少し変わったインフィニット・ストラトス 作:みるほん
ここは、IS学園一年一組の教室。その最前列の席。
「これは……想像以上にキツい」
織斑一夏は額から一筋の汗を流した。
周りは女子、女子、女子……。しかも、そのほぼ全員が自分に注目しているのだ。
「皆さん、初めまして。私がこのクラスの副担任を務める山田真耶です。よろしくお願いしますね」
教壇に立つ眼鏡をかけた女性教諭がにっこりと微笑む。つられて生徒たちも笑顔になった。
「それではみなさん、早速ですが自己紹介をしましょうか。えーと、出席番号一番の方からどうぞ!」
真耶の言葉で自己紹介が始まり、何人かが自己紹介を終えたところで一夏の番が来た。
「織斑一夏です。えっと、特技は家事全般です。趣味は……」
ここまで言って、一夏は言葉を止める。
(趣味ってなんだ? アニメや漫画が好きだが、それを言ったら引かれるかもしれないし……。う~ん、何だろう?)
「あ、あの~?」
自己紹介を続けるよう促す真耶。それに気づいた一夏は慌てながら言葉を紡ぐ。
「ああ! ええと、好きなものは……」
そして、またも言葉を止めてしまう。今度は何かを思い出そうとしているかのように目を閉じる。すると、彼の脳裏には、今まで自分が見てきた光景の数々が走馬灯のように蘇った。
(思い出せ! 俺、何か好きなものは、ないのか!?)
そして、一夏はある結論に達した。カッと目を見開くと、大声で叫んだ。
「好きなタイプは千冬ねぇのような人だ!」
瞬間、クラスの空気が凍りつく。
「箒も好きだ! 後、それから……えっと、鈴……」
ここで初めて、クラスメイト達の反応を見る余裕ができた。そして、気付く。
(あれ? これってもしかして、マズイこと言ったんじゃないのか?)
彼は自分の失言によって生じた静寂に耐えられず視線を泳がせる。すると、とある人物の所で視線が止まった。その人物は出席簿を片手に持ち、一夏に近づいてくるところだった。
教室内にパァンッ! と乾いた音が響き渡る。それは一夏の頭に振り下ろされた出席簿による一撃であった。
「……挨拶くらいまともに出来んのか、お前は」
黒髪の女傑、織斑千冬。IS世界大会『モンド・グロッソ』で初代優勝のIS操縦者。
「げぇっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者が」
もう一発、千冬の攻撃が一夏の頭を襲った。
「うぅ……痛い」
涙目の一夏。
千冬はクラス全体を軽く見渡した後、自己紹介を始める。
「諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。私の仕事は君たち新人を一流のIS操縦者に育てることだ。私の指示に逆らってもいいが、言うことはちゃんと聞け。いいな?」
凛とした態度で言う千冬に、クラスの殆どの生徒は憧れに近い感情を抱いた。
「キャーーーーー!! 千冬様よ!!」
「本物よ!! 本物の千冬様よ!!」
「お姉さまぁぁあああっ!!」
この騒ぎように、千冬は思わずため息をつく。
「毎年よくも、これだけの馬鹿者が集まるものだ。感心する」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞ!」
「そうか……ならば、お前はもっと馬鹿というわけだ」
またも、出席簿が一夏の頭に落ちる。
「さて、いつまでも騒いでいないで自己紹介を続けろ」
次に自己紹介を始めたのは、金髪碧眼の少女。腰まで伸びた綺麗な髪を揺らしながら立ち上がると、流暢な日本語で話し始めた。
「セシリア・オルコットと申しますわ。イギリス代表候補生にして入試主席。以後、お見知りおきを」
優雅な仕草で礼をする。ただ頭を下げるだけなのに、とても上品に見える。育ちの良さを感じさせる。
(なんか、偉そうだな)
これが、一夏が最初に抱いた感想だった。
「はい、ありがとうございました。出席番号を幾つか飛ばしてしまいましたので、次は……」
「はいはい!
続いて立った少女を見て、一夏は僅かに眉を寄せた。小柄な体格にツインテールの髪型。顔立ちは非常に整っているものの、どことなく幼い印象を受ける少女だった。しかし、その目は強い意志を感じさせ、並々ならぬ覚悟が見て取れる。
パァンッ!
出席簿アタックが炸裂する。
「お前は二組だろ。さっさと戻れ」
「ち、千冬さん……」
パァンッ!
再び出席簿が飛ぶ。
「先生だ」
「あうちっ」と頭をおさえる彼女を見て、一夏は思い出した。
「鈴? おまえ、鈴か!?」
一夏と鈴音はIS学園入学前、一年前に鈴音が引っ越しするまで、よく一緒に遊んだ幼馴染みである。
「そうよ。久しぶりね、一夏」
ゴキッ!
バキッ!
出席簿が一夏と鈴音の頭部を襲った。
「痛てっ!」
「きゃうんっ!」
「後でやれ。次だ、次」
すぐに次の生徒が立ち上がり、自己紹介を始める。
「シャルロット・デュノアです。フランスから来たばかりで、わからないことも多いけど、仲良くしてくれると嬉しいな」
長い金髪を後ろで結っており、中性的な顔立ち。柔らかな雰囲気を纏っている。
パァンッ!
またしても出席簿による一撃が加えられた。
「貴様の名前はシャルル・デュノアだろ!」
(制服が……スカートじゃない!?)
シャルロットはズボンを履いていた。
(男なのか? でも、シャルロットって女の名前だよな?)
混乱する一夏。不意にシャルロットと目が合い、慌てて視線を外す。
(……可愛い)
「皆さん、出席番号順で自己紹介をお願いします」
「はい」
真耶が頭を下げると、左目に眼帯をした少女が静かに返事をして立ち上がる。銀髪に赤い瞳、人形の様な容姿をした彼女は、キビキビとした動作で口を開いた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍所属、階級は少佐。代表候補生でもある。私には戦うことしか能がない。だが……精一杯頑張るつもりだ。よろしく頼む」
そう言って頭を下げると、教室内は拍手に包まれた。
ラウラは少し照れた様子で着席した。
(女子にしか見えないが、ズボンを履いていた。まさか──)
一夏の中で一つの結論が出かけた時、隣から声をかけられた。そこにはショートヘアの活発そうな少女がいた。
「あたし、相川清香。ヨロシクね。ねぇ、織斑君ってさぁ……もしかしなくても、あの千冬様の弟だったりする?」
「え、ああ。そうだけど」
「やっぱり! それじゃあさ、お姉さまはどんな──」
身を乗り出して聞いてくる彼女に、出席簿が直撃する。
「あぅっ!? これが千冬様の愛の鞭……」
何故か嬉しそうにしている彼女を他所に、自己紹介はどんどん進んでいった。
「皆さんも知っている通り、ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発された、マルチフォーマット・スーツです」
指示棒を手にしながら、真耶は授業を始める。
「10年前に開発された当初、宇宙空間での活動が想定されていましたが、現在は停滞中です」
その性能から、パワードスーツとして軍事転用が始まるが、アラスカ条約によって軍事利用も禁止。今は専ら競技種目、スポーツとして活用されている。
「そして、このIS学園は世界で唯一、IS操縦者育成を目的とした教育機関です」
付け加えるなら、このISは女にしか扱えない。故に、必然的にIS学園の生徒は女子となる。例外は、織斑一夏という少年だ。彼は世界初の男性適合者として、この学園に入学する事になった。
因みに、シャルロット・デュノアも男子生徒として入学している。……本人はそう思っている。
「……では、これから3年間、よろしくお願いしますね」
真耶は笑顔を浮かべながら言った。
休み時間がやってくると、少年のような少女が一夏に近づいてきた。シャルロット・デュノアである。
「初めまして。僕はデュノア社社長の……」
「ああ、そういうのは別にいいから」
一夏は彼の言葉を遮ると、軽く微笑んだ。
「それより、同じ男の友達として仲良くしようぜ」
「えっ……あ、うん! こちらこそよろしくね!」
笑顔で握手を交わす2人。そこへ、長い黒髪をポニーテールにした少女がやって来た。一夏の幼馴染、篠ノ之箒だ。
「一夏ぁ……あの自己紹介は何だ? す、好きって……」
「ほ、箒……久しぶり……」
「答えろぉ……っ!!」
涙目になって詰め寄る箒。
「へぇ、この人が一夏の好きな箒さんなんだ」
シャルロットが楽しげに呟く。
「あ、いや、あれは……」
「わ、私はそんなに嫌じゃないぞ、その……むしろ、好いてくれて嬉しかったりして、いや、そうではなくて、ああもう、なんと言ったらいいのか」
混乱しているのだろう。箒の顔が真っ赤になっている。
「まぁ、落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるかぁーっ!」
箒は叫ぶと、一夏に殴りかかった。
バシィッ!!
乾いた音が響く。一夏が箒の腕を掴んだのだ。そのまま動きを封じる。
すると、今度は逆の手で拳を繰り出してきた。一夏はそれを左手で受け止める。
ギリギリと力比べが続く。2人はお互いに一歩も譲らない。
「腕を上げたな、箒」
「ふん……剣道を続けているからな」
そう言うと彼女は力を緩めた。一夏もそれに合わせて手を離す。
「2人は、とっても仲良しだね」
シャルロットは少し引きつった笑みを浮かべた。
2人のやり取りを見て驚いたのは彼女だけではない。教室にいたクラスメイト達も同様だった。
「織斑君てばやるぅ!」
「でも、篠ノ之さんも、なかなか筋がいいね」
「やだ、なんか格好良い……!」
などという声が、あちこちから聞こえてくる。
(このクラス、レベル高いな……)
シャルロットは心の中で嘆息した。
「ちょっと、よろしくて?」
突然声を掛けられ振り向くと、そこには金髪の少女がいた。
「なにか用かな? セシリア・オルコットさん」
シャルロットが返事を返すと、セシリアは胸を張り、自信満々といった様子で話し始めた。
「そう、わたくし──」
「ごめん、俺達急いでるんで」
彼女の言葉を遮って、一夏達はその場を後にする。
「ちょ……! まだ話が……って、待ってくださいましぃ~!?」
三人を追いかけるように、セシリアも走り出した。
学生寮での部屋割りの結果、同室で暮らすことになったのは一夏とシャルロットだった。
2人とも部屋に入るなりベッドへ飛び込むと、大きくため息をつく。
「疲れた……」
「僕も……まさか入学当日に、あんなに絡まれるなんて思わなかったよ」
あれから、一夏達は休み時間の度に質問攻めにあった。
「ああ、全くだ」
そう言って再びため息をついた一夏だったが、すぐに体を起こすと机に向かう。教科書を開き勉強を始めた。
一方、シャルロットは自分のバッグを開けると、中身を取り出し、整理を始めた。
しばらくして、一夏はペンを置く。
「う~ん……わからない」
そして、椅子に座り直して背伸びをした。すると、ちょうどそのタイミングで扉が開く。そこには、制服姿のラウラがいた。
ラウラは無言のまま一夏の前に立つと、顔をじっと見つめ始める。
一夏は気まずさを感じながらも、何とか口を開いた。
「えっと、ラウラ……だっけ。どうしたんだ?」
突如、ラウラの体が淡く輝き始めた。
次の瞬間には、彼女の全身を覆うように、機械的な装甲……ISが展開されていく。
「これが、私の専用機だ」
一夏は驚愕の表情を浮かべる。
「これは、凄いな。……ところで、専用機ってなんだ?」
ラウラはずっこけた。
しかし、ISの周りに張られた不可視のバリアー『シールドバリアー』により、怪我は無かった。シールドエネルギーは消費した。ISバトルでは、このエネルギーが無くなると敗北となる。
「あのさぁ、こんなところでIS展開するのは、校則違反だよ」
騒ぎに気づいたシャルロットが止めに入った。
「む……確かに」
すると、ラウラはISを待機形態に戻した。
「すまない。以後、気をつける」
素直に謝るラウラ。
「専用機は文字通り、個人専用ISのことだ。国家や企業に選ばれた人物のみに与えられる」
それだけ言うと、部屋を出て行った。
残された2人は顔を見合わせる。
「なんだったんだろうな……」
「……なんだろうね」
2人はしばらくの間、呆然としていた。
「……あっ! 僕も専用機、持ってるんだー。これが待機形態だよ」
そう言いながら、彼女は胸元のネックレスを取り出す。
「一夏、専用機が手に入ったら、僕と見せ合いっこしようよ」
「ああ、いいけど……俺は貰えるのか? 国家や企業に選ばれないと駄目なんだろ?」
一夏の言葉を聞いて、シャルロットはクスリと笑う。
「一夏は世界で唯一の男性操縦者だからね。大丈夫だと思うよ」
「そうなのか……。シャルルも男子だから、専用機を持っているのか」
「うん?」
シャルロットは首を傾げる。
「あ……うん! そうだよ! しかも、フランスの代表候補生にも任命されたんだー!」
笑顔を浮かべてそう言う彼女を見て、一夏は一瞬、違和感を覚えたが、気のせいだろうと思った。
「クラス対抗戦に出る代表者を決める」
3時間目の授業が始まると同時に、織斑千冬が開口一番に発した言葉がこれである。
「クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など……まあ、簡単に言えばクラスの雑用係だな」
そう告げられた途端、教室内にざわめきが起こる。
(雑用とか絶対ヤダよな……)
一夏は周りを気にしつつ、こっそりとため息をつく。
すると突然、教壇の上から視線を感じた。慌てて顔を上げれば、そこには鋭い眼光でこちらを見据える千冬の姿が。
一夏は思わず姿勢を正す。
「自薦他薦は問わない。誰かいないか」
彼女はそれだけ言うと、静かになった。だが、誰一人として手を挙げようとはしなかった。
この様子だと誰も名乗り出ないだろう。そう思った一夏は不安になった。
しかし、そんな彼の不安を打ち砕くかのように、一人の生徒が立ち上がる。
「はい、あたしがやります」
鈴音だった。
彼女は黒板に自分の名前を書き込み、そのまま振り返って胸を張る。
パァンッ!
乾いた音が鳴りき、千冬の出席簿が鈴音の頭を襲った。
「授業中だ。お前は二組に戻れ」
鈴音は叩かれた箇所を押さえながら涙目で抗議する。
「痛いじゃないですか!?」
「ほう、そんなにもう一回叩いて欲しいか。ならば望み通りしてやる」
「すいません。調子に乗りました」
即座に謝罪。
鈴音は席に着くと、肩を落としてしょんぼりとした。だが、すぐに気を取り直したのか、勢いよく挙手をする。
「先生!」
「なんだ」
「一組のクラス代表は私で決定です。中国代表候補生の凰鈴音の名前をよーく覚えておきなさい!」
彼女がそう言い放った瞬間、千冬を除いた、ほぼ全員から盛大な拍手が送られた。その状況に満足したのか、鈴音は腰に手を当て胸を張っている。
「……他にはいないか? 推薦でもいいぞ」
千冬が改めて呼びかけるが、やはり反応はない。
「……仕方ないな。では、候補がいない場合は──」
「待った! 俺は織斑一夏をクラス代表に押すぜ!」
その時、教室の後ろの方で大きな声が上がった。皆が一斉に振り向くと、そこには頬に傷のある少年の姿が。
「織斑一夏、男だからといってクラス代表が務まらないなんてことはねえはずだ! むしろ、IS学園に男が在籍している時点でそいつをクラス代表として売り込むべきだろ?」
その意見を聞いて、クラスの女子たちは納得するように「そうだよね」「それいいかも」などと呟き始めた。
一方、一夏からは不満の声が上がる。
「ちょっと待ってくれよ。どうして俺がクラス代表なんかに……。というか、アイツはだれだ!?」
「ん? お前、もしかして知らないのか?」
一夏の問いかけに、少年は呆れたような表情を浮かべた。そして、彼の隣にいる小柄な少女が「はぁ……」とため息をつく。
「アンタねぇ……同じクラスのクラスメイトの顔くらい覚えときなさいよ」
「お前も誰だ!?」
またしても見知らぬ人間が現れ、一夏は叫ぶように尋ねる。すると、「またか……」と言わんばかりに2人は揃って眉間にシワを寄せた。
「俺達は──」
「あたしは中国代表の鳳鈴音! 一組のクラス代表になるのは、あたしよ!」
少年の声を遮り、鈴音が叫ぶ。少年はその迫力に一瞬気圧されたが、すぐに立ち直る。
「ほぉ……じゃあクラス代表の座を賭けて俺たち2人と勝負しろよ」
「望むところよ」
少年の提案に対し、鈴音は不敵な笑みを浮かべて了承した。
「ハンディキャップはどうする?」
「そんなものいらないわ。あんまり甘く見ないことね」
クラスメイト達がざわつく中、2人の視線がぶつかり合い、火花が散った。
『次回予告』
「ついに始まったな」
「いきなりのトラブル発生だよ……」
「織斑くんに専用機登場!」
「大丈夫なのか?あれ」
「負けたら大変なことになるぞ」
「待っていろ鈴。今行くからな!」
「千冬様が、千冬様が怖いぞ!?」
「う〜ん、この子可愛い♪」
「次回『クラス代表決定戦』」
「フレー!フレー!……おりむー!」
最後に登場した男女はオリキャラですが、モブキャラです。なので、『オリ主』タグは付けていません。