそれ以上ミレーユに問いかけようとはしなかった。
「それじゃ、皆さん。リベラさんとバーバラさんのところに行きましょうか。」
ブラストとの会話を終えたアモスはそう言いながらハッサン達のところにやってきた。
「確かにそうだな。」
「行ってみましょう。」
ハッサンとチャモロもそれに同意した。
そして彼らは相変わらず黙ったままのミレーユを連れて、医務室に向かっていった。
その部屋の前にやってくると、そこには看護師の姿をした女性がうつむきながら立っていた。
彼女はハッサン達に気が付くと、「あなた達は?」と問いかけてきた。
「リベラさんとバーバラさんの仲間です。」
アモスが答えると、彼女は途端に申し訳なさそうな表情になった。
チャモロ「どうしたんですか?何かあったんですか?」
ハッサン「まさかリベラとバーバラの身に何かあったのか?」
「実は彼らがこのような置き手紙を…。」
彼女は深々と頭を下げて謝罪をした後、その紙を差し出してきた。
「どれどれ。」
アモスが受け取ったその紙にはバーバラの書いた文字で「ごめんね、みんな。もう耐えられない。」と書かれていた。
「どういうことなんでしょうか?」
彼がその意味について考えていると、ハッサンが扉をバタンと開けた。
するとその部屋に2人の姿はなく、診察代としてお金の入った袋が残されているだけだった。
チャモロ「本当にここに彼らがいたんでしょうか?」
「はい。確かにこの部屋で診察を受けていました。そしてその結果を告げた後、私がお手洗いのために席を外したら、戻ってくるまでの数分間の間にいなくなっていたんです。」
アモス「でも、部屋を抜け出したのであれば、誰かとすれ違うはずなんですが…。」
ミレーユ「もしかしたら、バーバラがリレミトを唱えたのかもしれないわ。」
さっきまでずっと黙ったままだった彼女は、ボソッとした口調でつぶやいた。
ハッサン「リレミトだって?」
「そうよ。それを唱えればここから出られるから。」
「でもよ。まだそんなに時間はたっていないはずだから、2人は近くにいるはずだ。早く追いかけようぜ。」
「無駄よ。彼らはルーラを使えるから、外に出たらすぐさまそれを唱えて、遠くに行ってしまったと思うわ。」
「じゃあ、失踪じゃねえか!」
「そうなるわね…。」
「あいつらああっ!!」
ハッサンは頭に血が上り、両手を握りしめてわなわなと震わせた。
「ダメですよ!それは!」
「かえって逆効果になってしまいますよ!」
チャモロとアモスは何とかハッサンをなだめた。
「それにしても、彼らが失踪してしまうなんて、よほどの理由がありそうね。あの、2人に何があったのでしょうか?」
ミレーユは看護師さんにこうなった理由を問いかけた。
「私は彼らがここに来てから、医師の人と診察をしました。そして彼らにその結果を伝えたら、このような結果になってしまって…。今となっては正直に伝えるべきではなかったのかもしれません…。本当に、彼らにも、皆さんにも迷惑をかける結果になってしまい、申し訳ございません…。」
彼女は自分のやったことをかなり後悔していた。
ミレーユ「リベラとバーバラの診断結果は何だったんでしょうか?」
「それは…、言えません。」
ハッサン「そんなこと言わずに、話してくれよ。」
「言ったら、またあなた達に迷惑をかけてしまう…。」
「でもよ。」
「待ってください。」
「アモっさん、何で止めるんだよ。」
「私のケースを思い出してください。私がモンストルの町で夜になると変身してしまっていたことを。もしあの時、あなた達がそのことを私に話して町を後にしていたら、私は自責の念に耐えられなくなり、町を出て失踪してしまったでしょう。」
「本当にそうなのか?」
「はい。今考えれば、そんな気がします。ですから、真実を知ることがいつもいいことだとは限りません。ここはリベラさん、バーバラさん、そして看護師さんのためにもそっとしておきましょう。」
「……。」
ハッサンは、アモスの口から飛び出した衝撃発言を聞いて、それ以上何も言えなくなってしまった。
「とにかく、看護師さんにはお手数をおかけしました。リベラとバーバラに代わって、私からお詫びします。本当に申し訳ありませんでした。」
「いえ、謝らなくて結構です。とにかく今私から言えることとしましては、どうかこれ以上彼らを追い詰めないようにお願いします。」
「分かりました。彼らのことは何とかします。ですから、あなたもどうかこれ以上自分を追い詰めないでください。」
ミレーユは自身もテリーのことで未だにショックを受けたままだったが、懸命に彼女をねぎらった。
4人はアークボルトの城内をまわり、販売されている武器や防具を一通り見て回った後、キメラの翼でマーズの館にやってきた。
「おばあちゃん。リベラとバーバラは今どこにいるのか、占ってもらえますか?」
「占ってどうするんじゃ?」
ハッサン「当ったり前だろ!失踪したことを反省させて、パーティーに連れ戻すんだよ!」
「それだとますます逆効果になるじゃろうのう。」
「何だと!」
「まあまあ、落ち着いてください。」
興奮するハッサンをチャモロはグランマーズとの間に入ってなだめた。
アモス「それにしても、どうして失踪なんてしてしまったんでしょうか?」
「それはわしにも責任があるかもしれんのう。」
ミレーユ「それはどういうこと?」
「あの時、お前さん達がアークボルトに向かう前に、わしがみんなに『行っといで。頑張るんじゃぞ。』と言ったことが、彼女にとってプレッシャーになってしまったかもしれん。その点に関してはわしも反省しておる。」
グランマーズは謝罪をするような口調で言った。
チャモロ「それなら、私にも責任があるかもしれませんね。ブラストさんと勝負をしていた時、私がバーバラさんに『どうか頑張ってくださいよ!』と声を掛けたら、途端に倒れてしまいましたから。」
ミレーユ「つまり、彼女に『頑張れ』という言葉はかけてはいけなかったってことなの?」
「そうなるのう。」
アモス「じゃあ、私達は一体どういう言葉をかければいいのでしょうか?」
「それはわしにも分からん。とにかく、今は彼らをそっとしておいた方が良かろう。今、下手に何かをしてもし彼らをこれ以上追い詰めるようなことにでもなれば、それこそ取り返しのつかないことになるかもしれんからのう。」
グランマーズは4人を説得して、リベラとバーバラを探しに行くことを阻止した。
ハッサン「じゃあ、これから俺達だけで旅をするってことなのか?」
チャモロ「彼らが復帰出来なければ、そうなりそうですね。」
アモス「これから大丈夫でしょうか?」
チャモロ「とにかくやるしかありません。」
彼らはこれからリベラとバーバラ抜きのパーティーで活動することを覚悟した。
そしてハッサン達はグランマーズにお礼を言うと、外に出ていこうとした。
しかしミレーユだけは椅子に座ったまま、立ち上がろうとしなかった。
「おい、どうしたんだよ。出発するぞ!」
「ごめんなさい。私はしばらくここにいるわ。」
ハッサンにせかされても、ミレーユはゆううつな表情を浮かべるばかりだった。
「お前までこれじゃ、俺達3人になっちまうじゃねえか。」
「仕方ありません。彼女もかなり落ち込んでいるようですし、今は私達でなんとか切り抜けていきましょう。」
アモスはあせるハッサンをなだめた。
そして3人はパーティー崩壊の危機感を感じながら外に出ていった。
(テリー…。私、アークボルトであなたを見かけた時、声をかけたかった…。でも、出来なかった…。)
ミレーユは椅子に座ったまま、あの時のことを未だに悔やんでいた。
「つらかったのう。せっかく弟に会えたのに。」
「ええ。せっかくのチャンスを逃してしまった。それに、テリーがあんな怖い目つきの人になってしまうなんて…。」
「まあ、それでも生きていたことが分かったんだから、それで良かったではないか。お互い生きていれば、きっとまた会える。やり直せるチャンスはやってくる。じゃから、今回のことは前向きに考えようではないか。」
「そうね、おばあちゃん…。」
ミレーユは心の中でわずかばかりの喜びを感じ取ったが、しばらくするとまた落ち込んでしまった。
(お願い、テリー。どうか犯罪者にはならないで。悪の手先にはならないで。もしそうなってしまったら、私はその姉として生きていかなければならなくなってしまう…。私にはそんな十字架を背負えない。どうか、どうか過ちを犯さないで…。)
彼女は声をかけるチャンスを逃してしまったことを後悔しながら、懸命に祈り続けていた。
一方、テリーは戦士を極めた後、魔法使いに転職した。
しかしHPなどのステータスが激減したことで、これまで余裕で勝てていた相手にも苦戦を強いられるようになってしまった。
「くっ!この職業は厳しいな。メラミは強力だが、あまり戦闘を続けたら体がもたねえ。こうなったら、ルーラを覚えるまで何とか粘り、覚えたらまた別の職業に転職することにするか。」
彼は肩で息をしながらそう決意をした。
ブラストの息子に関しては、ゲーム中で名前が出てきませんが、個人的にはブルース(Bruce)と命名しています。
由来は香港のアクション俳優、ブルース・リー(Bruce Lee)で、Brで始まる名前からこれを選びました。